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クトゥルフ・ミス・ワールド 作者:ノモノス
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第36話 勇者たち

  外なる神、ニャルラトホテプが降臨した日のことである。

 ゲームスタートは告げられた。

 同時にルールも告げられた。

 5年、その期間内に1億ポイントを得てゲームを5回クリアしろということ。

 上限は旧支配者を駆逐すれば解放されるということ。

 クリア出来なかった場合、旧支配者アフーム=ザーが解放され、旧支配者達が復活するということ。

 ドリームランドに住んでいた全ての生物が同時刻、その宣言を聞いた。

 多くの生物が慌て、そして言いようのない恐怖に支配された。

 そんな中、最も揺れたのは人間達だった。

 狼狽し、恐怖する、まるでカゴに入れられたちっぽけな虫の様に。

 そんな中ドリームランド最大の国の王は対策を打ち出した。

 旧支配者討伐軍の結成、ドリームランドの人間達の初めての抵抗だった。

 しかし、人々はそこで自分達がいかに小さかったのかを知った。

 100を超える部隊を出撃させ、戻って来たのは10人と満たない兵士、当然討伐は失敗に終わっていた。

 そんな彼らも帰還後間もなく息を引き取った。

 実質生存者0の事実、精鋭を選りすぐったにも関わらずだ。

 国王は更なる選別をし、10人の部隊を作り出した。

 国王はその10人に全てを託そうと思い、彼等を出撃させた。

 その矢先、事件は起こった。

 外なる神、ヨグ=ソトースがその国に降臨したのだ。

 神は雲の上のさらに上から人々を常に見下していた。

 その限りのない空虚は自らの手を穢すこと無く人々を苦しみの底に貶めた。

 眷属達の解放、天災、ありとあらゆる手段を神は使った。

 その影響はその国だけでは無く多くの場所に広がって行った。

 国王はこれを良しとせず、必死に抵抗した。

 しかし、最強の10人を出撃させてしまった今、抗う術は殆ど無かった。

 兵士、民、動物、植物、土地、ありとあらゆるものが死滅した。

 民衆の苦しむ姿に耐えることが出来なくなった国王は乱心し、遂には自らがヨグ=ソトースの討伐に赴いた。

 結果は当たり前のものだった。

 眷属達によって捕らえられた王は首を切断され、国の中心で晒された。

 度重なる惨劇に加え、名君の死に国民はいよいよ絶望した。

 ドリームランドの最大の国が堕ちようとしたのだ。

 だが、それから数日、奇跡が起こる。

 砂埃が国全体を覆い尽くす酷い嵐の日だった。

 正気を失った国民達がふと窓の外を見たとき、その光景はあった。

 空に舞うものが2つある、それは神と黒い騎士だった。

 それだけでも驚くべきことだがさらに驚くべき事は暫く見て分かった。

 果てしない存在であるはずの外なる神の副王はたった一騎に苦戦していたのだ。

 その黒騎士に斬り刻まれ、最極の空虚は姿を消した。

 その後、黒騎士は国中の残った神の眷属を隈なく殺し、国に再び平和と笑顔を取り戻した。

 人々は黒騎士の周りに集まった、どんな些細なことでも何か礼をしようと考えたのだ。

 だが、黒騎士は言葉一つ受け取らず、ただこれだけ言った。



 「輓近、外より戦士が来る。戦士等は必ずこの世界を再び照らすだろう。その時が来るまで忍び、抗うのだ」



 言い終わると騎士は嵐の中に消えていったという。

 その言葉は的中した。

 外の世界より来た勇者と呼ばれる人間達は至る所で人々を助けた。

 その活躍はめざましく、旧支配者達さえも倒してしまうほどだった。

 彼等は数多く存在し、人々に希望を与えている、きっと今でも。














 「で、俺達はその戦士って訳か」



 部屋の中で俺は先程クリスに話された伝承のようなもののことを思い出しながら呟いた。



 「驚いたねー、まさかそんな壮大な設定があったとはね。ネルちゃん知ってた?」



 「いえ、私とお姉ちゃんは元よりこの世界にいたわけではないので」



 「しかし、驚いた。まさかただ単にゲームをプレイしている普通の世界の人間が勇者扱いされてたなんてな。いや、それよりもクリスの方が驚いたな」



 「この話を知らないってことはやっぱり勇者なんだな! って言ってくるとは思ってなかったねー」



 「確信もないままよくああも断定出来たもんだよ……ところで」



 俺は立ち上がり、鉄格子に手を当てた。



 「何で俺達捕まってんの?」



 「捕まえてる訳じゃねーよ。立派な部屋だよ。デザインってやつさ。この村の伝統だ」



 廊下の奥からともなくクリスがひょっこりと現れた。



 「よ、どうだ調子は?」



 「どうだじゃねーよ! 何でこんな牢獄に入れられてんだよ!」



 「だからデザインだって! 古くからうちの村でSMプレイが主流で……」



 「お前等の先祖どんな神経してんだよ! 明らかに教育に悪いだろうがよ! 第一内側から出られない部屋が何処にあるんだよ!」



 「それはお前受けが勝手にプレイの途中に出たら……」



 「いい加減牢獄だって認めろよ! ったく、何でこんなとこに入らなきゃいけないんだよ」



 「仕方ないだろ。部屋が他にないんだから。お前達と気兼ねなく話せる所なんてここくらいしかないんだよ」



 「えっ、どういうことだ?」



 「お前達も見ただろ、杖ついた爺さん。あれはペド爺って言って俺達のじいちゃんなんだ。言っちゃ悪いがペド爺は面倒くさくてよ。俺が旅人を連れて来たと分かったらすぐに俺と旅人を引き離すんだ。お陰で語らうこともできやしない、酷いと思わないか?」



 「いや全然。むしろペド爺正しいだろ。あれ、そういえば今までの旅人ってどうやってここから出たんだ?」



 「簡単さ。俺が出した」



 「出したって、そんな簡単なのか?」



 「ん、丁度いいか。ついてきな。」



 クリスは牢の鍵を開けて俺達を先導した。

 また変な所に連れて行かれるのではないかと思いながらも俺達はクリスに只々着いていった。

 どれくらいか上がった頃、漸く目的地にたどり着いた。



 「ここだ」



 クリスが立ち止まった所の頭上にはマンホールの様な蓋があった。



 「ユキト、お前だけついてきな」



 そう言うとクリスは飛んで蓋を開け、そこに吸い込まれていくかの様に入っていった。

 言われた通り、俺もそこの中に入って行った。

 するとそこには梯子があり地上へと繋がっている様だった。



 「さ、登って来い」



 クリスの後に続いて俺も登る。

 だが、その途中またしても感じた。

 そう、村を入った時に嗅いだ血の匂いだった。

 ふと気づくとそれは既にいた。

 クリスのすぐ近くに、空気の淀みは迫っていた。



 「クリス!」



 「分かってるよ」



 そう言うと同時クリスは梯子から手を離し壁に向かって飛んだ。

 そこから右へ左へ忙しく壁を蹴っては壁へ着き、その壁を蹴っては壁に着きを繰り返し上昇して行った。

 勢いそのままクリスは最上まで辿り着き蓋を開けた。

 50メートルくらいか、その長さをクリスは星の精に捕まらない程の速さで動き脱出した。



 「ほら、お前も早くしないと死ぬぞ」



 上からのクリスの声にハッとなり周りを見ると既に自分の周りに奴等は群がっていた。

 しかし、クリスがした様に行くだけでは何か負けた気がするからここはひとつ……



 「お、おい! 早くしろよ! 手遅れになるぞ……」



 次の瞬間、クリスの焦った様な声を俺は置き去りにして飛んだ。

 出来るかと思ったらやっぱり出来た。

 梯子を踏み台にして垂直跳び。

 蓋近くまで届くとも思ったらそれはどうも違っていて、正しくは蓋を超えて地上10メートルくらいまでだった。

 やはりこんなテキトーな感じでも成長はしているみたいだ。



 「予想以上だな……」



 クリスは笑みを浮かべて手を掲げた。

 俺はそれに答えてその手をパチンと叩いた。



 「俺以外出られない理由、分かったかい?」



 「ああ、分かった。あれは普通の人間じゃ厳しすぎる」



 「俺が今まで旅人を出せた理由は単純。これが出来ない奴は連れ込まなかった。それだけさ。こう見えても人間の目利きは出来る方なんでね」



 「なるほど、で、俺達はどうだったんだ?」



 「馬鹿、大当たりだから土下座までしたんだろうがよ」



 暫く地下で慣れたせいか、落ちかける唐紅の太陽の光を見るとなんだか心に響くものがあった。

 どうもそれはクリスも同じ様で暫く俺達はそれに見入っていた。



 「地下のみんなはこれを見られないんだ。特に、兄貴はよ」




 クリスは腰をゆっくりと降ろして陽を体に浴びながら一つ大きく息を吐いた。



 「あんたらが勇者だと思ったから呼び止めた。でも、もしあんたらにその気がないなら無理強いはしない、ここから出ればいい。ただ、もし力になってくれるなら。彼奴らを倒せとは言わない。ただ、兄貴に、せめてこの景色を……」



 そう言うクリスの顔は半泣きといった感じにも見えた。

 何か思い出すことでもあったのだろう。

 そう思ったと同時、俺も思い出した。



 「俺がロイを抱えてさっきみたいにぶっ飛べば出来ないことはないが……それは出来ない頼みだな」



 「な、なんでだよ」



 「当たり前だろ。お前ら兄弟だけそんないい思いするなんて不平等ってもんだ。それにお前、ライって弟もいたじゃないか」



 「……そうだけどよ」



 「要は簡単なこった。帰る家を取り戻せばいいんだろ?」



 クリスは驚きの顔でこちらを見た。



 「ユキト……」



 「どうせならみんなで、それも毎日、笑いながら陽を拝みたいだろ」



 「ありがとな、ユキト……」



 「礼には及ばねぇよ。ただ…… うちの中で2人くらい出られない奴がいるの思い出しただけだから」



 「……」



 「……」



 「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁ!」





 頭を抱えて倒れ、地べたをクルクルと回るクリスの姿を見て笑いながら俺は戻る準備をした。

 兄弟愛に感動して助ける気になったと言うのはとてもじゃないが恥ずかしくて言えなかったのだ。


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