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銀行口座に手数料が発生する時代が来る理由 - 塚崎公義(大学教授)

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銀行に預金口座を持っていると手数料がかかる時代が来るようです。邦銀最大手の三菱UFJ銀行は不稼働の口座に維持管理手数料を課す方向で検討しています。他行も追随する事になるでしょう。

背景にあるのは、銀行がゼロ成長とゼロ金利に苦しめられている事です。今回は、銀行の苦悩について考えてみましょう。

■経済のゼロ成長は銀行のマイナス成長

経済がゼロ成長だと、一般企業は昨年と同じ生産量、同じ売り上げ、同じコスト、同じ利益を続ける事になるでしょう。企業によってプラス成長やマイナス成長はあるでしょうが、平均すれば「昨年並み」となるはずです。

しかし銀行は違います。一般企業が稼いだ利益のうち配当されなかった分は借入の返済に使われるため、貸出残高が減少してしまうのです。

経済が成長している時ならば、企業は能力増強のための設備投資資金が必要ですから、銀行の貸出残高は増えると期待されますが、ゼロ成長だとそれは期待出来ません。

維持更新のための設備投資は行われるでしょうが、その分の資金は減価償却で賄われてしまうので、銀行借入にはつながらないのです。減価償却という言葉については、厳密ではありませんが、以下の説明でイメージを持ってもらいましょう。

100万円で購入した設備で製品が1万個作れるという場合、企業は製品の販売価格に「製品を1個作ると機械が擦り減るので、その分のコストを100円上乗せする」といった会計処理をします。それによって、100円の1万倍の資金を稼いで設備の買い替えに備えているのです。

■銀行の貸出金利引き下げ競争では客は増えない

銀行は融資残高を維持するため、貸出金利を引き下げてライバルから顧客を奪おうとします。しかしライバルも同じ事を考えるので、金利を下げても客を奪う事はできません。

「銀行が貸出金利を下げたら企業の設備投資が増えて銀行の融資残高が増えた」という事なら良いのですが、それも期待出来ません。

銀行にとっては貸出金利が1%を切る中で、それを更に0.1%引き下げるというのは大きな負担です。しかし、企業が設備投資を検討する際には考える材料が山ほどあるので、「借入金利が0.1%下がったから借金をして工場を建てよう」などとは考えないのです。

企業の設備投資が増えなくても、企業の資金調達先が銀行以外から銀行にシフトしてくれるなら良いのですが、それも見込めません。これが牛丼チェーンの値下げ競争であれば、ラーメン業界から客が移ってきて両社とも利益が増えるという可能性もありますが、銀行業界ではそうした事は見込めないのです。

■ゼロ金利も銀行にとって大きな負担

銀行が預金を集めて貸出をすると、利鞘(りざや・貸出金利と預金金利の差)の分だけ粗利益が稼げます。そこからコストを差し引いて利益が出るわけですが、これを貸出部門と預金部門に分けて考えてみましょう。

貸出部門の粗利益は、貸出金利と市場金利の差です。これはそれほど大きくは変動しません。粗利益が「コストプラス適正利潤」となるように各行が貸出金利を決めるからです。

預金金利に関しても、基本的な考え方は同じです。市場金利と預金金利の差が「コストプラス適正利潤」となるように各行が預金金利を決めるからです。

しかし市場金利がゼロになると、各行は預金金利をマイナスにする事が困難なので、預金部門の粗利益がゼロになってしまいます。つまり、預金部門はコスト分だけ赤字になってしまうわけです。実際には市場金利がマイナスなので、損失はそれ以上です。

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