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長崎県発!びわは「子ども」~4代に渡り紡いだびわの歴史~

画像:びわ農園と海を背景に立つ森さんの写真

長崎の澄んだ広大な海を横目にトンネルを抜けると、眼前に広がる青々としたびわの木たち。このびわの「育ての親」が今回ご紹介する森純幸さん。4代にわたりびわ農家としての歴史を紡いでいます。そんな森さんのびわに懸ける思いを伺ってきました。

現在特に力を入れていることは何ですか?

一番は、びわの新品種の栽培と販売促進です。私が現在育てている新品種は市場に出てからまだ10年程度なのですが、市場に出る前の試験段階の時から関わっていたので、とても思い入れが強い品種です。従来のびわよりもジューシーで実が大きくて、果肉が柔らかい、そして糖度も高いです。

その分、育てるには従来のびわよりも大変な部分もあります。幼木のうちは花が非常につきにくいので、日当たりや水のやり方などを工夫しなければなりません。それも、やはり自然が相手なので、やり方は一様ではありません。天候などを見ながら臨機応変に行っています。

びわを作る上でのこだわりは何ですか?

「おいしくてなんぼ!」ですかね。味にはかなりこだわって作っています。そのため、味に納得できないものは市場には出荷しません。2、3年前に大雪の影響で、「渋み果」といって、見た目は普通なんですけど、食べると渋柿みたいに実が苦くなる現象に見舞われたことがありました。その時にできたびわは出荷しませんでした。手塩にかけて育てた子たちなので非常に心苦しかったですが、この部分だけは譲ることができません。

ありがたいことに、メディアに取り上げていただく機会も増えて、周りからの期待値も高く、それに応えたい気持ちは大いにあります。しかし、「質の維持」という点からも無理な受注はお断りしております。質の維持は、何より皆さまからの期待に応え続けるためにも必要なことであると考えているからです。私のびわの大半は関東・関西の市場に出荷して、私の手元を離れてお客さまに渡ります。味の感想を直接聞く機会は少なくなっていますが、一部直売所でも販売を行っているので、その時に「今年は特においしかったね」とお客さまに言われた時は嬉しかったですね。「よっしゃ、もっと頑張ろう!」という気持ちになります。

画像:びわ農園で笑顔の森さんの写真

びわ農家を続けられて4代目ということですが、びわ農家を継ごうと思ったきっかけは何ですか?

私は元々びわ農家を継ぐ気はなかったのですが、祖父の「継いでほしい」という意向があって農業大学校に行きました。しかし、跡継ぎを強く望んでいた祖父は、在学中に亡くなってしまったため、卒業後は長崎の青果市場に勤めました。びわに関してはそこで感化されました。それまで家では見たこともなかった一箱5,000円~6,000円するびわが競売にかけられているんです。周りには人が大勢群がっていました。確かにそのびわはすごかった。「こんなびわどうやって作るんだろう、自分でも作ってみたい!」と思ったのがびわ農家を継ごうと思ったきっかけです。

作り始めた頃は、びわに対しての思い入れもそれほど深くはなかったのですが、これもまた父の言動がきっかけで大きく変化しました。うちでは、ハウスと露地びわの両方を栽培しているのですが、大雪の時に屋根に積もった雪のせいでハウスが倒壊してしまいました。それで、ハウスで栽培しているびわがその下敷きになって全部駄目になってしまったんです。翌日、父は悪天候にも関わらず「びわがかわいそう」とトラックも通らない道を通って畑に行き、びわに覆いかぶさっているハウスを解体し始めたんです。父が深い愛情を持って、まるで「人」のようにびわを育てているという姿を目の当たりにして胸が熱くなりました。

以来、自分も果実は「ただの作物」ではなく、「自分の子ども」だと思って育てています。私も今こうして、結果的にびわ農家に非常にやりがいを感じているので、これからもつないでいけたらなとは思っています。今、うちの長男がびわ農家を継ぐことに興味を持ってくれているようなので、継いでくれたら嬉しいです。

画像:木に実るびわの写真

びわ農家を後世につないでいく上で、これから行いたい事はありますか?

びわ作りはコストに対して売値が低いので、利益を出すのが難しい農業です。そのため、びわ作りだけでも十分に生計を立てられるようなシステム作りに貢献できたらなと思っています。新品種は、市場価格が在来品種の1.5倍程度ですが、良さをより多くの方に知っていただき、より多くの方に食べていただくことが目標です。そうすることで、びわ農家を営むことに対して前向きになれる人も増えるのではないかと考えています。

森さん、ありがとうございました。

希望の光プロフィール

画像:森さんのアップの写真

森 純幸(46)

全国有数のびわ産地、長崎市千々町にあるびわ農家の4代目。農業大学校卒業後、青果市場に勤務。今までに見たことのない魅力的なびわとの出会いにより、びわ農家の父の跡を継ぐことを決意。ハウス・露地びわを中心として、桃や柑橘類などの栽培も行っている。

取材を通して...

農作物の売買に関して、私はいつも消費者側の立場でした。生産者が存在することは理解していましたが、これまで直接生産への思いに触れる機会は少なく、恥ずかしながら商品の表面的な情報ばかりに目をとられることが多かったように感じます。

しかし、このように生産者の方自身の育てた農作物に対する非常に熱い思いに触れ、消費者側として、商品のバックグラウンドを考えることで、ただ買うだけではなく、「『選んで』買う事の大切さ」を学びました。少し高くても、良い物を選んで買う。その商品の見えない部分にもっと目を向けることで、私も地域の農業の活性化に貢献できるのではないかと感じました。

長崎大学3年 豊原 千聖