Photo: Ryan Pfluger / The New York Times
Text by Devin Leonard
11月12日にアメリカ、カナダ、オランダでスタートした動画ストリーミングサービス「ディズニー・プラス」は、わずか1日で1000万人が登録したことで話題を呼んだ。
今後ますます競争が激化する動画配信の世界で、ディズニーが自社の配信サービスを持つことを決意した背景を、CEOのボブ・アイガーが米経済誌に詳細に語った。
今後ますます競争が激化する動画配信の世界で、ディズニーが自社の配信サービスを持つことを決意した背景を、CEOのボブ・アイガーが米経済誌に詳細に語った。
ウォルト・ディズニー・カンパニーのCEOになった2005年よりずっと前から、ボブ・アイガーは平日の朝4時15分に起きて、運動することを習慣にしていた。最近は週末もだいたい同じ時間に起きて運動し、ディズニーが制作している映画やテレビ番組を見ている。いま彼の頭の中を占めているのはテレビドラマ『マンダロリアン』のファースト・シーズンだ。
『マンダロリアン』は『スター・ウォーズ』の世界から生まれた“宇宙西部劇”で、制作は俳優兼監督のジョン・ファブローが務める。主人公は『帝国の逆襲』でハン・ソロを追い詰めたボバ・フェットとよく似た装甲服を着た賞金稼ぎだ。
「『マンダロリアン』のエピソードはだいたい3回ずつ観ましたよ」とアイガーは話す。
「1回目はメモをとるため。2回目は暫定版のフィルムを観て、メモに書いた内容が効果的になっているかの確認です。そしてようやく、つい最近、すべてのエピソードの最終版を観終えたところで、出来栄えは満足のいくものとなりました」
ディズニーはこのドラマに1億ドル(約110億円)の資金を費やしている。そのため、この作品が視聴者の目を驚かせるようなものにならないと困るのだ。
『マンダロリアン』を見るためには、11月12日から米国などで開始した「ディズニー・プラス」への加入が必要となる(註:日本ではディズニーデラックスで12月26日から配信)。
ディズニーはこの家族向け動画ストリーミングサービスで、1年目に少なくとも25本の新たなテレビ番組と10本の新作映画を配信することに加え、1928年の『蒸気船ウィリー』で初登場したミッキーマウスから現代の『アベンジャーズ』、『スター・ウォーズ』にいたるすべてを網羅した巨大なアーカイブを提供すると約束している。
CEOとして15年やってきたアイガーのキャリアにおいて、ディズニー・プラスは最も重要な製品の立ち上げと言える。それと同時に、最も危険な事業でもある。
ディズニーはこのドラマに1億ドル(約110億円)の資金を費やしている。そのため、この作品が視聴者の目を驚かせるようなものにならないと困るのだ。
『マンダロリアン』を見るためには、11月12日から米国などで開始した「ディズニー・プラス」への加入が必要となる(註:日本ではディズニーデラックスで12月26日から配信)。
ディズニーはこの家族向け動画ストリーミングサービスで、1年目に少なくとも25本の新たなテレビ番組と10本の新作映画を配信することに加え、1928年の『蒸気船ウィリー』で初登場したミッキーマウスから現代の『アベンジャーズ』、『スター・ウォーズ』にいたるすべてを網羅した巨大なアーカイブを提供すると約束している。
CEOとして15年やってきたアイガーのキャリアにおいて、ディズニー・プラスは最も重要な製品の立ち上げと言える。それと同時に、最も危険な事業でもある。
投資家をうならせた2つの発表
アイガーは、10桁におよぶ金額での買収によってディズニーをハリウッドで最も成功している映画会社に作り変え、自らの名声を築いてきた。2006年にはピクサー、2009年にはマーベル、そして2012年にはルーカスフィルムを買収している。
さらに今年、彼は713億ドルの資金を投じて21世紀フォックスの大部分を買収し、ディズニーの覇権を強固なものにした。
だが、ディズニーの作品にどれだけの力があるとしても、ディズニーにはストリーミングサービスの主なライバルであるアマゾン、ネットフリックス 、アップルのような深い技術的バックグラウンドがない。また、そうした競合とは違って、ディズニーは消費者に直接製品を売るという経験がほとんどない。
最近まで、ディズニー・チャンネルやESPNを見るにはケーブルテレビのサブスクリプションに加入する必要があった。封切りされた『アベンジャーズ』を見るには映画館に行かなければならなかったし、オンラインで見るにはネットフリックスに登録しなければならなかったのだ。
しかし、いまやディズニーはそうしたパイプも手に入れた。これはニューヨークを拠点としたストリーミング会社バムテック(BAMTech)を買収したことによるものだ。
さらにディズニーは、価格でも圧倒するという大きな賭けに出た。ディズニーが設定した月額は6.99ドルで、これはネットフリックスのスタンダードプラン12.99ドルを大幅に下回っている。
2020年、ディズニーは新しい番組と映画に10億ドルを投じる予定だ(この額はじきに2倍になるだろう)。そのなかにはマーベルの『アベンジャーズ』に登場するマイティ・ソーの義兄弟でかつての宿敵ロキを基にした作品や、ピクサーの『モンスターズ・インク』のマイクとサリーに焦点を当てた『モンスターズ・アット・ワーク』も含まれる。
4月、ディズニーは初めてストリーミングサービスの詳細についてウォール街のアナリストたちに明かしたが、それ以前には、投資家たちはディズニーのストリーミングサービスへの野心に関して懐疑的にならざるをえない理由があった。
ディズニーが提供しているスポーツのストリーミングサービスESPN+は200万人の契約者を獲得していたが利益は出ていなかった。また、21世紀フォックスを買収したことでディズニーが支配権を得たフールー(Hulu)は、2500万人以上の契約者がいたものの、多額の損失を出していたのだ。
だが、ディズニーが新たなサービス内容を動画付きで発表したとき、「はっと息を飲む声が聞こえた瞬間が2回ありました」とバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチでメディア業界のアナリストを務めるジェシカ・リーフ・エーリックは話す。
2020年、ディズニーは新しい番組と映画に10億ドルを投じる予定だ(この額はじきに2倍になるだろう)。そのなかにはマーベルの『アベンジャーズ』に登場するマイティ・ソーの義兄弟でかつての宿敵ロキを基にした作品や、ピクサーの『モンスターズ・インク』のマイクとサリーに焦点を当てた『モンスターズ・アット・ワーク』も含まれる。
4月、ディズニーは初めてストリーミングサービスの詳細についてウォール街のアナリストたちに明かしたが、それ以前には、投資家たちはディズニーのストリーミングサービスへの野心に関して懐疑的にならざるをえない理由があった。
ディズニーが提供しているスポーツのストリーミングサービスESPN+は200万人の契約者を獲得していたが利益は出ていなかった。また、21世紀フォックスを買収したことでディズニーが支配権を得たフールー(Hulu)は、2500万人以上の契約者がいたものの、多額の損失を出していたのだ。
だが、ディズニーが新たなサービス内容を動画付きで発表したとき、「はっと息を飲む声が聞こえた瞬間が2回ありました」とバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチでメディア業界のアナリストを務めるジェシカ・リーフ・エーリックは話す。
「1度目は価格が発表されたときです。みんなの予想をはるかに下回る価格だったんです。そして2回目はジョン・ファブローが『マンダロリアン』の一部を見せたときでした。その場にいた人たちはみんな熱狂していました」
翌日、ディズニーの株価は13%以上上昇した。
現在の世論では、ディズニー・プラスは2024年までに世界中で9000万人の有料会員を獲得するという目標を容易に達成し、さらにはESPN+とフールーも登録者数を伸ばし、ディズニーに1億6000万人ものストリーミング顧客をもたらすだろうと考えられている。
これは、同時期には最大で3億人の会員を獲得しているだろうと予想されるネットフリックスには遠く及ばない数字だが、非常に良いスタートだ。アイガーは何度も、ディズニーはネットフリックスと競っているわけではないと公言しているが、誰もそれを本気で信じてはいない。
「私は、アイガーがネットフリックスを標的にしていると考えています」とウェッドブッシュ・セキュリティーズのアナリスト、マイケル・パクターは話す。「彼はネットフリックスより大きな成功を収めたがっているのだと思います」。
高騰を続けるディズニーの株価はアイガー自身への支持としても解釈できる。彼が手がけた買収のなかには当初に人々を驚かせるものもあったが、その戦略──つまり、最も貴重なキャラクターの世界そのものを買い占めること──はこれまでのところうまくいっているのだ。
またアイガーは早い段階で、気難しい性格で有名な人物、たとえばアイガーの前任者であるマイケル・アイズナーと仲が悪かったアップルのスティーブ・ジョブズといった人たちと和解していた。
数年前には、アイガーは大統領に立候補することも真剣に考えることができた。それも、同じく大統領選に立候補することを考えた、元スターバックス会長のハワード・シュルツの場合に沸き起こったような人々の嘲笑を誘うこともなかった。
ディズニー・プラスはアイガーが残す遺産を特徴づけるものとなるかもしれない。現在68歳のアイガーは今年リタイアすることになっていた。だが、21世紀フォックスとの契約の一部として、彼は2021年まで在職することに同意した。
ディズニー・プラスは正しい一歩だと確信していると、アイガーは公言している。それが「私たちにとって絶対に欠かすことのできない事業だと考えています」と彼は話す。
「これがメディアの未来であることに、疑いの余地はありません」
ネットフリックス 、アマゾン、アップルに加えて、 来春にはAT&Tも独自のストリーミングサービス「HBOマックス」を開始する予定だ。『フレンズ』などの人気番組を提供するほか、俳優・作家兼プロデューサーのミンディー・カリング、映画監督のリドリー・スコットによる新作も配信されることになっている。
また4月にはコムキャストが「ピーコック」というストリーミングサービスを開始し、 NBCユニバーサルの『ジョーズ』や『ジ・オフィス』などの作品を提供していく。
手短に言えば、ストリーミング戦争が勃発中なのであり、ディズニーはそこに衝撃と恐怖をもたらしつつあるのだ。ディズニーと競合他社が顧客と有能な人材を求めて争うことによって、過酷な状況が訪れるだろうと考える人もいる。
「この戦争がどこで終わりを迎えるのかはわかりません」とS&Pグローバル・レーティングのシニア・ディレクター、ナヴィーン・サルマは話す。
「でも、良い終わり方はしないでしょうね」
翌日、ディズニーの株価は13%以上上昇した。
絶対に欠かすことのできない事業
現在の世論では、ディズニー・プラスは2024年までに世界中で9000万人の有料会員を獲得するという目標を容易に達成し、さらにはESPN+とフールーも登録者数を伸ばし、ディズニーに1億6000万人ものストリーミング顧客をもたらすだろうと考えられている。
これは、同時期には最大で3億人の会員を獲得しているだろうと予想されるネットフリックスには遠く及ばない数字だが、非常に良いスタートだ。アイガーは何度も、ディズニーはネットフリックスと競っているわけではないと公言しているが、誰もそれを本気で信じてはいない。
「私は、アイガーがネットフリックスを標的にしていると考えています」とウェッドブッシュ・セキュリティーズのアナリスト、マイケル・パクターは話す。「彼はネットフリックスより大きな成功を収めたがっているのだと思います」。
高騰を続けるディズニーの株価はアイガー自身への支持としても解釈できる。彼が手がけた買収のなかには当初に人々を驚かせるものもあったが、その戦略──つまり、最も貴重なキャラクターの世界そのものを買い占めること──はこれまでのところうまくいっているのだ。
またアイガーは早い段階で、気難しい性格で有名な人物、たとえばアイガーの前任者であるマイケル・アイズナーと仲が悪かったアップルのスティーブ・ジョブズといった人たちと和解していた。
数年前には、アイガーは大統領に立候補することも真剣に考えることができた。それも、同じく大統領選に立候補することを考えた、元スターバックス会長のハワード・シュルツの場合に沸き起こったような人々の嘲笑を誘うこともなかった。
ディズニー・プラスはアイガーが残す遺産を特徴づけるものとなるかもしれない。現在68歳のアイガーは今年リタイアすることになっていた。だが、21世紀フォックスとの契約の一部として、彼は2021年まで在職することに同意した。
ディズニー・プラスは正しい一歩だと確信していると、アイガーは公言している。それが「私たちにとって絶対に欠かすことのできない事業だと考えています」と彼は話す。
「これがメディアの未来であることに、疑いの余地はありません」
ネットフリックス 、アマゾン、アップルに加えて、 来春にはAT&Tも独自のストリーミングサービス「HBOマックス」を開始する予定だ。『フレンズ』などの人気番組を提供するほか、俳優・作家兼プロデューサーのミンディー・カリング、映画監督のリドリー・スコットによる新作も配信されることになっている。
また4月にはコムキャストが「ピーコック」というストリーミングサービスを開始し、 NBCユニバーサルの『ジョーズ』や『ジ・オフィス』などの作品を提供していく。
手短に言えば、ストリーミング戦争が勃発中なのであり、ディズニーはそこに衝撃と恐怖をもたらしつつあるのだ。ディズニーと競合他社が顧客と有能な人材を求めて争うことによって、過酷な状況が訪れるだろうと考える人もいる。
「この戦争がどこで終わりを迎えるのかはわかりません」とS&Pグローバル・レーティングのシニア・ディレクター、ナヴィーン・サルマは話す。
「でも、良い終わり方はしないでしょうね」
ディズニーCEOが明かす「動画配信開発の舞台裏」
- ディズニーCEOのボブ・アイガーが語った「ディズニー・プラス開発の舞台裏」
- ディズニーの動画配信サービスはツイッター買収計画の“プランB”だった
- ディズニー・プラスの充実はあなたの愛する作品の“量産”を意味するかもしれない