ブラッド・ピットとの泥沼の離婚劇がメディアを騒がせているアンジェリーナ・ジョリー。彼女が人権活動家であることは有名だが、フィルムメーカーとしても活躍しており、クメール・ルージュ時代のカンボジアを描いた『最初に父が殺された』(2017年)などの監督作品は高く評価されている。
そんな彼女が初めてアニメーションのプロデューサーを務めた『ブレッドウィナー』が12月20日に公開される。
本作は2001年アメリカ同時多発テロ事件後のアフガニスタン・カブールを舞台に、11歳の少女パヴァーナが、家族のために髪を切り、少年になってタリバンに捕らえられた父親を助け出そうとする物語で、第42回アヌシー国際アニメーション映画祭をはじめ世界中の映画祭で数多くの観客賞を受賞した傑作だ。
デボラ・エリス著『生きのびるために』(さ・え・ら書房)を映画化した本作で映し出されるのは、アフガン少女が少年として生きる物語。少女が少年の恰好をしてタリバン支配下を生き抜くという驚きのエピソードは、原作者が取材を重ねて知った事実にもとづいたものだという。
監督を務めたのは、自由な作品作りで知られるアイルランドのアニメーション・スタジオ「カートゥーン・サルーン」の共同設立者でもあるノラ・トゥーミー。初めて単独で長編作品を監督した彼女に、アフガニスタンの過酷な現実、そしてプロデューサーとしてのアンジェリーナ・ジョリーについて聞いた。
――映画は2001年アメリカ同時多発テロ事件後のアフガニスタン、カブールが舞台ですね。
ノラ・トゥーミー監督(以下、トゥーミー監督):そうです。実は、原作が出版されたのは2000年だったのですが、映画の舞台を2000年以前にしてしまうと、現代のアフガニスタンのリアリティとかけ離れてしまうと思い、9.11直後の激動のカブールを描きました。9.11は中東だけではなく世界のすべてを変えてしまった事件ですから、無視したくはなかったんです。
――女性が働くことや女性だけの外出を禁じたタリバン支配下のカブールで、パヴァーナは父親が投獄されてしまったために、髪を切り男の子のフリをして露天商となり、一家の稼ぎ手、“ブレッドウィナー”になります。実はこういった話はカブールでは珍しくなかったとか。
トゥーミー監督:はい、原作者のデボラ・エリスはパキスタンの難民キャンプでアフガンの女性や少女に取材を重ねたうえでこの話を書き上げたので、アフガンの少女が少年のフリをするエピソードは本物ですし、アフガンには今でも少女を男装させて少年として育てる「バチャ・ポシュ」という風習があるんです。
家父長制社会では男性のほうが女性よりも価値があると信じられており、このような風習がある地域は少なくありません。トルコ、インド、パキスタンなどにも似たような風習があると聞いています。特に多いのが貧しいアフガンの家庭で、一家の稼ぎ手になってくれて、将来は両親の面倒をみて欲しいがために、女の子に男の子の服を着せて男の子として育てる家族もあるそうです。
娘を「バチャ・ポシュ」にすると、次は息子が生まれるという迷信もあるぐらい。そして、「バチャ・ポシュ」になった女の子は男の子のように自由に外出ができるし、スポーツもできるので、ずっと男性として生きたいと思う女の子もいるそうですが、思春期になると多くのバチャ・ポシュは女性に戻るそうです。