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社会学者・橋本健二氏が語る「アンダークラス」と山本太郎の関係

自己責任論はすべての人を追い詰める理由

山本太郎が新党「れいわ新選組」を立ち上げ、参院選に臨んだのが2019年春のこと。過労死など労働環境の取材を続け、『過労死:その仕事、命より大切ですか』の著書もある牧内氏は、最初は訝しく思いながらも、「生きづらさ」を感じる人々が山本氏に希望を託していると実感するようになった。そこから、なぜこの「れいわ現象」は起きたのか、という視点で取材をし、まとめたのが『「れいわ現象」の正体』(ポプラ新書)だ。

社会学者の橋本健二早稲田大学教授は著書『アンダークラス 新たな下層階級の出現』で、非正規労働者の現実を伝えている。では橋本氏は山本氏を支持する人たちや山本氏に対してどのような意見を持っているのか。そして、社会はどうしたらよくなるのか。

牧内氏が橋本氏にインタビューした部分を、『「れいわ現象」の正体』より抜粋掲載する。

れいわ支持者の取材で思い出した
『アンダークラス』

れいわ支持者たちの取材を続けながら、わたしは一冊の本のことを思い出していた。社会学者の橋本健二・早稲田大学教授が書いた『アンダークラス 新たな下層階級の出現』(ちくま新書)である。橋本氏はこの本で専門・管理職やパート主婦をのぞいた非正規労働者を「アンダークラス」と呼んだ日本には低賃金のアンダークラスたちが約930万人いて、正社員への道は険しいため、ほとんど階級のように固定化しているという。
 
わたしが興味をおぼえたのは、この本がアンダークラスの過酷さを認識しつつ、そのなかに希望の光を見いだしていた点だ。橋本氏はアンダークラスの人びとのことを「日本の現状を変える社会勢力の中心となり得る」と評していた。アンダークラスの多くは現状に不満を感じ、心の中では格差対策を切実に求めている。だが一方で政治への関心が薄く、選挙があっても投票に行かない。このため、実際には格差是正がいっこうに進まない。それが現実だが、逆にアンダークラスが政治に関心をもち、この層を主な支持基盤とする政治勢力が生まれれば、世の中は変わる――。橋本氏の本からは、このような主張が読み取れる。

 

れいわはアンダークラスを代表する政党になるか

れいわ新選組が橋本氏の言う「アンダークラス」の受け皿になるのではないか。取材をはじめた頃からわたしにはそういう期待があった。2019年6月半ば、橋本氏に直接聞いてみた。都内のマンションの一室にある彼の私用オフィスは、図書館のように部屋中に本棚が並び、「知の隠れ家」といった感じだった。以下 はそのときのインタビューである。

――れいわ新選組が2億円ほどの寄付を集めています。わたしが取材する限り、ギリギリの生活の中から1千円や2千円などの少額寄付をした人がいました。これまでは政治に無関心だったという人もいました。この現象をどうみますか?

橋本 「アンダークラスの人びとは非常に低賃金で仕事にも社会にも不満をもっている。そして、富裕層から貧しい人に富を分け与える『所得再分配』を進める政策を求めている。ところが、支持政党がない人の割合が非常に高いのです」

――なぜでしょうか? 

橋本生活に余裕がなくて政治に関心を持てないと同時に、支持したくなるような政策を打ち出す政党がない。与党も野党も支持できない、ということです」

――生活が苦しいのに、投票に行かないから社会が変わらないという悪循環ですね。 

橋本「そこに出てきたのが山本さんなのだと思います。たとえば、彼がかかげている最低賃金1500円。既存政党がはっきりしない中で、自分たちの要求に応えてくれる政治勢力が出てきたと感じているアンダークラスの人びとが一定程度いるのかな、と感じています」

生活に余裕がないと政治に関心も持てない。しかし政治が変わらないと生活は変わらない Photo by iStock