この前の前前前世を見て思いつきました。
バンプの「firefly」と「バトルクライ」は名曲なのでぜひとも聞いてみてください。
お兄ちゃんが隠し事をしている。
気が付いたのは一週間前のことだろうか。
休日だというのにゲームをするわけでもなく外出。ゲーム部関係のことでもないらしく、とても珍しいことであった。
その後こそこそと私が気が付かない間に帰ってきたお兄ちゃんはそのまま部屋に引きこもった。
怪しい、ゲームとかなら特に隠しもしないお兄ちゃんだからなにをしているのか気になる。
悶々としていたところに正解を告げる音が聞こえてきた。
道明寺家では聞こえるはずもないアコースティックギターの音。
ヘッドホン越しで聞くことはあるが壁越しでは今までなかった。
「なんで隠していたのかな」
あのかっこつけのお兄ちゃんのことだ、大体予想は付く。
ようするに努力を見せたくなかったのだろう。
ある程度上手くなったところでお披露目、「俺は何でも出来てしまうな、自分の才能がおそろしい」と言う所までが一セットだ。
……そんなことしなくても尊敬はするんだけどな。恥ずかしいから絶対に言わないけど。
さて、まだまだ上達していないお兄ちゃんにアドバイスでもしてあげますかね。
コンコンとノックをしたらドタバタと音がしている。慌ててるなー。
「お兄ちゃん、入るよ」
「あ、ちょっと待て」
「押入れにギター隠すから?」
「な、何故それを!」
「私の部屋にアコギの音が聞こえたよ」
「あ、ごめん。うるさかったな」
そうじゃないよ。お兄ちゃんが音楽に、ギターに興味を持ってくれて嬉しいんだよ。
私がゲームやりたいって言ったときのお兄ちゃんもこんな感じだったのかな。
「大丈夫だよ。私に隠れて楽しそうなことしているなって思って」
「い、いや。隠れていたわけじゃないぞ」
「はいはい。どうしてギター始めたの?」
「この前の撮影で俺もギターを持ったじゃないか。あれから俺もやってみようかと」
「なるほど」
「あの時はエアだったけどいつかここあと一緒に弾きたいな」
「嬉しいよ、お兄ちゃん!」
こんな兄のことをシスコンだなと思う一方喜んでしまう私もブラコンなのだろうか?
ん?でもそれが理由とするならおかしい点が一つ存在する。
「それじゃあどうしてエレキじゃなくてアコギなの?」
「……」
「どうしたの?」
純粋な疑問点を口に出しただけだったがお兄ちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をして固まってしまった。
そんな難しいこと聞いたかな?
それから少しの沈黙があって重々しい口が開いた。
「……お兄ちゃんはな、少しだけ友達が少ないんだ」
「知ってるよ」
「ぐはっ……。それでな、エレキは基本バンドとかの複数人で弾くことが多いけど、アコギは弾き語りなど一人でも完結するだろ」
「そうだね」
「それが俺のことを表しているようで、気が付いたらアコギを手に取っていた」
「あぁ……」
なんとも反応のしにくい理由だった。
アコギもバンドなどに混ぜるとそれはそれでいい仕事してくれるよ。
そういうところもお兄ちゃんぽいなんてそれは流石に言いすぎだろうか?
「何の曲練習しているの?」
「ここあは知っているかわからないが、バンプのfireflyだ」
「ああ、知ってるよ。お兄ちゃんにCD貸してもらった」
お兄ちゃんは意外なことにアニソン以外の音楽もよく聞く。男性バンドを中心に邦洋問わず。
CDもそれなりに持っていて私も良く借りる。
そういえば中学二年生のころから集め始めたかも……。片鱗はこんなところにもあったんだね。
もしかしたら私が音楽を始めたのはお兄ちゃんの影響もあるかもしれない。
「BUMP OF CHICKEN」は兄妹二人してお気に入りでよくCDも借りたりしている。
「それでなに難しい顔しているの?」
「なんとなく音があってない気がしてな」
「あぁ、多分バンプの曲は半音下げてチューニングしないといけないからね」
「なんだそれ?」
「ちょっとギターとチューナー貸して」
慣れた手つきでチューニングしていく。何回も繰り返した動作だしチューナーなくとも耳がある程度覚えてるよ。
六弦から初めて、一弦、五弦、二弦、四弦、三弦の順に合わせていく。最後に六弦と一弦を確かめて終わりだ。
軽くかき鳴らしてみるといつも慣れた音とは少し違くてむず痒くなりそう。当たり前だよね、半音低いんだから。
「流石だな」
「まあね。どうしてfirefly弾こうと思ったの?」
「……少しこの歌詞に思うことがあってな。今の俺らを表しているようで」
「ゲーム部の皆さんのこと?」
「それとここあも含めてかな」
「……私のためにも歌ってくれるの?」
「そんな大層なものじゃないけどな」
そう言ってそっぽ向くお兄ちゃん。
もう、素直じゃないんだから。
「ねえねえ、早速弾いてみてよ」
「……嫌だ」
「えー、なんでよ」
予想通りの反応だけどお兄ちゃんは嫌がった。
兄妹で睨みあう。お互いに一歩も引かない構えだ。
全くどうしてこう意地っ張りなところが似ちゃっているのだろうか。
こうなったら、みりあ先輩から聞いた秘策を試してみよう。
「まぁお兄ちゃんFコードとか押さえられないでしょ」
「なに?!それは聞き捨てならん」
みりあ先輩の言う通り軽く挑発しただけで乗ってきた。
お兄ちゃんがちょろすぎて妹ながらに不安を覚えてしまいます。
少し苦戦しながらも押さえられたみたいだ。
ボローン
「ちょっとビビッてない?」
「うぐぅ……」
「ま、まぁFは難しいからね。もっと指をこうして、どうかな?」
ポローン
さっきよりは上手く鳴っている気がする。
それにしても……。
「お兄ちゃん手が大きいね」
「そうか?」
「ちょっと合わせてみようよ」
お兄ちゃんの指を直しているときその大きさに驚いた。
お兄ちゃんは身長も高いんだから手も大きいよね。
合わせてみるとその大きさがより感じられた。
「いいなぁ。私もギター弾くからこのくらい大きいのに憧れるな」
「ここあは今のままもいいと思うぞ」
「ええー、お兄ちゃんはどうして大きいの?」
「そりゃ、俺はここあのお兄ちゃんだからな。お兄ちゃんは妹を守る使命があるからな」
答えになってないよ。だけどお兄ちゃんの中では本気でそう思っているのだろう。
なんだか悔しいな。
「えい」
「どうした急に握ってきて」
「なんでもないです」
合わせた手を握るようにするとお兄ちゃんもゆっくりと握り返してきた。
やっぱり大きい。
「そんな妹からのお願いです。firefly聞かせて!」
「……わかった。下手でも笑うなよ」
「そんなことするわけないよ」
ゆっくりとお兄ちゃんは弾き語りを始めた。
色々と難しくて 続ける事意外で 生きている事 確かめられない
報われないままでも 感じなくなっても 決して消えない 光を知っている
自分のこと、ゲーム部のこと、そして私のことを歌ってくれている。
ストロークはなっていないし、ギターはビビッている。コードチェンジは上手く出来なくて、演奏に集中して歌声もおざなりになっている。
正直に言ってしまえば下手だ。
……だけど、どうしてここまで私に響くのだろうか。
私が歌を歌うとき、聞いてくれた人の心に届けたいと思いながら歌っている。
それはとても難しいことでちゃんと出来ているか未だにわからない。
でも、お兄ちゃんの歌は確かに私の心を震わせている。
……お兄ちゃんの気持ちはしっかりと伝わったよ。
「どうだった?」
「よかったよ。さすがお兄ちゃん!」
「はーはっはっ!やはり俺の才能が恐ろしい!」
「上手くはなかったけど」
「……え?」
「まぁいいや、お兄ちゃん。ちょっとギター貸して?」
「いや、ここあ。お兄ちゃん上手くなかったか?」
「上手くなかったけどよかったよ。私も一曲弾かせて」
「えぇー……」
だって本当にいいとは思ったんだもん。上手くはなかったけど。
ギターを借りて歌うのは私からのアンサー。同じくバンプの「バトルクライ」。
弾き語りといってもコード譜だし、曲自体は知っているしそんなに問題はない。
アコギもエレキも同じギターだし、初めてでも出来るはずだ。
日毎生意気になってやろう 大言壮語も吐いてやろう
最後に見事笑って見せよう 主役を思い知らせてやろう
本当強がってんだ 強がって またウソついて
お兄ちゃんが頑張り屋だってことは私が一番知っている。
お兄ちゃんの言う「まだ頑張れる」がウソだって知っている。お兄ちゃんがウソを本当にしてしまうことも知っている。
無理しているって知っている。知った上で私は何も出来ない。
ひとつのウソにさえ すがる僕に
捧げよう 誓いの歌 SHOUT a BATTLECRY
だから私はこの歌をお兄ちゃんに捧げよう。
「どうだったかな?」
「……」
「お、お兄ちゃん?」
「ご、ごごあ、よがっだぞ……!」
え、まじ泣き?心に響かせたいとは言ったけどここまでとは……。
それでも、どうにか私の思いは伝わったみたいだ。
「……ここあ」
「なに?」
「これからも頑張ろうな」
「無理はしないでね」
「善処する」
「絶対だよ」
「わかった」
「……あとさ」
「なんだ?」
「一緒にギター弾こうね」
「……わかった」