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【社説】

トランプ氏弾劾 外交歪めた責任は重い

 国益を損ない国を裏切ったと手厳しい指弾である。ウクライナ疑惑をめぐって米下院がトランプ大統領を弾劾訴追した。トランプ氏が外交を私物化したことは否定できない。責任は重大である。

 弾劾決議は、トランプ氏が軍事支援の見返りに、来年の次期大統領選の有力対抗馬になり得るバイデン前副大統領への捜査の公表をウクライナ側へ要求したと断定。「トランプ氏が政治的利益を得るために大統領権限を乱用して安全保障を侵害し、国益を毀損(きそん)した」と非難した。

 ウクライナ当局にバイデン氏の捜査をさせれば、次期大統領選にウクライナ政府を介入させることになる。決議は「トランプ氏が民主的選挙を不公正なものにするため、外国政府に協力を求めることで国を裏切った」と糾弾した。

 訴追に至るまでに下院公聴会では現・元政府高官十二人が証言に立った。そこで浮かび上がったのは外交の歪(ゆが)みである。

 トランプ氏の顧問弁護士のジュリアーニ元ニューヨーク市長は、外交官でもないのにトランプ氏の意を体して暗躍した。

 そればかりか邪魔な存在のヨバノビッチ駐ウクライナ大使に対する中傷キャンペーンを繰り広げ、解任につなげた。

 トランプ氏は「権力乱用」とともに、議会の調査に協力しないよう政府高官らに命じた「議会妨害」でも訴追された。そんな圧力の下でも十二人が証言に応じたのは、「腐敗した利害関係者たちが対ウクライナ外交を乗っ取った」(ヨバノビッチ氏)ことへの懸念と危機感からだろう。

 弾劾には政権奪還を目指す民主党の大統領選絡みの思惑も働いている。きれい事ばかりではない。

 一方の共和党は弾劾反対で足並みをそろえた。弾劾支持の世論は広がらずトランプ氏の支持基盤も揺らいでいない。共和党が多数を占める上院がトランプ氏を罷免に追い込む可能性は薄い。

 それでも、あらわになった外交の乱脈ぶりを放置するわけにはいかない。トランプ氏の暴走を止める責任を共和党は自覚してほしい。

 トランプ氏も「魔女狩りだ」と批判するばかりではなく、自分にかかった疑惑の真相を明らかにすべきだ。

 国論を二分し党派色が前面に出た弾劾劇になったのは、米社会の分断を象徴している。排他的なトランプ氏はその亀裂を広げた。これは米国の深刻な弱点になろう。

 

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