『おしん 一挙再放送▽第38週・太平洋戦争編/再起編』のテキストマイニング結果(キーワード出現数ベスト20&ワードクラウド)
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- 戦争
- 希望
- 商売
- 自分
- 初子
- 東京
- 川村
- 野菜
- お内儀さん
- 浩太
- 手伝
- オート三輪
- 魚屋
- 本当
- お金
- 今日
- 信用
- お師匠さん
- ホント
『おしん 一挙再放送▽第38週・太平洋戦争編/再起編』のEPG情報(出典)&解析用ソース(見逃した方はネタバレ注意)
解析用ソースを読めば、番組内容の簡易チェックくらいはできるかもしれませんが…、やはり番組の面白さは映像や音声がなければ味わえません。ためしに、人気のVOD(ビデオオンデマンド)サービスで、見逃し番組を探してみてはいかがでしょうか?
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おしん 一挙再放送▽第38週・太平洋戦争編/再起編[字]
主人公おしんの明治から昭和に至る激動の生涯を描き、国内のみならず世界各地で大きな感動を呼んだ1983年度連続テレビ小説。全297回を1年にわたりアンコール放送。
詳細情報
番組内容
終戦後、おしん(田中裕子)は、元の家主と同居していることが子どもたちの気持ちをゆがめていると思い、住み慣れた家を出る決心をした。ある日、雄(ゆう)の戦友が訪ねてきて、おしんたちに雄がルソン島で餓死したことを告げた。その夜、おしんは幼い日に俊作兄ちゃんからもらったハーモニカを、痛恨の想(おも)いを込めて吹いた。それは、戦争に反対しなかった自分への恨みであり、竜三と雄への鎮魂歌であった。
出演者
【出演】田中裕子,長島裕子,斉藤洋介,【語り】奈良岡朋子
原作・脚本
【作】橋田壽賀子
音楽
【音楽】坂田晃一
♬~
(テーマ音楽)
♬~
(初子)大変な旅だったんですね。
上野から
往復 貨車だったなんて…。
(おしん)そんな事は
何でもないのよ。
ただ 何のために
商売まで休んで
山形くんだり
出かけていったのかと思うとね。
母さん…。
お金を貸してもらえなかった事
恨むつもりは ないの。
でも 人を頼る気持ちになった
自分が情けなくてね。
まあ それでも
行ってみて 気が済んだ!
私たちの始末は
私たちで つけなくちゃね!
じゃあ
当分 ここにいるよりほかに?
働くわ 母さん。 闇屋が嫌だなんて
言っちゃいられないもの。
何度 お巡りに捕まったっていい。
母さん 闇屋やってみせるわ。
そしてね お金 貯めて
いつか ここを出ていくの。
雄が帰ってきた時に 私たちだけで
住めるうちに入れるようにね。
私も 一生懸命 手伝います。
雄!?
雄!
母さん!?
雄!
ごめんなさい 息子かと思って…。
(川村)お久しゅうございます。
川村です。
(初子)母さん 川村さんですよ
連隊で 雄さんと ご一緒だった!
雄の戦友の?
面会の時 田倉候補生と おはぎを
腹いっぱい 御馳走になりました。
まあ よく ご無事で!
いつ お帰りになったんですか?
3日ほど前 船で 浦賀に…。
まっすぐ こちらに伺いました。
とにかく うちへ いらして下さい。
ねっ。
川村さん!
自分は 田倉候補生の遺品を
お届けにあがりました!
既に 戦死の公報は あったものと
存じますが
田倉候補生は 昭和20年4月18日
ルソン島において 名誉の戦死を…!
(川村)
ほかの物は 何にも持って帰る事が
できなかったのですが…
田倉候補生の日記です。
これだけは 何としても
お届けしなければと思って…。
その日記を ご覧になれば
お分かりになる事ですから
田倉候補生の ご最期について
きれい事を
申し上げるつもりは ありません。
田倉は…
餓死したんです!
餓死?
私は 負けると分かっていて
ああいう地獄のような所に
田倉のような前途有為な青年を
送り込んだ
軍隊というものが許せない!
そういう残酷な事をさせる
戦争ってものが憎い!
だから あえて言うんです!
田倉は
名誉の戦死なんかじゃない!
蛇の生殺しのように
少しずつ 少しずつ 命を
削り取られて 殺されたんです。
やめて! やめて下さい…。
(川村)初子さん…。
田倉は よく
あなたの事を話していました。
田倉にとって あなたは
掛けがえのない女性だったんだ。
あなたが 田倉の無念さを
悼んでやらなきゃ
田倉は 浮かばれない。
田倉を 死に追いやったものを
あなたが
代わりに憎んでやらなきゃ
田倉の死は 救われないんですよ。
田倉は いつも
「俺は おふくろに 必ず
生きて帰ると 約束したんだ。
俺は おふくろのために
死んではならない体なんだ。
這ってでも 日本へ帰るぞ」って…。
(川村)それなのに とうとう
田倉も マラリアに かかって…。
その時 運悪く アメリカ兵と遭遇し
田倉は 逃げる事ができず…。
(川村)私が
「おぶってやる」と言うのに
「この体では
逃げても助かりはせん。
もう 逃げる事にも疲れた」って…。
そのノートを 私に渡して
「おふくろの約束は
果たす事ができなかったが
これで 楽になれる」。
それっきりでした。
≪(川村)田倉も ほかの兵隊も
死因は さまざまでも…
みんな 餓死と同じです!
私は… 私は…
もう二度と思い出したくない!
あれは 人間の世界じゃない!
あんな中に…
骨を拾ってやる事もできず
田倉を置いてきたと思うと…。
許して下さい!
(川村の号泣)
♬~
川村さん…
ありがとう。
雄の事を話して下さる事が
あなたにとって
どんなに つらい事だったか
私には よく…。
(川村)私は 復員船の中で
無念でなりませんでした。
何のために 私たちは こんな目に
遭わなきゃならなかったのか…。
田倉も ほかの兵隊も
無謀極まりない作戦に
殺されたとしか
言いようがありません。
戦争は 嫌です。
ほとほと 嫌です!
(川村の号泣)
♬~
(雄)「母さん 人間 水さえあったら
生きられるって 本当ですね。
ここのところ
谷川に沿って歩いているので
ありがたい事に
水には 不自由しません。
雑草と水だけで
もう 何日が過ぎたか。
これ以上 もう
痩せる肉も無くなりました。
母さんのライスカレーが食べたい。
子どもの頃
今夜は カレーだって時は
ズボンのベルトを緩めて
食卓に座りました。
あれが 本当の幸せって
ものだったんだと
今になって 気が付きました。
もう あんな時は
二度と
帰ってはこないのだろうか。
その時は 何とも思わなかった事が
どんなに幸せだったか…。
それが分かった時には
もう 手の届かない世界に
なってしまいました。
今なら あの1杯のライスカレーの
ありがたさを
心から味わう事ができるのに…。
何もかも 遅すぎました」。
(雄)「母さん。 母さんが
お釜の御飯の おこげに
しょうゆをまぶして 握ってくれた
おむすびは
本当に おいしかった。
お魚や レンコンや ゴボウのササガキや
枝豆や ニンジンや
いろんな彩りが楽しかった
母さんの五目ずし。
小豆を潰すのを手伝いながら
生唾を飲み込み
母さんの手から 魔法のように
現れるのを待っていた おはぎ。
母さんが作ってくれたものは
どれも おいしかった」。
♬~
(雄)「僕は とても女々しい男です。
でも 時々 どうして 僕が
こんな異国で 灼熱に焼かれ
飢えに苦しみながら
当てもなく さまよい歩かなければ
ならないのか
分からなくなります。
誰のために… 何のために…。
母さん 教えて下さい。
僕は お国のためよりも
天皇陛下のためよりも
母さんのために生きなければ
ならなかったのに…。
母さん… ごめんなさい」。
♬~
≪♬~(ハーモニカ「庭の千草」)
♬~
その夜 おしんは 幼い日
脱走兵の俊作兄ちゃんから
もらった ハーモニカを
痛恨の思いを込めて 吹いた。
それは 戦争に反対する事を
教えられながら
それをしなかった自分への
恨みであり
戦争のために 命を失った
竜三と雄への鎮魂歌でもあった。
俊作が このハーモニカに込めた思いが
おしんには 今 初めて
自分の痛みになって
胸を えぐっていたのであった。
♬~
(テーマ音楽)
♬~
(雄)「母さん 日本は遠い。
とっても遠い。
母さんとの約束は
守れそうにありません。
初ちゃんとも
約束を破る事になりそうです。
初ちゃんには 僕の事は忘れて
幸せを見つけるように
伝えて下さい。
もし 生まれ変われるのなら
今度は 戦争のない時がいい…。
そして
やっぱり 母さんの息子がいい。
初ちゃんと巡り会えたらいい。
そうしたら 親孝行もできます。
初ちゃんと
未来を語り合う事も…」。
≪♬~(ラジオ)
(仁)母さん!
僕 もう 我慢できないよ!
ここ 出よう! すぐ 出ようよ!
(おしん)仁。
父さんだって 雄兄さんだって
年中 あんなもの聞かされてたら
成仏できやしないよ!
申し訳ないだろ!
しかたないでしょ。
母さん これから 一生懸命 働いて
お金 もうけるわ。
父さんも亡くなった。
雄も もう帰ってこない。
母さん 頑張るしかないもんね。
もう 誰も頼りにしない。
母さん この戦争で
無くしてしまったものを
きっと取り返してやる。
母さんの腕一本で
取り返してみせるから。
(仁)母さん。 僕も手伝うよ。
大学へなんて行かない!
もう こんな暮らしは 嫌だよ!
ひもじい思いも うんざりだ!
今の世の中
金がなかったら いつまでたっても
惨めな思いしなきゃならない。
仁。
そうだろう?
今は 物や金のある者の天下だ。
その証拠に
昔は バカにしてた農家へ行って
みんな ペコペコしてるじゃないか。
母さん
これからは 腹いっぱい食える
力のあるやつが偉いんだ。
大学 出たって
飢えてるんじゃ 学歴なんて
何もなりゃしないんだよ!
(希望)そうだよ 母さん!
僕も 大学の受験勉強なんか
やる気しないよ!
希望 あんたまで…。
母さん
僕の思うとおりにさせてほしい!
2人とも 受験勉強がつらいから
勝手な理屈 つけて
逃げ出そうとしてるだけじゃ
ないの?
一体 何がしたいって言うの?
今は まだ…。 来年の春
中学5年を卒業した時に…。
♬~
(雄)「もし 自分で自分の人生が
自由に選べる時に
生きられたとしたら
私は 何になっていただろうか。
父さんの事業の後継ぎだけは
ごめんだ。
歴史学者 大学教授 中学の教師
小説家…。
何でも
より取り見取りだとしたら…。
自分で決めるというのは 難しい。
自由に憧れてはいるけど
自由ってやつは
命令されるよりも 大変な事だ。
自由ってものに
慣れていないからだろうか…。
それでも 一度でいい
自由な時代に生きてみたかった」。
だから 言ったのに…。
「今日は 休め」って!
夜も ろくに眠れない
御飯も食べれないじゃ
体がもつ訳ないだろ。
無理しなくていいんだよ。 ほら。
(初子)すいません
ご心配 おかけして…。
はあ…。
初ちゃん。
雄と初ちゃんの事 話すのは
初ちゃんにも
つらい事だと思って
母さん 今まで 何にも
言えなかったんだけども…
雄が あんな事になったからって
母さんは
初ちゃんを 実の娘だと思ってる。
初ちゃんがいてくれて
どんなに 心丈夫かしれない。
でも うちにいたら
雄の事も思い出すだろう。
それは 初ちゃんにとって
つらい事だろう…。
なら いっそ 山形に帰って
雄の事も忘れて…
いい人がいたら 結婚するの…。
雄のノートにも
そう書いてあったでしょ。
それで いいんだ。
母さんだって その方が
どんなに安心か分からない。
初ちゃんは まだまだ 若いんだ!
このごろの初ちゃん 見てると
母さん どうしてやっていいんだか
分からなくなるよ…。
うちへの義理で どこにも行かずに
こんな手伝いしてるんだったら
何の遠慮も要らない。
雄の事 忘れて 出直すためにも
ご両親の所に帰った方が…。
初ちゃんのために言ってるんだよ。
初ちゃん?
初ちゃん…。
初ちゃん?
初ちゃん?
ねえねえ 初ちゃん いないのよ。
こんな朝早くから
どこ行ったんだろう?
初ちゃんの布団の下にあったよ。
えっ? あら 初ちゃんが書いた
手紙じゃないの。
(初子)「母上様。 やはり
お暇を頂く事にしました。
私は 1つの人生を生きて
1つの人生を終わりました。
本当に幸せでした。
母さんや皆さんのご恩は
終生 忘れません。
ちゃんと ご挨拶しなければ
ならないのですが
つらくて できませんでした。
お許し下さい」。
(仁)どうして
初ちゃん こんな事…。
雄兄さんの事が こたえたんだよ
やっぱり…。
でも うち 出て 一体 どこへ?
山形 帰ったの…。
母さん そうしなさいって
勧めたから…。
だったら なにも こんなふうに
コソコソ 出ていく事ないじゃないか。
勝手だな…。 雄兄さんが
帰ってこないと分かったら
さっさと 見切りつけて…。
なんて事 言うの
初ちゃんの気持ちも知らないで!
分かってるさ! でもね
どんなに つらくったって
自分の事 考える前に
つらいのを我慢して
母さんを助けてやろうと思うのが
本当じゃないのか?
母さんが一人で大変なのを
承知して
故郷へ帰っちゃうなんて…。
母さんはね 初ちゃんに
何か してもらおうと思って
初ちゃん 引き取った訳でも
育ててきた訳でもないよ。
でも 初ちゃん
本当に 田倉のうちのために
よく やってくれた…。
母さん それだけで十分…。
何を言ってるんだ もう 仁は!
(禎)母さん!
あ~ ただいま! ねえねえ
初ちゃんから 手紙 来た?
変ね! 無事 着いたぐらい
言ってよこしてもいいのにね。
母さん お客様。 母さんが帰るまで
待ってるって ずっと…。
誰だろう?
(ひさ)おしんちゃん!
あ~ よかった!
待っとったかいがあった~!
お内儀さん…。
いつ お帰りになったんですか?
4~5日前にな。
あんたに もう 早う会いとうて!
御無沙汰致しました!
いや~ あんた
御無沙汰は お互いさまやがな。
空襲や終戦やいうて 世の中
ひっくり返っとったんやもんな。
人の事どころやない。
もう 自分が生きていくのに
精いっぱいやったもん。 そやけど
あんた 無事で何よりやった!
(ひさ)何としても 会いたいしな
待たせてもらおう思うて
ここに 上げてもろうたらな
竜三さんと雄ちゃんが
祭ってあるやないかいな…。
もう びっくりしてしもうてな…。
本当に
生前は お世話になりました…。
雄は もう 本当に
かわいがって頂きましたのに…。
お内儀さん。
お内儀さんとこは 皆さん…。
ああ。 東京の息子の家はな
郊外やったよってに
焼けんと済んだんや。
みんな 無事や。
じゃあ 伊勢へは?
あんた 帰ってきたんやがな!
やっと 船 出してもええて
知らせがあったよってんな。
食糧不足やし 魚を取る船はな
ガソリンの配給があるいうて!
そうですか。
それじゃ また 昔のように?
うん。 男の子が あんた
3人もおってもな
誰ひとりとして あんた 漁師に
なるいう者は おらんのやわ。
それやったらな
おたいが もう一ふんばり
気張ったろうかいな思うて!
そうですか…。
帰っていらしたんですか!
伊勢は ええわ!
海は ええわ! なあ!
あの家かてな
ちゃんと 残っとったし…。
私もね お内儀さん
お内儀さんとこの あの海辺の家
懐かしくて…。
うん! 何回も行きたいなと
思ったんだけども
何だかんだって 毎日の暮らしに
追われてしまって…。
おしんちゃん
あんた うちへ来えへんか?
いやな 禎ちゃんから
話 聞いたんやけどな
この家は あんたらの家と
違うのんか? それ ホンマかいな?
何だか いろいろ 手違いが
あったらしいんです。
ほんで 出ていけって
言われとるんやてか?
そんな事まで 禎が?
やっぱり ホンマやったんかいな。
それやったら あんた
なにも 嫌な思いして
ここにおる事は ないって!
うちへ来ない! なっ!
一緒に暮らそう!
ほんで あんた もう
うち 来てくれたら
あんた おたいやてな
どんなに にぎやかで
心強いか 分からへん!
なっ! そうしない!
そうしないて!
お内儀さん!
そうしよう! なっ!
♬~
(テーマ音楽)
♬~
(おしん)あ~ すいません。
大丈夫か?
(禎)うん。
下 下。
(希望)あっ はい。
(仁)これで おしまい。 あっ そう。
うん。
あ~… 父さんが買って下すった
うちとも とうとう お別れだ。
母さん…。
ああ。 こんなうちぐらい すぐ
買えるようになってみせるわよ!
もっともっと立派なうち
建ててみせるからね。
はあ~!
(配達員)田倉さん 郵便です。
あっ どうも 御苦労さまでした。
仁!
うん? 初ちゃんから!
ハハハハ!
あら?
何だ?
金が入ってるじゃないか。
「私は 元気です。
どうか ご安心下さい。
同封のもの
お役に立てて下さったら
うれしゅうございます。
また お送り致します。
母上様 初子」。
どういう事?
いや~ それしか書いてない。
どこにいるの? 初ちゃん。
住所 書いてない。
あきれたもんだな。
でも この お金…。
田舎へ帰らないで
どこかで働いてるんだよ。
だったら その事情ぐらい
知らせてくれればいいじゃないの。
こんな 訳の分からない お金
送ってきたって…。
あっ
仁 ほれ 消印 東京になってる。
初ちゃん 東京にいるんだね。
東京にいて 働いてたら
何してるんだろう?
東京なら
いろいろ 仕事もあるんだろう。
また 来るかもしれないよ 手紙。
さあ よいしょ!
早くしないと 遅くなるよ。 うん。
よいしょ!
(セミの鳴き声)
はあ…。
(子どもたちの声)
(雄)母ちゃん!
(雄)母ちゃん!
♬~
(浩太)おしんさん?
♬~
おしんさん
また 会えるなんて…。
♬~
元気そうだね…。 よかった。
ご主人も ご無事ですか?
♬~
まさか 田倉さんも雄君も
亡くなってしまうなんてね…。
田倉は 自殺でした。
(ひさ)おしんちゃん…。
病気やなかったんか?
何で また?
あの人は あの人なりに
責任を取って…。
責任って…。 自殺してまで
取らんならん責任って
何しはったんや?
戦争に協力したからって。
軍へ 魚や魚の加工品を入れる
仕事をしたり
最後には 軍隊へ納入する
被服の工場まで 引き受けて…。
(ひさ)そんな事 あんた
協力したうちに入るかいな。
そんな事ぐらいで あんた
いちいち 責任を感じとったら
今どき あんた 軍人なんか
一人も生きておられへんで。
あっちも こっちも
戦犯ばっかりや!
それに…
自分が 今まで信じてきた事が
崩れてしまって
そんな世の中で生きていく事が
嫌になったんでしょ…。
それは それで
一つの生き方だったって
私は そう思っています。
それは そうだ。
私のように 途中で 節を曲げて
それでも 生き残ってる人間も
いるんだから…。
それに比べれば
田倉君 見事だよ。
田倉とは
いろいろ ありましたけれども
私 田倉の妻になった事を
後悔していません。
死ぬまで
田倉の妻だった事を誇りに
生きていけると思います。
おしんさん…。
しかし 振り返ってみると
むなしい事ばっかりだね。
私たちが 青春を犠牲にして
闘ってきた農地解放が
アメリカに占領された途端
いとも簡単に
実現してしまうなんてね。
私たちが やってきた事は
一体 何だったのか…。
昔は 戦争を反対する人たちを
「アカだ」とか「国賊だ」とか言って
極悪人扱いしたくせに
今は みんな 平気な顔して
「戦争反対」って…。
私だって そうです。
結局は 何にもできずに
自分の夫と息子を
殺してしまったんです。
でも もう 誰にも だまされない。
私も 自分の思うとおりに
生きていきます。
♬~
おしんさん。
私も 戦争で
店 焼かれましてね
今 掘っ立て小屋のような所で
商売してるんです。
もし 私で 力になれる事が
あったら
遠慮なく おっしゃって下さい。
私は 生き残るために 節を曲げた
女々しい男です。
せめて 人のお役に立つのが
残された者の務めです。
♬~
浩太さん…。
≪お内儀さん!
(ひさ)どうやった?
いや~ 大漁も大漁! ちょっと
試しに出てみただけやのに!
えっ! ホンマかいな?
いや~ この分やったら
1年や2年は 豊漁が続く事
間違いなしや!
よっしゃ! すぐ行く!
なあ 何が取れたか知らんけどな
大漁やそうな!
おしんちゃん 明日からな
売って売って売りまくるんや!
ええな?
うん!
この浜辺の道を
雄と2人 魚の車 押しながら
何度も通いました。
その雄も
いなくなってしまったのに
また あのころと同じように
行商から やり直さなきゃ
ならないなんて…。
おしんさん。
生き残った者の方が
ずっと つらいんだよ。
それでも 生き残ったんだ…。
♬~
この時が おしんの人生にとって
何度目かの再出発であった。
「戦争で失ったものを
きっと 取り返してみせる」。
おしんは 胸の中で
何度も つぶやいていた。
♬~
昭和21年の夏
おしん 46歳の門出であった。
♬~
♬~
(テーマ音楽)
♬~
昭和20年8月15日
太平洋戦争の終結を境に
おしんの運命は 大きく変わった。
夫 竜三の自決。 長男 雄の戦死。
戦時中
蓄財のつもりで買った国債は
紙くず同然となり
丸裸になった おしんは
農家から買った物を
闇で売りながら
辛うじて 子どもたちとの暮らしを
支えていた。
そんな時 昔 世話になった
網元の ひさに 再び巡り会い
その日から おしんは
新しい道を歩き始めた。
そして 4年の歳月が流れ
昭和25年の春を迎えて おしんも
いつか 50歳になっていた。
(仁)レバー! アクセル アクセル!
アクセル ちゃんと やらなきゃ
駄目だよ ほら!
ほらほら ちゃんと 前 見て!
右手のレバー 忘れてるよ!
アクセル アクセル! ほら!
そうそうそう! それで ほら!
(エンジンが止まる音)
誰が止まれって言ったんだよ!
(おしん)スピード 出すつもりが
止まってしまったんだよ!
違うだろ?
ブレーキ 踏んだんだろ? 今!
踏まないよ。
もう一度 スタート!
そう。 エンジン かけて。 クラッチ 踏んで。
ギヤ 入れて。
(エンジンが止まる音)
また エンストかよ!
何回 教えりゃ 分かるんだよ!
うるさいね! もう! よいしょ!
(エンジンを動かす音)
はあ~ やっぱり 駄目だよ!
このポンコツ! エイッ!
(エンジンが かかる音)
人 バカにして!
(ため息)
母さん もう 諦めろよ。 母さんも
女だてらに しかも いい年して
こんな車 運転しようっていうのは
無理なんだよ!
念願の店が出来るんじゃないか!
お店で待ってれば
お客さん 向こうから
ちゃんと来てくれるんだから。
それで 十分
商売 成り立つんじゃないか。
遠くて買いに来られない お客さん
どうすんだよ? 心配ないよ。
母さん 行かなきゃ ほかの人が
喜んで引き受けてくれるさ。
村の人たちは 母さん 行くの
楽しみに待ってて下すってるんだ。
店番なら
あんたにだって できるけど
村へは 何が何でも
母さんが行かなきゃ!
いくら行きたくたって
車の運転ができなきゃ
話にもなりゃしないじゃないか。
だから こうやって
練習してるんじゃないか!
いつになったら 走れるように
なるんだか…。 気の長い話だよ。
おっ!
ほ~ら 走った 走った!
♬~
ハハハハハ!
♬~
はい 御苦労さん!
あら~ いらしてたんですか。
(ひさ)店の様子 ちょっと
見ときたかったよってに。
やっぱり 店 始めるっていうのは
大変ですね 何だかだとあって。
オート三輪で回って歩いてる方が
ずっと楽です。
おしんちゃん あんた
車の運転 習うとるんやてか?
ええ。 ご親切な先生で
少しも うまくなりませんよ。
あんた いい加減にしないな。
女だてらに そんな事して
あんた 事故でも起こしたら
どうするんや!
言っても聞かないんですよ。
どうしても
自分で外回りするって言って。
あんたはな
4年間 働きづめに働いて
やっと 店 持つとこまで
こぎ着けたんやないかいな。
あとは もう
仁ちゃんと希望ちゃんに任せて
のんびりしたら ええのや。
仁と希望が いくら 一生懸命
やったって この店だけで
親子4人が食べていけるだけの
商いができるかどうか…。
店で お客様 待ってても
来て下さらなきゃ
おしまいですからね。
当たり前だろ! 俺だって
やみくもに 店 出すつもりに
なったんじゃないんだから。
物が… 物が だんだん
出回ってくるようになって
統制が解ければ
自由販売になるんだよ。
そうやってね 何でも
勝手に売れるようになったら
もう 闇時代の商売は
成り立たなくなるの!
だから こうやって
ちゃんとした店を持って
品数… 品数を
豊富に そろえておかなきゃ!
オート三輪の便利屋なんてのはね
時代遅れなの。
母さんだってね
なにも この店 出すのに
反対してる訳じゃないんだよ。
たださ せっかく 4年間
オート三輪の行商 続けてきて
皆さんに重宝がられて
急に やめたりしたら
罰 当たるわ。
大丈夫やて。
仁ちゃんやて 希望ちゃんやて
あんた 大学 諦めて
あんたの仕事
手伝うてきたんやないかいな。
体で覚えた商売いうのは 強いで!
あんまり おだてないで下さいよ。
仁も希望も まだ 21なんですよ。
理屈だけは 一人前だけど
あんな小僧っこに
何が分かるもんですか!
あら お茶も差し上げて
ないでしょ。 さあ どうぞ。
(ひさ)はあ~ うまいもんやな!
希望ちゃんに
こんな才能があるやなんて
おたい 知らんやった!
私も 希望に
そんな絵が描けるなんて
思ってもいませんでしたよ。
いや~ かわいらしいな!
こんなんが あんた
店の中に ぶら下がっとったら
店が明るうなるわ。
お客の心が和むいうもんやな。
(希望)僕には こんな事ぐらいしか
役には立てないから。
商売には 向いてないし。
何を言うとるんや!
あんたやて お母さんと一緒に
4年間も回っとったんやないの。
いや 僕は ただ 重い物 運んだり
走り使いしてただけで…。
それだけだって
どんなに助かったか。
オート三輪 買うまでは
仁と希望が いなかったら
母さん一人じゃ とっても
あれだけの魚や野菜は
商えなかったわ。 どうぞ。
おたいやて 忘れられへん。
仁ちゃんが 車の免許 取って
よう やっと
オート三輪 買うた時の事な。
あの時は うれしかったな。
でも 商売って
不思議なもんですね。
魚屋と八百屋だけの
つもりだったのが
町に遠い お客様に
「ついでに買ってきてくれ」って
あれこれ 頼まれて…。
それを持ってってるうちに
いつの間にか
それが 商売になってしまって…。
人間の運なんて ホントに どこで
どうなるか分かりませんね。
母さん。 俺 今から
保健所 行ってくるよ。
それから 希望と俺
今晩 ここ 泊まるから。
まだ 細かい準備 あるからね。
それじゃ おばさん。
あ~ 気ぃ付けてな。
(仁)はい。
そろそろ 荷物を こっちへ運んで
暮らせるようにしなきゃね。
ほな いよいよ 引っ越しかいな。
ええ。 開店までには こっちへ。
また 寂しゅうなるな。
(禎)とうとう
このうちとも お別れか…。
もう 海も
見られなくなってしまうんだな。
これからは
狭いとこで 我慢しなきゃね。
でも 中学は 近くなるし
高校だって
県立は すぐそばだし…。
私 高校なんて行かないよ。
兄さんたちだって
中学校だけじゃない。
私も 中学 出たら お店 手伝う。
母さんね できたら
禎には 大学 行かせてやりたい。
お兄ちゃんたちは
ちょうど 終戦に引っ掛かって
うちも困ってたから
とうとう 商売の方
手伝わせてしまったけど
せめて 禎にはね。
山ほど 借金があるっていうのに
そんな ぜいたくな事…。
大丈夫だよ
母さん ついてんだから!
あっ 母さんね ちょっと
お夕飯の支度 手伝ってくるから
あんた 自分の荷物
いつでも出せるように
ちゃんと まとめておきなさい。
いつになったら
お金の心配しないで
好きなもの 買ってもらえるように
なるのかな。
禎。 お雑炊ばっかり
食べてた頃の事
あんた もう忘れたの? 白い御飯
おなかいっぱい 食べられたら
死んでもいいって
言ってたじゃないの。
≪(ひさ)ふ~ん。 そうかいな。
あっ 失礼しました。
おいでになってるの
知らなくて…。
この度は いろいろ
お力添えを頂きまして…。
浩太さんのおかげで
お店も いい場所に…。
(浩太)いいえ。 知り合いのうちが
空いてたもんですから。
資金の方も
ご無理を お願いしまして…。
いや おしんちゃん あれはな
おたいが用立てた事に
なっとるんやよってに…。
はい。 浩太さんには もう
ホントに ご迷惑をおかけして…。
いや 迷惑かけたのは
私の方です。
昔の事 考えたら どんな事しても
償えるもんじゃない。
せめて これからでも
私で 力になれる事があれば…。
とんでもない。 今までも
さんざん お世話になって…。
ただ
私のような者が 表へ出たら
仁君や希望君が
何と思うか 分かりゃしない。
それじゃ
おしんさんのためにも ならない。
私の事は できるだけ 仁君たちに
伏せておいた方がいいでしょう。
ああ。 子どもいうのは
難しいもんやよってんな
妙に勘ぐられでもしたら
せっかくの浩太さんの気持ちが
仇になる事もあるよってに…。
申し訳ありません
お気を遣わせて…。
今の おしんさんにとって
一番 大切なのは 仁君たちです。
田倉さんや雄君が亡くなっても
仁君たちが 立派に
おしんさんを支えてきた。
私も ほっとしてます。
いや もう 3人とも
ええ子に育ってくれて
あんた 果報者やで。
今に おしんちゃん あんた
左うちわになるわ。
大学へも やってやれない
ふがいない母親ですけど
私の気持ちは
よく分かってくれて…。
でも 私が あんまり
「商売 商売」と言い過ぎたせいか
仁も希望も 商売をして
お金もうけをする事しか
考えられないような子に
なってしまったようで…。
なにを あんた
ぜいたく 言うてるんやな!
ほかの事 考えて あんた
脇道 それてしもうたら
えらい事やがな。
まあ よかった。
おしんさんの店が 気になって
様子 見に来たんだが
順調に 開店できそうで…。
浩太さんの店もな
新しゅう 建て直すんやて。
いや~ 世の中も だんだん
戦前並みになってきましてね
建築資材も
高騰するばっかりだから
今のうちにと思って…。
いや 私も すっかり 酒屋の
おやじになってしまいました。
フフフフ。 ホンマやな。
体 張って
社会主義の運動してた頃の
浩太さんの面影なんか
あれへんわ あんた。
今は もう 子ぼんのうの父親で
奥さんにやて優しいし
ええ ご夫婦や。
おばさん。 昔話は やめましょう。
ハハハハ。 そら そうやな。
もう 戦争が終わって 5年もたつ。
そろそろ 戦争の事も 皆
忘れかけてるんやよってにな。
≪(配達員)田倉さん 郵便ですよ!
はい。
失礼します。
♬~
おしんちゃん
浩太さん 帰りはるんやて。
また あの娘からか?
ええ。
住所 書いてないのんか?
不思議な娘やな…。 4年間
毎月毎月 お金 送ってきて
どこで 何してるか
分からへんのやもんな…。
私たちの事を 心配して
くれてるんでしょうけど
もう お金なんか
送ってこなくていいのに…。
住所が分からないんじゃ それを
知らせる事もできないんだから。
あんたがな 娘同様に
かわいがってやった事やし…
ほんで
恩返しのつもりやないやろうか。
何で稼いだ お金だか…。
娘同様に育て 戦死した雄の
妻にとまで考えていた
初子の行方は いまだに分からず
送金される度に
おしんの胸を えぐっていた。
世の中が落ち着いても
初子と巡り会える日まで
おしんの戦争は まだ
終わっては いなかったのである。
♬~
(テーマ音楽)
♬~
(仁)ほれ ちゃんと持てよ ほら!
あと 何が残ってるんだ?
(希望)ちゃぶ台。
(仁)ちゃぶ台か。 ほら いくぞ!
(一同)あ~っ!
(おしん)もう しっかりしてよ!
(ひさ)おしんちゃん
あんた ええ子 持ったな!
仁ちゃんも 希望ちゃんも
母親思いで
あんたの思いどおりにな
助けてくれて…。
親子3人で 店 持てるように
なったやないかいな。
さあ これからね
どうなりますか!
あんたな 戦争中は えらい
ひどい目に遭うたけどな…
けど 親子3人 力を合わせて
商売できるやなんて
こんな あんた
幸せな事はないで!
お内儀さんのおかげです。
ここ 置いて頂けなかったら
親子4人
一緒に暮らせたかどうか…。
ご恩は 忘れません。
何を言うとるんや!
いや~ おたいやて楽しかった!
娘と孫と一緒におるような
気持ちでな。 ハハハハハハハ!
味御飯 作っておいたよってんな
持ってって。
今日は あんた 荷物の整理で
ろくに 煮炊きもできんやろう。
お内儀さん…。
20年になるな~。
やっぱり おしんちゃんが
ここから 引っ越していったんは。
あの時はな 竜三さんも雄坊も
一緒やった…。
佐賀から出てきた竜三さんが
魚屋やる気になって…。
親子3人 肩 寄せ合うて
ここから出ていった。
あの時は おしんちゃん
幸せそうやった。
けど 竜三さんも雄坊も
今は もう おらんようになって…。
お内儀さん…。
なあ 人間の運命なんて
分からんもんやな…。
今は もう
民主主義や自由や言うて
浩太さんが あんた
憲兵に追い回されてたやなんて
嘘みたいな話やがな…。
今は もう 地主も小作も
無くなってしまって
あんな時代があったなんて
忘れられてしまうんでしょうね。
いや~ これからやて あんた
どんな世の中になるや分からへん。
とにかくな 昔の事は忘れて
もう 一から出直すつもりで…。
小さい時に 小作の暮らしの
惨めさが 骨身にしみて
いつか 商人になって
大きな店を持つのが 夢でした。
その夢を追い続けて
何度も潰されて…
とうとう 50になってしまった。
でも まだ
その夢は 捨ててはいません。
死ぬまで 追い続けるつもりです。
たとえ 一軒の小さな店でもいい。
これが 自分のものだっていう店を
持たなきゃ
今まで 何のために
生きてきたんだか…。
まあ あんた 気張んないや!
平和になって やっと
それができるようになったんや!
家柄も身分も あれへんて…。
腕一本で のし上がれる時代が
来たんや!
おしんちゃんの時代が
来たんやで! なっ!
♬~
よし~。
欲張り過ぎたかな ちょっと。
店の広さに比べて
商品 多すぎるぞ こりゃ。
いいじゃないか。 スカスカしてるより
ワ~ッと詰まってる方が
豊かな気分になれるもんね。
ただ 菓子類の棚
店の正面に置いた方が
楽しいんじゃないかな。
包装が カラフルだから 目立つしさ。
そうだな。
でも もうちょっと広いとな~。
俺 もっともっと
いろんな物 置きたいんだよな!
うちは デパートじゃないんだ。
便利屋なんだからね。
俺はな いつか デパートみたいな店
やってやるからな!
一つ一つのコーナーに
店1軒分ぐらいの商品 置いてな。
夢は どんなに
大きくてもいいけど
まず この店を潰さない事を
考える方が 先じゃないのか?
仁! 希望!
合格!
取れたんだよ 運転免許が!
(希望)母さん!
さあ これから もう
仁の世話にならなくても
どこへでも
オート三輪で出かけられる!
魚と野菜の仕入れは
母さん 行くよ!
駄目だよ! それじゃ 母さん一人
忙しいんじゃないか!
大丈夫だよ。 母さんだって
まだまだ そのくらいは…。
あれ? どういう事? これ。
魚と野菜の売り場が
ありゃしないじゃないか。
ああ…。
あれも これもって やってたら
つい 商品 増えちゃってね。
それで 魚と野菜の売り場は
削る事にしたんだよ。
だって 夕方の3時間だもん
魚と野菜が出るの。
だから その時は
そっち 道端に はみ出しても…。
そんなバカな話ってあるかい!
大体ね うちは 魚屋なんだよ!
ほかの物は
お客様に重宝してもらえたらって
置いてあるだけじゃないか!
まず 魚を売る事を
第一に考えなきゃ!
店の半分は 魚が扱えるように
この辺の物は みんな
片づけておしまい!
母さん!
中途半端な事してたら
店の信用なんか つきゃしないよ。
田倉商店は 魚屋だって事を
よ~く覚えておくんだね!
俺はね 魚屋にも八百屋にも
なりたくないんだよ!
もっと いろんな物 扱える店
やりたいんだよ!
生意気な事 言って!
こんな ちっぽけな店で
何ができるって言うのよ!
さっさと 片づけておしまい!
おふくろは 俺の夢なんか
何にも分かっちゃいないんだよ!
しかたないさ。 田倉商店は
母さんの店なんだから。
魚とか野菜じゃ
大して もうけにならないだろ!
利口なやつのする商売じゃ
ないんだよ!
もう 俺は うんざりだよ!
仁!
♬~(チンドン屋の囃子)
いらっしゃいまし!
うちの魚は その日の朝
揚がったばっかりです!
野菜も その日
じかに 農家から仕入れます!
野菜も魚も
新しいのが売りもんです!
その日のものを その日のうちに
お安く!
これが うちの商売ですからね!
今日は 開店大特売で
特別 お安くなっておりますから。
お刺身ですね。 お作りします。
イカですね。
はい ありがとう存じます!
イサキも おいしそうやね~。
今 旬ですからね 奥さん。
2匹 もらうわ!
ありがとう存じます!
はい イサキ お作りして!
大根と ホウレンソウ!
はい! 大根と ホウレンソウ!
はい! 大根と ホウレンソウ!
いらっしゃい! いらっしゃい!
もう少し テキパキやってくれなきゃ。
オート三輪で回ってんのとは
違うんだよ。
短い時間に 一日の商売
しなきゃならないんだから。
それに
あの魚のおろし方は 何だよ!
魚屋やるつもりだったら もっと
性根を入れて 覚えるんだね!
やる気になったら
できないはずないんだからね。
あんな忙しい思いして 一体
いくら もうかるって言うんだよ。
そんな事を考える前に
たとえ 損をしたっていい
うちの品物を買ってもらって
よそよりも 安くて新しいという
店の信用をつける方が 先だろ?
今日 ほかの商品
全然 売れなかったもんな。
やっぱ うちは 魚屋とか八百屋の
イメージしかないんだよな。
魚と八百屋で 商売できたら
もう 言う事ないじゃないか。
俺はね 一生
魚屋で終わりたくないんだよ!
まだ そんな夢みたいな事
言って…。
魚屋一軒 立派にやっていけたら
ありがたいと思わなきゃ。
はあ~ この店が
ものになるか ならないか
それが分かるまでは オート三輪の
行商は やめられやしないね。
♬~
新しい店を軌道に乗せる苦労は
並大抵ではない。
何度も 店を出した経験のある
おしんには
嫌というほど 骨身にしみていた。
しかも 今度の店は
一生を 商売に懸けるつもりで
大学へも行かず
おしんを助けてきた
仁と希望の将来も
懸かっているのである。
おしんには 何としても
失敗は許されなかった。
はい! イワシ5匹 お待ち遠!
おしんさん!
あ~ どうも どうも!
今日の大根は いい出来だぜ!
どうだね?
ホントだ! いいね 今日のは。
はい ちょっと待っててね。
♬~
仁!
うん? 車 裏へ置いてきて。
はいはい はいはい。
あっ いらっしゃいまし!
(仁 希望)いらっしゃい!
奥さん
エビの いいのがございますよ。
天ぷらに いかがですか? キスも
天ぷらに お作りしますよ。
また 朝鮮半島で
戦争が始まったんやてね!
戦争?
うん。 南と北とで。
南には アメリカ軍が
出兵しとるんやて。
まさか 日本が
巻き込まれるような事は…。
うん。
日本には 軍隊がないよって
戦争に行くような事は
ないやろけど
何せ 近い国やよってね
どないなるか…。
あ~ 戦争だけは もう二度と…。
ホンマにね!
あっ 今日は タイの刺身でも
張り込もうかいな!
はい! ありがとうございます!
食べられる時に 食べとかな
また 食べられんように
なってしまうよってにね!
ホントに! 戦争になったら 魚も
取りに行けなくなりますからね!
おしんちゃ~ん。
あっ お内儀さん!
いや あんた宛てにな
うちへ 手紙が来てな。
明日の朝 仕入れの時 渡しても
ええと思ってたんやけどな
速達やろ。
急な用やったら いかん思うて。
すいません わざわざ。
何しろ 開店以来 毎日 忙しくて
ここへ移った事 どこへも
知らせてないもんですから
ご迷惑 かけました。
そんな 構へん 構へんって。
おたいやてな
ちょっと のぞいてみたいんや!
いらっしゃいまし!
せっかく いらして下すっても
ご覧のとおりで
お構いもできませんで。
もう 分かっとるって!
夕飯ぐらい 作ってあげるがな。
すいません。 あっ 仁!
ちょっと これ お刺身 頼むね。
(仁)はいはい。
ああ…。
あ~ 御苦労さん。
すいません 晩御飯の支度。
牛肉 もろうたよってんな
持ってきたんや。
ジャガイモと炊いといた。
いつも いつも…。
これが おたいの楽しみや。 なあ。
けど よう売れとるやないか!
おかげさまで。
まだ 10日ぐらいしか
ならないんですけど
うちの品物が
新しくて安いって事は
よく分かって頂けたようで。
随分 遠くから来て下さる
お客様も いるんですよ。
へえ!
人の口って 早いしな!
(仁)母さん 希望のやつ
野菜全部 売っちゃったんだよ。
うちで食べる分ないよ。 え~!
(希望)申し訳ありません。
野菜 要るんだったら
八百屋 行って 買ってきます。
(ひさ)構へん 構へん!
もう 間に合うたよってに。
けど あんた 商売繁盛
結構な事やないか。
そうね。
売れるのは 野菜と魚ばっかり。
野菜と魚が売れたら
この店は 成り立つんや。
なあ おしんちゃん もう 大丈夫や
あんた 信用もできたし!
まだ 安心は できませんけど…。
まあ ここまで来たら
母さん いなくても
やっていけるよね。
オート三輪の方は
休まなきゃ しょうがないけど…。
おしんちゃん あんた…。
ええ。
急に 東京へ行く用事が出来て…。
(仁)東京?
初ちゃんが見つかったのよ。
母さん…。
知らせてきてくれたの。 前もって
事情は 話しといたんだけど…。
この 健って 誰?
最初に 初ちゃんを
うちへ連れてきてくれた人。
ホントに 初ちゃんなの?
誰よりも 初ちゃんを
知ってる人だもの
間違いないと思うけど。
どこにいるの? 初ちゃん。
さあ そこまでは書いてないけど。
まあ とにかく
元気で生きてるって事だけは…。
(禎)何してるの? 初ちゃん。
それだって
行ってみなきゃ 分からないよ。
けど あんた
店開いた大事な時やのに
なにも わざわざ
東京まで行かんやて…。
そうも言ってられないんです。
初子は 私の娘みたいにして
育てた子です。
消息が分かったら
迎えに行ってやらないと…。
初子は 戦争の傷を背負って
私たちの所から
去っていったんです。
戦争は終わっても
初子の幸せを見届けない限り
私には
まだ 戦争は終わらないんです。
♬~
♬~
(テーマ音楽)
♬~
(希望)速達よこした健って男
本当に信用できるの?
(おしん)うん。 母さんが 昔
随分 お世話になった人。
初ちゃんが うちを出て
お金 送ってきた時に
東京の消印になってたでしょ。
母さん とっても 捜しになんか
行ってられなかったから
思い余って
健さんに 手紙 出したの。
初ちゃん うち連れてきてくれたの
健さんだったし…。
でもね いくら 健さんが
捜してやるって言ったって
あの広い東京だもの 見つかるのが
不思議だと思って 諦めてたの。
初ちゃんが
帰ってくる気持ちになったら
帰ってくるだろうって…。
そのまま 4年も たってしまって。
それが…。
(仁)けどね ホントに 初ちゃんが
見つかったんだったら
どこで何やってると書いてきても
よさそうなもんじゃないか。
そんな事 行ってみれば
分かる事じゃないの。
その辺が
何となく 引っ掛かるんだよな。
信用できないよ。
そんな嘘 お母さんに ついて
どんな得があるって言うのよ?
(仁)だって 金 持っていくんだろ。
そりゃ 何があるか分からないから
少しぐらい 工面していかないと。
それにね 初ちゃんが
毎月 送ってくれたお金
ちゃんと 貯金しといてやったから
それも 持って…。
(仁)とにかく
だまし取られないようにしろよ。
あきれた。 健さんって
そんな人じゃないわよ。
それが危ないんだって…。
頭から 信用してると
ひどい目に遭うかもしれないだろ。
終戦後はね
みんな 境遇が変わったんだよ。
昔は 羽振りがよくても 今は 金に
困ってるかもしれないじゃないか。
よくも そんな事!
ねえ それより
お店の方 しっかり頼んだわよ。
用が済み次第
母さん すぐ帰るつもりだけど
どんな事があって
長引くかもしれないし…。
せっかく 魚と野菜で
信用がついたんだから
それを壊さないようにね。
分かったよ。
あっ 禎 あんたも
しっかり 台所やるのよ。
母さんはね あんたの年頃には
大きなお店の…。
(禎)分かってる。
もしも 何かあったら 連絡先はね。
長谷川美容院でしょ。
お師匠さんとこも
行ってみなきゃ
泊めて頂けるかどうか
分からないけど
連絡すれば どこにいるか
分かるようにしとくからね。
分かったよ。
おしんは 取る物も とりあえず
東京へ たった。
始めたばかりの店を 仁と希望に
任せるのは 心もとなかったが
初子の消息を 一日も早く知りたい
一念の おしんであった。
東京へ着くと おしんは
髪結いの師匠 たかの家へ急いだ。
20年ぶりの東京であった。
(かしわ手の音)
あの~ 少々 お伺いしますが
この辺りに
長谷川という美容院…。
お師匠さん!
(たか)おしん?
おしんじゃないの?
お久しぶりでございます。
健さんから 出てくるかも
しれないとは 聞いてたけどさ
まさかと思ってね。
一度 ご連絡してからと
思ったんですけど
急だったもんですから…。
よく 出てこられたね。
よく まあ 無事で…。
お師匠さんも お元気で…。
年 取っちまったわよ。
お加代さんを 東京に
迎えに来た時以来だから…
いくつに なったの?
50です。
(2人の笑い声)
何もかも 昨日の事みたいに
思えるけどさ…。
まっ 話は うちで ゆっくり…。
♬~
よいしょ。 あら 健さん。
まあ 早いじゃないの。
(健)すいません。
昨日 おしんさんから
今朝 こちらへ着くって
電報 もらったもんですから。
お内儀さん!
健さん! 初子の事 ありがとう。
汽車の着く時間
知らせて下さったら
東京駅まで 迎えに出たのによ。
また お世話になります。
よろしくね。
(たか)嫌だね こんな所で。
ほら 奥へ。
(たか)田倉さんも 雄坊も
とんだ事だったわね。
(健)雄坊が
戦死しちまうなんて…。
あっしは 今でも 雄坊を
肩車に乗せて歩いた時の事が
忘れられねえんです。
お内儀さんから 知らせの手紙
もらった時 涙が止まらねえで…。
お互い 戦争じゃ
ひどい目に遭ったわよね。
田倉さんまで
あんな目に遭っちまうなんて…。
けど こんな事
言っちゃなんだがよ
あっしは 田倉の旦那 見直したよ。
戦争に協力したり
金もうけしたりしたやつが
ごまんといるっていうのに
一人だって 責任 取った
やつなんて 見た事もねえ!
そりゃ そうだけどさ 後に
残された者は たまんないわよ。
あの人は あの人で
筋を通して死んだんです。
それでいいと思ってます。
それでこそ お内儀さんだ。
佐賀の舅や姑も
田倉が自決したのを
武士道を全うしたと思って
誇りに思って
亡くなったんですから
田倉も思い残す事ないでしょう。
そう…。 あんたを いじめ抜いた
姑さんも亡くなったのかい。
今では もう いじめられたなんて
思ってません。
お姑さんは お姑さんの立場が
あって…。
若い私には
それが分からなかっただけで…。
そういえば おしんも
もうすぐ 姑さんになるんだよね。
私も 若い者のする事
気に入らない方ですから
佐賀のお姑より もっと
うるさい姑になるかもしれません。
そうならないように
商売にでも打ち込んでいないと。
私は 気が楽だ。
財産 残してやる者もいないし
自分が食べる分だけ
お客さんの髪 結って…。
この辺じゃ 今でも 長谷川の
お師匠さんじゃなきゃって
芸者衆がいるそうですからね。
日本髪 結える人も
いなくなっちまってね
おかげで 私みたいな年寄りでも
重宝がられてんだ。
私が死んじまったら このうちも
無くなっちまうだろうから
建て直す気にもならなくて。
おしんは これからだよね。
やっと 店 出したってとこだから。
さあ どうなりますか。
私は 店を始めちゃ
いくつも潰してきましたから。
私たちは みんな そうだ。
関東大震災に遭って
空襲に遭って
貧乏くじばっかり 引いてきた。
これからは 人を雇って
大きな店をやっていく時代だって
勧めてくれる人もいるけどさ
この年になって
金もうけしたいとも思わないよ。
ただ せめて 死ぬまで
平穏無事でいてくれたら…。
震災も戦争も もう たくさんだよ。
けど 今やってる戦争は
日本にとっちゃ
結構なもんらしいですよ。
アメリカが どんどん 日本に
銭 落としてくれますからね。
何たって
「フジヤマ ゲイシャガール」だもんね!
健さん 今でも 露天商の方?
いや あっしは
戦争中 堅気になって
軍需工場に
行ったりしてたもんで
もう ヤクザな商売には
見切りをつけました。
仲間も 代が替わっちまって
もう あっしの出る幕でもねえし。
といっても 昔が昔ですから
まともな仕事も…。 まあ
いろいろと アメリカ軍の払い下げの
品物 動かしたりして…。
あんまり大きな声じゃ言えねえ
商売ですがね。
お初坊には
そういう仕事の関係で…。
やっぱり ホントだったのね。
何してるの? 初子。
ねえ 今 どこに?
健さん 会ったんでしょ?
いや あっしの事が分かったら
逃げられちまうんじゃないかと
思って…。
間違いなく お初坊です。
会う時は お内儀さんと
一緒の方がと思って…。
すぐ 会えるんですか?
ただ… あの娘は もう
昔のお初坊じゃありません。
それだけは
覚悟なすっておくんなさい。
健さん…。
(健)みんな つらい時代を背負って
生きてるんだ…。
誰が悪いんでもねえ。
誰も責められねえ。
責めちゃ かわいそうだ。
おなか すいたろ?
今 朝御飯の支度するからね。
健さんも食べてって。
いや あっしは かかあが支度して
待ってますから。
じゃあ お内儀さん
夕方 迎えに参りますから
それまで ゆっくり お休みに
なって。 (たか)そうだよ。
汽車の旅で疲れてんだろ。
(希望)お帰り!
(仁)おう!
あれ? 魚 残ってるじゃないか。
今日は いつもより
多く 仕入れたのか?
今まで 売れ残った事なんて
ないのに…。
おふくろと俺の違いだよ。
俺には 信用がないんだよ。
仁…。
おふくろ いないって分かったら
途端に 買う気が
無くなるらしいんだよ。
俺だって 頭まで下げて
買ってほしいと思わないしな。
それに 俺 包丁 使うの 下手だろ。
だから 勧めるのも悪くって…。
仁…。
おふくろがいないと どうしようも
ないよ。 俺一人じゃ…。
(豆腐屋のラッパの音)
(たか)はいよ。
はい お待たせしました。
お師さん
どうも ありがとうございました。
ありがとうございました。
少しは 休めたかい?
おかげさまで…。
すいません
お師匠さん お忙しいのに
何にも お手伝いしなくて…。
あんたに手伝ってもらうほど
お客は 来やしないよ。
ぼつぼつなんだ。
何だか懐かしくて…。
手が思うように
使えなくなってから
人様の髪なんか
結った事ないでしょ。
昔を思い出して…。
今でも まだ?
ええ。 よくは なってるんですけど
やっぱり 力の要る事や
指先を細かく使う事は…。
髪結いが できてたら
魚屋なんか やってませんよ。
苦労も また違ったもんに
なってたでしょうけど…。
因果な事だよね。
あんなに つらい修業して
身につけた腕なのに…。
でも 後悔は してません。
髪は結えなくなっても
お師匠さんに仕込んでもらった
根性だけは 身についてますから
少々の事じゃ
へこたれなくなりました。
(戸が開く音)
(健)よいしょっと。 お邪魔します。
ああ。
(健)よいしょ!
お師匠さん 今朝は 失礼しました。
御苦労さん。
そろそろ 出かけますか。
1時間ほど かかるから
ちょうどいいでしょう。
お内儀さんさえ よかったら。
健さん。
初子 今 どんな暮らししてるの?
あの娘 うちを出てから
4年もの間
毎月 欠かさず
お金 送ってきたわ。
でも 自分の事は
何一つ 知らせてこなかった。
何をしてんだか…。
何を考えてるんだか…。
じゃあ お内儀さん。
お師匠さん ちょっと 帰りが
遅くなるかもしれませんが
心配なさらないように。
必ず あっしが お送りしますから。
頼んだよ。
はい。
起きて 待ってるからね。
申し訳ありません。
無事に 会えるといいね。
♬~
健は なぜか 初子について
かたくなに 口をつぐんでいた。
それが おしんには 不安であった。
黙々と 健について歩きながら
おしんの脳裏に
雄の死を知った時 泣き崩れた
初子の姿が
鮮明に よみがえっていた。