12月に入り頻発する地震は大地震の予兆? 専門家の間でも分かれる意見
関東北部で地震が頻発し、「首都直下地震の予兆では」と不安が広がっている。専門家の見方は分かれているが、重要なのは冷静に備えを進めることだ。AERA 2019年12月23日号では、専門家らの意見を紹介した。
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また、揺れた──。
12月5日夜、茨城県日立市の主婦(36)はスマートフォンを握りしめた。地震速報アプリで流れてきた震度は「3」。モノが落ちるなどの被害は一切なく、身体に感じた揺れもそれほど強くない。だが、不安が募った。日立市では前日の4日にも震度4を記録するなど、比較的強い地震が続いていた。女性が日立市に引っ越してきたのは3年ほど前。直後に震度5強の強い地震があったが、そのときの恐怖を思い出したという。
「大震災の前触れなんじゃないか。また、あのときのような強い揺れが来たら……。そう不安になりました」(女性)
12月上旬、茨城県や栃木県を震源とする中規模の地震が相次いだ。3日に茨城県南部でマグニチュード(M)4.7、最大震度4を記録したのを始め、5日までの3日間で震度3以上の地震が6回発生したのだ。
震源となったのは、大きく分けて茨城県北部・茨城県南部・栃木県北部の3カ所。相次ぐ地震で、インターネット上では「巨大地震の前触れではないか」と恐れる投稿が相次いだ。日本では、M4台の後半を記録するような中規模な地震は年間200回以上起こっていて、決して珍しくない。気象庁も5日、「これらの地震に関連性は見られない」と発表した。しかし、数日の間に狭い範囲で地震が続いたことで不安の声が広がった。
これらの地震が、より大きな地震の前触れになる可能性はあるのだろうか。東海大学海洋研究所所長で同大教授の長尾年恭さんは茨城県北部の地震に着目し、こう話す。
「地震の計測や分析が進み、大きな地震の前に起こる前震と通常の地震活動の違いが統計的に明らかになりつつあります。今回の地震を見ると、茨城県北部で起きている地震に前震的な傾向がみられます」
一度大きな地震が起きると、その地震よりも規模の小さな余震を繰り返しながら収束に向かうのが一般的だ。一方、本震と呼ばれる大きな地震の前の前震の場合、同規模の地震が頻発し、その後さらに大きな本震が起きるケースが多いという。
例えば2016年の熊本地震の際は、4月14日にM6.5の大きな地震が起きたあと、M5.8、M6.4といった規模の近い地震が頻発。2日後の16日にM7.3の本震が起きた。
「今回、茨城北部では4日にM4.8の地震が起きたあと、翌日にM3.9やM4.5の地震が起きています。あくまで統計的にですが、過去の地震の際の前震と似た特徴があります」(長尾さん)
関東北部での地震活動は、いったん落ち着いたようにも見える。しかし、長尾さんによると前震から本震までの期間は様々で、地震学的には2日も2カ月も「誤差」の範囲だという。
「近いうちに、M6程度の比較的規模の大きな地震が起きる可能性は捨てきれません」(同)
では、茨城県の北部と南部、栃木県北部の3カ所で起こったそれぞれの地震の関連性はあるのか。活断層や内陸地震の研究を専門とする東北学院大学・中央学院大学講師の水本匡起さんはこう否定する。
「3カ所で起こった地震はそれぞれ、発生のメカニズムが異なります。関連はないと考えるのが自然でしょう」
今回発生した地震のうち、茨城北部と栃木北部で発生した地震はそれぞれ震源の深さが約10キロと浅く、茨城南部の地震は50~60キロとやや深かった。一般的には、震源が浅く、内陸で起きる地震は活断層や火山活動による影響が考えられ、深い場所で起こる地震はプレート間やプレート内部に要因があると推定される。平面的には近い場所で起こっても、立体的に考えると発生位置も要因も大きく異なるのだ。
今回の3カ所の地震のうち茨城県北部の地震は、東日本大震災以降続いている「日本列島が太平洋側へ引っ張られる力」によって、地表に近い岩盤が縦に動いたことによる活断層型の地震だという。