晴れたり、曇ったり。

ゆるゆると生きる道を模索してます。

ついに小説書いたよ。 クリスマスケーキ

本日は小説です。


クリスマスケーキ


パソコンにデータを入力し終わって顔を上げると、職場の白い壁にある時計が夜7時を指していることに気づいた。
職場には何人か残っているがいつものことであり、首にかけた名札を出入り口にあるタブレットにかざし退勤した。
昭和のころに建てられた、少し古びた30階建てビルの14階に職場がある。
誰も乗っていない広いエレベーターで降りている間にダウンコートをはおり、通勤バッグからとりだしたマスクをつける。
ビルの広い玄関には申し訳程度にクリスマスツリーが飾られ、併設するカフェには人がいない。
自動ドアが開くと同時に外の冷たい空気が押し寄せ、ダウンコートのボタンを留めた。
通りの街路樹に飾られたイルミネーションがまぶしく、離れたビルの明かりがあちこちでついている。
大通りには信号待ちの人が増えつつあり、集団のひとりになる。
ひとつの集団は信号が青に変わると一斉に駅へ向かい、ほとんどはICカードで立ち止まらず改札を抜けていく。
込み合う電車に揺られながら窓に映る私を見た。
理想とはほど遠い姿をしているのは分かるが、その姿はあやふやで明確ではない。
仕事があるからと理由をつけて誰かに会わなくて済むから、今年のクリスマスは平日で良かった。
自宅の最寄り駅のホームから見える家のイルミネーションは、サンタクロースが壁を登るかのように点滅している。
数年前はもっと派手な演出をしていたが、その様子を思い出せない。
駅前駐輪場に置いた電動自転車の前かごから、手袋とマフラーとイヤーマフをとりだし、代わりに通勤バッグを入れる。
電車内の暑さで熱を持ったダウンコートが、向かい風により冷えていくのが分かる。
四つ角の向かいにあるコンビニ前の駐車場で、老齢の店長がサンタクロースの格好をして半額のホールケーキを売っていた。
一度は素通りしたが、すぐに戻って購入した。
電動自転車の前かごに、ホールケーキの四角い箱を入れて坂道を上る。
通勤バッグをハンドルにかけたが、ペダルを踏むたびにカバンと足が当たってしまう。
電動自転車はいつものように軽やかに坂道を上るのに、ペダルを踏む足がいつもより重く感じられた。
高台の中腹にある大型マンションの、5階の右から2番目に自宅がある。
当時は即完売したらしいが、私が入居したころには空室もあった。
誰かがいるような部屋に外から見えるように、日没時間になると自動で自宅の照明がついてカーテンも自動で閉めてくれる。
暖房とテレビをつけて、誰かがいる部屋になっていく。
ダウンコートを着たままうがいをしてから、ひとり用の土鍋にお湯を沸かし、ソーセージと残り物の野菜を入れ顆粒コンソメを入れる。
冬になるとこればかり作っているが、味や具材はその日の気分で和風にもカレーにもなる。
作った料理で身体が暖まるのを感じながら、通勤カバンに入れたスマホをとりだす。
「彩咲さん メリークリスマス」
スマホの通知画面から5分前に峻からLINEが届いていると分かる。
いつものようにすぐ既読にするのが惜しい。
峻は今の会社に入る前に登録した派遣会社で知り合った友人で、今は別のところで正社員になった。
10月に一緒に食事をしたが、独身でいまさら彼女を募集する気もないと笑っていた。
私とは年賀状のような、当たり障りもなく切れない関係なのだろう。
母が作ったゆず茶をすくってマグカップに入れて湯をそそぐと、冬のぬくもりと香りが広がる。
半額のホールケーキを6分の1にカットし、中心にすみれの花の絵が描かれた陶器のケーキ皿にのせる。
デザート用のフォークで一口切ると倒れてしまった。
ふわふわとしたスポンジと甘さ控えめの生クリーム、季節の早い小さいイチゴが酸っぱくて硬い。
一口ごとに子供のころからの思い出がよみがえる。


父からもらったお菓子の入ったサンタブーツ。
姉と飾ったツリーとケーキ。
2学期終業式後のクリスマス会で発表したマジック。
友達の家でのクリスマスパーティー
母とケンカしてひとりで食べるケーキ
予備校での受験勉強。
あわててつくった初めての彼氏とそれっぽいデート。
食品工場でパックうどんを作る年末年始バイト。
仕事の忘年会。
同僚の付き合いで行った合コンで知り合った裕次郎
裕次郎と眺めたイルミネーション。
裕次郎と作ったローストビーフ
裕次郎からの離婚届。
「俺は……。俺たちは最初から間違っていたんだ。俺たちは全て間違っていたんだ」


女は28歳までに結婚し子供を産み、夫の庇護の元で専業主婦やパートをして暮らし、子供の成長を見守る。
それが理想であり、高校の家庭科教科書の人生設計でもそうだった。
姉は何の疑いを持つこともなく理想を手に入れ、子供は高校生と中学生になった。
妹の私は理想から追い出され、結婚していたのと同じ期間は上の空だった。
やがて何かにとりつかれたかのように仕事に没頭し、紹介派遣から正社員になり、7年目の今年にチームリーダーに抜てきされる。
電車の窓に映った姿は、中学生のめいっこの理想になろうとしている。
食器を洗い、風呂に入り、洗濯と、一連の作業をいつものように繰り返して夜10時すぎになる。
肩より長い髪を乾かしながらLINEの返信を考える。
使えそうなスタンプを探して押す。
「峻くん メリークリスマス」
続けて「また一緒に映画観ようよ。年末年始にアナ雪2とかどう?」
LINEを送るとすぐに既読になった。
「了解。 年明けの4日5日は空いてます」
そのメッセージを見て、少し鼓動が早くなる。
洗濯機が鳴ると我に返り、洗濯物を室内に干すため立ち上がる。


完 (2226字)

あとがきのようなもの

( ゚Д゚)うわああ。
短編小説いかがでしたでしょうか。
小説は学生のころに少し書いた程度で、ただの素人です。
よければコメントで感想ください。はい。

名前のふりがなについて
彩咲は「あさき」といいます。
峻は「しゅん」です。

どうでもいい話
小学生の同級生に「あさきちゃん」という大変かわいい子がいました。
漢字は赤ちゃん名前サイトで、これぞというものを選びました。
峻は梶井基次郎の「城のある町にて」の主人公より。たかし。
裕次郎は障子破りしないし、夜霧よ今夜もありがとうとか歌いません。

おしまい(・∀・)

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