75歳以上医療費、一定の所得で2割負担 政府中間報告

経済
2019/12/19 16:55 (2019/12/19 17:31更新)

政府は19日、社会保障制度改革の中間報告をまとめた。75歳以上の医療費窓口負担を見直し、一定以上の所得がある人は今の原則1割を2割に上げる方針を明記した。2022年度までの一律適用を目指す。70歳まで働く社会に向けた施策も盛り込み、年齢ではなく所得に応じて社会保障の費用を負担する仕組みに移る。ただ窓口負担の拡大は一部で、介護の改革なども乏しい。少子高齢化の処方箋としては不十分だ。

同日開いた全世代型社会保障検討会議でまとめた。20年中に改革法案の国会提出を目指す。2割負担の導入を目指す22年度には、団塊の世代が75歳になり始める。

年金と医療、介護などの社会保障給付費は17年度の約120兆円が、25年度には約140兆円に膨らむ見通しだ。日本の社会保障制度は現役世代の保険料で高齢者への給付を支える「仕送り型」が基本で、このままでは現役世代の負担がどんどん重くなる。同日の会議で安倍晋三首相は「現役世代の負担上昇を抑えながら、すべての世代が安心できる制度を構築する」と述べた。

焦点となった医療では患者の負担増を盛り込んだ。75歳以上の後期高齢者が病院の窓口で支払う自己負担を引き上げる。今の負担割合はかかった医療費の原則1割で、現役世代並みの所得がある世帯だけが3割。改革後は現役並みの所得がなくても、年金収入などが一定以上あれば2割負担にする。具体的な線引きは厚生労働省が詰める。

紹介状なしで大病院を受診する患者の負担も重くする。現在も外来受診の初診で5000円以上を追加で支払う定額負担制度があるが、これを1000~3000円程度上積みする方向だ。対象の病院は400床以上の420施設に限られているが、200床以上に広げる。

新制度では上乗せ負担の相当額だけ医療保険から病院への給付を減らすため、医療保険財政の改善につながる。患者が大病院に集中する構図を是正する効果も見込む。大病院は入院や救急医療など重い病気・けがの患者を治療し、風邪などは診療所のかかりつけ医が担う。役割分担で効率的な医療体制につなげる。

長く働ける環境づくりも急ぐ。希望する高齢者には70歳まで就業機会を確保するよう企業に努力義務を課す。高齢者は健康状態などの個人差が大きくなるため、定年延長や再雇用だけでなく、高齢者がフリーランスとなって業務委託契約を結ぶなどの選択肢も認める。

副業・兼業は新たな技術開発や起業につながり、「第2の人生の準備として有効」とした。拡大に向け、労働時間の管理や残業代の払い方などについて議論を進める。

公的年金も高齢者の就業を後押しする制度に見直す。現在70歳が上限となっている受け取り開始年齢を、希望する人は75歳まで延ばせるようにする。75歳からもらい始める場合、月あたりの年金額は最大84%増える。厚生年金に入るパート労働者の対象も拡大する。

日本は少子化で15~64歳の生産年齢人口の減少が続いている。高齢者が働いて年金や医療の支え手に回れば、社会障制度の持続性は高まる。

ただ今後の高齢化を見通すと給付と負担の見直しはなお不十分だ。75歳以上の高齢者は25年には人口の6人に1人になる。医療費よりも給付の伸びが大きい介護は、担い手不足の深刻化など制度に大きな課題を抱えているが、改革はほとんど手つかずのままだ。

医療でもすべての病院で外来受診した患者から一律で少額の定額負担を求める「ワンコイン」の導入は見送った。花粉症や湿布、漢方薬など軽症者向けの医薬品を医療保険の対象から外したり、自己負担割合を引き上げたりする仕組みについては議論が深まっていない。

政府は20年6月に社会保障改革の最終報告をまとめる。より踏み込んだ改革案を示せるかが焦点になる。

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