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サツマイモの名産地である茨城県行方(なめがた)市で、サツマイモ農家を営む渋谷信一郎さん。農業の若手リーダーとしても活躍する渋谷さんに、農家の未来への思いを聞いてきました。
私は、行方のサツマイモをもっと良くしようという志を持った、40代くらいまでの若手の集まりのリーダーをしています。そのチームで行方のサツマイモを全国・世界へ広めるために、各地のスーパーで、焼き芋の実食販売を行う活動などをしています。そこでは消費者の声を直接聞くこともあり、非常に役立っています。
ほかにも、より高い品質を目指して、栽培方法を研究しています。生産者同士で集まって知識を共有したり、農薬・肥料メーカーや農業普及所などと情報のやり取りをして、実際に農場でテストするのがチームの中での役目です。若者中心なので、味で勝負しよう!と技術革新し続けています。
あとは、イノシシの駆除です。ここ10年くらい、その数が増えてきて、食害が広がっています。畑の立地はいいのに被害に対応できず、畑を手放してしまう農家が増えているんです。畑が荒れるとイノシシの住むところが増えて、さらに被害が広がってしまいます。それに加えて、地域環境を整えられなくなったら原生林に戻ってしまいますからね。サツマイモの生産を続けて、この風景を未来へつないでいくための大切な活動なんです。
チームには、現在40人ほどが所属していますが、ほぼ全員が先代から引き継いだ農家です。一昔前は学校を卒業してすぐに農家になるという流れがありましたが、今は一度違う職種に就いてから農家になる”Uターン農家”がほとんどです。ですが、就職したまま行方に戻らない人も増えているので、一軒に対する負担がこれからも増え続けていくというのが課題です。労働力が足りなくなっています。
今は外国人労働者の力を頼りにしていますが、世界情勢に左右される不安定要素ではありますね。また、新規就農者は、補助金を使ったとしても設備の初期投資に莫大なお金がかかります。技術面でも、ずっとやってきた農家と収量が違ったりしますから、利益が出るまで長い時間がかかります。ですから、新たな人材の育成というのは課題が多いですね。
そう考えると、やはり次世代が農家を継ごうと思えるような魅力を残しておきたいと思うんです。一度生産規模が小さくなってしまったら立て直すのが大変だから、規模は大きいままにしておきたい。今後どのような生産形態にも行けるように、可能性はたくさんつないでおきたいですね。私がサツマイモの品種の中でも生産者が少ない紅赤の生産を続けていることには、そういった意味もあります。より多くの品種を生産しておくことで、新たな販売戦略が生まれるかもしれません。
消費者にずっと求め続けられるということですね。紅赤もそうですが、欲しいという人がいる限りは生産を続けていきます。他の品種のほうが生産や出荷の手間がかからないから、という理由で紅赤の生産者は激減しているんです。紅赤はホクホクしているのが特徴で、天ぷらに向いています。味にこだわる料亭などからは、まだまだ需要があるんです。生産をやめてしまえば、消費者も離れていってしまいます。行方にはなんでもある、という環境を作ることで、行方を盛り上げていけると思うんです。珍しい品種を生産していれば、注目が集まってやりがいも出てきます。盛り上がっているところには人が集まります。そうやって、良いサイクルができていくんですね。
行方でサツマイモ生産を始めたときは、主流は九州産で、関東の芋は全く相手にされませんでした。当時は茨城が生産の最北限で、九州と同じやり方では品質的にも劣ります。そこから研究を重ね、味にこだわり、「行方の芋は安くてうまい」と口コミで広がり、売れ始めました。
今はどこのスーパーでも焼き芋を買うことができますが、焼き芋に加工して売るのは、行方が始まりなんです。焼き芋の普及とともに、行方のサツマイモも全国に広がって、全国の消費者とのつながりができました。
サツマイモは、近年の貯蔵技術や設備の充実によって、長く貯蔵できます。価格が高い時期に一度に出荷するのではなく、需要に応じて売れるように、情報網を巧みに駆使して、消費者や市場の流れをうまく捉えているんです。はやりの売れる品種だけを作っているのでは、売り方も一通りになってしまいますが、行方では出荷時期が異なる3品種をリレー出荷することで、それぞれの品種の一番おいしい時期に消費者に届けられるようにしています。生産者からしても長期的に高い品質のものを出荷できるので、利益につながります。作付量や収穫量も協同組合が管理して、出荷体制を整えています。
稼げる職業というのも魅力の1つです。昔から、農家は汚い、勉強が不得意でもできるというイメージがありますが、農家というのは生産から販売まで経営をすべて担います。自然に左右され、同じものを生産できない難しさもあります。常に勉強していかないと通用しなくなってしまいます。農業は簡単にできるものではありません。だからこそ稼げるという一面も魅力の1つです。
海外からの輸入品にも対抗しなければいけません。海外の大規模農業と比べて、日本は規模が小さいですから、組合などを作って協力しあう必要があります。みんなでアイデアを出し合って、安定した収入を得られる体制を作っています。未来を開発しているような感覚でしょうか。ただサツマイモを作っているだけではつまらないですからね。
渋谷 信一郎(43)
JAなめがたしおさい甘藷部会TEAM FUTURE リーダー
行方のサツマイモ生産を支えるため、勢いのある農業を引っ張っている。JAなめがたしおさいでは残り2人となった、サツマイモ品種”紅赤”の生産者でもある。
農業が地域にとって大切な役割を担っていることを実感しました。農業の担い手がいなくなり、地域を継いでいく人がいなくなり、文化伝統もろとも地方が縮小している、という社会問題がありますが、ここ行方はずっと活気があるまま未来へつながっていくのだろうと、容易に想像することができました。農業が盛り上がれば地域も盛り上がり、地域の魅力も風景もずっと未来へつながっていくんだと納得しました。
渋谷さんは、農業を通じて、人と人のつながり、今と未来のつながり、人と自然のつながり、今の世界になくてはならないたくさんのつながりを守り続けています。大きな強いつながりが、1つの農家だけでは到底できなかったことを1つずつできることにして、どんどん農業が魅力的なものになる。その思いは次世代の生産者にもつながっていく。農業へのイメージが、がらりと変わる良い経験になりました。
筑波大学3年 水木 陽菜