今回のM1はしみじみレベルが高かった。
その大会の中で史上最高得点を出して優勝したミルクボーイはすごいし、決勝に残った3組は全部すごかった。
落ちた上位組は皆、素晴らしかった。
正直、敗者復活の投票は人気投票になっていてげんなりしましたが(そうでなければ天竺鼠のあの得点はおかしい)結果的に和牛が復活枠でよかったんでしょう。
他の誰かではあそこまで緊迫した展開にならなかったでしょうから。
かまいたちは1回目のネタが2回目に来てればどうなってたかわからなかったかもしれない。
あのネタの狂気は決勝向きだったようにも思える。
ぺこぱやミルクボーイも早い順で出てるとハマらなかったかもしれない。
非常にセンシティブな出番順、会場の空気と各組の駆け引きの中、とても良い大会になった。
ボケ/ツッコミという形態の変化というか、そういう形態が変わって行く兆しも見えた気がするという話が以下。
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ぺこぱ
ぺこぱは、確か若手お笑いが合宿を行うNHKのサバイバル番組「笑けずり」で見たのが最初だったと思いましたが(ニューヨークとAマッソも出てましたっけね...)、確かに着物着たりキャラをつけようとしてたのが記憶にあって。
今回はキャラだけではなく相手のボケを否定しないツッコミ。
ただ否定しない、というのは過去にもあるんですよね。
たとえばスピードワゴンの場合、小沢の甘い一言がボケになって、それを井戸田が「甘〜い」のフレーズで笑いにかえる。
ここに小沢への訂正はない。
ぺこぱの構成はこれに近いんですね。
だがペコパの場合、ボケに対して否定せず、否定をしかけて途中でそこから肯定していく。
これがツッコミボケとして機能して面白さが生まれる。
ナルシスティックなキャラの延長であのネタが生まれたんだと思うと苦労の後が見えて面白い。
キャラに迷ってラッパー漫才なんて時期もあったんですねぇ。。。
ミルクボーイ
一方のミルクボーイはこれもすごい。
マッチョの駒場が「お母さんが好物を忘れた」と切り出す。
すると内海が話を聞き「それはコーンフレークや」と断定する。
この情報→推測でコーンフレークの肯定否定を繰り返す。
駒場はボケのようにも思えるが、言っているのは「コーンフレークらしき情報」と「コーンフレークではなさそうな情報」だけ。
全て憶測と伝聞でボケているわけではない。
おかしいんだけどボケというほどのボケではない。
ここがすごい。
それほどボケているわけではないのにツッコミ、そこから肯定や否定に自分から乗っかることでワードで大きなボケに変化させていく。
ツッコミボケとでもいうか。
ツッコミはボケとお客さんの間に立つ通訳としてボケを訂正する役割。
ところがミルクボーイの場合、ボケの断片的な情報から「コーンフレークだろう」と断定。
なのに次いで出てくる「(母親曰く)死の前の食事もそれでいい」と言い出した情報から「それはコーンフレークじゃない」とこれも断定。
この段階ではそんなに面白くない。
そこからツッコミ内海がどんなにコーンフレークじゃないか、絶対にコーンフレークだという主張を広げていく。
ここに面白さが生まれる。
ボケは常識からの振幅ですから、コーンフレークなのかそうじゃないかは振れ幅としては少ない。
断片的な情報から推測し、断定して、独断と偏見を加速させることで振幅を大きくする。
一つ一つフレーズのパワーワードっぷり。
前半より後半にかけてどんどん独断と偏見が強くなる。
これってツッコミがボケのブーストとして機能してるんですよね。
ボケがボケない。
しかもコーンフレークに対して結構厳しい目のことを言う。
ただこの厳しいことが的を得ているから面白いと感じる。
なんとなく誰もが思っている、それほど的を外れていない。
いわゆるアルアルネタでもある。
ネットに上がっているこの動画でも関西のなかでいじられやすい滋賀を選ぶあたりにセンスを感じる。
不快に思えば途端に面白くないとか誰かを傷つけるとか言い出す声の大きなバカがいるのでその辺は結構センシティブなネタだなとは思うんですがね。
そう言う意味ではぺこぱのネタの方が平和ですが。
ツッコミの強さ
大きく見るとぺこぱとミルクボーイは構造が近い。
ツッコミは訂正のはずなのになぜかボケている。
ボケで笑わせず、笑わせる役割を完全にツッコミが担っている。
コーンフレークのネタでいえば内海の独断と偏見によるコーンフレークへの決めつけが面白く、完全にボケなんだが形としてはツッコミをしているんですから。
漫才は奥が深い。
和牛のネタもツッコミがボケの役割をするという点で試みは近かったが、和牛の場合はやはり水田のボケを期待してしまうし、今さら川西がここまでツッコミボケをやり切るのは難しいんでしょう。
その試行錯誤の結果があのネタになったようにも感じた。
ボケを潰す言葉が多すぎますね。ツッコミのほうが絶対勝つだろう、っていう。野球で言うと投高打低ですね。ツッコミの球種が増えすぎちゃって、それはもう打てないだろうっていうことですね。
今まではストレートとカーブぐらいしかなかったのに、カットボールとか手元で曲がる球が増えていて。もう怖くてボケられないんですよ。だって、ボケたら「こいつトガってる」「空気読めない」とか言われちゃうわけです。それはボケにとってはなかなか不利ですよ。
ちょうどナイツ塙のインタビューでも語られていますが、ストレートなボケが出てきづらい流れの中で生まれたのが、ボケでもツッコミでもない、ツッコミボケの亜種なのかもしれない。
今回、ぺこぱとミルクボーイという特徴的なツッコミ(ボケ)の2組が決勝まで残ったのもそんな今の空気の体現みたいな気がするんですよね。
和牛も今年が最後宣言して、かまいたちも出ない来年。
どんな新人が登場するのか、また楽しみです。