女剣闘士見参!   作:dokkakuhei

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久しぶりの投稿の割には山もオチもない話です。





第10話 それぞれの戦い

 朝日が山々の間から顔を覗かせた麗らかな日和の中、背の低い草が光を反射して自らの緑を一層瑞々しく見せている。

 

 そんな誰もが心洗われる風景におおよそ似つかわしくないような生気のない顔と覚束ない足取りで街道を漫ろ行く2人の人物がいた。

 

「コヒュー…コヒュー…。流石に徹夜でマラソンはキツイわ…。」

 

「後…ちょっとで…エ・ランテルに…。」

 

 毎度お馴染みリカオンとクレマンティーヌだ。2人は昨夜、モモンガ(モンガ)という理不尽な局地的災害に巻き込まれ一目散に逃げて来たのだ。奴は文字通り突然降って湧いて出て、一瞬で森の街道を殺戮ショーの舞台に変えてしまった。

 

「ちくしょー、なんだってんだ。まるでF.O.Eかきゅうきょくキマイラ…、LALのベヒーモス?」

 

 リカオンはいつかやった復刻ゲームに出て来るレベルデザイン無視の嫌がらせ(フィールドギミック)の名を口にしていた。彼女はユグドラシル時代のナザリック侵攻時に相当コテンパンにされており、それ故モモンガには過剰な警戒心を抱いていた。クレマンティーヌとしても漆黒聖典とは1秒でも同じ場所に居たくなかったので迷わず走り出したのだ。

 

 2人はフォレスト・ワーカーのような森の中を移動速度低下(ペナルティー)無しで行動できる職業は持っていなかったが、それでも全力の戦闘区域離脱はアンデッドと法国の2派の対立もあって、敵の追撃を容易に振り切った。

 

 しかし夜を徹して走っていたために2人の体力は底をつき始めている。リカオンなどは昨日にしこたま飯を食っていたので胃袋の中身がブレイクダンスを踊り食道を逆流しそうになっていた。目を剥き、口を大きくへの字に曲げ、美女がしてはいけない顔になっている。

 

「みっ、見えた! エ・ランテル!」

 

 クレマンティーヌの視界が城塞都市の第3外壁を捉えた。ここまで追っ手が無いということは逃げ切ったと考えても良いだろう。一先ず助かった。見ると都市の入り口にはまだ早朝だというのに入場待ちの人だかりがあった。

 

 関所に並ぶ行列を横目に見ながら、意気揚々と外門のアーチをくぐり抜ける。パナソレイとアインザックが便宜を図ってくれたので2人はほぼ自由に都市の内外を行き来出来た。一応の本人確認と幻術調査を済ませて、衛兵に別れの挨拶をする。

 

 街の中に目を移すと、人々が1日の生活を始めている様子が見てとれた。近隣のもの達で挨拶を交わし合い、子供達が無邪気に走り回っている。道路には青果市に並べる作物を荷車で引く人がいる。職人の炉に火が入ったのだろう、黒い煙を吐き出し始める煙突も見えた。そんな都市の日常風景の中に見覚えのある馬車があった。そして見覚えのある人物達も。

 

「あ。」

 

 そこには長身で筋肉質な、それでいて均整のとれた、ギリシャ彫刻を思わせるような壮年の男性と、それに並べても見劣りしない、これまた長身で気品と妖艶さを内包したヨーロッパ名画のような女性が立っていた。

 

 見紛うはずもない。昨夜に森で出会った者達だ。その美男美女は都市の商業区画の方を指差しながら何やら話し込んでいる。リカオンが様子を観察していると、男の方がこちらに気が付き目を合わせて来た。

 

「おやおや、奇遇ですね。」

 

 壮年の男、老紳士が親しみを込めた微笑みを見せて挨拶をしてくる。たったそれだけの小さな所作だったが、老紳士から溢れる優雅さが往来を行く女性達の心を掴むには十分だったようで少なくない黄色い歓声があちこちから聞こえた。

 

「セバスと申します。昨夜はどうも。実は私共、しがない商人をやっておりまして。この度王国で商いをさせて貰うようになります。顔馴染みのご両人には何卒よしなに。」

 

 セバスと名乗った老紳士は友人を家に迎えるような穏やかさで近づいて来た。そこには微塵の悪意も感じられない。

 

「いやいやいや、騙されんぞ。」

 

 クレマンティーヌが即座に食ってかかった。警戒のため半歩身を引いている。

 

「相手の命を狙っておいて、1日も経たないうちによくもそのテンションで話し掛けられたな。」

 

「一応日は跨いでおりますが。」

 

「そういう問題じゃない!」

 

 昨夜の剣呑な空気は無かったかのように暢気に振る舞うセバスにクレマンティーヌは少々毒気を抜かれてしまった。実際に刃を交えた金髪のメイドに困惑と抗議を込めた視線を送るが、涼しい顔で一礼された。

 

「それにあの舗装されていない道程を馬車で移動するには少なくとも半日はかかる。前を走っている私達をいつ抜いた?」

 

「私共も無我夢中でして、遮二無二馬を走らせたものですから。」

 

「ぐぬぬ。」

 

 クレマンティーヌの質問をセバスはのらりくらりと躱していく。態度とは裏腹にあまりこちらに友好的ではないようだ。痺れを切らしそうなクレマンティーヌを諌めながらリカオンは気になることを口にする。

 

「他の人たちは?女の子と御付きの人。」

 

「お嬢様は御疲れで馬車の中でお休みになられております。」

 

「ふーん。商人って言うけど何を売るの?」

 

「主に宝石類ですね。」

 

 リカオンは老紳士とメイドを見る。昨日の暗い闇の中と違って陽の当たるところで改めて見てみるとその清廉された佇まいは眼を見張るものがある。この者たちが宝石を売るところを想像してみると、成る程とても絵になる。後光効果というものなのだろうか、飛ぶように売れそうだ。

 

 老紳士の強靱さはまさにダイヤモンドといったところで、何者にも揺るがされない確かさを感じさせる。メイドの雰囲気は宝石というよりもそれをはめ込む(ゴールド)白金(プラチナ)の台座を思わせ、その価値を損なわないように支える機能をそのまま体現したかのようだ。

 

 そしてリカオンは昨晩会った「お嬢様」を思い出す。闇夜であってもなお輝きを放ち、見るものを吸い込んでしまいそうな深く紅い瞳。靡かせる銀色の髪も相まって鮮やかな辰砂(しんしゃ)のよう。魅了されて近づいた人間を毒で侵す、そんな印象の人物だった。

 

「へえ。宝石だったら王都で店を構えた方が良いんじゃない?金持ち相手の商売なんでしょう?」

 

 リカオンの言葉にセバスの目が少し細くなった。商売方針にケチをつけるつもりなのかと言いたげな鋭い目だ。ただ、細くなったのは一瞬で直ぐに優しい目に戻った。

 

「ゆくゆくは。まずは草の根活動からというわけで。それに私共の商品はただの装飾品ではないものも取り扱っております。魔法が宿ったものなど、冒険者の方にもご満足いただけるかと。どうです、一度来られてみては。」

 

「私達は冒険者じゃないよ。」

 

「そうなのですか?ああ、そういえばプレートをお持ちでは無いようですね。でもその武具は…、どなたかの私設兵なのでしょうか?」

 

「まあ、当たらずとも遠からじってとこかな。」

 

「是非その方には挨拶をしたいですね。」

 

 そんな他愛もない話をしていると、あたりに人だかりができていた。リカオンもクレマンティーヌも側から見れば美女に変わりない。見目麗しい4人が集まって話しているのを珍しがって野次馬たちが様子を伺っているのだ。

 

 周りの変化に気が付いたセバスが話を切り上げにかかる。

 

「長い間話し込んでしまいました。今日のところはこの辺りで。」

 

 セバスは別れを告げると馬車を先導するため手綱を握った。人混みの中を歩いて行くが、彼が近づくと人の波が面白いように左右に分かれて道を作った。

 

 歩を進めるセバスにソリュシャンがそっと近づいて付いて耳打ちする。

 

「怪しまれてますね。」

 

 ソリュシャンが言うのは先のリカオンの質問だ。かなり遠回しの会話だったが、明らかに探りを入れられていた。消す事が出来れば話が早いのだが、主人の命令上そういうわけにも行かない。

 

「ええ。昨日の一件があったので仕方がないでしょう。まあしかし、怪しまれているということは逆にいえば注目されているということ。我々が忠実に商人のフリをし続ければ次第に疑いも薄まるでしょう。」

 

 そう、セバス達の目的は監視である。能動的に何かアクションを起こさなければならないというわけでもない。目下の問題は販売ルートと人脈の確保という商人として当たり前の行動だけである。これ以上怪しまれるような事はないだろう。

 

「我々は任務を忠実にこなすのみです。」

 

「ハッ。」

 

 

 ーーー

 

 

 リカオン達は宝石商(仮)の馬車を見送って、パナソレイに昨日の顛末を報告するため大通りに向かって歩き出した。クレマンティーヌがリカオンの隣に並んで話し掛ける。

 

「ねえリック。さっきの奴らさ。」

 

「うん、分かるよ。楽しみだね。」

 

「…? 何が?」

 

 予想と違う、楽しみ、という返事にクレマンティーヌは首を傾げる。

 

「アクセサリー屋さん。いつオープンするのかな?絶対一緒に行こうね!」

 

 子供のように歯を見せて笑うリカオンを見て、クレマンティーヌは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「…あのさ、阿呆なの?」

 

「何をぉ!?」

 

「夜道で人を襲うような奴がまともなワケ無いじゃん! 絶対商人じゃないって!」

 

「あんな優しそうな人が悪い事企んでるわけないよ。」

 

 駄目だコイツ。目が本気だもの。

 

「もういい、でも行くときは1人で行ってよね。」

 

「しゅーん。」

 

 そんないつもの調子の会話を終えると、2人は都市長の屋敷まで辿り着いた。2人は門のところでまたもや見覚えのある人物と遭遇する。筋骨隆々な独特のシルエット、ガガーランである。

 

「おお、ちょうど良いところで会ったな。」

 

「あれ、ガガーラン、王都に戻ったんじゃなかったの?」

 

「ちょっと都市長に頼まれてよ、またこっちに来たんだ。こんなところでもなんだ、さっさと中に入ろうぜ。」

 

 ガガーランは流石アダマンタイト級冒険者、門番に合図をしただけですんなり門を開けてもらえた。

 

「都市長に頼まれごとって?」

 

「ああ、お前らに関係ある事だよ。後で詳しく話す。」

 

 3人は応接室までスムーズに通されると、パナソレイが快く迎え入れてくれた。隣にはアインザックもいる。冒険者組合長はいつも暇なのだろうか。

 

「やあやあ、よく来てくれたガガーラン君。そちらの2人もご苦労だったね。」

 

 2人は柄にもなくにこにこしながらリカオン達に労いの言葉を掛ける。壮年の男がずっと目を細めて口角を上げて笑う姿は控え目に言っても気味が悪い。

 

「都市長。手紙のことなんだが。」

 

 ガガーランが単刀直入に言う。

 

 手紙とは都市長が青の薔薇宛て、また第3王女ラナー宛てに書いた手紙の事で、要約するとエ・ランテルに最近現れたアンデッドについて、王国を挙げて注意を払う事、その件に関して当事者であるリカオンらを参考人として王城に謁見させたい事、しかしアンデッドはエ・ランテル駐在兵が退散させたという処理になっており、あまり行政では話題になっていない事やリカオン達の身分が不明確な事を鑑みて正式なルートでは情報の伝達が正確になされない恐れがある事、ひいては青の薔薇経由でラナーに御目通り叶わないかという内容だった。

 

 表向きは。

 

 その実、これは王国の存亡をかけた計画の一端なのだ。つまりリカオン達が来るべき王国と帝国の戦争に向けてより良いポジションで軍団に参加出来るようにするためのコネクション作りなのである。聡明な第3王女ならば彼女らの投入すべきポイントを見誤る事はあるまい。上手く行けばラナーの私兵という事で王国軍に列を並べることができればいいのだが、それは高望みしすぎか。当の本人達には話を通してないのだ。

 

「王女さんにも話したんだか是非会いたいって。」

 

「おお! そうか!」

 

「なんか頭の上で勝手に話進められてる感じがするんだけど。」

 

「王女様に会えるんだって! クレア、行こうよ!」

 

 はしゃぐリカオンにクレマンティーヌはハァと溜息を吐く。そしてリカオンにそっと耳打ちした。

 

「…こういうのは自分を安売りしちゃ駄目だって。」

 

「…じゃあどうするの?」

 

「…例えばな、ごにょごにょ…」

 

 クレマンティーヌの耳打ちを聞いたリカオンはカッと目を見開く。そしてにへらと笑った。その姿にパナソレイは嫌な予感を覚える。

 

「あー、ゴホン。そういえば私達朝ご飯食べてなかったなー。それに走りずくめで疲れててお腹空いてるし、いきなり王都に行けって言われても判断できないなー。お腹さえ空いてなければなー。」

 

 そう言ってパナソレイとアインザックをちらりと見る。2人は表情こそ変えなかったものの、ひくひくと笑顔を引きつらせた。ガガーランは1人不思議そうな顔をする。

 

「なんだ、腹減ってんのか?あとで俺が奢ってやるよ。」

 

「ガガーラン君!」

 

 突然パナソレイとアインザックがガタガタと立ち上がった。そしてがっしりとガガーランの手を握る。

 

「おわわ、なんだよいきなり。」

 

「ありがとう…ありがとう!」

 

「?」

 

 2時間後、ガガーランはこの握手の意味を知ることになる。

 

 

「ああ、そういえば見廻りの方はどうだったのかね?モンガの気配はあったのか?」

 

アインザックが上機嫌でリカオン達に尋ねる。

 

「わりと近くに居たよ。会うなり攻撃されたから逃げて来た。もしかしたら近いうちにこっち来るかも。」

 

パナソレイとアインザックの顔が凍りつく。残念ながら笑顔を取り繕う事には失敗していた。そんな2人をよそに女性陣はいそいそと食事をしに出て言った。責任者達は2人部屋に取り残される。

 

 

「…なあ、リカオン君達を王都に送るのはやめたほうがいいんじゃないか?」

 

「もうなるようにしかならんでしょう。」

 

 

 ーーー

 

 

「なにっ! どういう事ですか!」

 

「声が大きいぞ、慎め。」

 

 ここはスレイン法国にある神殿の一つ、土の大神殿に備えられた懺悔室の中である。防音壁で囲まれたこの部屋の中は秘密裏に会話するのにもってこいの場所だ。ここにいるのは40代の男と20代後半の男。

 

「…失礼いたしました。しかし…何かの間違いでは?」

 

「こんな事で冗談は言わん。」

 

 先程声を荒げた若い男が平静を取り戻しつつ、再度相手に説明を求める。若い男の名前はクワイエッセ。漆黒聖典第五席次であり、クレマンティーヌの実の兄である男だ。陽光聖典が謎の失踪を遂げてから、法国の実働部隊の穴を埋めるため単身国境線の警邏、異種族への強襲等の任務に就き、一時帰国した折に目の前の男—土の神官長レイモン—に呼び出され、信じられない話を聞かされたのだ。

 

 レイモンが言うには、クワイエッセを除く漆黒聖典の全員とカイレが破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の討伐に赴いたところ、目標と思しき黒い戦士に遭遇、三名を失い敗走したとのことだ。

 

「隊長がいながら何故そんなことに…、体長は今何処です?」

 

「あいつはまだ戻っておらん。」

 

「どういう事です。まさか…。」

 

「そう焦るな、部隊が帰ってきたのはつい先程なのだ。撤退途中に何者かに付けられていたのであいつだけ別行動の上、その何者かを排除してから戻る事にしたそうだ。」

 

「大丈夫なのですか?」

 

「あいつに限っては大丈夫だろう。破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)とも優勢に渡り合ったそうだしな。」

 

 その時、ガチャリと部屋の扉が開いた。噂をすればなんとやら、姿を見せたのは漆黒聖典隊長であった。よほど急ぎの用事でもあるのだろうか、帰国した後も戦仕度のままである。

 

「土の神官長、ここにおられましたか。それに一人師団、久しぶりだな。」

 

「おお、帰ったか。首尾は?」

 

「その事で緊急に耳に入れたいことが。他の神官長方にもお集まり頂いています。」

 

 隊長の身体には傷一つ無い。しかし顔は厳しかった。件の追跡者の事なのか、何か重大な話があるようだ。

 

「そうか。クワイエッセ、呼び出しておいて悪いが中座させて貰う。また後で来てくれ。」

 

 レイモンはクワイエッセに詫びを入れると、急いで立ち上がった。構わないと返事をするクワイエッセに対して、隊長が思い出したように去り際に口を開いた。

 

「ああ、そうそう。もしかしたらもう聞いているかもしれんが、俺たちが敵に遭遇した場所にお前の妹もいたぞ。」

 

「おい、その話は…。」

 

「何ですとぉ!クレマンティーヌちゃんが!」

 

 突然クワイエッセが人が変わったように甲高い声を上げた。興奮してコップに入っていた水を溢してしまっていても御構い無しだ。レイモンは片手で顔を覆っている。

 

「レイモン殿!何故それを言って下さらなかった!」

 

「…言うつもりだった。タイミングが悪かっただけだ。」

 

「嘘です!その顔は嘘をついている顔だ!」

 

 レイモンは両手で顔を覆う。指の隙間から隊長に向かって恨めしそうな視線がのぞいていた。

 

「私は王国に行きますよ!」

 

「駄目に決まっているだろうが! お前には別の任務がある。そのために呼び出したのだ!」

 

「兄妹が会うのに理由が要りますか!」

 

「あー! もー!」

 

「神官長、会議は20分後です。お急ぎを。」

 

 この事態を引き起こした張本人の隊長が1番穏やかなのが腑に落ちない。レイモンはなんとかクワイエッセを椅子に縛り付けて神殿を後にした。どうやら神官長の中で情報が来たのはレイモンが最後らしく、隊長も共に会議の場に向かうようだ。

 

「あいつはあれさえなければ優秀な奴なのだが。」

 

 クワイエッセは妹の事になると昔から良くも悪くも見境がなかった。クレマンティーヌが亡命してから静かだったのだが、その反動が来たみたいだ。

 

「ハハ、良いことではないですか。彼も兄としての責任を感じているのでしょう。罪人を捕らえようとあんなに意欲的になっているのです。良いことでしょう。」

 

「…それ、本気で言っているのか?」

 

 レイモンの問いに隊長は不思議そうな顔をした。隊長はいかんせん強過ぎるのか、時たま周りと感性がずれていることがある。クワイエッセの妹への異常な執着を仕事に対する意欲なのだと片付けているあたり相当だろう。レイモンは大きく溜息を吐いた。

 

「はぁ、どいつもこいつも。」

 

 レイモンは漆黒聖典OBとして今の組織が少し心配になった。

 

 

 ーーー

 

 

「ではアインズ様、計画を次のステップに進めるということでよろしいですか?」

 

「ああ、頃合だろう。」

 

 ナザリック地下大墳墓第10階層、アインズの執務室。アインズが腰掛ける椅子の対面にはアルベドとデミウルゴスがいる。

 

「明日には王国戦士長に約束を取って王城に行く。」

 

 これまでに予定外の事が起こりすぎて、アインズが生で直接現地の情報を得る機会が随分と後回しになってしまっていた。部下達にも情報収集をさせてはいるが、ナザリック至上主義や強者としての価値観から何か重要な情報を見落としている可能性も否定できない。この世界にどんな脅威があるかわからない中でこれ以上悠長な事をしてはいられず、やはりどこかでアインズが直に判断を下す材料を集める必要があるのだ。

 

 それに最近アルベドやデミウルゴスの視線が妙に鋭く感じられるのだ。言葉の端々、身じろぎ一つまで監視されているような気がしてならない。やはり勝手にモモンとして行動した時のミスが響いているのだろうか。モモンガの信頼にひびが入っているのではないか。ここらで信頼回復の一手を打たなければ。

 

 というかあのリカオンとかいう女に会う時に限って不測の事態が起こっている気がする。あの女が絡むとどうも上手くいかない。

 

「はぁ、もう会いたくないな…。」

 

アインズはない溜息を吐いた。

 

 

 






遅ればせながら、原作12巻読みました。
とても面白かったですね。
特にお気に入りのキャラはレメディオスです。正統性の暴力を体現したみたいな奴で、職場を思い出して胃がキュっとなりました。でも正義に対して真っ直ぐなところが好き。

後、挿絵のガガーランがイケメン過ぎる。

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