「毒島ゆり子のせきらら日記」橋本梓プロデューサーを直撃。向田邦子賞受賞・矢島弘一は「良い意味で脚本家らしくない」

　優れたテレビドラマの脚本家に贈られる第35回向田邦子賞を「毒島ゆり子のせきらら日記」（TBSほか）の脚本担当・矢島弘一さんが受賞。新聞社で大物政治家の番記者としてがむしゃらに働きながら、プライベートでは奔放な恋愛を満喫していた主人公・毒島ゆり子（前田敦子）が、ある男性と出会い、恋に落ち、壮絶な最後を迎えるまでを描いた本作。二股の恋愛や不倫といったテーマを置きながらも、深夜ドラマらしく、今の若い女性たちが持つまさに“せきらら”な恋愛観や仕事の悩みをリアルに描き、好評を得た。ドラマのプロデューサー・橋本梓さんに矢島さんに脚本を依頼した理由などを聞きました。

──ご自身が初プロデュースした作品が向田邦子賞を受賞したと聞いていかがですか？

　向田邦子さんの脚本が好きで、本を何冊も持っています。それらの作品に及ばないまでも、こうしてお名前が冠についた賞をいただけることがすごく嬉しいです。

──脚本を矢島さんに依頼した理由をお聞かせください。

　企画が通り、ちょうど脚本家を探している時に知り合いの方から「面白いから舞台を観においで」とお誘いを受けて矢島さんの作品を観に行ったのがキッカケでした。すごく面白かったので、その次の日には「お願いします」と依頼しました。

──矢島さんにどのような印象をお持ちですか？

　良い意味で脚本家らしくない印象です。「脚本はこうあるべき」というより、自分が見てきたことや聞いてきたことを基本にして脚本を書いていらっしゃる方。生きた人間像や身近に感じられる人たちを描いているなと思います。舞台でも、いつも女性について描いていらっしゃるので、独身女性について描いたドラマでまたご一緒できたらうれしいです。

──今作には、ご自身の“せきらら”な話も反映されていると伺いました。

　私が政治記者を３年間経験したということがすごく大きく、その時に見た政治家同士の愛憎劇が恋愛とすごく似ているなという点から企画を考えました。政治を描く場面だと、政治家と毒島ゆり子の会話は私の実体験ではありませんが、“こういうこと、政治家が言いそうだよな”ということをセリフに反映しています。

──ゆり子の自由奔放な恋愛観は賛否が分かれると思いますが、仕事に一生懸命に向き合い、もがき葛藤する姿に共感できる視聴者も多かったと思います。リアルな働く女性像にも橋本さんの意見が反映されているのでしょうか？

　矢島さんも現代の女性像をすごく良く観察していらっしゃるなと思うのですが、独身女性の生活を覗き見しているような感覚になる会話は私から提案させていただいたり、矢島さんのお友達のお話を聞かせてもらったりして、なるべくリアルで、ありきたりな会話にならないようにしました。半径10メートルだったら友情にも薄い、濃いがあると思いますが、女性は半径１メートルくらいの距離感な友だちには、男性が想像もつかないような話をしていたりしますから（笑）。

──ドラマの放送時には、ゆり子がクロワッサンの食べ方を見て男性を品定めすることが話題になりました。これは矢島さんのアイディアだそうですね。

　私が矢島さんに「ゆり子がいろんな男たちの品定めをするような場所かモノを作ってほしい」とお願いしたんです。たとえば傘の持ち方で「この男はこういう男だ」と占えるような。それで矢島さんから返ってきたのがクロワッサンで、なるほどと思いました。オリジナルでユニークな考えですよね。

──作品に対する視聴者からの反響はどのように感じていますか？

　ゆり子のキャラクターがどこまで受け入れられるのか不安はありました。一般の方々がゆり子にどれだけ共感してくれるのか心配で。女性のスタッフに意見を聞くと、はじめは「ゆり子が最後にズタズタになれば、ざまぁみろと思う」とか痛烈な意見もあったんです（笑）。作品を見ていくうちに、そんな意見を持っていた方々がゆり子に共感したり、応援したくなったりすればいいなと思って気を付けていました。視聴者の方の反応を見ると若い世代や独身女性とか、恋愛に奔放な人たちの“声なき声”というか、今まで聞いたことがなかった声がこんなにたくさんあるんだと感じました。ゆり子がある種、現代の女性のシンボルのような存在に作れたことが嬉しかったです。

──では最後に改めて「毒島ゆり子のせきらら日記」の魅力をお聞かせください。

　女性の生き方を描く作品は、結婚がゴールだったり、婚活がテーマだったりして、刹那的に生きているキャラクターがメインのドラマは少ないと感じていました。“今が楽しかったらいいじゃない”とか、“今、一生懸命出来ることをやろうよ”というような作品が少ないなと。私自身もそうですが、独身女性に対して寄り添うようなドラマなので、ぜひ女性たちに見ていただきたいと思っています。

Text：伊藤美寿々

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