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「その思いは、世界中のお母さんのために」。時代のニーズを捉え、今日も大館で「曲げわっぱ」を丁寧に作り続けている栗盛俊二さん。使う人のことを考えて、日々新しい発想で、お客さんに喜んでもらおうと活動している栗盛さんにお話を伺いました。
伝統工芸の老舗で、社員とともに「曲げわっぱ」を作っています。私は20歳の時に老舗の六代目を拝命しました。もともとは横浜の会社に就職することが決まっていたのですが、おやじに「うちの家業を見てくれ」と言われ、急きょ大館に戻り、おやじの元で仕事をすることになりました。一緒に仕事をして1年少し経ったときに、おやじが病気で倒れ、以降、26年間世話をしてきました。その後、障がいが残るおやじを連れて帰りました。
私は20歳ちょっとで六代目になったため、間違いなく先代よりも苦労しましたが、そのことを言っても意味がありません。そのため、苦労したことを、どうやったら相手に「自分の心」とともに届けられるのか。それによって、お客さんはどんなふうに喜んでくれるか。苦労をメリットに変える「逆転の法則」を大事にしています。
逃げられなくなると、人間は諦めると同時に何をすべきかを考えます。私の場合、20歳そこそこで、障がいが残るおやじと、家族5人の生活を支えて行く必要がありました。今では笑っていますが、当時は笑えないくらい厳しかったです。そうやって考えると、自分には何ができるかを考えざるを得ません。
理想論を語っても仕方ないことを教えてくれたおやじは、一番の教科書です。おやじのおかげで、今も勘でモノを作る商売は一切していません。何か作るときには、全てを正確に作るために、まずは「作るための道具を作る人」でした。その道具を使えば、誰がいつ作っても寸分たがわないものができます。おやじは樺細工で培った技術を、曲げわっぱの制作に取り入れていました。機械がない時代に、手だけで作っていたおやじを、私は今も尊敬しています。
他の曲げわっぱを作っている方よりも「丈夫さ」を大事にしています。若干価格は上がりますが、使い続けるにつれて丈夫さが増し、より重厚なものになっていきます。質実剛健で、お客さんに気兼ねなく使っていただけるよう作っています。そうすることで、特別に吟味しなくても普通に10年20年は使っていただけます。美術骨董品ではなく、普段の生活で使うものをいかに作るかを大事にしています。
また先程もお話しましたが、おやじからの思いでもある「勘に頼らないこと」を大事にしています。例えば、すり鉢型に曲げることが出来るのもうちだけで、いまだにコピー商品が出ていません。
上手くいかないことほどたくさん考えますね。人間そういう時は、たとえ寝ていても考えているんです。私は若い頃から枕元に紙と鉛筆を置いて寝て、夢の中で見たことが消えないうちに書いておくよう心掛けています。もし切羽詰まることがあった時には、皆さんも紙と鉛筆を置いて寝てほしいですね。
いつでも分からないことがあれば連絡してほしい、ということです。どうしようもないものは部品代がかかりますが、研磨で済む場合もありますし、ちょっとした割れなら修理代もかからないです。直すことによってもう一度その商品に惚れてくれて、お客さんの子どもにも気に入ってもらえることがあります。
炊き上がったご飯を食べられる生活をしているとなかなか分からないと思いますが、おひつに移せば湿気が取れるので、真夏でも2日間傷まないんです。お湯を使って木の中の水分を気化させて乾きやすくすることを「湯切り」と言うのですが、これをすることで冬場は3日間ご飯が傷まないので、ぜひ皆さんにおひつを使ってほしいですね。
子どもたちが来たときに必ず言うのが、「これだけ作っていて1回もうまくいった試しがない」ということです。もう何回も失敗の連続。成功というのはある意味確率みたいなもので、1回2回でうまくいくはずはないんです。それでも、何回失敗しても、いろんなことを繰り返して1回成功すればそれまでの失敗が全部なかったようになります。だから、お店の考え方でも大事にしているのですが、子どもたちには、諦めずに、いかに効率良く、正確で狂いのないものを作っていけるかという考え方を大切にしてほしいと思います。
今、日本は少子高齢化で、世界の流れと同様です。日本はこれから約12年で人口の3分の1が減るため、購買者が減り景気が落ち込むのではないかと思っています。その時をそのまま待つわけにはいかないですよね。そこで、私はどこかの国に商品を出して、意見を聞こうと思い、ニューヨークでも展開することを決めました。
ニューヨークに行ったときに驚いたのが、ビールの国ではなくワインの国であったということです。郷に入っては郷に従えと言うようにその国の要望をかなえたいと思い、曲げわっぱを用いて自らの手でワインクーラーを作りました。利益を出そうとは最初から考えていないですが、これはニューヨークに行ってなかったら気づかなかったことです。ここ10年のうちに先の見通しが立てられるように、曲げわっぱを用いたワインクーラーを展開していこうと思います。
栗盛 俊二(71)
老舗 栗久六代目
経済産業大臣指定伝統工芸士(大館曲げわっぱ)
グッドデザイン賞受賞作品18点
ロングライフデザイン賞受賞作品9点
秋田の名産品である曲げわっぱを、様々な創意工夫を凝らしながら作り続けている。
栗盛さんは、「勘でモノを作らない」という誰よりも本気で「曲げわっぱ」に向き合っている人のひとりであり、「曲げわっぱ」という技をつなぐ上で、なくてはならない存在だということを強く感じました。
私は今回の取材で、秀逸なデザインや斬新な発想で”現代の魔法のお弁当箱”を作るという、まさに栗盛さんにしかできない技を、目の前で実際に見られたこと。そして、ご両親やお客さまなど常に第三者のために、秋田杉から愛情をこめて作り続ける栗盛さんの人情の深さ。この2点が大きな学びとなりました。
栗盛さんの多くの思いが今後現実となり、秋田県内に留まらず日本、世界に「曲げわっぱ」の素晴らしさが伝わっていく日は遠くないでしょう。
秋田大学4年 米川 大貴