日常の進捗

主に自分のための,行為とその習慣化の記録

音楽,あるいはPotluck LabとOrca

今年は個人的に様々な新しいことに取り組めた有意義な一年だった.中でも自分にとってもっとも大きかった「ベスト・オブ・ベスト2019」は音楽,DTMやライブコーディングとの出会いだった.実際のところ,自分はギターやベースといったバンド活動の先にある音楽というものを10代で選ばなかったが,あのときあっただろう音楽に触れているような感覚が,今どこかある.それは自分が圧倒的に初心者だからなのだろう.このエントリでは遅咲きのDTMer,ライブコーダーがどう爆誕したかという話を,あまり肩肘をはらず,思いつくままに書いていくことにする.

音楽はそれなりに聴くほう,というのはおそらく過去の話で,つまり,聴く方だった.ここ数年はSoundCloudに流れてくる楽曲を中心に,Spotifyのリコメンドに従い,誰ともつかぬ作り手の名も知らぬ楽曲を聴取しては気に入れば乱暴にプレイリストに投げ込むような生活をしていた.かつてのように地元のGEOやTSUTAYA,ビデオ合衆国といったレンタル屋で新譜や過去の名盤を聴き漁ったり,音楽のウィキペディア御茶ノ水ジャニスでCDを借りては最寄りのファミレスにドリンクバーで居座り,MacBookProのCDドライブにインサート・アンド・リジェクトを繰り返して即日返却するような,音楽への渇きのような欲望はサブスクリプションの泉の前でいつしか淡く薄れた,というだけの話かもしれない.

自分の音楽への向き合い方の変化がどこかであったように思うのだが,それがいつかというのはボスの放つキング・クリムゾンばりに記憶が消し飛んでいるのか,とても思い出しづらい.5年くらい前に会社を辞めたとき(その時期は半年くらい延々シヴィライゼーションで平和外交プレイばかりをやっていた)あたりかもしれない.ともかくイヤホンから,テンションの上げ下げをコントロールするためのエナジードリンクやコーヒーのような,効用としての音楽を摂取するようになった.いや,もしかしたら何か劇的な出来事が起こったのではなく,なだらかに,ゆるやかに,そういった受け取り方をしていったのだと思う.

DTMとPotluck Lab

それでも,楽曲を聴きライブに足を運び,新譜を出せば音源を購入するアーティストも少ないがいる.その中のひとりであるin the blue shirtが5月,DTMer向けのイベントを関西でやるという.先に言っておくとDTMに関して自分は完全にド素人で,4月にDTM/フィールドレコーディングのワークショップに参加して,Ableton Liveの基礎の基礎の一部を覚えた程度.楽器も弾けないし,音符も読めない,演奏経験もない.音楽への距離感も先に述べたように,日々遠のくばかりだった.

どうしてこのイベントに関心を持ったか,今年音楽をやろうと思ったか.色々とタイピングしながら考えてみたのだが,多分「知りたい」が一番近かったんだろう.千差万別の音楽の作られ方,それらに触れてみたかった.あわよくば,自分にも何かできるのではないか,そういう希望を感じていたのかもしれない.なんにせよ鈍器で殴られるような出来事に触発される,沸き立つような強い動機は携えておらず,代わりに,低温調理器で管理されたぬるま湯より少し熱い程度のモチベーションを持つ中年男が音楽というものに触れる,という2019年であった.

Potluck Labには開催の2回+自宅回にそれぞれ参加+視聴し,レポートをあげている.それぞれ参加者の方々と交流の中で,世代や経験を越えて話ができたことは,大きな励みとなった.どちらかというと,イベントに参加する前の自分のか細い灯火のようなモチベーションは,同じような志をもつ人々との会話によって,より大きくなったように思う.

takawo.hatenablog.com

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「音楽」はできないが「音」は鳴らせる

soundcloud.com

先に話しておくと,これらのイベントに参加し,曲のようなものを作ってみたりはしたものの,音楽ができるようになっていない(笑).「イベントに参加して,参加者と交流して,家でちょっと触って,できるようになったら世話ない」というのは真理だ.他の参加者の方々が曲を作って毎回送っているのだって,自分がやってる何倍,何十倍の情熱と時間と経験から出来上がっている.簡単にできるものではないのはわかっていたことだし,現状の「できるようになっていない」状態は,まったく否定的に捉えていない.僕は音楽は作れていない.ただ,何らかの方法で「音は鳴らせる」し,「音を鳴らす」ことに戸惑わなくなった.「よくできた量産品よりも,唯一無二の💩」とin the blue shirt氏が言ったが,ベクトルとしては,量産品よりもオリジナルの💩側に向いつつある.

Orcaとライブコーディング

制作との向き合い方にはいろんなスタイルがあると思うが,共通して言えるのは,ライフスタイルや自分の好みに合わせて取り組むべきで,誰が言うベターなやり方より,自分が「感覚的にしっくりくる」やり方でやるのが良い,ということに異論の余地は無いはず.自分の場合,MIDIの打ち込みなどの幾つかの手法を経る中で,自分にとってしっくりきたのがOrca(+Pilot)でのライブコーディングだった.

wiki.xxiivv.com

Orcaは機能をもったアルファベットのオペレータを配置して,ブロックを積み上げるようにして信号を組むことができるプログラミング言語,というか環境だ.文字が並ぶので一見難しそうだが,そんなことはない,Sonic PiやTydalCycles,SuperColliderなど数あるライブコーディングの言語の中でも屈指のとっつきやすさがあると思う.Orcaの入門エントリなどは別途まとめていきたいと思っているので,しばしお待ちを.

個々の持つ既存のスキルセットによって変わってくる気もするが,変数,四則演算などプログラミングにまつわる概念理解を経た上で音に取り組む場合,Orcaは最良の選択肢の一つになると思う.今は10分程度の空き時間に,ライブコーディング環境のOrcaを起動して,短いメロディやリズムを作ったりしている.これは自分のなかではとても大きな進歩だと捉えている.

僕がOrcaに感じている魅力は,こんなかんじ.

  • シンプルなアルゴリズムの組み合わせから生み出される複雑なパターン
  • MIDIやOSCといった通信規格によって,Ableton LiveなどのDAWの他,TouchDesignerといった外部のアプリケーションとも連携できる
    • OrcaでのMIDI信号から打ち込みできる
    • 外部のMIDI機器との送受信もできる
  • 短時間で取り組める
  • タイプミスがない(初学者には特に良い)
  • グラフィカルで楽しい
  • 船で旅をしながらOrcaのようなアプリケーションやゲーム,料理のレシピを開発・公開する開発者ら(Hundred Rabbits)の生き方に共感する
  • MIDI野郎との連携がヤバい

日常と音楽

制作者と観客,作り手と受け取る側に垣根はない時代ではあるけれど,音を配置し,曲を作る側に立とうとすることで,必然的に音楽を制作する様々に思い巡らすことが増えた.「眼高手低」,観察の大切さを説く格言があるが,逆に手を動かすことではじめて,先人の工夫や知恵を理解する入り口に立てたように思う.

今は,コードで音を鳴らしながら楽理を学ぶこと,楽曲をより注意深く聴き,耳で観察と発見すること.これらがプログラミングでグラフィックを描くのと同じように,自分の日々の歓びに変わりつつある.「いつか音楽を」と思う気持ちと「気がつけば音楽に」という気持ちの間で,コードを書いては音を並べてみる,を繰り返す.日常.

進捗は,また別の機会に報告できたらと思っている.


この記事は 2019 Advent Calendar 2019 19日目の記事として書かれました。昨日は O-SHOW:THE:R!PPΣR さん、明日は ailispaw さんです。お楽しみに!