素直に気持ちを打ち明けられない楓ちゃんのお話です。
Fly Me To The Moonはいつ聴いても色あせない名曲です。
彼のゲームしてるときの楽しそうな顔が好き。
彼の編集してるときの真剣な横顔が好き。
私が落ち込んでいるのをすぐに見抜いて優しい言葉をかけてくれるのが大好き。
私は彼が好き。この思いは募るばかり。
いっそのこと伝えられたらいいのに、でもそれはダメなことを知っている。
ダメというか怖いのだ。もし今の関係が崩れ去ってしまったらどうしようかと。
でも溢れるこの思いをどうにかして発散しなければ私はだいばくはつして自分まで自爆してしまいそうなの。
例えば遠まわしに伝えてみるのはどうだろうか?
「月が綺麗ですね」という話を「あなたを愛しています」と言い換えるのはもはや有名な話だよね。
そこまでいくと逆に直球な気さえする。なにかいい方法はないだろうか。
おくびょうな私は自分からアタックできずに逃げることだげ上手になっちゃうんです。
その夜は雨が降っていた。
雨は別に嫌いではない、雨音に耳を傾けると落ち着けるし、どことなく街が静かになる気がする。
だけど夜、一人の部屋の中だとどうしても不安になってしまう。
このまま自分だけどこかり取り残されてしまうのではないのだろうか。そんな冗談みたいな思いに取り付かれてしまう。
「ダメだよね!」
どうにかこの気持ちを誤魔化したくて、スマホで音楽でも聴こうかな。
せっかくだから普段聞かない曲でも聴こう、ネガティブな気持ちを晴らせる曲。
お洒落なのもいいかもしれないな、そういえば晴翔くんがたまに家出ジャズを聴くとか言ってたっけ。全く、厨二病だなぁ。
ふとしたときにこうして彼のことを追ってしまう。我ながら恋する乙女なんだなと少し恥ずかしくなる。
「夜に関係した曲でもないかなー」
よしあしなどわからないので適当にタイトルで気に入ったものを再生していく。
歌詞があったりなかったり、同じ曲でも様々なアレンジがされていたり、一言にジャズと言っても知らないことだらけで楽しかった。
これがきっかけで明日晴翔くんと話せたらいいな。
その中でも一曲とても気に入った曲があった「Fly Me to The Moon」特に私はしっとりとした女性ボーカルのが好きだな。
聞き流すだけだったけど少し意識して歌詞に耳を傾ける。
ん?んんっ!この曲ってもしかして!
私は凄いことに気が付いてしまった。ふふふ、明日が待ち遠しいよ。
不安なんてどこかに消え去り、待ち遠しい気持ちで私はベッドに潜るのであった。
これも晴翔くんのおかげかな。
やってきました決戦当日、といっても一晩たっただけなんだけどね。
でも私にとっては大切な日になるだろう。
思い立ったが吉日なんて昔の人はいいことを言う、もしかしたら私みたいな人が告白のために作ったのかな。そうしたらロマンを感じちゃう。
なんてそんなことはありえないなんて私もわかっている。だけども今だけは信じさせてください。私に勇気をください。
幸いにも雨はやんでいて、今日は一層綺麗な夜空が見えるだろう。星は輝き、私はその間で遊びたいの。
楽しい時間は早く過ぎるもので部活の時間は終わった。最近日は長くなっていたものの、流石にこの時間だと外は真っ暗だった。
私の予想通り星が零れてきそうな満点の星空だった。
四人で帰っているけど自然に晴翔くんの隣をキープする。みりあちゃんと涼くんは中良さそうに前で話している。
これならば大丈夫そう。あとは計画を実行に移すだけ。あくまで自然に、会話に混ぜ込むように。
「全く、あいつらはいつまでたっても子どもですね」
「あはは、またみりあちゃんに怒られるよ。それに涼くんと二人でいるときの晴翔くんも子どもっぽいじゃん」
「……まぁ、あいつは男ですし、親友ですから」
「なんかいいよねそういうの。少し羨ましいな」
「こればかりは、どうしようもありませんね」
晴翔くんは涼くんと一緒にいると楽しそうに笑うし、少し子どもっぽくなるし、なんというか素が出てる気がする。
男同士の友情とでも言うのだろうか?私が二人に敬語を使われているのも相まってなおさら距離を感じてしまう気がする。
私は少しだけ涼くんに嫉妬した。
「でも晴翔くんはみりあちゃんとも仲いいじゃん」
「部長だってみりあと仲はいいですよね」
「アホピンクーとかハルカスーとかあだ名って呼び合ってるじゃん」
「あだ名というか微妙なところですが……、部長という呼び方もあだ名ですよね」
「それは役職じゃん!もっとかわいいやつがいいな」
「例えば?」
「うーん、楓ちゃん部長とか?」
「悪魔合体じゃないですか」
「かわいいからいいの!リピートアフターミー、楓ちゃん部長」
「楓ちゃん部長」
晴翔くんはみりあちゃんと一緒にいると楽しそう?に言い合っている。
喧嘩するほど仲とでも言うのだろうか?私が部長と呼ばれているのも相まってなおさら距離を感じてしまう気がする。
でも今楓ちゃん部長って言ってもらえたから万々歳!
少しだけ高ぶるテンションを抑えつつ、そろそろ本題に入っていこうかな。
「今日は空が綺麗に見えるね」
「昨日雨が降りましたからね。空のチリやゴミが落ちたのでしょう」
「へー、そういう理屈なんだ」
焦るな楓、自然に、ゆっくりとでいい。
「晴翔くん」
「なんですか?」
「もし私が月に行きたいって言ったら連れて行ってくれる?」
そうすると晴翔くんは少し黙って考え込んだ。いつもの茶番だと思われているのだろうか。
いいや、そのほうがいい。もちろん叶うならそれに越したことはないが、そうでない結果の場合怖いのだ。
「いいですよ」
「えっ?」
「俺は部長を月まで連れて行きます」
その一言だけで私は笑顔になれる。思いを吐き出せただけでここまで楽になれるとは。
「それじゃあ失礼します」
そう言って晴翔くんは私の手を握ってきた。
ん?
突然のことに思考停止してしまう。
「ちょっと待って、どうして?」
「あれ?勘違いでしたか。……すみません」
「いや、あってるけどさ!晴翔くん、意味わかってる?」
「Fly me to the moonですよね?昔のアニメで使われたこともある曲ですしジャズも聴きますし」
ばれていた!そうだよね、私は一日で調べられるなら晴翔くんも知っていて当然だよね。
ん?んん?
もしかして私は告白をして、それが成功したの?
「は、晴翔くん。本当に私を月に連れて行ってくれるの?」
「はい、もちろんです」
「そんなあっさり」
「俺なりに少し悩みましたよ。でも部長ならって」
そういって笑う晴翔くん。今まで見たこともない笑顔で、私だけに見せてくれているのだろう。
それがたまらなく嬉しい。やっと見つけた私だけの特別。
私がぼーっとしている隙にまた手を握られた。そういうところずるいよね。
やばい、顔が熱い。次は違う意味で私はだいばくはつ寸前になっていた。
木星と火星にどんな春が訪れるのかはわからないけど、私達には春が訪れていた。
私を月に連れて行って。
言い換えるなら、あなたが大好きです。