日銀が1日に発表した9月の全国企業短期経済観測調査(日銀短観)は、大企業・製造業の業況判断指数(DI)がプラス13となり、前回6月調査から1ポイント改善しました。市場では、「前回6月調査から2期連続で小幅悪化」と予想されていたので、この結果には一安心といった空気が広がりました。景気回復の基調は維持されていると評価していいでしょう。
ただ、大企業・非製造業は前回より6ポイント悪化のプラス13となったほか、中小企業は製造業、非製造業共に悪化しており、全体としては必ずしも「よい」とは言えませんでした。
このDIは、「よい」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた値で、DIのプラスが大きければ大きいほど企業の景況感がよいことを示しています。
日銀短観は市場で最も注目度の高い国内景気の指標で、ニュースでも毎回、大きく報道されます。それは日銀短観が景気の変動を敏感に表す特徴を持っているからです。
これまでの大企業製造業DIの推移をみると、景気の変動とピタリと一致します。たとえば、2009年3月調査では、サブプライム問題とリーマンショックによる景気悪化の影響でマイナス58と日銀短観始まって以来の最悪水準を記録。それを底にして急速に改善しました。
当時はあまりにも景気悪化が著しかったため、不況感の強い状況がしばらく続きましたが、実は09年春ごろから景気回復は始まっていたのです、日銀短観はいち早くそれを示していました。
その後の景気回復は12年春まで続きましたが、その期間の回復力は極めて弱いものでした。東日本大震災や円高などが原因です。別表のように、DIはそれも見事に表しています。そして、アベノミクス景気のスタートとともに、DIは13年3月調査から急速に改善したのでした。このようにDIの方向と水準を見ていれば、景気の動きを的確に判断することができるのです。
中小企業の人員不足感拡大が気掛かり
日銀短観がこれほど景気を敏感に表すことができる“秘密”は、その調査方法にあります。
まず調査対象が約1万社と、数が多いこと。大企業から中小企業まで業種も幅広く網羅しています。数ある景気指標の中でも調査サンプルが1万を超えるものはほとんどありません。
それにもかかわらず、実際の調査から発表までの期間が短いのです。今回9月調査の場合、8月27日から9月30日にかけて調査を行い、10月1日に発表しました。調査時期の中心は9月上旬ごろとみられるので、正味1カ月以内で集計・発表にこぎ着けたわけです。他の経済指標と比べて期間は短く、それだけ最近の景気動向が反映されやすいことを意味しています。
そして、何よりも調査内容です。調査では、前出の業況判断のほかに、以下の各項目についても質問し、結果をDIや平均値で集計し公表しています。
?為替想定レート?需給(国内・海外)、在庫、価格(仕入・販売)?売上高・収益計画?設備投資計画?雇用の過剰・不足感?資金繰り、銀行の貸し出し態度、借入金利水準、です。
このうち、目についたものを拾ってみましょう。まず為替想定レート。14年度の平均は1ドル=100円73銭で、前回6月調査より55銭円安方向へ修正されました。最近の急速な円安を考えると、企業は為替の先行きについては慎重に見ていることがうかがえます。しかし、今後の為替相場が現状程度で推移すれば、その分だけ業績を押し上げる可能性があります。
また、14年度の設備投資計画は大企業製造業で前年比13.4%増、非製造業で6.3%増といずれも前回調査より上方修正されており、明るさが見えます。
一方で、雇用の不足感が拡大している点が気になります。特に中小企業の雇用人員判断DIはマイナス16と1992年9月以来、22年ぶりの低水準になりました。これは「雇用改善という好ましい現象」といった域を超え、むしろ供給面での制約要因というマイナス材料に位置づけられます。
総合すると、「明暗入り交じっている」というのが今回の結果です。このように、日銀短観は企業活動のさまざまな角度から景気を分析することができる“最強の指標”、まさに景気判断の材料満載です。次回は12月15日の予定です。
岡田 晃
おかだ・あきら●経済評論家。日本経済新聞に入社。産業部記者、編集委員などを経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長など歴任。人気番組「ワールドビジネスサテライト」のプロデューサー、コメンテーターも担当。現在は大阪経済大学客員教授。ストックボイスのメインキャスターも務める。わかりやすい解説に定評。著書に「やさしい『経済ニュース』の読み方」(三笠書房刊)。