連載
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出産まであと1か月半、医師から告知されたのは…
#38 コミチ漫画コラボ
お腹の子に障害が……「今だったら描いていいかも」母の愛を漫画に
実話をもとに描かれた「母になる」
漫画家・月本シロさんは、自身の経験をもとに漫画「母になる」を描きました。テーマは、「何度も描きたいと思っていたけど、描けなかった」という、月本さんの人生においてとても大切で、心に深く刻まれている出来事です。
現在4歳の長男が生まれる1か月半前のこと。病院で告知されたのは、お腹の子どもの両足が欠損しているということでした。逆子だったこともあり、足の様子はエコーでは見えづらく、臨月が近づくまでわからなかったのだといいます。
「聞いた時は、意識が遠のくほど驚いてしまって、これからどうしていけばいいのかわからなくて……」
子どもがほしいと思った時、障害がある子どもが生まれてくることを考えていなかった訳ではありません。夫とも、子どもを授かる前から話し合ってきました。しかし、実際のところは当事者になってみないとわからないもの。現実では、布団の中でふさぎ込んでしまう月本さんがいました。
作中、落ち込んだ主人公の目線の先にあるのは、子ども用の小さな靴です。夫に「もう靴とか選んでるの?」と、からかわれながら買ったものでした。「楽しみだねぇ」と笑い合った思い出が、主人公の胸をしめつけます。
私も「かわいい」と思えるのか
両足が欠損している原因はわかっていません。「どうしてもある程度の確率で、どこかを失った状態で生まれてくる子どもはいる」と、医師は月本さんに説明しました。「お母さんのせいじゃないんですよ」と言われても、どこかで自分が間違ってしまったのではないかと考えてしまいます。
月本さんにとって初めて授かった子ども。顔が見えなくてもいとおしく感じ、ひどいつわりにも耐えてきたと言います。
「だけど告知を受けた時、お腹の子に対して、それまでかわいがっていた感覚とまったく違うものを感じてしまった。そんな自分は嫌な人間だと思ったし、親になるのにふさわしい存在じゃないと考えてしまったんです」
思い出したのは、乙武洋匡さんが執筆した『五体不満足』(講談社)の一場面でした。先天性四肢切断という障害により、両腕と両足がない状態で生まれた乙武さん。母親がショックを受けないか周囲は心配するも、乙武さんを初めて見た母は「かわいい」と口にするというエピソードです。
「乙武さんのお母さんはすごい人だなと思っていたけど、私は『かわいい』と思えるのか……」
罪悪感と不安で、「親になる資格はないんじゃないか」という思いに駆られて苦しむ日々。それでもわが子は、どこを使ってか、お腹を蹴ってきます。「本当は足があるんじゃないか」。そんなことも考えるようになりました。
夫婦が見つけた「希望」
どんな情報を集めたらいいかもわからない中、ふさぎ込む月本さんの目に入ってきたのは、パラスポーツ選手の特集番組でした。スポーツをしている姿はもちろんのこと、月本さんを勇気づけたのは選手が生活をしている姿。足に障害がある人が身近にいなかった月本さんにとって、生きた情報に触れる貴重な機会となりました。
「息子と同じような足の人が、自分で練習に行ったり、普通に生活したりしている。その時その時で、障害とうまく付き合って生きていけるんだと知れて、前向きになるきっかけになりました」
作中では、当事者を知るきっかけとして、義足の少年との出会いが描かれています。心境に変化があった主人公は、夫にメールを送ります。
《生きてたら楽しいこと沢山あるってこの子に教えてあげたい》。すると、夫からは《僕もそう思う!》という返信が。落ち込んでいた主人公の顔は、母になる覚悟を決めた表情に変わっていました。
このメールのやりとりは、実際に行われたものです。悩み苦しんだ結果、月本さん夫妻が見つけた希望でした。
「子どもがほしいと思ったのは、私のこれまでの生活が楽しかったように、自分の子どもにも楽しいことを経験してもらいたかったから。この初心を思い出して、夫の足並みもそろっているのが実感できたことは、とても心強かったです」
生まれた息子、お腹を蹴っていたのは…
「もう悩んでも仕方がないから」と迎えた出産の日。周囲は気を使って、月本さんに赤ちゃんの足が見えないようにしてくれていたそうです。しかし、どんな子どもであっても受け入れようと決めた月本さんは、すぐに姿を確認したといいます。
生まれたばかりの息子は、ひざまでの片足をばたばたと上下に振っていました。これが、月本さんのお腹を蹴っていた正体でした。
「すごく堂々たる姿だったんですよね。この子は、(障害の有無に関わらず)自分の体はこうだと思って生まれてきてるんです。私が自分を責めて布団の中でもがいていた時も、他の子と同じように体を動かそうしていたと思うと、心配や戸惑いはなくなりました」
後からわかったことですが、長男は楽しい時や気分が上がった時に、足をバタバタさせる癖があるそうです。「あの時も、この子は楽しかったのかもしれないですね」と月本さん。時折涙ぐみながらも、当時のことを語ってくれました。
「冷静に振り返れない」漫画にした理由
4歳になった月本さんの長男は日々、義足で歩く練習をしています。医師に「いつかは歩けるから大丈夫」と言われていましたが、これまで歩行できたのは平行棒や補助つきでした。
先月のこと。息子は杖を使いながら、ひとりで父親に歩み寄っていきました。「初めて息子が本気で歩いている姿を見た」と月本さんは話します。
「ひとりで歩きたい」という息子の意思が見え、息子の成長を実感したといいます。あの時抱えた月本さんの心の荷は、少し軽くなっていました。
「今だったら、苦しかったことを描いてもいいかもしれない」。このことがきっかけで、「自分でも冷静に振り返られなかった」という息子の誕生にまつわる出来事を、漫画にして発表しました。
今でも不安が全くないわけではありません。しかし、手足の障害がある当事者やその親御さんと交流する機会も増えるなど、長男が更に成長した時のイメージはわきやすくなりました。
「息子を産んだことで、いろんな人に出会い、考えを知ることができました。つらい経験も描きましたが、前向きになれたということは伝えたかったです。想像ができなかった未来も、今では息子がいる生活が『普通』になっています。当時の自分にも、そう言いたいです」
◇
月本シロさんのTwitter:@ch_line
「お腹のお子さんには両足に重度の障害が…」悩んだ母が約束したこと
月本シロさんのマンガ「母になる」 出典:コミチ
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