マグネパンの修理のため、分解してみました。
左右とも、正常ではないため、両方とも作業を進めます。
手術台の上の患者
枠木を外す。木ネジは日本では見られない形をしています。
端子盤を外す
青と白コードはフューズ端子 分流用の抵抗が並列に入っています。
下部からステープルを外すため、テープを取る。
麻布に傷つけぬよう、根気よくラジオペンチで弾く抜いていく。
忍耐と握力を使います。
全部で40本ほど。二重に打ってあります。二台分で約90分の作業。
ふうっ
そっと優しく服を脱がせる。未知の世界拝見
中はベトベト、かなり錆びも出ているぞ。
うわっ ボイスコイル(とは呼ばないか・・)が振動膜から剥離している。折り返し部分は全滅です。
0.1mm(多分)の膜にはシリコン系の粘着物質塗られ、銅線固定と振動のダンプ材ともなっているようです。
二台とも同様の症状なので、この時代のマグネパン共通の弱点のようです。
左は低音用回路、右は高音用回路。
幸運なことに、高音用の回路は導通あり!!ラッキーです。
もう一方の高音回路もOK。錆びもすくなしい・・。
修理事例によると、「年代物のマグネパンは高音用のアルミ線が粉になり、修理不能となる。」と聞いていたので一安心。
こちらの低音回路も生きている
結果的に、片側の低音回路のみ断線でした。
低音用は銅のエナメル線だし、太いので深刻な修理ではない。
断線箇所発見!!!
なんと、太いエナメル線が切れています。おそらく・・・
エナメル線が振動膜から剥離→そのまま聴き続ける→共振により金属疲労→剥離根本部分のエナメル線が破断
でしょうか。これだけわかりやすく切れていると明快です。
途中の線も磁器回路中央から外れている部分多し
下、低音用回路。上高音用回路。高音用アルミ線ははダメージが少ないですが一部磁器回路より外れています。
表面は培養された細菌のように斑点で覆われる。アルコールで拭くぐらいにしておきましょうか。
低音回路の周辺部はダブルで
中央部はシングルで回路ができています。意味があるのでしょうねえ。
正面への音の放射は小さな穴を介して行われる構造。
振幅制限で音響的に負荷をかけているのでしょうか。不思議です。
何か銅線の貼ってある裏側から聞いた方が障害物がなくストレートでよい音がしそうですが、
でも製品化までには実験を重ね、ベストデザインにしたはずですね。
穴と穴の間には、長方形のマグネットが配置されているはずです。
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スタックススピーカー修理の時も貴重なアドバイスを頂いた村瀬康治様の資料をお借りします。
https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2014-05-04
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それにしても、このめくれ方はひどいなあ
麻のネットからエンブレムも外して、漂白、洗濯しましょうか。
マグネパンの構造と状況が把握できました。
修理内容は
〇低音回路の断線部分の結線
〇剥離したエナメル線のシリコン材での固定
〇磁器回路から外れているエナメル線の修正固定
〇錆びたコネクタの磨きなおし
〇麻カバーの漂白、ほつれ直し
〇脚部分の傾斜を使いやすく修正
で行けると見ました。
エナメル線固定のシリコン材に何を選ぶかが課題です。
重くなってはいけないし、また剥がれるのは嫌だし。
ゴム系ボンドのG18でも良いもしれませんが、すでに塗布されているシリコンとの相性が問題です。
マグネパンはフレミングの左手法則で駆動されている他の膜型スピーカーの、アポジー、インフィニティ―、ハイルドライバー、各社リーフ型に比べシンプルで修理しやすそうです。断面が丸い導線をマグネットの間隔に配置しているだけですから、面駆動というより、幅の狭い線駆動ですね。膜も0,1mmの厚さがあるので、作業もしやすい。
この構造でも、コンデンサ型に迫る、充分な情報量と繊細さを持っているそうですから、楽しみです。
高電圧と、ミクロン単位の膜と。目に見えない導電材との闘いであるコンデンサスピーカーの修理に比べれば、問題ないと見ました。