日本の地名が消えている、と言われてピンと来る人はどれくらいいるだろうか。あまり意識されないかもしれないが、日本に古くからあった地名が、地図の上から次々と姿を消しているのである。
注目すべきは、その中に災害の歴史や地形的特徴に由来するものも含まれていることだ。そうした地名を示す「災害地名」という言葉もあるが、実際のところ、土地の安全性が地名でわかるのか。『地名崩壊』(角川新書)を刊行した地図研究家・今尾恵介氏がその理由を解説する。
――なぜ地図の上から、古くからある地名が消えているのでしょう?
地名には自治体としての市区町村名と、それを細分化した町名、大字(おおあざ)、小字(こあざ)があります。明治以降はどちらも激変していて、かなり多数の地名がすでに消滅してしまいました。
特に明治期には、合成地名(谷津+久々田+鷺沼=津田沼)など、安易な命名による自治体名が増えたのですが、そうした動きは、その後の「地名の扱い方」への悪しき前例になっています。
イメージ重視のために地名を変えることも多く行われました。たとえば小田急線と井の頭線の接続する下北沢駅の周辺は、昭和7(1932)年に東京市内に編入された際、町名から「下」の字を外して北沢に変えています(上北沢は現存)。
また、かつては農村集落に「新田」という文字がつく地名が多かったのですが、そうした地域が「いかにも農村」という雰囲気を嫌って「新田」の文字を外し始めたのは戦前からの動きで、まったく違う新しい町名に変えてしまったことも珍しくありません。