桜の国チェリンと七聖剣【九十五】
「だ、誰のことを言っているんですか……!?」
俺と関係の深い人が帝国へ情報を横流しした。
そんなことを言われて、冷静さを保っていられるわけがない。
すると――会長は神妙な面持ちを浮かべながら、その人物の名を口にした。
「五豪商の一人にして狐金融の元締め、悪名高き『血狐』リゼ=ドーラハイン。天子様を除く四大国の首脳陣は、満場一致で彼女の名前を挙げたわ」
「なっ!?」
あの心優しい彼女が……裏切った……?
(そんなこと、絶対にあり得ないだろ……っ)
去年の八月頃。
リアがザク=ボンバールとトール=サモンズに誘拐されたあのとき、リゼさんは快く奴等の研究所の位置情報を教えてくれた。
(それだけじゃない……。大同商祭で初めて顔を会わせたときだって、彼女は俺たちのことを助けてくれた)
黒の組織が仕掛けた爆弾が作動し、大同商館が吹き飛ばされたあのとき、魂装の力を展開して大爆発を消してくれたのは――他でもないリゼさんだ。
もしも彼女が能力を使ってくれなければ……俺とリアとローズの三人は大怪我を負い、ドレスティアの街はとてつもない被害を受けただろう。
(そんなリゼさんが、裏切り者だと……?)
それはいくらなんでも、
そうして俺が奥歯を強く噛み締めていると、
「ちょ、ちょっとストップ……! 落ち着いて、アレンくん! 体からとんでもなく邪悪な闇が漏れてるから……っ。お姉さん、さすがにちょっと怖いから……っ」
会長は引きつった笑みを浮かべながら、一歩二歩三歩と後ずさったのだった。