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語り始めた “毒親育ち”

「家族だからと言って許す必要はない」
「最終的に家族は分かり合えるという “家族神話” が私たちを苦しめている」

最近耳にする「毒親」という言葉。暴言や暴力などで子どもを支配、過干渉で子どもの意見を聞かない、逆に自分を優先して子どもを構わないなど、「不適切な養育」をしている親を指すものです。体を傷つけたり、栄養失調にさせたりするなど事件として伝えられる「虐待」に比べ、より幅が広い問題と言えます。

この “毒親” のもとで育った子どもたちが、さまざまな生きづらさを語り始めています。

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「助けてと言える状況と知らない」

「酔うと化け物になる父がつらい」や「毒親サバイバル」の著者、漫画家の菊池真理子さん。
酒に溺れ、家庭を顧みない父親との生活や、「毒親」に育てられた人たちの体験を漫画で描き、話題となりました。

記憶に残っている父親は、いつも泥酔状態。
休日には必ず父の友人が集まり、朝まで麻雀。布団で騒々しい音と酔っぱらいの大声に悩み、家族団らんはありません。プールに行きたい、ささやかな願いも叶えられず。父親は、飲酒運転をして車を燃やしてしまったこともあったといいます。

母親は宗教にのめりこみ、子どもを置いて連日夜は外出。菊池さんが中学2年生の時にみずから命を絶ちました。
泥酔する父親の介抱は、中学・高校生になっても続きます。

父親との生活を “洗濯機の中に入れられて訳もわからずぐるぐる回されている状態” と表現した菊池さん。
「誰かに助けを求めなかったんですか」  記者の問いに菊池さんはこう答えました。

「助けてと言えないし、助けてと言える状況だと知りませんでした。あきらめるという感覚もないままに日常に飲み込まれていくという感じだったんですよね。
家族の話は、今振り返ってみるとひどいと思いますが、子どもにとっての『普通』は、いつも『自分の家族』が基準なので、なかなか気づくのは難しい」

 

家族だから我慢… 感情が消えた

つらい感情も “家族だから” と我慢しました。
考えることをやめ、感情を押し殺すことで現実から目を背けました。本当はつらいのに泥酔する父親の話を笑い話にして友達に披露する。人間関係の築き方も分からなくなり、友達とも うわべだけのつきあいだったといいます。

悲しい現実は、見えないよう感じないよう仮面をかぶり、人前では明るく元気なふりをして、本当の自分を見失っていきました。

「自分自身でも何を考えているのかわからない。みんな笑っているから、おもしろいかどうかわからないけれど同じような笑った仮面をつけておこうとか。
自分が我慢をしていれば波風は立たないし、常に波風が立っているので、自分が何かをして波風が立つくらいなら、感情を押し殺して何もなかったことにしようとして生き延びてきた気がします」

 

離れて気づいた家族の呪縛

さまざまな生きづらさを抱える毒親育ちの子どもたち。

都内に住む40代の女性は『毒親と離れる』選択をしました。
女性の母親は、機嫌が悪いと女性を「ブタ」呼ばわりするなどの暴言や、体罰を繰り返したといいます。さらに、両親は常にけんかをして怒鳴り声が鳴りやまず、食事もインスタントが多い…。
その一方で、進学や就職先は、みずからの意見を押しつけました。子ども自身に選ばせず、表現することを許されずに育てられ、精神的に支配されていたという女性。当時の状況を、こう語りました。

「今考えると、母親も『理想の親』に縛られた結果、おかしなことになって “謎の理想の家族” に振り回されているのではないかと思います。家族が憎しみながら同じ家にいても、それがおかしいと気づかない不思議な空間。正常な判断もできなくなって、本来の自分の良いところも発揮できなくなってしまっていました」

 

女性は20代後半で思い切って実家を出ました。今は数年に一度会うだけです。母親と連絡は取っていますが、適度な距離感をもつことで振り回されることはなくなりました。

「家族という枠の中に入り込むと、おかしいと気づくこともできない。どんな場所でもまずは外に出て、自分が安心できる場所を見つけることが大切です」

 

“壊れた器は捨てなさい”

女性は、こうした経験を元に毒親との向き合い方をまとめたサイトを立ち上げました。
その名も「壊れた器は捨てなさい」
「器=家族のメンバーをいれる集合体。その器が壊れている、家族として機能していないなら、解散してもいいのではないか」というメッセージを込めました。

・親と離れる
・1人でも理解者を得る
・毒親は直らないと覚悟する
・冷静に「No」と言ってみる
・法律の観点から毒親を見る などなど。

サイトには、自分が実践した対応方法、20項目ほどが示されています。
例えば「スルー力を身につける」。
女性の手書きの4コマ漫画とともに「『毒親の言うことが絶対正しい神の声』だったのは、もう過去のことです」「自分を強く持ってスルーしましょう」とアドバイスが添えられています。

サイトには同じように親との関係に悩む人たちから共感が集まっています。

 

親を “客観視” してみると…

「親から離れる」という選択とは別に、親を「客観視」することで、心の落ち着きを取り戻した人もいます。

最初に紹介した漫画家の菊池さん。4年前に父親が亡くなりました。毎晩泥酔していた父親を客観的に見ることで、少し心情が落ち着いてきたといいます。

父親は、なぜ毎晩酔っ払い、家族をほったらかしにしていたのか。
今、菊池さんは、父親が亡くなったのち、さまざまな人から話を聞く中で、アルコール依存症だったのではないかと思い、専門家の取材を始めました。

取材先の一つとして選んだのが、精神科医で埼玉県立精神医療センターの成瀬暢也副院長です。
父親が酒をやめないのは自分のことが嫌いだからだなどと悩んできた菊池さん。成瀬医師の話を聞くうち、その考えが違っていたことに気づかされました。

「依存症の人が酒を飲むのは『人に癒やされず生きづらさを抱えた人の孤独な自己治療』で、本来患者さんたちは働き者でまじめです」(成瀬医師)

菊池さんは、ふだんは無口で口べただった父親を思い出しました。
今も父親の行為は許せませんが、当時の父親がどんな状況だったのか、客観的に捉えることで気持ちが少し楽になったといいます。

 

家族神話にとらわれないで

取材を通して、印象的だった言葉があります。
菊池さんの「家族神話にとらわれないでほしい」という言葉。

「家族は一緒にいて幸せだ、最終的には理解し合える、許すものだという正論だけで語ってしまう家族観や、家族の絆を美談にしてしまう考え方に縛られないでほしい」(菊池さん)


家族を美化することが、本来なら第三者が介入した方がよい問題も家族内での問題解決に向かわせてしまったり、「毒親」に育てられた人の心をより傷つけたりしているというのです。

一方で、「毒親」という言葉が安易に使われることに、「毒親という言葉が一人歩きしている。毒親となる背景には、うつ病や統合失調症などの病気や依存症、不安定な愛着スタイルなどの精神的な問題を抱えているケースもある」と警鐘を鳴らす専門家の指摘もあります。

しかし、「家族の中のこと」と、これまで見過ごされてきたさまざまな問題が、「毒親」という言葉によって、浮かび上がってきています。私たちは、その当事者の切実な声に耳を傾け知ることが、新たな「毒親」を生まないためにも必要なことではないかと感じました。
 


 

さいたま放送局
浜平 夏子
平成16年入局
宮崎局、福岡局を経て現在さいたま局で遊軍サブキャップ。
子育てや高齢者福祉の現場を長年取材。2児の母。