総務省次官がかんぽ不正をめぐる処分情報を漏えいして辞職した。漏えい先は処分対象の日本郵政幹部で元同省次官だった。信用失墜は避けられず行政執行のあり方を根幹から見直すべき事態だ。
現在、総務省ではかんぽ生命保険の不正販売について行政処分を具体的にどう行うか詰めの作業を続けている。同省事務次官を更迭された鈴木茂樹氏は、その検討状況を日本郵政の鈴木康雄副社長に漏えいした。つまり処分の対象者に漏らしたわけで、国の行政官でしかも最高幹部であることを考えれば耳を疑う行為だ。
国家公務員法九九条には信用失墜行為の禁止、同一〇〇条には行政情報をめぐる守秘義務が規定されている。鈴木前次官の行為は双方に抵触した可能性があり懲戒処分と事実上の更迭は当然だろう。
高市総務相の説明では、大臣室で議論していた内容が漏れていることに気づき、鈴木前次官に問いただしたところ漏えいを認めた。
かんぽ不正をめぐっては被害が拡大している。さらにその被害者の七割以上は高齢者だ。保険料の二重払いや無保険状態のほかに、保険と知らされずに契約を結ばされるなど悪質なケースが多く被害者の多くが途方に暮れている。
この状況下で、対応の先頭に立つべき事務次官が、不正を働いた事業者側に情報を漏らすことは、背信行為としかいいようがない。それを考慮すれば、懲戒処分と辞めただけで責任を果たしたことになるのか大いに疑問は残る。
一方、情報漏えいを受けた日本郵政側の姿勢も批判は避けられないだろう。情報をもらった鈴木副社長は辞職した次官の先輩だ。入省年次による上下関係がはっきりしている官僚の風土の中で、こうした情報漏えいがあり得ることは容易に想像できる。
ただ同時に漏えいが法令に抵触し国民の信用を失う行為であることは元官僚なら理解しているはずだ。情報を受けた側の責任も免れない。
かんぽをめぐる問題は、中途半端な形で郵政事業を民営化した政府に大きな責任がある。総務省はその立て直しの中心にある官庁だ。今回の漏えいは罪深く、今後処分を行う資格自体があるのか批判されても反論の余地はないだろう。
ただ行政側の大失態が発覚する中でも多くの被害者は救済を待ち続けている。かんぽ不正への迅速な対応と郵政改革の中断だけは許されない。
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