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京都府発!「伝える」可能性を広げ、つなげていく

画像:バレーボールを持つ山本さんの写真

「可能性が広がる生き方をしたい」。そう力強く話すのは、聴覚障がい者でありながら、さまざまなことに挑戦している山本真記子さん。手話を通して“人”と“人”とをつないでいく彼女の生きざまは、彼女自身だけではなく、周りの人々にもたくさんの“可能性”を与えています。そんな山本さんに伺いました。

山本さんは現在、主にどのような活動をされていますか?

日頃は会社員として働き、主にWebサイト更新の仕事をしています。また聴覚障害者協会に所属し、学会や企画の運営を行なったり、自らの経験やフィンランド留学中に学んだ「聴覚障がい者の連盟の国際協力」などの情報を発信したりしています。そのほか、聴覚障がい者と聞こえる方が一緒に楽しむことができるバレーボールサークルの運営といった、人と人のつながりを育むための活動をしています。特にバレーボールサークルは地域に根差した活動で、コミュニティの形成につながり、私自身とても楽しみながら活動しています。

なぜ、コミュニケーションがとても重要なチームプレーである“バレーボール”をサークル活動に選んだのですか?

私は2歳になる直前に聴覚障がいと診断され、18歳まで口話と読唇術をコミュニケーション手段としながら一般の学校に通っていました。当時はクラスメイトたちの会話に入っていくことが難しく、また自分自身が手話を習得していなかったために、「聞こえない」ことを周囲に伝える手段がありませんでした。自分を出すことを遠慮しながら生活していたのです。

中学生の時にバレーボール部に所属していたのですが、部活動でもチームメイトたちがやり取りする声が聞こえず、私自身も声を出すことをためらってしまい、消極的になっていました。バレーボールの技術自体は上がりましたが、試合に出ることは少なく、思い切り取り組むことができたという実感はありませんでした。それでもバレーボールは好きで、手話を身に付け、社会人となり、体を動かしながら人脈を広げたいと考えた時に思い立ったのが、このバレーボールサークルの設立でした。当初のチームメンバーは聴覚障がい者や手話の勉強をしている人たちのみでしたので、人数が少なかったです。そこで「せっかくなら地域の方々とも一緒にバレーボールをしたい」と思い、ホームページで募集を始めました。今では継続的に来てくれるメンバーは55人ほどになり、その約半数は大学生です。

最初はバレーボールを純粋に楽しむだけのサークルでした。とはいえ、聞こえない私が聞こえるメンバーと一緒に楽しめる環境を作っていくには、試合中の合図や情報共有の手段として“手話”は外せないと思いました。聞こえる方と聴覚障がい者が触れ合う機会を大切にしてほしいと思い、バレーボールの試合中に使う「ナイス!」や「ドンマイ」などの簡単なものから、自己紹介や数字なども手話で伝えられるように、練習の合間に5~10分程度の手話レッスンを設けることにしました。メンバーの中には、手話への興味や「自分の思いを伝えたい」という強い気持ちから、自ら手話の勉強を始める方々も現れました。そのおかげで、中学時代にはもどかしい思いを抱えながらバレーボールをしていた私も、自分から手話で合図を出しながら、チームプレーとしてのバレーボールを楽しむことができるようになりました。また、練習の合間には、メンバーと会話することができるようになり、話が通じた時はプレーそのものだけでなく「楽しいな」と感じる瞬間の1つです。

画像:椅子に座って手話をされている山本さんの写真

この活動の中で山本さんが大切にしている「伝えたい」思いはなんですか?

人に物事を伝える手段は「話す」ことだけではありません。手話はもちろんですが、筆談や口を大きく動かして話す方法、身振り手振りなどさまざまな方法があります。聞こえることが当たり前だと、なかなかそのことには気付きにくいです。すぐに意識を変えることは難しいかもしれませんが、まずはそのことに気付いてほしいなと思います。また、聞こえる方にとっては、聴覚障がい者と接したり一緒にスポーツをすること自体なかなか経験できない貴重な機会だと思うので、ぜひこの時間を楽しんで有意義なものにしてもらえたらいいなと考えています。

そして、何より私自身が「伝えたい」という思いを常に持ちながら活動していきたいと思っています。聴覚障がい者の中には、口話や読唇、手話など自分自身も神経を使うので疲れてしまううえに、「相手にも気を遣わせているのではないか」と考えついつい“伝える”ことに消極的になってしまう方もいます。私も「疲れない」と言ったら嘘になりますが、「自分の思いを伝えて、人脈を広げたい」と思い、いつでも意思疎通が図れるように紙とペンは常に持ち歩くようにしています。また、手話に興味を持って下さっている方には手話レッスンの時間以外にも「今の言葉を手話で表すとこう表現するよ」と積極的に教えるようにしています。手話を知らなかった過去に、“伝える”ことの苦しさを多く経験したからこそ、いろいろな人の「伝えたい」という思いを大切にしたいです。

手話で“人”と“人”そして“地域”をつなぐ、その輪の真ん中にいる山本さんにはどのような思いがありますか?

18歳の時に手話と出会って、私の人生は大きく変わりました。同じような境遇や、福祉に興味を持つ学生が多い大学で手話を習得しました。その後社会人になってから留学のチャンスを頂き、国際手話を身に付けました。国際手話を通して世界各地の人とコミュニケーションをとること、人前に出て手話で行事の司会を行うなど、手話は私にさまざまな経験と可能性を与えてくれました。そのおかげで、人前で自分を表現することが苦手だった私は、会話を楽しむ仲間と出会い、少しずつ心から笑うことができるようになりました。そのことを多くの人々に伝え、顔を合わせるたびに自然に手話でつなげていけるような関係性の輪が、もっと広がってほしいと思っています。そして何より、誰もが気兼ねなく楽しく活動できる環境を今後もつくりあげていきたいです。

画像:手話をされている山本さんの写真

今後山本さん自身の活動の展望はありますか?

やはり将来的には、かねてから興味のあった“国際協力”と“手話”を掛け合わせ、世界各国の聴覚障がい者をつなぐことができる活動を行いたいと思っています。そのための第一歩として、身近な地域を手話でつなぐ活動を行い、さまざまな可能性を探っていけたらと考えています。

山本さん、ありがとうございました。

希望の光プロフィール

画像:山本さんのアップの写真

山本 真記子

京都府聴覚障害者協会青年部所属
バレーボールサークル「手話スポーツ同盟」代表
聴覚障がいを持ちながらも、バレーボールを通じて、障がい者、一般人、地域の人たちをつなげており、将来は国際手話と手話をかけ合わせ、世界各国の聴覚障がい者をつなげる存在を目指している。

取材を通して...

今回バレーボールサークルの練習中に取材を行わせて頂きましたが、審判もいない中、熱い試合が円滑に進んでいく様子を見て、手話だけでなく心と心が通じ合っているのだろうなと切に感じました。また、練習後、参加メンバーの中で、聞こえる方々の何人かにお話を伺ったところ、このサークルを通して手話が好きになり手話を生かした仕事がしたいと講座に通い始めた方や、「この空間が好きなんだ」とおっしゃる方など各々がこのサークルに有意義な価値を見出していることに感銘を受けました。山本さんの信念である「可能性の広がる生き方」は、彼女自身を通して、周りの多くの人に大きな“可能性”を与え、つないでいるようです。

立命館大学 2年 山下 杏子