日中両政府は習近平国家主席の国賓としての来春訪日で合意している。反対論もある中、実現させるなら、首脳同士が信頼を深め、先送りしてきた懸案について率直に意見交換することが大切だ。
安倍首相は六月、大阪での二十カ国・地域首脳会議(G20サミット)に合わせて習主席と会談した際「日中関係は完全に正常な軌道に戻った」と述べ、習氏も「関係は新しい歴史的スタートラインに立っている」と応じた。
日中関係は民主党政権時代の二〇一二年に尖閣問題で極端に悪化。第二次安倍政権でも、習氏との直接会談が二年間も実現しなかったことを考えれば、双方には改善基調を言葉だけでなく、本物にする努力が何より求められる。
六月の会談では、習氏が来春にも国賓として初めて訪日することで合意した。江沢民元国家主席は一九九八年に、胡錦濤前国家主席は〇八年に、それぞれ国賓として訪日している。
江氏訪日の際に日中は「日中共同宣言」で友好協力を、胡氏訪日の際には「日中共同声明」で戦略的互恵関係の推進をうたった。
日中間には、これら二つの文書に先立ち、七二年の国交正常化の際の「日中共同声明」、七八年の「日中平和友好条約」がある。
これら「四つの重要な政治文書」に共通する精神は「日中不戦の誓い」と言えよう。習氏の国賓としての訪日の際には「五つ目の政治文書」を出す方向で、日中政府の調整が進んでいるともいう。
新たな政治文書を作るなら「不戦の精神」をきちんと踏まえ、歴史、領土問題など懸案の解決に糸口を見いだすべく、前向きなものにしてほしい。
習氏の国賓としての訪日は今のところ、関係改善を印象づけるムード優先の面は否定できない。
尖閣周辺の日本領海接続水域での中国公船の航行は今年、過去最多となった。中国による南シナ海での強引な実効支配もやまない。次の日中首脳会談では、こうした対立点にも踏み込んだ実効性ある討議を期待したい。
ウイグル族弾圧や香港民主化デモに対する強権発動への動きも見逃せない人権問題だ。途絶えている日中人権対話を再開させ、日本も欧米と足並みをそろえ人権抑圧停止を求めるべきである。
習氏の国賓としての訪日実現を優先させるあまり、もしも、こうした問題に口をつぐむならば、真の関係改善は望むべくもない。
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