かけがえのない発見を信じて

近藤滋氏は穏やかな話し方をするが、お話をうかがうとすぐに、研究開拓者としての熱情は人一倍であると感じさせられた。研究のきっかけをうかがうと、ポスドク時代に友人から渡されたアラン・チューリングの反応拡散波の論文が、近藤氏を今の研究へと誘う大きな契機になったという。

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タテジマキンチャクダイの縞模様をチューリングの反応拡散波理論によって再現!

「当時は、本業だった免疫学の研究をしながらも、頭の中は模様形成のことばかりでした。動物園や水族館に通っては、反応拡散波理論を証明するのに有効な生き物がいないかと、何年も探し回りました。そこで見つけたのがタテジマキンチャクダイ。京都の熱帯魚屋のおばさんに、この熱帯魚は縞模様が増えていくよ、と聞いたのがきっかけです。
  さっそく何十万円もする水槽と魚をポケットマネーで購入し、難しい魚の飼い方も熱帯魚屋に通ってマスターしました(笑)」。

飼育を始めてからは早かった。数ヶ月で稚魚は成魚になり、縞模様ができていく過程を家庭用ビデオで撮影、反応拡散波が実際に再現されるようすを確認した。だが当時、この話を水族館の飼育員や、数学者、生物学者に話しても、まったく信じてもらえなかったそうだ。しかし、そうした反応を逆手にとり、かえって「新規性を確信した」のだという。さっそく論文にまとめ、『Nature』に投稿すると、受理された。以後、この研究が話題となり、模様形成の第一人者として活躍することになる。

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