■預金部門の解散は困難
預金部門がコスト分だけ赤字なら、解散すれば良いと考える人もいるでしょう。必要な資金はゼロ金利で他行から借りてくれば良いのですから。しかし、それは現実的では無いのです。
まず、借り手の預金口座は銀行にとって必要です。借り手が預金口座を必要とするため、預金部門を廃止したら借り手が逃げてしまうでしょう。銀行にとっても、借り手の預金口座は必要なのです。借り手の預金口座には、売り上げ代金が逐次入金されますから、それを見ていると借り手の売り上げが順調なのか否かの見当がつくからです。
一般の預金口座は、今は不要ですが、将来市場金利が上昇した時には大きな利益の源泉となるのです。市場金利が大幅に上がっても、預金金利はそれより小さい幅でしか上がりませんから。そこで銀行は、預金口座を維持しておくインセンティブが強いのです。
一般の預金口座も、顧客に投信や保険を売る際のターゲットとして考えれば、今でも貴重な存在だと言えるかも知れません。将来は預金客が住宅ローンを借りてくれるかも知れませんから、彼等を大事にしておく事は重要でしょう。
そうは言っても、コストとの兼ね合いは重要です。したがって、預金口座を維持するコストの一部を顧客に負担してもらおう、と銀行が考えるのは自然な事でしょう。
■銀行には預金口座を無料にする余裕が無い
「銀行が、預金口座を作ってくれた客に礼を言うのは当然だ」と思っている客も多いのですが、預金口座があると銀行は費用がかかります。
そもそも口座開設時に銀行員の人件費がかかりますし、相続などが発生すれば少額の口座でも面倒な手続きが必要になるかも知れません。
また一般には知られていませんが、発行済み預金通帳の冊数を数えて、その分だけ毎年印紙税を払っているのです。
せめて印紙税の分だけでも顧客に負担してもらえれば、というのが現在の銀行の心境だと思います。それによって「不稼働口座」を解約する顧客は増えるでしょうが、それはむしろ銀行にとって有難い事なのです。
不稼働口座は解約してもらい、使ってもらえる口座だけ残してもらうというのが銀行にとって最も有難い事だとすれば、少額の預金口座維持手数料を請求するのは、仕方ない事だと思います。銀行には、大量の不稼働口座を抱えて印紙税等の負担を負い続ける余裕が無いのですから。
塚崎公義 久留米大学商学部教授
【プロフィール】
1981年、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に経済関連の調査に従事した後、2005年に久留米大学に転職。趣味は、難しい事を平易に解説する文章を書く事。SCOL、Facebook、ブログ等への執筆のほか、著書も多数。