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「トルコ系ドイツ人」プロサッカー選手、メスト・エジル氏の憂鬱

だからこそ「移民問題」は難しい

トルコ語のツイートで

ドイツの外国人は総人口の13%に上る。すでにドイツに帰化した人を合わせると、4人に1人が外国人、あるいは移民系のドイツ人だ。

その中で一番多いのが、70年代から入り始めたトルコ系の人たちで、すでに300万人にもなる。人口8000万人のドイツで300万人のトルコ系というのは、かなりのインパクトを持つ。

有名なドイツ人サッカー選手メスト・エジル(Mesut Özil)もその一人で、彼自身はドイツ生まれだが、両親はトルコからの移民だ。国籍はドイツなので、かつては独ナショナルチームの主要戦力として、ワールドカップやUEFAチャンピオンズリーグでも大活躍した。現在は、ロンドンのアーセナルFCでプレイしている。

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その彼が、最近、ツイッターにて、新疆ウイグル自治区での中国共産党によるウイグル人弾圧を非難した。エジルはトルコ語のツイートで、「コーランが焼かれ、モスクが閉鎖され、人々が収容所に入れられている」として、「兄弟たち」への支援を訴えたのだ。ウイグル人は、言うまでもなく、トルコと同じくイスラム教徒の人たちだ。

それに対し、中国外務省は記者会見まで開いて、「新疆ウイグル自治区で民族は団結し、落ち着いた生活を送っている」と反論した。そして、その二日後、中国の国営中央テレビ(CCTV)では、アーセナルFC対マンチェスター・シティー戦の中継が、急遽中止となった。この試合のメンバーからは、すでにエジルは外されていた。

 

後味の悪い事件

実は、このエジル選手をめぐっては、去年、ドイツで何ヵ月ものあいだ、大きな論争があった。

2018年5月14日、エジル他2名、やはりイギリスのサッカーチームでプレイしているトルコ系の選手が、ロンドンでエルドアン大統領と面会し、その写真がマスメディアで報道された。

エルドアン大統領自身も若い時に、アマチュア・サッカーの選手として活躍したことがあり、エジルとの対面はこれが最初というわけでもなかった。彼にとっては、自国の選手のヨーロッパでの活躍はおそらく嬉しいことでもあるのだろう。

その日、選手たちはそれぞれサイン入りのユニフォームを大統領に贈った。

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ところが、4人で仲良く写っているその写真が発表された途端、普段からエルドアン大統領のことを極悪人のように報道しているドイツメディアが大騒ぎを始めた。「民主主義を足で踏みにじっている独裁者と、仲良く写真を撮るとは何事か!?」。

エジルはドイツ国籍で、ナショナルチームのメンバーであったため、攻撃の矛先は彼に集まった。