「尊敬と崇拝は違う」FINAL SPANK HAPPYと語る男女のパートナーシップ

FINAL SPANK HAPPYのBoss the NK a.k.a. 菊地成孔とOD a.k.a. 小田朋美(Photo by Kana Tarumi)

1stアルバム『mint exorcist』が12月1日よりサブスク解禁となった、FINAL SPANK HAPPYの2人、BOSS THE NKとODにインタビュー。今回はお目付役として菊地成孔と小田朋美も同席しての4者会談(?)となった。聞き手はライターの嘉島唯。

「女性のことを本当に尊敬できないことになかなか苦しんでいた」と男が笑いながら話す。一方、隣に座る女は「私自身、男性を純粋に尊敬できないこともあった」と訥々と返す。

菊地成孔によるエレクトロポップ・ユニットSPANK HAPPYだ。SPANK HAPPYは、1992年にハラミドリ、菊地成孔、河野伸の3人で結成(1期)後、1999年からは岩澤瞳と菊地によるボーカルデュオ(2期)と形を変え、2006年に活動を停止していた。

時代に合わせて形を変えてきたSPANK HAPPYだが、2018年にFINAL SPANK HAPPYとして息を吹き返し、2019年10月には初アルバム『mint exorcist』をリリースした。再生に伴い、菊地成孔はBOSS THE NKをアバターに、新しいパートナーとして迎え入れられたのが小田朋美と相貌が瓜二つの新人OD。ちなみに小田は、東京藝術大学を卒業後、CRCK/LCKSのボーカリスト、菊地主催のdCprGのメンバーとしても活躍する音楽家である。なんだか複雑だが、どういうことなのか? 菊地が説明する。

「ええ、ご覧の通りですね、FINAL SPANK HAPPYは菊地成孔と小田朋美ではなく、アバターである彼等(指差す)、BOSS君とODによるユニットなんですよ。顔こそそっくりですが、小田さんは(指差す)クールでエレガントな方です。でも こいつ(ODを指差す)はひょうきんな弟キャラ。天才の猿みたいな(笑)」

菊地成孔と小田朋美ではなくアバターに活動させる。BOSSとODは互いが作詞作曲に携わる。これには一体どんな意味があるのだろうか?

2005年に『CDが株券ではない』という書籍を上梓していた菊地のことだ。現代社会と音楽のつながりについて意図することがあるに違いない──。



Photo by Kana Tarumi

「鬱っぽい雰囲気はやりきったので、もうやらないし、なにせ男女を対等にしたかった」

─まずは菊地さんと小田さんに伺います。お二人はもともと先生と生徒のような出会いだそうですね。

菊地:教師と生徒というか、僕が東京藝術大学で教鞭をとっていて、彼女が潜っていて……というような感じですかね。当時は小田さんは坊主頭でパンキッシュな風貌をしていました。

数年後に「すごい才能を持った若手がいるのでぜひプロデュースを」みたいな感じで紹介されたのが小田さんでした。まさかあの時の坊主頭の子だとは思いませんでしたけど。当初は、プロデュースも断ろうと思ったんですけどね。僕はジャズミュージシャンで、小田さんは藝大の作曲科でしっかりとクラシックの作曲の勉強をされている方だから。

周りに粘られて、小田さんのソロアルバム『シャーマン狩り』をプロデュースさせてもらったり、その後に僕のバンドに加入してもらったりしているうちに、小田さんのことは全く関係なく、SPANK HAPPYの再開を決めまして……。

─SPANK HAPPYは歴史あるグループですよね。菊地さんのパートナーを変えながら、今度で3期。

菊地:そうですね。90年代かな。世間では渋谷系が流行っている時からやっていました。当時は気持ち悪いとか言われましたけど、気持ち悪くしてたわけですもちろん(笑)。ゼロ年代あたりになったら「あれは早すぎた」「今やるべき」って言われたりして。それがピークに達したんですよね。

ラジオ(TBSラジオ「菊地成孔の粋な夜電波)で2期の音源を流すと、若いリスナーの食いつきが異常に良かったんですよ。何やっても「あいつは15年早い」とか言われてはいたんですけど、目の当たりにした感じでした。それで、「全く別の、新しいSPANK HAPPYをやろう」とスタジオのブースで思いついたんです。

─今までのSPANK HAPPYと今回は何が違うんですか?

菊地:たくさんありますけど、まずはメンヘラとか鬱とかの表現を捨てるということ、男女が対等であること、先取りしすぎる音楽ではなくインジャストなシティ・ポップをやること。そして何よりも、自分はやらないでアバターにやってもらう。ということですね。

岩澤さんと組んでいた2期はジェンダーがはっきりしていた。女の子が白紙のような美少女で、男が気持ち悪いフェティッシュな眼差しを持っているような。あとは幼児退行ですかね。鬱っぽい雰囲気。それはもうやりきったので、今度は「病み」なんて言ってないで、かつ男女が能動的で対等である、ということをやりたかったです。

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