突然だが、「めんどくさい」という感情はなぜ存在するのか。進化心理学の視座から考えてみよう。
人類(ホモ=サピエンス)の心には、喜怒哀楽をはじめ様々な感情システムが搭載されており、そのすべてに“生物学的な機能(function)”が備わっている。たとえば筆者の前々回の記事では、「『寂しさ』は、サバンナでひとりぼっちになること(=きわめて危険な状況)を回避するための感情として進化した」と述べた。
では、「めんどくさい」という感情は何のために、どんな生物学的機能を持って進化したのか?──私たちに「効率を追求させるため」というのが、進化心理学の回答だ。
「めんどくさい」という感情は、われわれサピエンスに〈効率を追求させる〉ように機能する。何のための効率か?究極的には、個体の生存・生殖の成功のための効率だ。
例えば、飢えて空腹の動物は“狩り”(=食料獲得の努力)を面倒臭がらない。しかしそのような「飢えている」シーン以外では、できるだけエネルギーを節約する方法を考えた方が有利だ。だから動物園の動物たちはみんな「めんどくさそう」なのだ。
──ムダなエネルギーは使わないに越したことはない。単純に言うと、「めんどくささ」を感じない人間は、一生 “非効率の罠”に囚われたままになり、それが進化上不利であったがために淘汰され、「めんどくささ」を感じる人間ばかりが生き残ってしまったということである。
自分が取り組んでいることに「ムダがある」と思った時、サピエンスは「めんどくさい」と感じ、ショートカットをしようとする。人類の発明の歴史を振り返れば、このようなサボり心(=効率化欲求)がイノベーションの源泉ともなってきた。
──興味深いのはこの先だ。進化心理学の理論によれば、面白い「逆転現象」がここに生じる。サピエンスの集団の中では、「非効率さ」をあえて他人に示すことが「誠実さ」のシグナリング(=証)になるというのだ。*1
たとえば、ニッポンが得意とする “おもてなしビジネス” とは、「手間がかかっている」「非効率である」ということを「あえて」示すことで「あなたには『効率重視』の対応はしませんよ」という“誠意”を見せる仕事である、といえる。
自分が愛情やまごころを抱いている人に対しては、「