- 『マーマーマガジン』20号の農特集でお届けした、自然栽培を続ける、高橋博さんのお話。21号からはじまった連載を、マーマーな農家サイトに場所を移して続けていきます。高橋さんの語り口調そのままにお届けします。
構成=服部みれい/再構成=松浦綾子
第14話(最終話) 自然に逆らわず、個性を認めあう
全国を歩いてみると、田んぼしかない土地のひとたちは田んぼを畑にしているんだ。果樹は果樹で、米は米で、野菜は野菜に適した土があるんだけれど、化学肥料や有機農法を使うと、可能になってしまう。しかし、自然農法っていうのは土に合った作物をつくることをちゃんと守らないといけない。それが自然農法の基本中の基本なの。
土を掘れば、地形をみれば米をつくるのに適している土だとわかるのに、人間の都合でそこで野菜をつくってしまったりしている。そうやって自然に逆らっているからうまくいかない。もとが違うから、実績がでてこないんだ。そういうところを解決しないと、米しかできないところで野菜をつくり続けることになる。
果樹もね、うちで無農薬のリンゴに挑戦したくて、リンゴの木を6本植えたのね。今までは野菜畑だったところを無理矢理に果樹にあった土にしなくちゃいけない。福岡正信さんの耕してはいけない、草をとってはいけない、っていうくらいの土にしないと。果樹にはそういう土があうんだから、畑や田んぼではできないね。
田んぼには田んぼの、畑には畑の、山には山の個性があると認め合わなくちゃいけないんだ。自然農法を学ぶと、そういうふうに見てあげられるようになるよ。山に一番あっているのは果樹だし、果樹は山の姿を再現しているよ。だから果樹園というのは耕しちゃいけないんだ。草をとって綺麗にしているやつがいるけど、あれはいけない。自然農法流だったら、草がでているようでないといけない。足にまとわりつくのがいやなら、除草剤など使わずに、短く刈り込めばいいんだよ。納得でしょ?
適した土があるという話で、まずは気候。気候にあった作物の栽培が必要だよね。沖縄のものを千葉にもってきてもできないでしょう。もうひとつは土質。灰の土なのか、砂なのか、粘土なのかでつくれるものが違ってくるんだ。自然に順応したやり方では土と相談なんだよ。うちの土は開墾されて百何年も経つけれど、土にしてみたらすごく若いほう。このあたりは関東ローム層で、富士山の火山灰が積もった土。これをおじいちゃんが入植して、開墾した。そして親父が後を継いで、俺で3代目。
放っておいても時間をかければ土は進化する。それだと1cmを進化させるのに100から200年くらいかかるんだ。岩石の固まりだった地球がここまでになったのはそのおかげ。100年、200年というサイクルでこれを進化させてきたわけだ。自然はどうやって進化させたかというと、すべて植物でやってきた。最初はコケが生え、シダが生え、その過程で岩石が粉々に砕かれ、何億年をかけて1cmごとに進化してきた。これに沿っていれば、土は進化しつづけたはずなんだ。
ところがあるとき、人類は欲がでて、過ちを犯した。養分を与えて、量をとりたくなってしまったんだね。そもそも人類に充分な量はとれていたんだよ。神さまが人間をつくったときからその餌は餌箱に用意してある。それを欲が出て、肥料が発明されて。日本は平安時代から肥料をつかってきたみたいなんだけど、人類の歴史でいえばほんの短い期間だ。自然栽培は元の進化のレールに戻っただけ。過去のマイナス分をいま埋めているの。従来の地球の進化に乗ったから、いい土づくりができているんだよ。人間がやった過ちを清算したら、落とし前つけたら、良い状態に戻ったわけ。
自然栽培の教えでは、自然に逆らったらダメだからね。畑の材料を自分の畑でそろえること。この材料を外から求めたときがあるのよ。最初の頃は利根川の河川敷の草を詰めたり、東関東高速の草を集めたりしたことがあるんだ。先輩たちが「自然堆肥」という名のもとに土にいれていたのを見たときに、必要な気がしたから集めてみたの。集めて何年かやっていくうちに、どうも病気や虫がでるんだよ。なぜかと考えてみたときに、まず利根川の草をもってきて完熟堆肥にするんだけども、もらってくるときに途中で牛糞がまじったことを知ったんだよ。河川敷には牛が放牧されているの。牛糞がはいっていると、それまででていなかった虫や病気がでてしまう。そこで、もち込むことにはそういう可能性があることに気がついたわけ。
人間があれもおいしい、これもおいしいっていってなんでも食べるから、おかしくなっちまうんだよ。そこにあるものをいただけばいいのにね。うちなんか、大根ができたら食卓は大根だらけだぞ(笑)。でもそこにはいろいろなレシピがある。魚を和えてみたり、いろいろな料理の仕方で食べるんだ。にんじんの時期になったら、今度はにんじんが食卓のメインだ。同じなのよ。栄養価うんぬんではなくね。
なにがからだを養っているかを考えると、それは栄養だけじゃあないんだよな。栄養もしかりだろうけど、そのなかに活力がある食べ物なのか否か。これがすべてだよね
うちのにんじんとほうれん草を栄養分析センターに持っていって調べたら驚いたよ。肥料をいれてないのに鉄分もカロテンも標準の3倍もあったんだ。みんな、考えられないっていうよ。だけど、まだ畑をはじめたばかりの野菜にはそんなになかったりもするから、栄養価をアピールすると嘘つきになっちゃう。それはやっぱり肥毒が一番のネックなんだよ。確実に、完璧に綺麗にすることだけ。自然界って、人間にとってあまり難しくつくられていないんだよなぁ。
- 高橋博の「自然がなんでも教えてくれる」
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- ・第1話 純粋なものでやっていく
- ・第2話 自分の感動が覚悟になる
- ・第3話 理想を理想じゃなくしよう
- ・第4話 はじめは「一」でいい
- ・第5話 入った毒は、自然がすぐに処理をしてくれる
- ・第6話 肩こりみたいな症状が土の中で起きている
- ・第7話 頭のなかの肥毒
- ・第8話 先を見て農業をやっていく
- ・第9話 自然流だと、最後はちゃんと実りがある
- ・第10話 大きな目標より目先のことから積み上げていくとうまくいく
- ・第11話 破壊のあとには必ず建設が待っている
- ・第12話 突いてばかりいるだけじゃなく、引いてみる
- ・第13話 一番いい種を残していく
- ・第14話(最終話) 自然に逆らわず、個性を認めあう
高橋博(たかはし・ひろし)
1950年千葉県生まれ。自然栽培全国普及会会長。自然農法成田生産組合技術開発部部長。1978年より、自然栽培をスタート。現在、千葉県富里市で9000坪の畑にて自然栽培で作物を育てている。自然栽培についての勉強会を開催するほか、国内外で、自然栽培の普及を精力的に努めている。高橋さんの野菜は、「ナチュラル・ハーモニーの宅配」にて買うことができる。
http://www.naturalharmony.co.jp/takuhai/