さて、昨日は経済産業省から法令適用判断が公示された「ポイントベット」の仕組みと、それに伴って我々が立ち上げた国内初のスポーツベット提供の専業会社、株式会社チアードに関するご紹介をしました(未だ読んでない方はそちらを先にどうぞ)。今回は、その背景となった私の考え方をご紹介したいと思います。
株式会社チアードは、代表を務める若山と副島・木曽という2人の取締役、および社員で構成されるベンチャー企業です。若山は長らくTCG(トレーディングカードゲーム)業界とeスポーツ業界に従事、副島はスポーツ(格闘技)とeスポーツ、そして私はギャンブルと、それぞれ異なる専門性と関心分野を持つ人材であり、チアードの設立にあたってはそれぞれ違った「想い」があるもの。以下で描くのはあくまで木曽視点のものであるという前提で読んで頂きたいと思います。
1. 日本のスポーツ産業市場
2020年東京オリンピックの開催を予定している我が国では、現在、スポーツの「産業化」が大きな課題として語られています。その任を請ける組織として文科省の外局として2015年に設立されたスポーツ庁は「スポーツの成長産業化」を大きな目標として掲げており、これまで「運動を通じて心身の成長を即す」という「体育」の文脈で語られることの多かったスポーツを、「産業」として育成することを目指しています。
世界のスポーツ産業はイベント興行はもとより、施設運営、スポーツ放送、スポーツ用具販売などを合わせて約500兆円前後の産業規模を持つといわれています(出所)。ところが、日本のスポーツ産業の市場規模は5.5兆円(2015年)程度といわれており(出所)、世界最大のスポーツ市場を持つアメリカの50兆円(出所)という産業規模と比べると、日米間にGDPにして3倍程度の差があることを考慮に入れても異常に少ない。政府はこれを2025年までに15.2兆円にまで拡大させることを具体的な数値目標として掲げているわけです(出所)。
2. 日本スポーツ産業の「足枷」
一方で、ギャンブル専門家たる私の目から見ると、日本のスポーツ産業の成長には一つの大きな「足枷」があります。それが、スポーツベッティングの不在です。ギャンブルそのものの倫理的な是非はこの場の論議としては置いておくとして(それはそれで重要なテーマなのですが)、現実として実は世界で約500兆円市場と言われているスポーツ産業の隣には、それを「賭け」の対象として扱う約300兆円と言われるスポーツベットの市場が存在しており、それが相互作用しながら産業価値の増大を起こしているのが実態です。
我が国でその相互作用をまじまじと体験する事になったのが、2017年に起こったJリーグの放映権騒動。それまで我が国ではJリーグの放映といえば2007年にJリーグの全試合放送を開始したスカパー社であったわけですが、2017年に英国パフォームグループ傘下のDAZN社が全試合の放映権をかっさらって行きました。DAZN社がJリーグに示した放映権料は契約期間10年の合計で2,100億円。スカパー社がこれまでJリーグに支払ってきた年間放映権料の実に4倍の値付けであったとも言われており、この放映権の高額購買によってJリーグから各クラブチームに分配される分配金等が高騰し、各クラブチームの財政が一気に改善したといわれています(出所)。
そして、この放映権を破格の値段で取得したDAZNこそが、実はスポーツベット関連企業であるわけです。DAZNが所属するパフォームグループは、主にスポーツベットサービスを提供するブックメーカーに対してスポーツ映像の配信を行なうことで成長してきた企業。パフォームが本拠を置く英国では日本のJリーグのみならず、世界中のあらゆるスポーツ競技がスポーツベットの対象として設定されており、そこに映像配信を行う為、パフォームグループはDAZN社を通じて世界の様々な主要スポーツの放映権を獲得している。その戦略の上にJリーグ放映権獲得が「乗った」ということであります。
逆にいうのならば、スポーツ放送の土台となる部分に「スポーツベット」という要素が加わるだけで、その放映権がそれまでスカパーが支払ってきた価額の4倍の価値に一気に跳ね上がるということ。2017年のDAZN日本進出とJリーグの放映権買収劇こそが、我々日本人が「スポーツベットがスポーツ産業に与える影響」をマジマジと体感し、またその恩恵を間接的に受けることとなった事件であったわけです。
3. スポーツベットの代替サービス
とはいえ日本ではスポーツベットは刑法で禁じられる賭博行為であり、海外で提供されるスポーツベットにネット等を通じて日本から賭けを行なうことも含めて明確に「違法行為」であります。ギャンブルを専門とする私は、皆さん以上にそのハードルの高さとその制度の厳格さを認知しているわけで、だとすればその「代替」となりうるサービスをどの様に「捻り出すか」が私にとっての最大の課題でありました。
ここで少し話は変わりますが、米国のスポーツベット業界の事情をご紹介しようと思います。米国では1992年に成立した連邦法Professional and Amateur Sports Protection Act (PASPA:プロ・アマスポーツ保護法)によって、本法の成立以前にスポーツベットを合法としてきた一部地域を除き、スポーツベットが原則禁止となりました。それが、今年2018年に連邦最高裁によって「州政府の自治権を侵害」と判断で無効判決がなされることとなったというのが最新の米国のスポーツベット動向であります(参照)。
その結果、米国では既に各州でスポーツベットの合法化の構想が現在進行形で進んでいるわけですが、一方で米国でスポーツベットが禁止されていた1992年から2018年までのおよそ25年の期間にスポーツベットの「代替」となるサービスが急速に発展していました。それが「ファンタジースポーツ」と呼ばれる賞金制ゲームであります。
ファンタジースポーツは、プレイヤー自身が仮想のプロスポーツ球団のGMになり、実在する好きな選手を集めてた一種の「ドリームチーム」を作り、他のプレイヤーの作ったチームと対戦するというゲームです。プレイヤーが独自に作る球団自体はあくまで架空のチームであるワケですが、そこで集める選手の成績が実際に日々行なわれるスポーツ競技で各選手が獲得した成績に連動しており、仮想と現実のちょうど中間、いわゆる「2.5次元」の世界で競技を戦わせるゲームとなっています。
このゲーム、プレイヤーは5ドルから25ドル程度の参加料を支払い、優勝者には最大で100万ドル(約1.1億円)が提供されるなど高額の賞金制ゲームとなっており、アメリカでもそれが賭博であるか否かの論争が長らく続けられてきたのですが、少なくとも米国ではニューヨーク州を含む20弱の州がこれを適法なものと判断し、サービスの提供が行われてきたわけです。
そして、このファンタジースポーツこそが、米国においては長らく違法とされたスポーツベットの「代替」となるサービスとして利用されてきたもの。2015年の発表値ではファンタジースポーツの利用者数は約5,600万人、市場規模は関連産業まで含めて2兆8000億円にも及ぶとされています。ファンタジースポーツの提供企業としてはFanDuel社とDraftKing社が二大巨頭ですが、そのうちの一つであるDraftKings社は2016年に160億円を資金調達し、当時のバリュエーション(企業総価値)はポストマネーで約2,000億円以上。出資者の中には、FOX Sportsのようなスポーツ放送大手局は元より、MLB(メジャーリーグベースボール)やNHL(ナショナルホッケーリーグ)などのスポーツ競技団体自身が含まれるなど、現在、米国の投資界隈では超弩級のユニコーン企業として知られる存在にまで成長しています(参照)。
4. 日本での「代替」サービスとなるのは?
「では、日本でもファンタジースポーツを…」という主張になるわけですが、実はそんなに簡単にはいきません。日本とアメリカでは法律上禁じられる「賭博」の成立の基準が異なり、アメリカでは少なくとも20弱の州で適法と判断されているファンタジースポーツは、日本では明確に刑法で禁じられる賭博として判断されてしまいます。日本では米国と同じような形式でスポーツベットの「代替」サービスの提供はできないのです。
そこで、日本は日本なりの「別の手法」を用いた代替サービスを文字通り「捻り出す」というのが、私に与えられた課題であったわけで、話は長くなりましたがそこで出てきたのが我々チアード社が提供する「ポイントベット」という仕組みであったわけです。
5. ポイントベットの仕組み
以下は昨日の投稿と重なる部分も出てきますが、改めてポイントベットの仕組みを解説します。ポイントベットが参照しているのは、日本全国の商店街で伝統的に提供されている「福引」の仕組みです。最も一般的な福引の仕様となるのは、商店街の各お店での500円の購買につき一枚ずつ提供される福引券を10枚集めれば一回「ガラガラ」をまわすことが出来、「当たりの玉」が出たら賞品・もしくは賞金が提供されるというもの。このような福引サービスは、景品表示法の定める「懸賞」の中で適法に提供がなされる射幸性サービスの一種であり、上限価額の定めはあるものの(一般懸賞:10万円を上限として元取引の20倍まで)「現金」で景品を提供することも可能とされているものであります。
私が着目したのが、この景表法に基づいて日本全国津々浦々で伝統的に行なわれている「福引」の仕組みを、どこまでシステム化し、またゲームそのものをリッチ・コンテンツ化することが出来るか?ということでした。
大前提として景品表示法は懸賞を「商品・サービスの利用者に対し、くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供すること」と定めているのみであり、その提供手段に関しては具体的な規制を持っていません。現在の福引では「くじ引き」もしくは「ガラガラ」などを使用することが一般的ですが、景表法の運用の中ではこの他に
などという例が示されています。このうち「競技、遊戯等の優劣により提供」という定めこそが、我々がスポーツベットの代替となるサービス提供の根拠としたもの。特定のスポーツやゲームの競技結果を予想するゲームを提供し、そこに懸賞を付与することは景表法上の規制に則った形で実現可能であるハズです。
一方で検討を行ったのが「福引券」に相当する過去の購買を示す証書の扱いです。景品表示法上で提供が可能となる懸賞は、あくまで商品やサービス等の取引に付随して提供が行なわれるものであり、既に現金と商品等との対等な価値交換が行なわれた後に発生するものである為、そこに一定の射幸性は含まれていたとしても厳密にいうと「賭け」ではありません。そして、そのような商品やサービスの本体取引が確実に行なわれた事を示す証書として、商店街の各店舗は「福引券」を発行しているわけですが、ここをシステムを通じて発行される「ポイント」に置き換えられるかどうかが、法令解釈上のもう一つの論点でありました。
航空会社の発行するマイレージポイントから始まり、クレジットカード業者の発行するクレジットポイント、家電量販店の発行する家電ポイントに加えて、CCCや楽天などポイントシステムを提供するポイント業者が発行する各種ポイントまで、実は我々は日々の消費生活の中で様々なポイントを獲得しており、その国内累計額は2017年推計で2兆2千億円、前年度比で26.1%増という急速な勢いで成長をしているのが実態です(出所)。これらポイントは過去に行なわれた商取引に付随して発行される電子上の一種の「証書」であるわけで、これを「商店街の福引」で伝統的に使用される福引券とみなし、景品表示法上で認められる懸賞サービスとして提供することが可能ではなかろうか?これが、もう一つの論点です。
6. グレーゾーン解消制度
このような法令解釈上の「疑問」を明確化するために、我々が利用したのがグレーゾーン解消制度です。グレーゾーン解消制度は、企業の個々の事業内容に即して規制改革を進めていくことを目的として2014年成立の産業競争力強化法に基づいて創設された制度です。具体的には、事業所管となる省庁を窓口として、事業の内容を規制する法律を所管する法令所管省庁に法令適法の「有無」を確認できる制度であり、我々の場合はIT業を所管する経産省を窓口として、景品表示法を所管する消費者庁に法令適用照会をするという形で進められました。
しかしまぁ、これが非常に難儀なものでして、結局我々は上記のような事業に対する法令適用の確認をするのに足掛け一年近くゴリゴリの省庁協議が必要だった、というのが実態であります。その結果、内閣総理大臣安倍晋三および、経済産業大臣世耕弘成の名義で発行された公式回答の結果が、昨日のエントリでもご紹介した経済産業省による法令適用確認のニュースリリースであったわけです。
7. チアードが目指す世界
実は、実際の法令適用回答書には上記プレスリリースで発表されている点以外にも幾つかの法令上の要件が示されており、我々は現在それら要件を全てクリアした上で景表法上の「懸賞」の枠内で提供できるスポーツベットの代替サービスの仕組みを勢威、整備している真っ最中です。
繰り返しになりますが、我々が提供するサービスはあくまで商品やサービスの取引に付随して発行される証書を用いて提供される「商店街の福引」を原型とするもの。プレイヤーは現金をもってそのゲームに参加することは出来ませんし、どんなに負け込んだとしてもそこに直接的に追加投資をすることはできません。即ち、そこに一定の射幸性のあるゲームを提供できたとしても、厳密には賭博ではありません。
一方で我々が目指すのは、スポーツファン、ゲームファン、ギャンブルファンの方々を中心とする独自の経済圏を構築することであります。人間が独り生きてゆくのには少なくとも月額十万円を超える消費が必ず発生します。スポーツ/ゲーム/ギャンブルファンの皆さんには、是非そのように日々の生活の中から発生する様々な消費を我々サービスと提携する決済手法(例:クレジットカード、電子マネー、スマホ決済)やポイント制度に集約してください。そうすれば、日々の生活の中から自ずと「福引券(=ポイント)」を獲得でき、それを利用することで現金最大10万円(一般懸賞の場合)が獲得可能なスポーツベットの代替サービスをご利用頂けます。即ち、当該サービスで利用される賭けの原資は、皆様の日々の「消費生活そのもの」なのであります。
我々はこれを「ポイントベット」と呼称し日本独自のスポーツベットの代替サービスとして展開し、スポーツ/ゲーム/ギャンブルファンの皆さんの日々のスポーツ競技やeスポーツ競技の観戦を「もう少しだけ」エキサイティングなものにし、ひいては日本のスポーツ産業の付加価値の向上貢献してゆきたい。これが、ギャンブル専門家たる私がチアードという企業とサービスの立ち上げに参画した理由であります。
…と私自身の掲げる目標は大きいワケですが、実際のところはやっと法令に「風穴」が開いただけという段階。これからが寧ろ勝負の本番であるわけで、上記でご紹介した世界が実現できるよう引き続き皆様方の応援を賜りたく、よろしくお願いを申し上げる所存です。
株式会社チアード http://www.cheered.jp/
株式会社チアードは、代表を務める若山と副島・木曽という2人の取締役、および社員で構成されるベンチャー企業です。若山は長らくTCG(トレーディングカードゲーム)業界とeスポーツ業界に従事、副島はスポーツ(格闘技)とeスポーツ、そして私はギャンブルと、それぞれ異なる専門性と関心分野を持つ人材であり、チアードの設立にあたってはそれぞれ違った「想い」があるもの。以下で描くのはあくまで木曽視点のものであるという前提で読んで頂きたいと思います。
1. 日本のスポーツ産業市場
2020年東京オリンピックの開催を予定している我が国では、現在、スポーツの「産業化」が大きな課題として語られています。その任を請ける組織として文科省の外局として2015年に設立されたスポーツ庁は「スポーツの成長産業化」を大きな目標として掲げており、これまで「運動を通じて心身の成長を即す」という「体育」の文脈で語られることの多かったスポーツを、「産業」として育成することを目指しています。
世界のスポーツ産業はイベント興行はもとより、施設運営、スポーツ放送、スポーツ用具販売などを合わせて約500兆円前後の産業規模を持つといわれています(出所)。ところが、日本のスポーツ産業の市場規模は5.5兆円(2015年)程度といわれており(出所)、世界最大のスポーツ市場を持つアメリカの50兆円(出所)という産業規模と比べると、日米間にGDPにして3倍程度の差があることを考慮に入れても異常に少ない。政府はこれを2025年までに15.2兆円にまで拡大させることを具体的な数値目標として掲げているわけです(出所)。
2. 日本スポーツ産業の「足枷」
一方で、ギャンブル専門家たる私の目から見ると、日本のスポーツ産業の成長には一つの大きな「足枷」があります。それが、スポーツベッティングの不在です。ギャンブルそのものの倫理的な是非はこの場の論議としては置いておくとして(それはそれで重要なテーマなのですが)、現実として実は世界で約500兆円市場と言われているスポーツ産業の隣には、それを「賭け」の対象として扱う約300兆円と言われるスポーツベットの市場が存在しており、それが相互作用しながら産業価値の増大を起こしているのが実態です。
我が国でその相互作用をまじまじと体験する事になったのが、2017年に起こったJリーグの放映権騒動。それまで我が国ではJリーグの放映といえば2007年にJリーグの全試合放送を開始したスカパー社であったわけですが、2017年に英国パフォームグループ傘下のDAZN社が全試合の放映権をかっさらって行きました。DAZN社がJリーグに示した放映権料は契約期間10年の合計で2,100億円。スカパー社がこれまでJリーグに支払ってきた年間放映権料の実に4倍の値付けであったとも言われており、この放映権の高額購買によってJリーグから各クラブチームに分配される分配金等が高騰し、各クラブチームの財政が一気に改善したといわれています(出所)。
そして、この放映権を破格の値段で取得したDAZNこそが、実はスポーツベット関連企業であるわけです。DAZNが所属するパフォームグループは、主にスポーツベットサービスを提供するブックメーカーに対してスポーツ映像の配信を行なうことで成長してきた企業。パフォームが本拠を置く英国では日本のJリーグのみならず、世界中のあらゆるスポーツ競技がスポーツベットの対象として設定されており、そこに映像配信を行う為、パフォームグループはDAZN社を通じて世界の様々な主要スポーツの放映権を獲得している。その戦略の上にJリーグ放映権獲得が「乗った」ということであります。
逆にいうのならば、スポーツ放送の土台となる部分に「スポーツベット」という要素が加わるだけで、その放映権がそれまでスカパーが支払ってきた価額の4倍の価値に一気に跳ね上がるということ。2017年のDAZN日本進出とJリーグの放映権買収劇こそが、我々日本人が「スポーツベットがスポーツ産業に与える影響」をマジマジと体感し、またその恩恵を間接的に受けることとなった事件であったわけです。
3. スポーツベットの代替サービス
とはいえ日本ではスポーツベットは刑法で禁じられる賭博行為であり、海外で提供されるスポーツベットにネット等を通じて日本から賭けを行なうことも含めて明確に「違法行為」であります。ギャンブルを専門とする私は、皆さん以上にそのハードルの高さとその制度の厳格さを認知しているわけで、だとすればその「代替」となりうるサービスをどの様に「捻り出すか」が私にとっての最大の課題でありました。
ここで少し話は変わりますが、米国のスポーツベット業界の事情をご紹介しようと思います。米国では1992年に成立した連邦法Professional and Amateur Sports Protection Act (PASPA:プロ・アマスポーツ保護法)によって、本法の成立以前にスポーツベットを合法としてきた一部地域を除き、スポーツベットが原則禁止となりました。それが、今年2018年に連邦最高裁によって「州政府の自治権を侵害」と判断で無効判決がなされることとなったというのが最新の米国のスポーツベット動向であります(参照)。
その結果、米国では既に各州でスポーツベットの合法化の構想が現在進行形で進んでいるわけですが、一方で米国でスポーツベットが禁止されていた1992年から2018年までのおよそ25年の期間にスポーツベットの「代替」となるサービスが急速に発展していました。それが「ファンタジースポーツ」と呼ばれる賞金制ゲームであります。
ファンタジースポーツは、プレイヤー自身が仮想のプロスポーツ球団のGMになり、実在する好きな選手を集めてた一種の「ドリームチーム」を作り、他のプレイヤーの作ったチームと対戦するというゲームです。プレイヤーが独自に作る球団自体はあくまで架空のチームであるワケですが、そこで集める選手の成績が実際に日々行なわれるスポーツ競技で各選手が獲得した成績に連動しており、仮想と現実のちょうど中間、いわゆる「2.5次元」の世界で競技を戦わせるゲームとなっています。
このゲーム、プレイヤーは5ドルから25ドル程度の参加料を支払い、優勝者には最大で100万ドル(約1.1億円)が提供されるなど高額の賞金制ゲームとなっており、アメリカでもそれが賭博であるか否かの論争が長らく続けられてきたのですが、少なくとも米国ではニューヨーク州を含む20弱の州がこれを適法なものと判断し、サービスの提供が行われてきたわけです。
そして、このファンタジースポーツこそが、米国においては長らく違法とされたスポーツベットの「代替」となるサービスとして利用されてきたもの。2015年の発表値ではファンタジースポーツの利用者数は約5,600万人、市場規模は関連産業まで含めて2兆8000億円にも及ぶとされています。ファンタジースポーツの提供企業としてはFanDuel社とDraftKing社が二大巨頭ですが、そのうちの一つであるDraftKings社は2016年に160億円を資金調達し、当時のバリュエーション(企業総価値)はポストマネーで約2,000億円以上。出資者の中には、FOX Sportsのようなスポーツ放送大手局は元より、MLB(メジャーリーグベースボール)やNHL(ナショナルホッケーリーグ)などのスポーツ競技団体自身が含まれるなど、現在、米国の投資界隈では超弩級のユニコーン企業として知られる存在にまで成長しています(参照)。
4. 日本での「代替」サービスとなるのは?
「では、日本でもファンタジースポーツを…」という主張になるわけですが、実はそんなに簡単にはいきません。日本とアメリカでは法律上禁じられる「賭博」の成立の基準が異なり、アメリカでは少なくとも20弱の州で適法と判断されているファンタジースポーツは、日本では明確に刑法で禁じられる賭博として判断されてしまいます。日本では米国と同じような形式でスポーツベットの「代替」サービスの提供はできないのです。
そこで、日本は日本なりの「別の手法」を用いた代替サービスを文字通り「捻り出す」というのが、私に与えられた課題であったわけで、話は長くなりましたがそこで出てきたのが我々チアード社が提供する「ポイントベット」という仕組みであったわけです。
5. ポイントベットの仕組み
以下は昨日の投稿と重なる部分も出てきますが、改めてポイントベットの仕組みを解説します。ポイントベットが参照しているのは、日本全国の商店街で伝統的に提供されている「福引」の仕組みです。最も一般的な福引の仕様となるのは、商店街の各お店での500円の購買につき一枚ずつ提供される福引券を10枚集めれば一回「ガラガラ」をまわすことが出来、「当たりの玉」が出たら賞品・もしくは賞金が提供されるというもの。このような福引サービスは、景品表示法の定める「懸賞」の中で適法に提供がなされる射幸性サービスの一種であり、上限価額の定めはあるものの(一般懸賞:10万円を上限として元取引の20倍まで)「現金」で景品を提供することも可能とされているものであります。
私が着目したのが、この景表法に基づいて日本全国津々浦々で伝統的に行なわれている「福引」の仕組みを、どこまでシステム化し、またゲームそのものをリッチ・コンテンツ化することが出来るか?ということでした。
大前提として景品表示法は懸賞を「商品・サービスの利用者に対し、くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供すること」と定めているのみであり、その提供手段に関しては具体的な規制を持っていません。現在の福引では「くじ引き」もしくは「ガラガラ」などを使用することが一般的ですが、景表法の運用の中ではこの他に
・抽選券、じゃんけん等により提供
・一部の商品にのみ景品類を添付していて、外観上それが判断できない場合
・パズル、クイズ等の回答の正誤により提供
・競技、遊戯等の優劣により提供 など
などという例が示されています。このうち「競技、遊戯等の優劣により提供」という定めこそが、我々がスポーツベットの代替となるサービス提供の根拠としたもの。特定のスポーツやゲームの競技結果を予想するゲームを提供し、そこに懸賞を付与することは景表法上の規制に則った形で実現可能であるハズです。
一方で検討を行ったのが「福引券」に相当する過去の購買を示す証書の扱いです。景品表示法上で提供が可能となる懸賞は、あくまで商品やサービス等の取引に付随して提供が行なわれるものであり、既に現金と商品等との対等な価値交換が行なわれた後に発生するものである為、そこに一定の射幸性は含まれていたとしても厳密にいうと「賭け」ではありません。そして、そのような商品やサービスの本体取引が確実に行なわれた事を示す証書として、商店街の各店舗は「福引券」を発行しているわけですが、ここをシステムを通じて発行される「ポイント」に置き換えられるかどうかが、法令解釈上のもう一つの論点でありました。
航空会社の発行するマイレージポイントから始まり、クレジットカード業者の発行するクレジットポイント、家電量販店の発行する家電ポイントに加えて、CCCや楽天などポイントシステムを提供するポイント業者が発行する各種ポイントまで、実は我々は日々の消費生活の中で様々なポイントを獲得しており、その国内累計額は2017年推計で2兆2千億円、前年度比で26.1%増という急速な勢いで成長をしているのが実態です(出所)。これらポイントは過去に行なわれた商取引に付随して発行される電子上の一種の「証書」であるわけで、これを「商店街の福引」で伝統的に使用される福引券とみなし、景品表示法上で認められる懸賞サービスとして提供することが可能ではなかろうか?これが、もう一つの論点です。
6. グレーゾーン解消制度
このような法令解釈上の「疑問」を明確化するために、我々が利用したのがグレーゾーン解消制度です。グレーゾーン解消制度は、企業の個々の事業内容に即して規制改革を進めていくことを目的として2014年成立の産業競争力強化法に基づいて創設された制度です。具体的には、事業所管となる省庁を窓口として、事業の内容を規制する法律を所管する法令所管省庁に法令適法の「有無」を確認できる制度であり、我々の場合はIT業を所管する経産省を窓口として、景品表示法を所管する消費者庁に法令適用照会をするという形で進められました。
しかしまぁ、これが非常に難儀なものでして、結局我々は上記のような事業に対する法令適用の確認をするのに足掛け一年近くゴリゴリの省庁協議が必要だった、というのが実態であります。その結果、内閣総理大臣安倍晋三および、経済産業大臣世耕弘成の名義で発行された公式回答の結果が、昨日のエントリでもご紹介した経済産業省による法令適用確認のニュースリリースであったわけです。
グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対し回答がありましたポイント活用による賞品提供に係る景品表示法の取扱いが明確になりました
7. チアードが目指す世界
実は、実際の法令適用回答書には上記プレスリリースで発表されている点以外にも幾つかの法令上の要件が示されており、我々は現在それら要件を全てクリアした上で景表法上の「懸賞」の枠内で提供できるスポーツベットの代替サービスの仕組みを勢威、整備している真っ最中です。
繰り返しになりますが、我々が提供するサービスはあくまで商品やサービスの取引に付随して発行される証書を用いて提供される「商店街の福引」を原型とするもの。プレイヤーは現金をもってそのゲームに参加することは出来ませんし、どんなに負け込んだとしてもそこに直接的に追加投資をすることはできません。即ち、そこに一定の射幸性のあるゲームを提供できたとしても、厳密には賭博ではありません。
一方で我々が目指すのは、スポーツファン、ゲームファン、ギャンブルファンの方々を中心とする独自の経済圏を構築することであります。人間が独り生きてゆくのには少なくとも月額十万円を超える消費が必ず発生します。スポーツ/ゲーム/ギャンブルファンの皆さんには、是非そのように日々の生活の中から発生する様々な消費を我々サービスと提携する決済手法(例:クレジットカード、電子マネー、スマホ決済)やポイント制度に集約してください。そうすれば、日々の生活の中から自ずと「福引券(=ポイント)」を獲得でき、それを利用することで現金最大10万円(一般懸賞の場合)が獲得可能なスポーツベットの代替サービスをご利用頂けます。即ち、当該サービスで利用される賭けの原資は、皆様の日々の「消費生活そのもの」なのであります。
我々はこれを「ポイントベット」と呼称し日本独自のスポーツベットの代替サービスとして展開し、スポーツ/ゲーム/ギャンブルファンの皆さんの日々のスポーツ競技やeスポーツ競技の観戦を「もう少しだけ」エキサイティングなものにし、ひいては日本のスポーツ産業の付加価値の向上貢献してゆきたい。これが、ギャンブル専門家たる私がチアードという企業とサービスの立ち上げに参画した理由であります。
…と私自身の掲げる目標は大きいワケですが、実際のところはやっと法令に「風穴」が開いただけという段階。これからが寧ろ勝負の本番であるわけで、上記でご紹介した世界が実現できるよう引き続き皆様方の応援を賜りたく、よろしくお願いを申し上げる所存です。
株式会社チアード http://www.cheered.jp/