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よくある質問

先進プラズマ研究開発

よくある質問

掲載日:2018年12月26日更新
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質問

回答

Q 01:核融合について簡単に教えて下さい。

A 01:順を追ってお答えします。
太陽の核融合
 太陽では、四つの軽水素から最終的には一つのヘリウムができる核融合反応によって大きなエネルギー(26.2MeV。MeVはエネルギーの単位。)が生み出されています。しかし、いきなりこの反応は起きません、まず二つの軽水素から一つの重水素ができ、次にその重水素と別の軽水素から三重水素ができる、といったような反応シリーズ(ppチェーンといいます。Pは軽水素の原子核proton(プロトン=陽子)の頭文字。)によってヘリウムが作られています。ただし、この反応シリーズは非常にゆっくりとしか進みません。特に、最初の軽水素−軽水素反応はとても起こりにくく、太陽の中心部(温度1600万度、圧力2400億気圧)でも、軽水素1つあたり100億年に1回程度の割り合いでしか反応しないのです。太陽の寿命は約46億年とされていますから、どれくらい遅い反応かわかります。それでも太陽はとても大きく、軽水素の数も莫大ですから、個々の反応の割り合いは小さくても全体で見れば多くの反応が起こり、あのように光り輝く巨大なエネルギーを生み出すことができるのです。
地球上の核融合
 さて、地球上で核融合を起こし、エネルギーを取り出して利用するには、太陽でのような軽水素−軽水素反応はほとんど反応しないため使えません。そこで、もっと反応しやすく、地球上でも実現可能な他の組み合わせを使わなければなりません。いくつか候補がありますが反応のしやすさから順に並べると次のようになります。

  1. 重水素と三重水素から、ヘリウムと中性子ができる反応(発生するエネルギー17.6MeV)。
  2. 重水素と重水素から、三重水素と軽水素ができる(発生するエネルギー4.03MeV)、またはヘリウム3(質量数3のヘリウムの同位体。)と中性子ができる反応(発生するエネルギー3.27MeV)。どちらになるかは半分半分です。
  3. 重水素とヘリウム3から、ヘリウムと軽水素ができる反応(発生するエネルギー18.3MeV)。

 しかし、これらの反応を起こすには、超高温のプラズマをつくる必要があります。重水素と三重水素の反応では1億度程度、重水素と重水素の反応や重水素とヘリウム3では10億度程度にしなければなりません。太陽の中心部でも1600万度ですから大変な高温ですね。超高温にするだけでも一苦労です。そこで、最も低い温度で起こり、反応確率も高く(軽水素と軽水素の反応に比べて1兆倍の1兆倍程度)、また発生するエネルギーも大きいことから、重水素と三重水素の反応による核融合が一番実現可能性が高いとして研究開発を進めています。
重水素と三重水素では、反応で発生するエネルギーの8割を中性子がもって飛び出してきます。核融合炉では、この中性子をプラズマを囲った特殊な壁(ブランケットといいます)で捕らえて熱に変換、電気を発生する仕組みとしています。中性子自身は、ブランケットや遮へい壁で容易に止めることができますし、核融合反応は核分裂のような連鎖反応ではないので、万一の場合は反応がすぐストップするなど、核融合炉の安全性は優れています。ただし、中性子を止める部分では、中性子による放射化や材質の変化などが生じますので、それらの影響がより少ない材料の研究開発が精力的に進められています。
 さて、重水素と三重水素の反応による核融合を第一世代の核融合とすると、重水素と重水素の反応による核融合は第二世代の核融合と考えることができます。それは、上にも出てきたように、重水素と三重水素の反応に比べてより高温が必要、つまりより高度の技術が必要で数十倍も難しく、第一世代の核融合が実現したのち、プラズマの技術がさらに進歩した先で可能になると考えられているからです。JT-60はプラズマ温度5.2億度の世界記録を持っていますが、まだまだギャップが大きいのが現実です。しかし、リチウムを原料として人工的につくらなければならない三重水素と違い、重水素は海水中に豊富に含まれ簡単に採取できるので、重水素だけによる反応は魅力的です。一方、中性子が持つエネルギーが反応で発生するエネルギー全体の3割程度までに減りますが、中性子を扱う観点からは重水素と三重水素の反応と本質的な違いはありません。
最後の重水素とヘリウム3の反応は中性子が出ないのが特徴です。反応で発生するのは荷電粒子(電気を帯びた粒子=ヘリウム4と軽水素のイオン)だけですが、この荷電粒子から直接効率良く電気を発生できる可能性があることが長所です。ただし、重水素と三重水素の反応と比べるとやはり高温が必要なことと、ヘリウム3が地球上には存在しないことが難点です。つまり、現時点では実現できません。しかし、ヘリウム3は月の地面には豊富に埋まっていることが分かっていますので、いつか宇宙開発が進み、月からヘリウム3を掘り起こして持ち帰れるようになった未来には可能性が出てきます。もちろんまだまだずっと先のことですが、地球の海からの重水素と月の大地からのヘリウム3とで核融合エネルギー=太陽のエネルギーを生み出す、そう考えるとわくわくしませんか。
 いずれにせよ、まずは重水素と三重水素による核融合を実現することが全ての始まりとなります。

 参考となる核融合の入門書を以下に記します。
参考図書
 「核融合エネルギーのはなし」
 近藤育朗、栗原研一、宮 健三/著、日刊工業新聞社(1996年)
 「核融合−臨界への挑戦−」
 G.S. Voronov/著、関口 忠/監訳、飯田慶幸/訳、オーム社(1988年)
 「核融合」
 杉浦 賢、谷本充司/著、オーム社(1986年)

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Q 02:「電磁流体力学」を初心者でも理解できるような書籍はありませんか?

A 02:プラズマ関係の書籍は数多く出版されています。そのなかから、内容が初学者向けで、また比較的出版年が新しく書店などで入手しやすいと思われるものを中心にリストアップしてみました。既にご存じのものも含まれていると思いますが、実際に手にとられて、気に入った本から入られることをお勧めします。

  • プラズマの基礎から応用までを概説
     「プラズマの科学」
     河辺隆也/著、日経サイエンス社(1994年)
     「プラズマとビームのはなし」
     八井 浄、江 偉華/著、日刊工業新聞社(1997年)
     「プラズマ物理学者の常識」
     アルツィモヴィチ,L.A.著、田井 正博 訳、現代工学社(1979年)
     「核融合はなぜむずかしいか」
     加藤鞆一/著、丸善(1991年)
  • 大学・専門向け
     「プラズマ入門」
     川田重夫/著、近代科学社(1991年)
     「プラズマ工学の基礎」
     赤碕正則、村岡克紀、渡辺征夫、海老原健治/共著、産業図書(1984年)
     「プラズマ理工学入門」
     高村秀一/著、森北出版(1997年)
     「プラズマ物理入門」
     チェン,F.F./著、内田岱二郎/訳、丸善(1977年)
     「現代プラズマ理工学」
     関口 忠/編著、オーム社(1979年)
     「プラズマ物理学」
     後藤憲一/著、共立出版(1967年)
     「プラズマ物理入門」
     宮本健郎/著、岩波書店(1991年)
     「デンディ プラズマダイナミクス」
     R.O. Dendy/著、粥川尚之、奥澤隆志、青木義明/訳
     講談社サイエンティフィック(1996年)

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Q 03:核融合反応での質量欠損について教えて下さい。

A 03:少々長いですが順を追って説明します。
 物質を構成する原子の中心部にある原子核を構成している核子(陽子および中性子)同士の結合エネルギーも、核融合反応で放出されるエネルギー(これは放出されるアルファ粒子や中性子の運動エネルギーです)も、放射線のエネルギーも、形は違いますがみんな同じ「エネルギー」です。ですから、核融合反応が起こった場合でも、これらのエネルギーの合計が変わることはありません(エネルギー保存の法則)。ただ、それらのエネルギーの種類と配分が変化するだけです。その変化の元になっているのは、核融合反応にともなう核子どうしの結合エネルギーの変化です。

 まず、核子どうしの結合エネルギーについて考えてみます。原子核は核子である陽子および中性子が集まってできています。ただし、「ただ」集まっているのとは異なっています。原子核の中にある陽子の数と中性子の数をそれぞれZ個、N個とし、静止状態で単独で存在している陽子と中性子の重さをそれぞれMp、Mnとします。陽子と中性子がバラバラにある場合には、全部の重さはZ*Mp+N*Mnですが、これらが集まって原子核を作った場合の重さをM(Z,N)とすると、これはZ*Mp+N*Mnよりも軽くなっています。この重さの違い(これを質量欠損と呼びます)のΔM=Z*Mp+N*Mn-M(Z,N)に相当するエネルギー、ΔMc2が原子核の中の核子どうしの全結合エネルギー(通常は単に結合エネルギーと呼ぶ)です。

 原子核をバラバラの陽子と中性子にするには、外から結合エネルギーΔMc2と同じだけのエネルギーを加えて、原子核の核子同士が引き合っている力(核力)に逆らって、無理矢理引き剥がす必要があります。この時もらったエネルギーで原子核がバラバラになると同時に、核子の合計の重さは原子核の時よりもΔMだけ増加します。(核力=エネルギーではなく、核力に逆らって引き剥がす仕事の総量が結合エネルギーです。)

 一方、バラバラの状態の陽子と中性子は、結合するとより安定な状態になるため、重さをΔMだけ減らして原子核をつくります。この時ΔMc2に相当するエネルギーが余るので放出します。エネルギー的に考えると、陽子と中性子が核力によって結合して原子核を作っている状態はエネルギー的に低い状態、陽子と中性子がバラバラになっている状態はエネルギー的に高い状態です。

 重水素(D:陽子1個、中性子1個)と三重水素(T:陽子1個、中性子2個)の核融合反応を例に考えます。重水素の原子核と三重水素の原子核が核融合反応(DT核融合反応)を起こすと、高速のヘリウム4(He4:陽子2個、中性子2個、アルファ粒子と呼びます)と中性子(n)が発生します。このDT核融合反応を2つの過程に分けて考えます。すなわち、

  1. 重水素の原子核と三重水素の原子核にエネルギーを加えて、これらがバラバラの陽子2個と中性子3個になる過程と、
  2. (2)バラバラの陽子2個と中性子3個が集まり、エネルギーを放出してヘリウムの原子核と中性子になる過程です。

 ここで重水素、三重水素、ヘリウムの重さをそれぞれ、Md、Mt、Mhとすると、原子核は核子がバラバラの状態よりもエネルギーが低い状態で、重さも軽いという先ほどの話から、
 Md+Mt<2Mp+3Mn(陽子2個と中性子3個の重さ)
 Mh+Mn<2Mp+3Mn
となります。

 しかしながら、これらの重さの変化分(質量欠損分)
 ΔM(1)=(2Mp+3Mn)-(Md+Mt):DとTをバラバラにするエネルギー
 ΔM(2)=(2Mp+3Mn)-(Mh+Mn):He4をバラバラにするエネルギー
は、同じではありません。実は、
 ΔM(2)>ΔM(1)
となっています。

 すなわち、ヘリウム4の原子核と中性子の重さの合計は、重水素と三重水素の原子核の重さの合計よりもずっと軽く(よりエネルギー的に低い状態)、重水素と三重水素の核融合反応でヘリウム4と中性子が発生した場合には、ΔM(2)-ΔM(1)(質量欠損)に相当するエネルギー(結合エネルギーの差)が余ってしまいます。このエネルギーが、発生したヘリウム4と中性子の運動エネルギー(スピード)として現れ、それを熱エネルギーとして利用して(例えばタービンを回して)発電するのが、核融合反応を利用した発電です。

 最初に述べましたように、エネルギー保存則のため、原子核の結合エネルギー(エネルギーの総和を考える場合には原子核がエネルギー的により高い状態かより低い状態かが問題になるので、符号をマイナスにして計算する。すなわち大きい結合エネルギーはエネルギー的に低い状態にある原子核で、小さい結合エネルギーはエネルギー的に高い状態にある原子核)および、原子核や中性子などの運動エネルギー、更に、反応に伴ってガンマ線などの放射線が出る場合にはそのエネルギーなど、すべての種類のエネルギーを考慮すると、核融合反応が起こった前後ではエネルギーは保存されています。これらのエネルギーの中で利用できるのは、核融合反応で原子核の結合エネルギーが変化したことによって変化する運動エネルギーの量なので、これが増加するか減少するかが問題になります。

 ここで、核融合反応では必ずしもエネルギーが放出されるわけではないことに注意する必要があります。例えば、軽水素(H:陽子1個、中性子0個)と三重水素の核融合反応では、ヘリウム3(He3:陽子2個、中性子1個)と中性子が発生しますが、これは外からエネルギーを与えてやらないと起こらない反応です。これは、もともとヘリウム3の原子核がエネルギー的に高い状態である(結合エネルギーが小さい)ためです。核融合反応で(運動)エネルギーが発生するか否かは、あくまでも、核融合反応が起こる後と前の原子核の全結合エネルギーの差がゼロより大きいか(エネルギーを外に出す)、ゼロより小さいか(エネルギーを外からもらう)にかかっているのです。

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Q 04:高温プラズマを磁力線のかごを作って、閉じ込めて置くというようなことが、パンフレットに書かれていました。その理論や磁力線の構造などについて教えて下さい。

A 04:JT-60のような実験装置を用いて核融合反応を発生させるためには、重水素等の燃料を加熱してプラズマ状態(重水素原子がバラバラになって原子核(イオン)と電子が自由に運動している状態)にし、これを数千万度〜数億度という超高温の状態に保持することが必要となります。
 ところが、このような超高温の状態では、プラズマを構成しているイオンや電子のスピードは半端ではありません。例えば1億度のプラズマの場合には、プラズマ中のイオンは秒速910キロメートル(東京・福岡間の直線距離)、電子にいたっては、秒速5万5千キロメートル(赤道1.4周分の距離)のスピードで飛び回ります。(電子の方がはるかにスピードが速いのは、電子の重さが重水素イオンの重さの約3,700分の1しかないからです。)このような猛スピードを持つ高温プラズマを、高々数メートルの大きさしかない容器に閉じ込めようとするのですから、工夫が必要となります。
 それを解決する鍵は、プラズマが持っている電気にあります。プラズマでは、イオンはプラスの電気を、また電子はマイナスの電気を帯びていますが、電気を持った粒子は、磁力線(磁場)があると、それに巻き付きながら進むという面白い性質があります(図1[その他のファイル/6.6KB])。従って、ドーナツ状(これを「トーラス」と呼びます)のプラズマを作って、その中に端のない環状の磁力線を通してやると(図2[その他のファイル/13KB])、どんなに猛スピードを持っていても、イオンや電子は磁力線に巻き付きながら磁力線上を永久に回り続けます。メデタシメデタシと、言いたいところですが、一つ落とし穴があります。
 環状の磁力線に巻き付きながら運動するイオンや電子は、トーラスに沿って進む際に常に遠心力を感じながら運動することになりますが、イオンと電子は持っている電気がプラス・マイナスで異なっているので、遠心力の感じ方も異なっています。このため、次第にイオンがトーラスの上部に集まると同時に、逆に電子はトーラスの下部に集まるといったように、イオンと電子がトーラスプラズマの内部で別々のグループを形成するようになります(図3[その他のファイル/8.6KB])。異なった電気を持ったグループが別々の場所に集まるのですから、グループ同士の間で電場が発生します。このような上下方向の電場があると、電場と磁場の力でプラズマはトーラスの外に出ていってしまいます。
 電場が発生すれば、プラズマが逃げるというのであれば、発生した電場を消してしまえば良いわけです。イオン(プラス)と電子(マイナス)が別々の場所に溜まろうとするのを防ぐには、これらをショートさせれば良いわけです。電気を持った粒子は、磁力線に沿って動くことができるので、環状の磁力線をちょっとひねってやって、トーラスの上部と下部が繋がるような磁力線の形状(トーラスに沿って螺旋状に巻き付く磁力線)にしてしまえば、簡単にショートしますので電場は発生しません(図4[その他のファイル/18KB])。
 JT-60のような「トカマク」と呼ばれる核融合実験装置では、トロイダルコイルに通電することによってによってトロイダル磁場(トーラスに沿った磁場)を、またプラズマ内部に電流を発生させ(これをプラズマ電流と呼びます)ることにより、ポロイダル磁場(トーラスに巻き付く方向の磁場)を発生させています。トロイダル磁場とポロイダル磁場が合わさると、螺旋状の磁力線のかごができますので、これでプラズマを閉じ込めることができるのです。

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Q 05:プラズマを閉じ込めるための磁場はトロイダルコイル電流とプラズマ電流によってできるのに、ポロイダルコイルが存在するのはなぜですか?
また、壁の洗浄とポロイダルコイルの関係について教えて下さい。

A 05:トカマクにおいて真空容器の回りに多数配置されているポロイダルコイルは、それぞれが以下のような異なった仕事を分担しています。

  1. プラズマを発生させる
     プラズマを発生させる方法の1つに、気体の放電現象を利用する方法があります。核融合プラズマの原料は水素ガスで通常は絶縁体ですが、これに強い電場をかけると絶縁が破壊されてガスが電子とイオンに解離してプラズマが生成します(ネオンサインや積乱雲の雷を思い浮かべて下さい)。
     JT-60のようなトカマク型の核融合装置では、ドーナツ型をした真空容器の軸に沿った方向に電場を発生させてプラズマを発生させています。やり方は、ポロイダルコイルに流れている電流を急激に変化させることにより、コイル電流が作る磁場を急激に変化させて、電磁誘導の原理によりトロイダル方向(トーラス方向)の電場を発生させます。なお、プラズマを発生させる方法としてはコイルによる方法のほかに、高い周波数の電磁波(電子サイクロトロン波)を入射する方法もあります。

  2. プラズマ電流を発生させる
     JT-60のようなトカマク型の核融合装置では、プラズマ電流は磁力線の「かご」を作るのに不可欠ですので、プラズマが発生している間は何らかの形でプラズマを電流を発生させておく必要があります。プラズマはある有限な値の電気抵抗を持っているので、プラズマ電流を一定の値に保つためには、(電圧)=(プラズマ電流)×(プラズマ抵抗)に相当する電場を発生させ続けます。電場は1.で述べたように、コイルに流れている電流を変化させることにより発生しています。
     但し、コイルに流せる電流には上限値があるので、JT-60の放電時間(15秒間)よりずっと長い時間にわたってコイルに流れている電流を変化させ続けることは不可能です。このためJT-60ではコイルを用いないプラズマ電流の発生方法も研究中です。

  3. プラズマの位置を調節する
     プラズマ内にはプラズマ電流が流れていますから、プラズマの周りに置かれたコイルの電流との相互作用で、引力(プラズマ電流とコイル電流が同方向の場合)や斥力(反対方向の場合)が生じます。各々のコイルの電流を個別に操作することによって、プラズマと真空容器との距離を調整します。
     JT-60では、高速の中性粒子ビームをプラズマに入射したり、高い周波数の電磁波を真空容器壁のアンテナからプラズマに入射して、プラズマを加熱していますが、プラズマの位置を調節することによって、中性粒子ビームがプラズマの中心部を通るようにしたり、電磁波がアンテナからプラズマに入りやすくなるようにして実験研究を進めています。

  4. プラズマの形を整える
     食べるドーナツの断面はふつう円形になっていますが、ドーナツ状のプラズマの断面は円形だけではなく、おむすび型や三日月型(ブーメラン型)にする場合があります。これは、プラズマ電流とコイルの電流の引力・斥力を用いてわざとそのように変形させているのですが、その理由はおむすび型や三日月型のプラズマ断面にすると、円形断面よりも大きいプラズマ圧力を支えることができるからです。
     プラズマは磁力線のかごで保持すると述べましたが、プラズマを詰め込みすぎると(プラズマの圧力が大きすぎると)、磁力線のかごは破れてプラズマが保持できなくなってしまいます。つまり磁力線のかごも耐圧の上限値があるわけですが、おむすび型や三日月型のプラズマ断面にすると上限値を増加させられるので、より高温・高密度で実験研が可能になります。JT-60では、通常プラズマ断面をおむすび型にして実験を行っています。

 以上のように、ポロイダルコイルは色々な働きがあります。
 壁の洗浄とポロイダルコイルについては、3.に述べましたように、ポロイダルコイルによってプラズマと第一壁とのクリアランスを十分にとって、不純物の混入を防いでいる、ということです。
 補足説明ですが、壁の放電洗浄では高圧放電・低圧放電といろいろな放電を行いますが、要するに短パルス(通常1秒程度以下)のプラズマ放電を繰り返し行って、スパッタリングで第一壁に付着している炭素や酸素などの不純物を叩き出すことです。(さらにそれを真空ポンプで排気する)従って、放電洗浄では、プラズマ制御のためにポロイダルコイルに電流を流しています。
 また、JT-60では、通常のプラズマ放電(放電時間15秒)において、プラズマ柱の中心を時計回り(もしくは反時計回り)に移動しながら、プラズマの表面が第一壁を舐めるような運転を行って、第一壁の洗浄を行うこともあります。

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Q 06:JT-60のコイルの働きは、プラズマを制御する以外に何かあるのですか?

A 06:JT-60のコイルの働きはプラズマの制御を含めて、大きく分けると以下のようになっています。

  1. 高温のプラズマを第一壁・真空容器から浮かせて保持する
     これがコイルの一番重要な働きです。JT-60のプラズマは中心部で最高5億2千万度、プラズマの周辺部で数万〜数十万度ありますので、第一壁(真空容器の内側に置かれた保護壁でJT-60では約1万枚のタイルになっている)に直接長時間接触していると、第一壁が溶けてしまいます。
     そこで、プラズマを構成している粒子(電子とイオン)が電気を帯びていて、このような帯電粒子が磁力線に巻き付きながら進むのを利用して、コイルの電流とプラズマ内を流れている電流(プラズマ電流)が作る磁力線で、エンドレスの螺旋状の磁力線の「かご」を第一壁から浮かせて作って、高温のプラズマが逃げないようにします。プラズマ電流については、3.もご覧下さい。

  2. プラズマを発生させる
     プラズマを発生させる方法の1つに、気体の放電現象を利用する方法があります。核融合プラズマの原料は水素ガスで通常は絶縁体ですが、これに強い電場をかけると絶縁が破壊されてガスが電子とイオンに解離してプラズマが生成します(ネオンサインや積乱雲の雷を思い浮かべて下さい)。
     JT-60のようなトカマク型の核融合装置では、ドーナツ型をした真空容器の軸に沿った方向に電場を発生させてプラズマを発生させています。やり方は、プラズマの周りのコイルに流れている電流を急激に変化させることにより、コイル電流が作る磁場を急激に変化させて、電磁誘導の原理により電場を発生させます。
     なお、プラズマを発生させる方法としてはコイルによる方法のほかに、高い周波数の電磁波を入射する方法もあります。

  3. プラズマ電流を発生させる
     JT-60のようなトカマク型の核融合装置では、プラズマ電流は磁力線の「かご」を作るのに不可欠ですので、プラズマが発生している間は何らかの形でプラズマを電流を発生させておく必要があります。プラズマはある有限な値の電気抵抗を持っているので、プラズマ電流を一定の値に保つためには、(電場)=(プラズマ電流)×(プラズマ抵抗)に相当する電場を発生させ続けます。電場は2.で述べたように、コイルに流れている電流を変化させることにより発生しています。
     但し、コイルに流せる電流には上限値があるので、JT-60の放電時間(15秒間)よりずっと長い時間にわたってコイルに流れている電流を変化させ続けることは不可能です。このためJT-60ではコイルを用いないプラズマ電流の発生方法も研究中です。

  4. プラズマの位置を調節する
     プラズマ内にはプラズマ電流が流れていますから、プラズマの周りに置かれたコイルの電流との相互作用で、引力(プラズマ電流とコイル電流が同方向の場合)や斥力(反対方向の場合)が生じます。各々のコイルの電流を個別に操作することによって、プラズマと真空容器との距離を調整します。
     JT-60では、高速の中性粒子ビームをプラズマに入射したり、高い周波数の電磁波を真空容器壁のアンテナからプラズマに入射して、プラズマを加熱していますが、プラズマの位置を調節することによって、中性粒子ビームがプラズマの中心部を通るようにしたり、電磁波がアンテナからプラズマに入りやすくなるようにして実験研究を進めています。

  5. プラズマの形を整える
     食べるドーナツの断面はふつう円形になっていますが、ドーナツ状のプラズマの断面は円形だけではなく、おむすび型や三日月型(ブーメラン型)にする場合があります。これは、プラズマ電流とコイルの電流の引力・斥力を用いてわざとそのように変形させているのですが、その理由はおむすび型や三日月型のプラズマ断面にすると、円形断面よりも大きいプラズマ圧力を支えることができるからです。
     プラズマは磁力線のかごで保持すると述べましたが、プラズマを詰め込みすぎると(プラズマの圧力が大きすぎると)、磁力線のかごは破れてプラズマが保持できなくなってしまいます。つまり磁力線のかごも耐圧の上限値があるわけですが、おむすび型や三日月型のプラズマ断面にすると上限値を増加させられるので、より高温・高密度で実験研が可能になります。JT-60では、通常プラズマ断面をおむすび型にして実験を行っています。

  6. 燃料水素以外の物質をプラズマから取り除く
     JT-60の実験では、プラズマ中には燃料になる水素の他に、核融合反応で発生したヘリウムや第一壁の表面から混入した炭素・酸素・金属などの不純物が含まれています。磁力線のかごを余り完璧なものにしてしまうと、これらの厄介者がプラズマ内に居座ってしまうので、退場口も用意する必要があります。
     プラズマ内では、ヘリウムや不純物もプラズマ状態になっている(電気を持っている)ので、かごの1ヶ所から真空容器に向けて磁力線を伸ばして(これを「足」と呼んでいます)、磁力線に沿ってヘリウムや不純物がプラズマの外に出られるようにしています。この足となる磁力線は、JT-60の場合真空容器の下方に置かれたコイルで作っています。このコイルは特にダイバータコイルという名前を持っています。

  7. その他
     JT-60ではありませんが、その昔アメリカのATCというトカマク装置では、4.と5.の働きを利用して、短時間でプラズマを圧縮(ドーナツの形は保ったまま)して、プラズマの温度を増加させる実験を行っていました。これは、ディーゼルエンジンで空気を圧縮して、軽油が自然点火する温度を得ているのと同じ原理です。
     以上のコイルの働きはJT-60を含むトカマク型の核融合装置に共通するものです。

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Q 07:核融合では燃料にトリチウムを使用してますが、トリチウムは水素ですから金属壁も簡単に通過してしまうのでないでしょうか?
もしトリチウムが壁を通過したなら、自然環境中で水になって生物体に食物連鎖的に吸収されてしまうのでないでしょうか?

A 07:ご指摘の通り、トリチウムは水素の仲間(同位体)ですから、基本的には水素と似た金属透過の性質を持っています。しかしながら、水素は金属透過しやすいとはいえ、透過の度合いは温度や用いる金属の材質に依存します。例えば、常温では水素はボンベに高圧で詰めて保管しても問題ありません。ITERでは、トリチウムを閉じ込める機器の材料はステンレス鋼で、その温度はほとんど室温なので透過が問題になることはありません。

 さて、トリチウムは既に太古の昔から微量ではありますが、自然界に広く存在しています。宇宙線が大気と衝突することにより、1年間に200g程度のトリチウムが地球上で生まれてます。トリチウムは半減期12.3年でベータ崩壊してヘリウム3に変わり、なくなって行くので、発生と消滅のバランスで常時地球上に存在する「天然」のトリチウム量は3kg程度です。

 このようにして生まれたトリチウムは、水素と同様に環境中を動き回り、時間とともに減衰(崩壊)しながら地表から深地下水、深海へと拡散して行きます。即ち、水素のあるところには必ず微量ながらトリチウムが存在しています。現在、表層の海水や飲料水には、地域差はあるものの1リットルあたり1ベクレル程度(1ベクレルはベータ崩壊してヘリウム3に変わるトリチウムの数が1秒間に1個である量)のトリチウムが必ず含まれています。トリチウムは水素の仲間なので、水素と同じように振る舞い、当然、体内にも入っています。人間の体のかなりの部分は水であるので、人間1人あたりのトリチウム保有量は数十ベクレル程度あります。

 体内に取り込まれたトリチウムは、いずれは新陳代謝によって体外に排出されます。体内からの排出速度は、水の形のままの場合だと、だいたい10日で半分排出され、組織に取り込まれた場合には組織の部位によって差がありますが、平均すると40日で半分排出されるようです。トリチウムは水に必ず含まれ、食物でなくても飲料水および尿、汗として体内と外界を出たり入ったりしますので、体内で濃縮することはありません。これは、ダイオキシンのように一旦体内に取り込んでしまうと体外に排出されにくいもの(溜まって行く一方のもの)が、食物連鎖を通じて次第に高濃度になって行くのとは全く状況が異なっています。

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Q 08:核融合発電所をつくるにあたって、暴走あるいは爆発の危険はありませんか、またその理由は何ですか?

A 08:まず結論から言いますと、核融合反応は連鎖反応ではないから暴走あるいは爆発の危険はありません、ということになります。
 核融合反応では、プラズマを構成する重水素と三重水素が結びついて高エネルギーのヘリウム(アルファ粒子)と中性子ができます。アルファ粒子は炉心プラズマを暖め温度を維持する役割を果たした後ヘリウム灰として排気され、中性子はプラズマの外に取り出してそのエネルギーを熱に変換、電気を発生します。どちらも次のステップの核融合反応に直接には係わりませんので、ねずみ算式に一気に反応が進むことはなく、したがって爆発ということもありません。

 では、核融合炉の運転中に機器が故障したりした場合、さらに危険なことに進展しないか、について考えてみます。炉心プラズマは真空容器内でその内壁から浮かせた状態で発生させるわけですが、例えば、何らかの理由でプラズマが真空容器の内壁に触れると内壁タイルの材質が不純物として混入、プラズマを冷却して反応を抑制する方向(安全な方向)に働きます。また仮に真空容器が壊れた場合を考えてみても、この場合真空度が急激に悪くなることから、やはり反応は抑制される方向に向かいます。このように、核融合には他のシステムにはない固有の安全性があります。

 もう一つ重要なのは、プラズマに貯えられているエネルギーや燃料は非常に少ないということです。例えば、現在設計が進められている国際熱核融合実験炉ITERは核融合出力400メガワットほどですが、そのときのプラズマが持っている熱エネルギーは400メガジュールくらいです。これは家庭用のお風呂を15~16回程度沸かすときに必要な程度のエネルギーです(200リットルの浴槽の水を15Cから45Cに暖めることを想定しました)。また、燃料となるプラズマ自身の重さも0.5グラムと軽いものです(実際、プラズマといっても一般の感覚からは真空状態といっても良く、単位体積に含まれる粒子の数は大気中の百万分の一のオーダーです。)実際の核融合発電所ではこの数倍の規模になりますが、いずれにしてもある限られた空間に一度に多大な燃料が貯えられているわけではありませんので潜在的な危険性は非常に小さいと言えます。

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Q 09:将来の実験炉や原型炉では、燃料に重水素DとトリチウムTを用いるようですが、重水素Dだけとか、あるいは、軽水素Hのみで核融合を起こすことは困難でしょうか。
もし困難なら具体的にどう困難なのですか?
軽水素Hなら燃料が無限にあって理想なのですが。

A 09:(a)水素を用いた核融合反応は多種多様です
 まず、水素同士の核融合反応は、重水素DとトリチウムTの反応(これをDT核融合反応と呼んでいます)だけではなく、重水素D同士の反応(DD核融合反応と呼んでいます)や軽水素H同士の反応もあります。
 JT-60では、燃料の水素としてトリチウムを使うことができませんので、重水素もしくは軽水素を用いて高温プラズマを生成し実験を行っていますが、重水素プラズマでは、プラズマ温度が高くなると重水素同士が核融合反応を起こし始めます。これらは
D + D -> He (ヘリウム) + n (中性子) D + D -> T (トリチウム) + p (高速のH)
という2種類の反応で、両者はほぼ等しい確率で起こります。
 また、宇宙に目を向けると主系列の恒星のうち温度が約1,800万度以下の恒星(太陽もこの仲間に入ります)では、「p-p連鎖」と呼ばれる軽水素同士の核融合反応から始まる一連の核融合反応が起こっています。p-p連鎖では4個の軽水素から1個のヘリウムが作られ、恒星のエネルギー源になっています。

(b)核融合反応の起こり易さも多様です
 軽水素のみで核融合炉が実現できれば、燃料取得の点から考えても理想的です。しかしながら、核融合反応の起こり易さは水素の種類によって大きく異なっており、恒星のp-p連鎖の最初の反応である軽水素同士の核融合反応の起こる頻度は極端に低いのです。
 太陽の中心部は温度が1,600万度、密度が1立方センチ当たり160g、圧力が2,400億気圧という非常に高温・高密度・高圧力の状態におかれていますが、ここで起こっている軽水素同士の核融合反応の発生頻度は1個の軽水素あたり約100億年に1回という、恐ろしい遅さです。別の見方をすると、これだけ核融合反応のスピードが遅いので、これまで46億年の長きにわたって太陽が燃え続けられたのです。
 従いまして、軽水素同士の核融合反応を利用して発電所を作るのは不可能です。DD反応の方がはるかに核融合反応が起こり易いのですが、それでもDD反応を利用した発電所が成立するために必要なプラズマの条件は、温度が10億度程度、密度が現在のJT-60の10倍以上という厳しいものです。そこで、現在建設に向けて協議が進んでいる国際熱核融合実験炉ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor:イーター)では、DD反応よりも約100倍核融合反応が起こりやすいDT反応を利用して実験を行うことになっています。この場合、プラズマの温度は数億度ですむので(JT-60では5.2億度という実績があります)、現在の核融合研究の成果から無理なく到達することが可能だと考えています。

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Q 10:核融合に伴う電磁波や荷電粒子の軌道変更によっての軌道放射光などはどのようにして、遮へいしてるのですか?

A 10:電子やイオンなどの電荷を持った粒子が運動する際に、その軌道が曲げられる(加速度を感じる)と、粒子が持っていたエネルギーの一部を光(電磁波)のエネルギーとして放出します。このような荷電粒子のエネルギー損失を放射損失と呼んでいます。

 放射損失は、物質の原子核の電荷によるクーロン力(電場の力)で加速を受ける場合と磁場の力で加速を受ける場合があり、前者を制動放射、後者をシンクロトロン放射と呼んでいます。シンクロトロン放射は放射光とも呼ばれ、特に光の速度近くまで加速された電子が磁場によって加速を受ける場合に発生する光のことを指しています。(電子のスピードが遅い場合にはサイクロトロン放射と呼んでいます。)

 JT-60のようなトカマクのプラズマでは、イオンのスピードは電子のスピードに比べてはるかに遅く、また電子のスピードも光の速度の1/5程度(1億度の場合)しかありません。従いまして、電子からサイクロトロン放射が発生しています。サイクロトロン放射の強度は温度とともに大きくなるので、JT-60ではサイクロトロン放射の強度から電子の温度を評価しています。

 JT-60クラスの実験装置から発生するサイクロトロン放射の強度は微弱で、プラズマから損失するエネルギーの1%にもなりません。(プラズマからのエネルギー損失のほとんどは、プラズマ中心部と表面の温度差による熱伝導によって生じています。)また、放出されるサイクロトロン放射も、波長は最短の場合(最高のエネルギーの場合)でも数マイクロメートルの赤外線領域にあり、容易に遮蔽できます。

 むしろ、遮蔽に関して考慮すべきなのは、(1)D-D核融合反応によって生じる中性子、(2)中性子が装置ならびに周辺の物質と反応して発生するガンマ線、(3)プラズマが短時間で消滅する際に発生する高速電子が第1壁(真空容器の内側に貼っているタイル)に衝突して発生するX線などですが、JT-60における金属製の真空容器と建物の壁(厚さ2mのコンクリートとポリエチレン)で容易に遮蔽できます。

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Q 11:水(流水)に磁場をかけた場合、物理化学的な反応は起きますか?

A 11:物理的な反応としては、水の反磁性に基づく反発作用、水に溶けた荷電粒子に対するクーロン力による作用、などが考えられます。化学的な反応としては、水分子クラスターサイズの変化により化学的性質が変化するという説があります。以下、簡単にまとめてみました。

水分子の形
 水分子は酸素原子1個と水素原子2個が共有結合によって結びついてできています。その結びつきの形は、やじろべえのように「への字」形になっていて、やじろべえの頭の部分に酸素原子、2本の手の先にそれぞれ1個ずつの水素原子が配置されています。分子としては電気は帯びていませんが、細かく見ると酸素の周りには電子が多くマイナス電荷の状態に、水素の周りには電子が少なくプラス電荷の状態に、といったふうに電荷がかたよって存在しています。そのため電気的には、両端にプラスとマイナスの電荷がついた一本の棒のように簡略化して考えることができます。これを永久電気双極子といいます。

水と電場
 磁場の作用の話に入る前にまず電場の作用について見てみましょう。ここでは、流水(水道の蛇口から流れ落ちる水など)に静電気を帯びた物体Aを近づけた場合を考えることにします。最初に何もしない場合ですと、個々の水分子は乱雑に運動していて電気双極子の向きも揃っていません。そのため電気双極子の電荷は打ち消され流水は電気的には中性状態のままです。しかし、物体Aを近づけると、電気双極子が回転し、その棒の方向が静電気がつくる電場の向きに整列するようになります。これは、方位コンパスの針が回転して地球の磁場の向きに揃うことと似ていますね。そうしますと、流水の表面に静電気と逆符号の電荷が現れ(分極)、静電気と引きつけあう結果、流水が物体Aの方向へ曲がるようになります。

鉄の磁性
 次に鉄と磁場について考えます。鉄は磁石に引きつけられますが、これは鉄原子が永久磁気双極子を有していることによります(永久磁気双極子は原子内の電子のスピン配列が基になっています)。永久磁気双極子はミニ棒磁石にたとえることができ、やはり普段はめいめいが勝手な方向を向いています。ここで外から磁石を近づけると、先ほどの方位コンパスの例と同様、磁石がつくる磁場の向きに鉄原子の永久双極子がきちんと整列するようになります。この性質のことを強磁性といいます。そのため磁石に近い側には磁石と反対の極性が現れ引きつけられるわけです。

水と磁場
 ところで、水の場合ではどうでしょうか?水分子には永久磁気双極子はありません。ですから磁石(磁場)に対して鉄の場合のような変化が起こることは無さそうに思えます。しかし、水を含めて一般の物質には反磁性と呼ばれる性質があります。これは外から磁場を与えると、その磁場の向きと反対方向の磁場をつくるように分子内の電子軌道が変化する性質です。従って、磁石を水に近づけると、同じ極性どうしの磁石が反発しあうように、磁石から遠ざかるように水が動くことが予想されます。しかし、反磁性の作用はとても弱いので、このような効果を見るには実験方法を工夫をするとか、または非常に強力な磁石を使用する必要があります。

荷電粒子に働く力
 次に、水中に溶けている電気を帯びた粒子(荷電粒子)、ここではイオンに注目してみましょう。イオンとは、電気的に中性だった原子が、電子のやりとりをしてプラス(電子を手放す)またはマイナス(電子を取り込む)の電荷を帯びるようになったものをいいます。水の中にはいろいろな不純物が溶け込んだりしていますが、その一部はイオンの状態になっているものもあります(身近な例では食塩水があります。食塩(塩化ナトリウム)は水の中では塩素イオン(プラスイオン)とナトリウムイオン(マイナスイオン)に分かれた状態で溶けています。)。このような不純物があると水(水溶液)の導電性が増します。ところで、一般に荷電粒子が磁場中を横切るように動くとローレンツ力と呼ばれる力が働きます。この力の大きさは動く速さと磁場の強さの積に比例し、力が働く方向は運動の方向と磁場の方向のそれぞれに直交する方向(フレミングの左手の法則で決まる方向)となります(この原理を応用したものに電気モーターがあります)。また、電荷の符号が逆になると力の向きも反対方向となります。
 今、流水中のイオンは流水の流れる方向に動いているとして、流水の流れる方向に直交して磁場をかけるとどうなるでしょうか?そう、流水中のプラスイオンに力が働いて例えば右方向にプラスイオンが移動するとすれば、マイナスイオンは反対の左方向に移動することになります。このこと自体電荷の移動ですから水中で電流が流れたといえるわけですが、同時に右側と左側で電位差、すなわち起電力が発生しますので、電線をつなぐと外部にも電流を取り出すことができます(実際に、導電性の高速ガス流やプラズマ流にこの原理を適用したMHD発電のアイデアがあります)。

水の化学的性質の変化
 さて、流水に磁場をかけることで水の化学的な性質を変化できるという報告があります。一般に、水中の水分子は単独で存在しているのではなく、いくつかの分子が集合していわゆるクラスター状となっていますが、磁場をかけるとそのクラスター1個1個の大きさが小さくなり(ひとつのクラスターを構成する水分子の数が減る)、水の化学的性質も変化するとの説があります。その変化の原因はまだきちんと解明されてはいないそうですが、上でお話ししたクーロン力の水分子クラスターへの作用やイオンの挙動などが重要なファクターの一つとして挙げられています。

参考文献
 入手が容易と思われる書籍をいくつか下に記します。
 「水とはなにか」
 上平 恒/著、講談社ブルーバックス(1997年)
 「おもしろい水のはなし」
 久保田昌治/著、日刊工業新聞社(1994年)
 「磁石のはなし」
 谷腰欣司/著、日刊工業新聞社(1996年)
 「コロンブスより上手な卵の立たせ方」
 ガリレオ工房/著、河出書房新社(1996年)

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Q 12:数万度の温度のプラズマを閉じ込める容器としての耐熱材料ありますか?

A 12:(1)高温プラズマを磁場で壁から浮かして保持している、(2)プラズマの粒子密度が非常に低い、という2つの理由により、壁の温度は将来の核融合炉でも高々摂氏1,000度程度です。
 JT-60プラズマの温度は中心部で最高5億2千万度、周辺部で数百万度〜数千万度もあります。そこで、コイルの電流とプラズマ内を流れている電流が作る磁力線で、エンドレスの螺旋状の磁力線の「かご」を第一壁(真空容器の内側に置かれた保護壁)から浮かせて作り、プラズマを構成している電子や水素イオンなどの荷電粒子が磁力線に巻き付きながら進む性質を利用して、荷電粒子が外に逃げないようにし、高温のプラズマが第一壁と直接接しないような構造にしています。

 第一壁と第一壁から浮かせた高温プラズマとの間には、「ダイバータプラズマ」と呼ばれる、やや温度の低いプラズマが存在しています。第一壁と直接接しているのはこのダイバータプラズマです。ダイバータプラズマも温度が数万度〜数十万度ありますが、ダイバータプラズマの熱容量が小さいので第一壁は簡単には溶解・蒸発しません。これはダイバータプラズマの粒子密度が1立方センチ当たり高々100兆個(1.0E14個)程度しかなく、1気圧で摂氏20度の空気の密度(1立方センチ当たり2.9E19個)と比べるとはるかに少なく希薄であるためで、プラズマの温度が高くても、第一壁を溶解・蒸発させるまでには至りません。これは丁度、粒子密度の高い水で摂氏100度では大やけどですが、粒子密度の低いサウナでは摂氏100度でも大丈夫、という事と同様です。「温度」とは、粒子の動きの激しさ(気体なら運動のスピード)を表す指標であり、壁や人の体に与える熱としての影響は、(粒子密度)×(温度)で表されます。

 プラズマからの熱を特に多く受ける部分をダイバータ板と呼んでいますが、JT-60ではダイバータ板は炭素繊維複合材でできています。このダイバータ板の温度は最高でも摂氏1,000度程度で、耐熱という観点からは全く問題はありません。

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Q 13:ローソン図において臨界条件や自己点火条件に必要な密度(n)×閉じ込め時間(τ)が30keV付近で最小になり、それより高くても低くてもnτが大きくなる理由は何ですか?

A 13:重水素Dと三重水素Tが反応するとき、まず複合核5He*(*:励起状態)が作られますが、5He*のエネルギー準位と反応前のDとTのエネルギーが近いと共鳴的に断面積が大きくなります。
D + T -> 5He* -> 4He + n +17.6 MeV
これは複合核の共鳴現象と呼ばれますが、あるエネルギー幅(共鳴幅)で核融合反応断面積がピークを持ち反応が起こりやすくなるため、そこでは臨界条件や自己点火条件などが最小となるわけです。
 JT-60等のトカマクにおけるローソン図はこちら[その他のファイル/15KB]の通りです。

参考文献:
「宇宙物理学」高原文郎 朝倉書店(1999年)
「原子核物理入門」鷲見善雄 裳華房(1997年)
「核融合とプラズマの制御・上」 内田岱二郎、井上信幸 東京大学出版会(1980年)

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Q 14:JT-60の実験報告で、QDDとかQDTとかありますが何ですか。Q値と関係ありそうですが。

A 14:QDDもQDTもQ値のことです。Q値=(核融合反応で発生したエネルギー)/(プラズマを加熱するのに費やしたエネルギー)ですが、QDDは重水素同士のDD核融合反応で発生したエネルギー、QDTは重水素と三重水素のDT核融合反応で発生したエネルギーを用いて評価したQ値であることを表しています。
 JT-60において重水素を用いた実験で得たQDDの最高値は0.0057です。JT-60では、燃料の水素としてトリチウムを使わないので、実験的にはQDTの値はないのですが、燃料の重水素の半分がトリチウムに置き換わったと仮定して、実験で得られたプラズマ温度と密度の下で、DT核融合反応がどの程度起って発生するエネルギーがどれくらいかを計算で評価することができます。JT-60において、このようにして評価した(等価的な)QDTの最高値は、1.25です。

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Q 15:慣性閉じ込め核融合の高速点火についてなのですが、なぜ、高速でなければいけないのですか?

A 15:制御核融合の研究は大きく分けて、JT-60のような強力な磁場を用いた磁場閉じ込め核融合と、高出力レーザーを用いた慣性核融合になります。
 慣性核融合では、重水素と三重水素の混合水素ガスを重水素と三重水素の固体で覆った、中空の球状ターゲット(直径は数百ミクロン)の周りから強力なレーザーを照射して、ターゲット表面部を超高圧(数千万気圧)にします。この圧力でペレットは内向きに圧縮されます(1立方センチ当たり1kgと太陽の中心部よりも比重が大きくなります)。これを爆縮と呼んでいます。ターゲットの密度が高いため、レーザー自体はターゲットの表面までしか届きません(表面だけを照射します)。

 爆縮過程では、なるべくターゲットの温度を上げないように、ゆっくりターゲットを圧縮する必要があります。なぜなら、ターゲットの温度が上がると膨張する力が発生するため、爆縮しづらくなるからです。爆縮が進むにつれて、ターゲット中心部の混合水素ガスが圧縮され温度が上昇します。最終的には中心部の混合水素ガス(この部分を爆縮コアと呼んでいます)が超高温(数億度)になり核融合反応が起こります。核融合反応が起こるとアルファ粒子(高速のヘリウム原子核)が放出され、それが周りの重水素と三重水素の固体を加熱し、核融合が連鎖的に発生するようになります。以上が、従来からの慣性核融合のシナリオで、これを「中心点火」方式と呼んでいます。中心点火に用いるレーザーのパワーは数10テラワット(1テラワットは1兆ワット)、爆縮から点火が起こるまでの時間は大体1ナノ秒(1ナノ秒は10億分の1秒)です。

 一方、「高速点火」方式と呼んでいる新しいタイプの慣性核融合では、爆縮コアが形成された時に、さらに高強度の極短パルスレーザを照射します。このレーザーのパワーは約1ペタワット(1ペタワットは1千兆ワット)、レーザーの照射時間は1ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)です。このレーザーもターゲットの表面までしか届きませんが、パワーが強いのでレーザー照射に伴って高エネルギー電子が生成され、これがターゲットの爆縮コアを加熱して核融合反応が起こります。

 自動車のエンジンにたとえるなら、さしずめ「中心点火」は断熱圧縮で点火するディーゼルエンジン、「高速点火」はスパークプラグで点火するガソリンエンジンといったところです。

 高速点火方式は、従来の方式に比べるとレーザーのエネルギーが少なくてすむため(パワーは大きいが時間がごく短いので)、コストが安くなるという利点があります。しかしながら、「高速点火」方式では、爆縮コアが保持されている短時間(数100ピコ秒)のうちに極短パルス超強度レーザーを入射して加熱する必要があり、そのようなレーザーの開発が難しかったので、高速点火の原理を実証する研究が始まったのは1999年ころからです。

 慣性核融合の研究を専門的に行なっている大阪大学レーザーエネルギー学研究センター(ホームページは、)のプラズマ実験部において高速点火の研究を行っていますので、詳細についてはそちらにお問い合わせ下さい。

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Q 16:核融合の分野では具体的にどのような就職先(研究所など)があるのでしょうか。

A 16:核融合の分野の研究所は沢山あります。「プラズマ・核融合学会」のホームページにはプラズマ・核融合関連ホームページリンク集(http://jspf.nifs.ac.jp/link/tokusyu.html)があり、主要な核融合研究機関(研究室)が掲載されていますので、そちらをご覧下さい。
 就職に関しては、各研究機関等にお問い合わせ下さい。

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Q 17:核融合は実現するんでしょうか。

A 17:ITER(国際核融合実験炉)計画は、各国からのサイト誘致が出そろい、実施に向けて大きく動き出したところです。ITERでは核燃焼プラズマの物理的・工学的課題の研究に重点を置いており、発電は行いませんが、次のステップの「原型炉」では実際に数十万kWから百万kWの発電を行います(実用化)。原型炉は2040年頃に稼働すると考えられています。中長期的な核融合研究の展望については、内閣府の原子力委員会に設けられた核融合専門部会核融合会議における詳しい議論がWWW上で公開されていますので、そちらをご覧下さい。

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