AIで数千人を瞬時にカウントできる技術をキヤノンが開発、計測誤差は5%以内を実現

12月19日、キヤノンは、ディープラーニング(深層学習)を用いて、ネットワークカメラで撮影した映像から、数千人規模の群衆人数をリアルタイムにカウントする映像解析技術を開発したと発表。あわせて、この技術を搭載した映像解析ソフトウェア「People Counter Pro」を12月下旬から発売する。なお、価格は個別見積となっている。(外部サイト

キヤノンによれば、

「2018年に開催されたラグビーの国際試合での実証実験では、キヤノンの群衆人数カウントの技術によって約6千人を数秒でカウントできました。実証実験後の画像を人手で確認した人数と、ソフトウェアによるカウント人数の差は5%以内に収まり、ほぼリアルタイムで、群衆人数を正確に把握することに成功しました」

とのことだ。

これまでの動体や人物の顔を検出する映像解析技術は、人が密集する混雑状況下では正確に数えることが難しいという課題があった。なぜなら、体の重なりや顔の向きなどの影響を受けるからだ。

キヤノンが開発した技術なら、映像から人の頭部を検出することで、人が密集している状況でも人数をカウントできる。また、指定した領域の中にいる人数の表示や、推移のグラフ表示も可能だ。そのため、混雑状況の把握や分析に活用できるとされる。

また、対応できる画角が広いため、カメラ設置場所の自由度が高いそうだ。さらに、GPUを搭載していないPCでも動作可能なため、設置や運用コストを抑制できる。

混雑状況の把握が容易になることで、都市や公共施設、スタジアムなどの監視においてデータを活用した警備計画の立案、警備員の効率的な配置に役立つと期待されている。そのほか、イベント会場や店舗での集客状況の把握、広告効果の検証などでも使われそうだ。

Ledge.ai編集部では、今年8月にキヤノン株式会社に対し本件に関するインタビューを実施している。混雑緩和や警備強化、さらにはマーケティングに活かせる技術についてなど、映像に付加価値を与えようとしているキヤノンの取り組みを聞いた。

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>>プレスリリース


映像解析技術はテレビ局の番組制作でも使われている

カメラに映し出された内容を解析する技術は、人に代わる“目を持つ存在”として多くの利用シーンが生まれつつある。

まず、キヤノンが開発した解析技術のように、監視カメラとしても使えるケース。

今年11月から、神戸市ではフューチャースタンダードと協働で、放置自転車の監視に関する実証実験を開始している。放置の多い歩道や駐輪場付近にカメラを設置。収集した動画や画像をAIで解析することで、放置自転車の台数をカウントする。放置されている現状把握にまずは役立てるそうだ。

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また、人や物体数のカウントではなく、映像に出た人の顔を認識・判別する技術も実用化されている。

日本テレビでは、今年7月に放送した「NNN参院選特番 ZERO選挙2019」「日テレNEWS24×参議院選挙2019」において、AIの顔認識技術を使った実験を実施していた。映像内の人物と名前の間違いによる誤報を防止することが目的。結果として、AIが認識すれば一度の間違いもなかったようだ。

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今回キヤノンが開発した技術は、すぐさま解析結果を出せるのも特徴のひとつ。この技術が普及すれば、イベントなどでよくある「参加者〇〇万人!」みたいな発表も、入り口で“数取器”をカチカチして数える必要もなくなるかもしれない。

ヤフーとの経営統合を合意したLINEのAI、その「核」に迫る

11月18日、LINEとヤフー(Zホールディングス)が経営統合関する基本合意書を締結した。すでに大きく報道されている通り、両社の提携は、メディア、コマース、フィンテックなど、さまざまな事業でシナジーを生むだろう。

しかし、BtoCのイメージが強いLINEに、AIをBtoBで提供するサービスがあるのを知っているだろうか。それが「LINE BRAIN(外部リンク)」だ。Ledge.ai編集部は、このLINE BRAINを統括するトップ3にインタビューする機会を得た。

今このタイミングだからこそ、改めてLINEがAIで何をしているのか、何を目指しているのかを知っておくことは大きな意味があるだろう。独占インタビューをお届けする。

(左)砂金信一郎氏 LINE株式会社 AIカンパニー LINE BRAIN室 室長 Developer Relations Team マネージャー プラットフォームエバンジェリスト
(中央)佐々木励氏 LINE株式会社 AIカンパニー LINE BRAIN室 副室長
(右)飯塚純也氏 LINE株式会社 AIカンパニー LINE BRAIN室 事業企画チームマネージャー

「舛田さんのあんな表情は初めて」他ベンダーと比べても十分に勝てる外販事業

LINE BRAINとは、端的に言えばLINEがBtoBでAI技術を外販する事業の総称だ。今年6月のLINE CONFERENCEで大々的に発表され話題を呼んだ。

関連記事:「LINE BRAIN」でAIのBtoB事業参入──#LINECONF AI系発表まとめ

LINE CONFERENCEでは、LINEの取締役CSMOである舛田淳氏による、電話でレストランなどの予約を完結させる「Project DUET」のデモを見た人も多いはず。これもLINE BRAINが提供するAI技術のひとつだ。

LINE BRAIN室室長の砂金信一郎氏は、発表当時を振り返りこう語る。

――砂金
「あそこまでテンパった舛田さんの表情を見るのは初めてでしたね。6月の発表会に間に合わせるために、社内調整を重ねに重ねて、なんとかデモを出せた突貫工事だったんです」

LINE CONFERENCEでのお披露目後、半年弱で正式リリースにこぎ着けた。Project DUETはサービス名称を「LINE AiCall」として、すでに「俺のGrill&Bakery 大手町」での実証実験を開始している。

俺のGrill&Bakary 大手町での、LINE AiCall実証実験の仕組み出典:LINEプレスリリースより

――砂金
「6月の時点でLINE BRAINは、本当にロゴくらいしか決まっていない“生煮え”の状態でした。発表からの半年弱でプロダクトを磨き上げ、他ベンダーと比べても十分に勝てるサービスになったと自負しています

リサーチの段階で「世界一」を目指す

記事を書いている現在、LINE BRAINが展開するサービスは以下の7つ。

  • CHATBOT(チャットボット)
  • TEXT ANALYTICS(言語解析)
  • SPEECH TO TEXT(音声認識)
  • TEXT TO SPEECH(音声合成)
  • OCR(文字認識)
  • VISION(画像認識)
  • VIDEO ANALYTICS(画像・動画解析)

どのサービスにも競合がわんさかおり、すでに「レッドオーシャン」と呼んでも過言ではないサービスばかりだ。

それでも、砂金氏が「他ベンダーと比べても十分に勝てるサービスになった」と自負する理由は何か。その理由をLINE BRAIN室 副室長である佐々木励氏はこう語る。

――佐々木
「LINE BRAINでは、要素技術におけるリサーチの段階で、グローバルジャイアントに勝とう、No.1になろうというミッションを持っています。そんな意識でリサーチを始めたのが、OCRでの文字認識ですね」

LINEはOCRでの文字認識で、ICDAR(International Conference on Document Analysis and Recognition)という、文字認識の技術を競う国際的な大会で、ほかの参加チームを大きく上回る成績を残した。機械学習で学習データを自動的に生成する手法を用いて、これを達成したという。

関連記事:LINEのAI・機械学習の取り組みを一挙紹介〜顔認識入場や電話予約対応AI、不審ユーザ認知など実現

このOCR技術を用いてサービス化されたのが、LINEのトーク画面上で画像からテキストを抜き出せるOCR機能だ。もしLINEアプリが自分のスマホにインストールされていれば、ぜひ試してほしい。かなりの精度で文字を抜き出すことができ、もちろんコピー&ペーストも可能だ。


LINEアプリのOCR機能。(編集部撮影)

実際、LINEアプリひとつとっても、AIが使われている機能は無数にある。上記のOCR機能以外にも、チャットでの音声入力機能、免許証と自撮りした画像をアップするだけで本人確認ができる機能(LINE Payほか)などがある。

キャラクターを召喚して会話を楽しめる装置「Gatebox(外部リンク)」で召喚できるキャラクターである「逢妻ヒカリ」の音声には、LINEBRAINで開発・保有する音声合成技術が採用されている。LINE BRAINの音声合成技術は、Googleが発表している、音声生成が可能なニューラルネットワークの一種「WaveNet」に精度で優っているという研究結果(外部リンク)も出ている。

ユーザー体験へこだわると「世界一」目指すのは必然

なぜ、「世界一」にここまでこだわるのか。その理由を、佐々木氏は「LINEの徹底したユーザー目線のカルチャー」が挙げられるという。

――佐々木
「プロダクト開発の際、デモを社内で徹底してこき下ろされるんです。『本当にユーザーに使われるのか?』『ユーザーから見てこの機能は便利なのか?』など、本当にさまざまな角度から指摘がある。AIに関しても、ユーザー体験に徹底してこだわると、おのずと一流レベルのAI技術が求められるため、世界一にこだわっています

あくまでAIの精度が一流なのは前提として、その先のユーザー体験に徹底してこだわる文化があるという。

そして社内からの「攻撃」を乗り越えた先には、LINEの膨大なプロダクトの一部で試験運用する。自らのプロダクトで十分な運用ができた場合にのみ、LINE BRAINで外販するサービスとして展開するという。

LINE BRAIN室 事業企画チームマネージャーの飯塚純也氏はこう話す。

――飯塚
「たとえば、LINEのカスタマーサービスにはすべてLINE BRAINが開発したチャットボット技術を使って運用しています。社内ですでに一定の成果を出しているので、自信を持って外に出せる。

実際、R&Dフェーズから技術をプロダクトへ落とすのは簡単ではありません。技術はあるけど、そこで脱落していくスタートアップも多い。LINEはそれをやる企業体力、投資能力があるから可能なのです」

「世界一」への道を支える技術者たち

そんな「世界一」への道を支えるLINEの技術力は、どのように支えられているのか。

――砂金
「LINE BRAINは、実は韓国NAVERとの共同事業なんです。なので、同社のエンジニアやリサーチャーが日本に来て、LINE BRAINのプロジェクトを一緒に進めることもあります」

LINEの親会社である韓国NAVER(厳密には2020年10月以降、LINEはNAVERが50%出資するZホールディングスの傘下となる)は、韓国のテック企業で圧倒的ナンバーワンの地位を占める。

検索エンジンのGoogleでさえ、韓国ではNAVER検索に勝てず撤退した過去がある。当然、NAVERはAIにも潤沢な投資を行っており、世界的にも名のあるリサーチャー・エンジニアが在籍しているという。

NAVERの人材との「共同戦線」以外の観点でも、LINE BRAINの組織体制は強力だ。LINEのアドプラットフォームを構築したり、社内のデータ分析に携わったりする「データラボ」の、OCRや言語処理を行うメンバーがLINE BRAINを兼任することもあれば、AIアシスタント「Clova」の音声認識・合成を担当するチームがLINE BRAINに携わることもある。

ほかにも驚きなのが、「LINEのプロダクトにまったく寄与しなくてもよい」AI技術の研究チームがあるということだ。

――砂金
「弊社のリサーチラボという組織は、いわゆる研究員としての立ち位置です。LINEのプロダクト開発への貢献は求めていません。論文を書いて学会に貢献し、技術的なブランディングを行うのがリサーチラボの役割ですね」

これらの優秀な人材が、LINEの技術「世界一」を後押ししているというわけだ。

GAFAからこぼれ落ちたニーズを拾っていく

ヤフーとLINE統合記者会見の際、両社は「AIテックカンパニー」になるとぶち上げた。しかし、今の世界の状況を見ると、AI分野ではアメリカではGAFA、中国ではBATHと呼ばれる企業群が圧倒的だ。LINEは今後どのような戦略を描いているのだろうか。

――砂金
「GAFAなど、外資系ベンダーによるジャパンパッシングがありますよね。海外のカンファレンスで新サービスが発表されても、日本に来るのは2,3年先とか。

しかし、日本企業の課題解決のカギはGAFAによるサービスのローカライズではありません。LINEは、GAFAが投資対効果が合わずに撤退した、たとえばマイナー言語などのニーズに集中します

実際に、海外で新サービスが発表されても、日本語に対応するのは数年先ということが少なくない。その間に、GAFAなど巨大テック企業は英語のデータを蓄積し、さらに技術革新を加速させていく。

前述のGateboxでも、日本では「キャラクターと雑談を楽しみたい」というニーズが多いという。たしかに、Amazon EchoやGoogle Homeが、「萌えキャラ」の声に対応するかは怪しい。これらの「GAFAからこぼれ落ちたニーズ」を、LINEは積極的に汲み取っていくという。

「人に優しいAI」の真意

また、LINEはLINE BRAIN発表時に、「人に優しいAI」を提供していくとした。この真意は何なのだろうか。

――砂金
「LINE BRAINは、人々の生活に根ざした課題解決のために、LINEの技術を外部にライセンシングしていくサービスだと考えています。

『人に優しいAI』とは、人の仕事を奪うのではなく、本来の業務(たとえば飲食店内での接客や調理といったお客様へのサービスなど)に集中できるような社会を実現するためのAI、という意図でそう呼んでいます。人々の生活に密着し、知らないうちに後ろから手を差し伸べるようなAIです。

本当はすごい技術を使っているんだけど、自然に生活に溶け込んでいるような。そんなAIを目指しています」

現代の主なコミュニケーション手段は会話とスマートフォンだが、インターフェースとして、今後もスマートフォンが主要な地位を示すかは分からない。

LINEはこれまで、スマートフォンを起点としたサービスを提供してきた。しかし、ユーザーの求めるものが多様化してきたことから、「スマートフォンの外の世界も取り込む必要が出てきた」と佐々木氏は言う。

――佐々木
「たとえばLINEの家計簿アプリには、レシートをOCRで読み取って自動で家計簿を付けるサービスがあります。これはつまり、現実世界の、まだデータ化されていない情報をデータ化して取り込んでいるということ。ネットの世界を現実世界に拡張するのが、LINE BRAINの役割でもあります
――飯塚
「LINEのすべてのサービスの軸は“コミュニケーション”にあります。だからこそ、今は自然言語処理のサービスを中心にフォーカスしていて、そこから横展開していく。スマホから拡張し、音声・サイネージなどにLINEの技術をアンビエントにさまざまな場所に入り込ませていく。それが『優しいAI』と呼んでいる所以です」

今後、どんなにコミュニケーション方法が進化しても、人類が会話しなくなることはないだろう。

スマートフォンがなくなったとしても、コミュニケーションが介在するところに「LINEあり」の世界。そんな世界をLINE BRAINは実現しようとしているのかもしれない。

深層学習で「竜巻」の発生場所を自動検出するシステム開発を開始――PFN、気象庁気象研究所

12月17日、株式会社Preferred Networks(PFN)は、気象庁気象研究所が実施する「AIを用いた竜巻等突風・局地的大雨の自動予測・情報提供システムの開発」の契約先として、その中核技術となる夏季の竜巻探知技術の開発を開始したと発表。

気象研究所が提供した竜巻検知技術のイメージ。気象レーダーで観測したドップラー速度パターンから、深層学習を用いて、竜巻をもたらす可能性のある渦パターンを高精度に自動検出する(プレスリリースより)

近年、日本では竜巻発生確認数が毎年20件を超えている。自然災害リスクを減らすためにも、竜巻を素早く的確にとらえ、危険を回避するための気象予測情報は非常に重要だとされていた。しかし、ごく小さなエリアで局地的に発生する竜巻渦だけを正確に自動検出することはこれまで困難だった。なぜなら夏季の竜巻は、活発な対流を起こす積乱雲にともなって発生するため、風向きが複雑かつ多様なパターンがあったからだ。

今回PFNは、気象研究所から全国各地に設置する気象レーダーで観測した“ドップラー速度データ”の提供を受け、深層学習を用いて、どこで竜巻が発生しているかを正確かつ自動的に検出する新たな手法の開発を開始した。ドップラー速度データとは、ドップラーレーダーによって、上空の降水粒子からの反射波を用いて上空の風を観察したものだ。

竜巻検出システムは、鉄道をはじめとするさまざまな高速交通、さらには突風の影響を受けやすい分野に情報を提供することで、安全性向上につながると期待されている。

>>プレスリリース


気象とAIを掛け合わせることでさまざまなサービスが展開

PFNの竜巻発生を検出するシステムでAIが使われるが、「気象」という分野においてはさまざまな面でAIが利活用されている。

当然、防災での活用は多くの企業が取り組んでいる。今年3月には、損害保険ジャパン日本興亜が防災・減災システムを熊本市で実証を開始したと発表した。これは、米国シリコンバレーの防災スタートアップ企業のOne Concern社とウェザーニューズと共同開発したものだ。

関連記事:熊本市でAIを活用した防災、減災システムの実証実験開始

防災だけでなく、「需要予測」という面でも活用できるのが気象データだ。2018年にはエクサウィザーズと日本気象協会が、気象データとAIをかけあわせた需要予測サービスの開発に着手した。気象は人間の行動原理に関係するため、メーカー、卸、小売り、農業、アミューズメントパークなどさまざまな業種の企業運営に影響すると考えられているためだ。

関連記事:気象データを活用しAIで需要予測 ── エクサウィザーズと日本気象協会

個人的には、気象データをもとに、クローゼットにある服と体感温度などを加味した最適な服装をレコメンドしてくれるようなパーソナルアシスタント的なものがあるとうれしい。あったら教えてください、使うので。

「YouTuberのようなイケてるCSが登場する」AIチャットボットがもたらす、未来のカスタマーサポート

IBMの人工知能Watson(ワトソン)に端を発し、今やあらゆるサービスやWebサイトで利用されているチャットボット。市場規模も2019年に51億円、2022年には132億円(予測値)と、伸び盛りの市場だ。

対話型AIシステム市場に関する調査を実施(2018年) | ニュース・トピックス | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所(外部リンク)

10年足らずで100近いチャットボットサービスが誕生した現在、サービスごとの違いが見えにくく、レッドオーシャン市場になりつつあるのでは?と感じるのは筆者だけだろうか。

関連記事:ボット、RPA、AI技術が集結。AI・人工知能EXPOレポート【1日目】

質問応答システムを提供するために、約100サービスは何を競い合っているのだろう?将来問い合わせ窓口がAIによって自動化されたら、現在問い合わせ対応をしているカスタマーサポート(以下CS)職の人々は、仕事を「奪われる」のか?

こうした「チャットボットの今、CS職の未来」に対する問いを、「正答率95%保証」を掲げるAIチャットボットサービスKARAKURI chatbot(カラクリ チャットボット)を提供する、カラクリの小田志門CEOに投げかけてみた。

カオスなチャットボット業界

一見、複雑怪奇に見えるチャットボット業界。小田氏によると、チャットボットは①提供手法②利用形態③プロダクトそのものの強みという軸から見ると区別しやすくなるという。

①提供形態

チャットボットの提供形態は、オーダーメイドでボットを開発するエンタープライズ向けか、エンタープライズ向けより導入ハードルが低いSaaSタイプに二分できる。

システムをゼロから構築するエンタープライズ向けは自社の要望に合わせたボットが作れる一方、コストが高額になる傾向がある。対してSaaSは、あらかじめ決まった形のツールが用意される事が多く、ユーザー側がある程度「合わせる」必要がある。しかし導入コストを抑えやすく、多くのユーザの要望をもとにボットがバージョンアップされる、といった恩恵が受けられる。

②利用用途

チャットボットの用途はふたつ。顧客への問い合わせ(カスタマーサービス)、もしくはマーケティング活用だ。うち、カスタマーサービスにおけるチャットボットの用途は以下の通り。

  • BtoC、BtoBの顧客対応
  • 社内(従業員)の問い合わせ対応

BtoC顧客対応はECやネット証券など、インターネット上に流通チャネルを持っている企業での導入が多く、BtoB顧客対応はネット決済や、メーカーとマッチングさせるプラットフォームでの導入が増えてきているという。

③プロダクトの強み

プロダクトの強みは多種多様だ。導入費用もしくはランニングコストの安さを売りにしているサービスもあれば、操作性の良さ、キャラクター(バーチャルアシスタント)の存在やAIの性能を差別化ポイントとして推しているサービスもある。

しかし、日本で提供されているチャットボットサービスの過半数は、「人件費の削減」を主眼としたボットなのだとか。

――小田
「CS部門をコストセンターと捉え、人員削減しつつ、できる限り運用コストを抑えたいという企業は少なくありません。

数年前からAIやRPA導入がブームとなっているので、『AI導入をする』というだけで株価が上がった会社もありました。手っ取り早く導入実績を作って投資家にアピールしたい上場企業にとっては、『月数千円でAI(のボット)が導入できる』というコピーは魅力的に映るかもしれませんね」

カラクリが「カスタマーサポート全体」の支援に力を注ぐわけ

一方、カラクリはSaaS型、CS特化・高性能AIという軸で勝負している。

同社のサポートは手厚い。「なぜボットを導入するのか」を確認するキックオフミーティングに始まり、チャットボットの成果を測る指標「ボットKPI」や「ボットROI」の設定、ボット運用方法、ひいてはカスタマーサポート業務の全体像を顧客とともに作り上げる。

ボット導入時には、ボットの性能を高めていく「初期馬力」が必要になってくる。ボットに分かりやすい会話カードの作成や、会話データ(教師データ)を重複なく設定し、テストをやりきって精度を高めるといった多くの企業が挫折しやすい部分も同社がサポートする。

状況にもよるが、最初の2カ月で運用方法までレクチャーし、導入3カ月目に効果が出始めるイメージで進めているとのこと/提供:カラクリ株式会社

高性能なAIも、同社の売りだ。社内のAIエンジニアが独自のアルゴリズムを作成し、正解率を高めるキモになるデータの作成や、回答速度の向上に心血を注いで「正答率95%」を実現している。

そんなAI技術を持つ企業が、なぜCS業界に参入したのか。そこにはCS職に対する小田氏の問題意識があった。

カラクリの創業は、3年前の2016年に遡る。前職でCS導入支援を手掛けていた小田氏は、クライアントのLINECS導入経験を通じてチャットボットに興味を持ち始める。

――小田
「ひと昔前、2010年ころの自動応答は『全然答えられてない』という印象でしたが、LINEの顧客対応が流行りだした2016年頃には、自動応答の精度が上がっていた。自然な回答がテクノロジーで実現できそうだと思ったのです」

しかしそんな小田氏に立ちふさがったのが、CS担当者の離職問題だ。

CS導入支援の仕事を手掛けている中で、あるプロジェクトではオペレーターの4分の3が離職。この例に限らず、CS担当者の離職率は低くない。人手不足になりがちな原因を、小田氏は「CS職のキャリアの行き詰まり」にみている。

――小田
「CS職のキャリアパスが、行き詰まりを感じやすいというのはあると思います。いちオペレーターから出世してリーダーやセンター長になるといっても、ポジションが多いわけではないので、狭き門になります。キャリアビジョンが見えず、厳しい環境下で毎日マニュアルに縛られ、毎日同じような質問へ回答するという単純作業が繰り返されるとモチベーションを維持するのが難しい。

だから人とテクノロジーが融合したカスタマーサポート・顧客対応が当たり前な世界をつくり、CS職の価値を高めていかないといけない

人材不足をいかに解決すべきか。業界の課題を解決するため、テクノロジーが進化したタイミングを見てKARAKURI chatbotをリリースしたという。

出典:KARAKURI (カラクリ) | カスタマーサポート特化型AI搭載チャットボット

チャットボットで人間へのバトンタッチを最適化する

今ではメルカリやWOWOWなどの大手企業に導入されるプロダクトに成長したが、現在は「チャットボットのカラクリ」から、「CS Automation &Optimizationのカラクリ」に進化を遂げようとしている。

チャットボットが得意とするのは、FAQ(よくある質問)ページに掲載されているような基本的な質問への回答だ。しかし、カスタマーセンターに来るのは単純な問い合わせだけではない。「ECで注文した商品の配送状況を知りたい」といった複数のデータベースにある情報を照らし合わせて回答したり、人間が判断し対応せざるを得ない問い合わせもある。

チャットボットが解決できる質問は業種にもよるが、7割ほどだとされている/提供:カラクリ株式会社

そのためチャットボットだけではなく、ボット以外のカスタマーサポート業務、顧客対応などの最適化に力を入れていくという。

――小田
「総合的な顧客対応を分析するツールを作り込むことで、ボットの自動対応から人間へのバトンタッチを最適化しようと考えています。すでにCS担当者向けのツールも開発し、一部のお客さまに使い始めていただいてるところです」

今月、AIでFAQサイトを自動生成・管理できる「KARAKURI smartFAQ」をリリース。KARAKURI chatbotのデータをもとにノンプログラミングで作成できる/出典:“学習するFAQサイト”がつくれるAI搭載「KARAKURI smartFAQ」正式版の提供開始! | カラクリ株式会社

CS職における、AIで代替不能な「人ならでは」の価値とは

CS業務の効率化を推し進めるカラクリ。しかしKARAKURI chatbotのようなツールを導入することで、CS担当者はAIに職を奪われてしまうのではないか?

「顧客体験をいかに良くするか」に目を向けられるようになる

小田氏は、CS担当者の仕事がなくなることはない、と主張する。実際にKARAKURI chatbotを導入した企業のCS担当者は、顧客対応だけに留まらない新しいミッションが増えているという。

  • チャットボットの運用・改善(教師データの作成など)
  • 一部CS業務の自動化
  • ボットKPIを達成し、より良い顧客対応をするための施策づくり

また重要な顧客の対応や、難易度の高い問い合わせはAIに代替されず、人間が対応していくだろうと語る。

――小田
「3000人分の顔と名前を覚えて、VIP顧客の対応をしているという伝説的なドアマンがいますが、一瞬で顔を認識したり過去の宿泊履歴を辿ったりするのはテクノロジーでもできます。人経由でAIの情報を伝えることで、はじめて顧客満足度が上がる。AIは自動化だけでなく、人間のパフォーマンスを高めるのにも使えるんです。

でも一連の接客をAIがやっても、お客さんの心には響かない。Amazonに購入履歴からのおすすめを出されるより、人間の店員さんに『あなた1年前にこれを買っていましたね』と言われる方がぐっときますよね」

現状の課題:AIに対する恐怖感の払拭と、コストセンターからの脱却

だが、AIチャットボット導入に抵抗感がある現場スタッフも少なくない。「自分たちの仕事が奪われる」「AIといってもよく分からなくて怖い」といった担当者に対して、ある秘策を用意している。

どこかほっとする愛らしい見た目。小田氏いわく「チャットボットを一人の新人社員としてお世話してほしい」とのこと/出典:カラクリ導入事例

目に見える存在としてぬいぐるみをフロアに置き、敵ではない、と示すことで、メンバーに受け入れてもらいやすくするという。

――小田
「管理者がチャットボット導入は意義あることだ、と思っていても、現場で働いている数百人というスタッフの中には、AIやチャットボットがどんなものか分からないから怖い、という方もいるものです。そうした”恐怖感”を払拭するのは、私たちの課題です」

CS担当者が生み出す価値や、事業への貢献度合いを見える化

先に触れたが、CSはコストセンターとして認識されることが多い。マーケティングの手法としてCSを位置づけている企業も増えてきているものの、未だ工数削減に目を向けられがちだ。

カラクリはこれも課題と認識し、CSの事業貢献価値を見える化するツールの開発を急いでいるという。

――小田
「CSの顧客対応によって、ツールを使えない人がアクティブになったり、解約を防いだり、ということで顧客担当単価が上がるなら、CS担当者は事業貢献した(稼いだ)と言えるでしょう。

成約後の顧客ケアなど、後工程で生み出した価値を金額換算することで、CSの対応が生み出したインパクトを可視化していけば、経営側も投資しようと考えるはずです」

YouTuberやライバーのような、イケてるCS担当者が登場する未来

取材の最後に、5年後のCS職はどうなっていくか?とたずねてみたところ、小田氏は「CSはとてもレベルの高い職業になっていく」と答えてくれた。

――小田
「どの担当者でも同じ回答を返さないといけない、という部分はチャットボットなどで機械化されます。だから提案者の自由度が格段に広がった状態になっていくでしょう。

今後人対人の部分は、顔が見られるようなメッセージングが主流になると思います。顧客から『Aさんに問い合わせたい』と指名が入るように、人間ならではの独自性、不確実性が価値に変わっていくのではないでしょうか」

こうした新時代のCSに欠かせないのが、チャットボットなど機械と人とが連携する仕組みや、顧客情報のデータベース化と活用だ。「人ならではの価値」を最大限に引き出すための機械化が急がれている。

――小田
「日本ですぐに普及するのは難しいでしょうが、中国ではすでに半自動化し、CS担当者個人にファンがつくという状態になっています。給料はうなぎのぼりになり、独立している人もいるほどです。YouTuberやライブ配信者(ライバー)のように、CSに紐付いて会社の製品を買ったり、サポートを請け負ったりする未来が来るかもしれません」

「JDLA認定プログラム」認定費用無償化制度スタート。制度活用第一号は中部大学

日本ディープラーニング協会(以下JDLA)は、高等学校、高等専門学校、大学(短大、大学院を含む)を対象として、「JDLA認定プログラム(外部サイト)」への認定にかかる費用を無償化および減額する制度を開始する。

制度対象教育機関に向けた、同制度に関する説明会が12月17日に開催された。

JDLA認定プログラムとは

JDLA認定プログラムとは、JDLAが実施するエンジニア資格(JDLA Deep Learning for ENGINEER、以下E資格)の受験資格を得るために受講が必須となる教育プログラムだ。

プログラム認定を目指す教育事業者からの申請に基づき、その教育プログラムがJDLAが定める最新のシラバスの内容を網羅しているか等を審査し、認定・推奨する。

詳しくは下記の記事を参照してほしい。

関連記事:【ディープラーニング講座8選】E資格とは?受験のために必要なJDLA認定プログラムを解説

シラバスを満たす講義を行う教育機関の認定を無償化

今回の認定費用無償化制度の適用により、シラバスを満たす講義を行っている教育機関の認定推奨が増えることで、ディープラーニングの理論を理解し、適切な手法を選択して実装する能力を持つ、エンジニア人材の育成拡大を目指すという。

対象の教育機関と、本制度で免除される費用は下記の通り。

  • 対象となる教育機関:学校教育法第一条が定める「学校」※主に高等学校、高等専門学校、大学(短大、大学院を含む)
  • 無償となる費用:審査費用275,000円(税込)と認定料110,000円(税込)

教育機関が受託事業者となる場合は、通常の受託審査費用110,000円(税込)が減額され、55,000円(税込)となる。また、修了証は認定申請をした教育機関の「正規課程に在籍する学生」にのみ付与され、聴講生は除く。

認定フローは、教育機関がJDLAの定めた最新のシラバスに従ってカリキュラムを作成。その後書類や実際のプログラム審査を通過したのち、認定料を入金し(本制度対象となる教育機関は無料)、晴れて認定となる。

現在、認定プログラムとして認められている講座を提供するのは11社。それらに続き、今回の制度活用第一号として、中部大学の大学院工学研究科が承認された。

リリース文記載の、中部大学 工学部情報工学科 山下隆義准教授のコメントは以下。

――山下
「ディープラーニングは今後の産業において、必要不可欠な技術であり、身につけていることが社会での研究開発で最低条件になることも考えられます。

特に、高等教育において、データサイエンス、人工知能、機械学習に関する教育の充実が受験生・在学生だけでなく、産業界からも強く求められています。特に東海地区ではハード・ソフト両面でのものづくりが盛んであり、大学として実産業に活用できる知識を身につけた人材の育成を心がけています。ディープラーニングは今後の産業に不可欠な技術であり、即戦力となる学生を育成し資格取得できる環境を整えたいと考え、申請に至りました。

本校では、情報工学を中心に、データサイエンス、機械学習、ディープラーニングを身に付ける教育を行なっていますが、実践的な力を身につけていることを示す資格として、E資格は中心的な役割かと思います。大学内の講義を受講し単位取得することで受験資格を得られることで、学生の時間的・金銭的負担を軽減でき、就職でも有利に働くと考えます。

自らの知識や能力を示すために、目に見える形である資格を取得することは大事なことですが、能力を発揮できるようにたくさんの経験を積んでいくことを学生に期待します」

JDLA資格試験の現状

JDLAの資格試験を振り返ってみると、現在までにG検定は受験者21,275名に対して14,523名が合格、E資格については受験者1,420名に対して951名が合格している。2つの資格試験で、受験者、合格者ともに大きく差が開いている状態だ。

JDLA事務局長の岡田隆太郎氏は、資格試験に合格した人材を「えこひいきしたい」と語る。

――岡田
「ディープラーニングの産業活用において、一番重要なのは人材です。悪貨が良貨を駆逐するといいますが、良貨にはきちんとラベリングしないといけない。JDLA資格試験の合格者はまさに良貨といえるので、企業でも優遇される傾向にあります」

例として、ヤマトホールディングスではE資格を取得していれば一気に最終面接まで到達できるなど、企業への合格者の実力の認知は進みつつある。本制度がE資格合格者増加の鍵となるのか。

AI(人工知能)搭載アプリはどこまでできる?|現状や種類をリサーチしてみた

AIアプリ

時は第三次AIブームの真っ只中。探求・推論から始まり、機械学習とディープラーニングによって、AIは飛躍的な進歩を遂げています。主に軍需や企業で活用されてきたAI技術も、今やさまざまな形で私たちの暮らしへ浸透してきています。

自動運転、siriの音声認識やカメラの画像認識などの技術が有名ですが、なかでも「スマートフォンアプリ」は、AIを身近に感じることのできるものの1つではないでしょうか。

今回は、AIとの会話が楽しめるアプリや、AIが画像加工を手助けしてくれるアプリなど、アプリを通じてAIが私たちの生活をどれほど豊かにしてくれるのかをご紹介します。

AI(人工知能)搭載アプリとは?|増え続ける数と活用技術

application出典:Photo by Pixelkult on Pixabay

AI搭載アプリの数は100種類以上

総務省が発表したデータによると、2019年における世界のモバイル向けアプリダウンロード数は311億以上と予想されています。これはゲームを除いた数で、最近ではAIを搭載したアプリも増えてきています。

実際、Google PlayやApp Storeで「AI」、「人工知能」というキーワードでヒットするアプリの総数は数100種類にものぼります。単純な制御プログラムをAIと謳っているものもあれば、本格的なディープラーニングを組み込んである人工知能もあり、いろんな形で我々の暮らしにも活用され始めていることがうかがえます。

AI搭載アプリに使われている技術

音声認識
コンピュータにより音声データをテキストデータに変換する技術です。スマートスピーカーなどのCMで「OK Google、テレビをつけて」といったシーンをご覧になった方も多いのではないでしょうか。それも音声をテキストデータに変換した後、いつも検索するときのようにシステムが入力内容に基づいた結果を出力します。

自然言語処理
人間の言語(自然言語)を機械で処理する技術です。音声認識と組み合わせることで、音声→テキスト→認識という流れで情報が処理され、人工知能による判断が行えるようになります。

画像認識
画像の特徴をコンピューターが読み取り、対象を識別する技術です。古くは1940年代に発明されたバーコードも画像認識にあたりますが、機械学習とディープラーニングの登場により近年は人間以上の精度で対象を識別することも可能になりました。

AI搭載アプリの種類

application出典:Photo by Peggy und Marco Lachmann-Anke on Pixabay

AI搭載アプリはいくつかの種類に分類されます。主に会話やテキストメッセージなどの音声やコミュニケーションに関わるもの、検索や加工などの画像に関わるものなどさまざまな活用方法が見い出されています。

話し相手系

話し相手系のアプリには、音声認識・自然言語処理などの技術が応用されています。

感情日記AI「emol-AI」
Emol出典:App Store

emol株式会社が提供するAIアプリ「emol-AI」。「ロク」とよばれるAIに対しチャットで会話をします。特徴はユーザーの感情を記録すること。ユーザーの発言を分析し、「うれしい」「かなしい」といった9つの感情に対してAIが返事をします。アプリではそのときの感情を毎日記録してくれるので、日記のように自分の過去の感情を振り返ることができます。

AI育成アプリ「人工無脳と会話するアプリ」
人工無脳と会話するアプリ出典:App Store

最初はつたない日本語ですが、会話をするごとに言葉を覚えていくAIアプリです。最大の特徴は同時に複数のAIを育てられること。「ひろば」というチャットルームでチャットをすると人工無能同士でも会話が発生します。「人工無脳」というと少し聞き慣れない方も多いと思いますが「チャットボット(ChatBot)」という言葉であればご存じの方も多いのではないでしょうか?

キャラクター会話アプリ「SELF」
SELF出典:App Store

SELF Inc.が提供するAIアプリです。美少女やイケメンといったキャラが登場し、会話をすることで返答の精度が上がっていきます。このアプリにおける最大の特徴は課金システム。アプリ内登場キャラの「小瀬あい」は、3日で記憶がリセットされる仕様になっており、記憶を維持してもらうには、週180円の課金が必要になります。好きなキャラクターの記憶をとどめるため、実際に多くのユーザーを課金に導いたという面白いビジネスモデルが話題になりました。

女子高生AI「りんな(LINE)」
りんな出典:https://www.rinna.jp/platform/line

コミュニケーションアプリ「LINE」の会話ボットとして2015年に登場したりんなは、女子高生という設定の人工知能キャラクターです。マイクロソフトが2014年に中国で開発していたXiaoiceという女性型会話ボットの第二弾として日本で生まれました。ディープラーニング・機械学習・音声認識・自然言語処理など多くの技術が応用されており、まじめなsiriやcortanaに比べてたまに変な返事をするところが、面白い友達というイメージにつながり若者の間で人気です。しかし、多くの会話データを学習した現在は、「Rinna Character Platform」として外販が開始され、最近では「pepper for Home」に搭載されpepper君との長い会話が楽しめるようになっています。また、リアルすぎると話題になった3D女子高生「saya」に搭載され、実際に女子校で授業を行ったりもしています。

画像検索・認識・加工系

画像検索・認識・加工系のアプリには、画像認識・機械学習などの技術が応用されています。

写真加工アプリ「SNOW」
SNOW出典:SNOW

韓国のインターネット企業NAVERの子会社が提供するアプリ「SNOW」。自撮り写真を美白化したり目の大きさを変えたりする、画像加工系アプリです。このアプリでAI技術が使われているとは意外に思われるかもしれませんが、動画上にある人間の顔を瞬時に認識し、その動きに合わせて犬や猫といったキャラクターと合成する技術は紛れもなく画像認識を用いたAI技術によるものです。

機能の1つに「そっくり診断」というものがあり、自分の顔と似ている芸能人を診断してくれます。ネット上にある芸能人写真を取り込み、ユーザーの顔と照合し似てる確率を計算してそっくりな人を診断します。TV番組「おしゃれイズム」では、俳優の藤木直人さんがそっくり診断で本人と判定されたのが話題になりました。

検索先生「Google Lens」
Google Lens出典:Google Play

ディープエフェクト機能とAI技術を使い、写真や動画に映っている登場人物の顔を自分の顔に取り替えることが可能。非常に高い精度を持つアプリで瞬く間に無料アプリのトップにのぼり詰めましたが、ユーザーが使用した顔写真のライセンスが「永続的に開発元に移行し、さらには取消不可、譲渡可能、再ライセンスもあり」といったとんでもないプライバシーポリシーが発覚したことで非常に大きな問題となりました。2019年12月現在プライバシーポリシーは改善されています。

メーター点検AI「hakaru.ai」
hakaruai出典:https://iot.gmocloud.com/hakaru-ai/

ガスや水道のメーターをスマホで撮影するだけで、読み取り・集計・台帳記入の流れを自動化できるというすぐれもの有料アプリです。点検業務は今まで人手で行われていたため、ミスや時間コストがかかっていましたが、スマホで撮るだけで作業が終わるので大幅な効率化が行えます。

ドラレコAIアプリ「スマートくん」
スマートくん出典:https://smartkun.neuralpocket.com/

スマートフォンにインストールするだけで、AIの画像認識機能搭載のドライブレコーダーとして使えるアプリ。常時録画・車間距離計測など従来のドラレコ機能はもちろん、AIによる動作感知・車両周辺の物体検知がすべて無料で利用可能。
2019年現在はiOSのみ、2020年にAndroid対応予定。

勉強サポート系

勉強サポート系のアプリには、自然言語処理・機械学習などの技術が応用されています。

AI×TOEIC「SANTA TOEIC」
Santa TOEIC出典:https://santatoeic.jp/intro

アジアを中心に人気が高い、有料TOEIC学習アプリです。1億問以上の回答データを学習した独自開発AIが、問題を解いていくと学習者の理解度・弱点・TOEICスコアを正確に分析し、学習者に最適なカリキュラムを構築してくれます。

英語学習「cooori」
cooori
出典:https://www.cooori.com/

株式会社コーリジャパンが提供する英語学習システムがcoooriです。coooriに搭載されている独自開発AI「3O(スリーオー)」が収集した英語学習者データは通算で7万時間以上で、およそ8年分にも及びます。駅前留学から始まった英会話の勉強手段もついには第7世代といわれ、AIがユーザーのレベルを把握し、適切な問題や効率的な勉強方法を提供する専属トレーナーの時代に入っています。その筆頭がcoooriです。

AIアプリはこれからどうなる?

AIアプリの未来出典:Photo by Brendan Church on Unsplash

人気アプリの傾向から見えたのは、話し相手やちょっと気になったことを検索したりするなど、人々はAIに万能さを求めているのではなく、感情や生活のちょっとした隙間を埋めてくれることを望んでいるようにも見えます。

さらなるサービス向上のためにも、人々の生活データは欠かせません。しかし、現代はプライバシーポリシーに見られるように、個人情報の機密性に焦点が当てられています。その一方で、先日都内のIT企業が月20万円の報酬の代わりに、私生活のすべてをビデオカメラで記録するというプロジェクトの募集を行ったところ、1,300人を超える申し込みがありました、「たとえ浴室以外に死角がなくても」です。この結果を踏まえると、今後は価値ある商品として、個人が自分の個人情報を売るようになる時代がくるかもしれません。

このような個人情報を自主的に提供できるユーザーの増加に伴い、AI市場も発展を加速させるでしょう。集められた生活情報からAIがよりユーザーを知ることで、ひとりひとりにパーソナライズされた総合AIアプリが台頭してくる未来も、そう遠くない気がします。

自動運転によるスクールバスの実証実験を開始、埼玉工業大学のキャンパスと最寄り駅間の公道を走行

12月12日、埼玉工業大学は、スクールバスの自動運転の導入に向けて12月23日から公道による実証実験を開始すると発表。

実証実験が行なわれるのは、埼玉工業大学のキャンパスと最寄り駅であるJR高崎線・岡部駅間。スクールバスとして公道約1.6kmを走行する。私立大学のスクールバスとして、学生や教職員の送迎用に自動運転バスが走行するのは全国で初の試みとなる。

ハンドルとアクセル・ブレーキは自動制御レベル3。緊急時のみドライバーが対応し、通常時は交通状況を自動で認知して走行する。安全確保のため、バスにはプロのバスドライバーが搭乗する。

自動運転に使われる車両は、マイクロバス「リエッセ II」をベースに「自動運転AI(AIPilot / Autoware)」を実装している。また、バスの車内にはディスプレーが設置されている。ライダーやカメラによる画像データをディープラーニングによりリアルタイムで解析した結果、AIによる自動制御の仕組みがわかる各種情報などが表示される。そのため、学生は通学時にAIを体験的に学習できる。

当面は、既存のスクールバスに加えて、臨時便として不定期に走行する予定。来年度以降の本格運用に向けての課題を探るという。

>>プレスリリース(PR TIMES)


完全自動運転が実現すると、自動運転による“渋滞”が起きるかもしれない

埼玉工業大学での実証実験のように、自動運転の普及を目指した活動が徐々に広まりつつある。

Ledge.ai編集部は以前、もともとUberで自動運転を研究し、現在はLionbridgeでAI開発に必要な学習データの収集やアノテーションを効率化するプロダクトのグロースに携わるチャーリー・ワルター氏を取材した。

ワルター氏に編集部が「完全自動運転が実現するとどうなるか」と聞くとこう答えた。

「自動運転車による渋滞が発生するかもしれない。目的地まで自動で運んでくれるなら、電車などの公共交通機関の利用に面倒くささを感じ、だれも公共交通機関を使わなくなる。そのため、自動運転車になだれこみが起きる。そして渋滞につながる。」

自動運転車が普及することで、運転に関わることが最適化される。しかも、エンジンなどの効率も配慮されるため、環境にもやさしくなるとされる。しかし、便利になりすぎるあまり、全員が全員、自動運転車を利用すると道路や駐車場などのキャパシティーを超える危険性があり、結果的に渋滞につながる可能性がある、ということだろう。

記事ではほかにも、

  • 現在の自動運転技術が抱える課題
  • どの企業が業界内トップを走っているのか
  • 自動運転が事故を起こしたときの責任
  • 外部から車をハックされないか
  • 自動運転の普及に必要なこと

などを聞いている。

今後さらに注目度が上がると思われる自動運転の話。ぜひとも下記から記事を読んでチェックしてほしい。

関連記事:元UberのPMが語る、自動運転の現実と未来

レッジが日立製作所のインフルエンザ予報サービスのアルゴリズム開発・Web構築を担当しました

レッジは、株式会社日立製作所とさいたま市、損害保険ジャパン日本興亜株式会社(損保ジャパン)による、インフルエンザの流行予測を可視化できるWebサイト「インフルエンザ予報」のプロジェクトにおいて、内部の予測アルゴリズム開発及びWebサイト構築に携わりました。本サービスは12月6日より公開されています。

日立製作所リリース:日立と損保ジャパン日本興亜、全国初、さいたま市でAIを活用したインフルエンザ予報サービスの実証を開始

「インフルエンザ予報」とは?

インフルエンザ予報は、全国各地のインフルエンザの流行度合いを予測し、可視化できるサービスです。流行する期間を地域ごとに今週〜4週間後までを予測できるほか、流行度合いもレベル0〜3に分けて把握できるため、インフルエンザの予防に役立てることができます。

具体的には、流行レベルを以下のように表示しています。

  • レベル0:1医療機関あたりの新規患者数 0
  • レベル1:1医療機関あたりの新規患者数 1以下
  • レベル2:1医療機関あたりの新規患者数 2以下
  • レベル3:1医療機関あたりの新規患者数 2超
  • 情報なし:ORCAサーベイランス参加医療機関数 0

教師データとして、日本医師会ORCA管理機構株式会社が運営するORCAサーベイランスのデータからインフルエンザ新規患者数を集計したものを使用し、機械学習(ディープラーニング)を用いたさいたま市のインフルエンザ罹患者数の予測アルゴリズムを開発しました。

▲Webサイト表示イメージ

サイバーエージェント、ABEJA、ALBERT登壇 AI導入無料セミナー、実際の効果・活用方法から導入まで紹介

Photo by tommy pixel on Pixabay ※写真はイメージです

12月18日(水)16時から、AI SHIFTとABEJAの共催セミナー「事例からわかる、企業のAI導入を成功に導くポイント」を開催。場所は株式会社サイバーエージェント セミナールームC(東京都渋谷区渋谷2丁目24番12号 渋谷スクランブルスクエア21階)。参加費は無料だが、事前の参加申し込みが必要だ。申し込み期限は12月17日(火)まで。
>>セミナー参加申し込みはこちら(外部サイト)

AI導入成功のポイントについて、サイバーエージェント、ABEJA、ALBERTにおけるAI活用の成功・失敗事例をとおして、実際の効果や活用方法から導入までのプロセスを紹介する。

登壇するのは、株式会社AI Shift AI Shift事業部 事業責任者・網谷 龍太朗氏、株式会社ABEJA 取締役CPO・菊池 佑太氏、株式会社ALBERT マーケティング本部 分析営業部 マネージャー・日比生 恵氏。

株式会社AI Shift AI Shift事業部 事業責任者・網谷 龍太朗氏(写真左)、株式会社ABEJA 取締役CPO・菊池 佑太氏(写真中央)、株式会社ALBERT マーケティング本部 分析営業部 マネージャー・日比生 恵氏(写真右)

プレスリリースによれば、本セミナーは以下のような方にオススメ、とされている。

  • AI・画像認識に興味があり、詳しく内容を聞きたい
  • AIを活用して業務負荷や業務の発展をさせたいが、AIで何ができるか分からない
  • AIの現状・効果について興味がある
  • 自社でAIの活用・データ分析を試みたが、上手くいかなかった

なお、本セミナーはエンジニア向けのプログラミングや技術系のセミナーではないので注意してほしい。

>>プレスリリース(PR TIMES)


ディープラーニングはコスパが悪い?

AIに関するセミナーや勉強会は盛んに開催されている。11月には日本ディープラーニング協会が会員企業向けに内部勉強会を実施した。そこで出た問いが「ディープラーニングの弱点は何か?」だ。

この質問に対し、勉強会に登壇したAI開発者はこう答えた。
「たとえば『分析精度を10%高めるのに、メンテナンスコストが10倍以上に増える』こともある。」

この勉強会でも、AI導入プロジェクト成功の秘訣が語られている。Ledge.ai編集部ではこの勉強会を取材し、記事化しているので興味がある方は下記関連記事からチェックしてほしい。

レコメンドエンジン開発、賞金総額100万円データサイエンスコンペをNishikaが開催

12月11日、Nishika株式会社はデータサイエンスコンペティション「『Brandearオークション!』 レコメンドエンジン開発コンペ」を開始したと発表。

本コンペの目的は、ECサイト「Brandearオークション!」の過去1年分の実際のユーザーの行動履歴データを解析して、同サイトユーザー向けのレコメンドエンジンを開発することだ。

開催期間は2020年2月23日まで。賞金総額は100万円で、1位60万円、2位30万円、3位10万円と設定されている。プレスリリースによれば、大手ECサイトユーザーの実データを用いたコンペティションは同社初の試みとのことだ。

データサイエンティストたちは、2019年9月24日から2019年9月30日までの間に、少なくとも1回はBrandearオークション!にてオークションの入札/お気に入り追加のいずれかを実際にした6016ユーザーについて、上位20個までの商品のレコメンド提案をし、精度を競う。Brandearオークション!ユーザーの過去1年分の行動履歴データを分析可能な点も特徴だ。

Brandearオークション!は株式会社デファクトスタンダードが運営する大手ブランド中古通販のオークションサイト。コンペのテーマになっているレコメンドエンジンを通じて、「検索をする、特定のブランドの情報のみを取得する、これが欲しい!」という顕在化したニーズだけではなく、「そういえば以前売り切れだったこれが欲しかった」、「手頃でサイズも形も丁度いいものがあった」といった潜在的なニーズ喚起や商品との偶然の出会いを生み出したいそうだ。

Nishikaは、今年12月にオープンしたばかりの新たなデータサイエンスコンペティションプラットフォーム。データサイエンスコンペティションとは、AIやビッグデータの解析モデルをオープンイノベーション方式で開発する仕組みのことで、アメリカや中国においてAI開発の新たな手法として普及している。

>>プレスリリース(PR TIMES)


ベンダーの実力を把握するためにコンペを開催、JR西日本

いま、Kaggle(カグル)をはじめ、さまざまなコンペティションプラットフォームが登場している。多くは海外発のものだが、Nishikaのように日本発のサービスも現れてきた。あわせて、日本企業がデータサイエンスコンペを開催するということも増えつつある。

JR西日本は、2019年から新幹線の着雪量予測にAIモデルの試行を開始。このAIモデルは、データサイエンスコンペティションで生まれたものだ。

着雪量を予測するAIモデル開発にあたって、いくつかのベンダーから提案をもらっていたが、「ベンダーの実力を把握できない」という理由からコンペ開催に至った。

紆余曲折を経てコンペ開催に至ったが、思わぬ副産物を得た。それはJR西日本社員の活躍ぶりだ。この話の続きは下記の関連記事を読んでほしい。

建設物の「揺れ制御」AIで実現、大林組とLaboro.AIで強化学習を活用

12月11日、株式会社Laboro.AIは株式会社大林組に対し、建物揺れ制御に関する研究開発において、機械学習の手法のひとつである強化学習を用いたAIを開発・提供し、従来の制御システムよりも高い効果で揺れを制御することに成功したと発表。従来の手法に比べ、AIが抑えたほうが揺れを感じにくい結果も出ている。

制振技術による振動制御は、大きく受動的な制御法であるパッシブ制振(TMD:Tuned Mass Damper)と、能動的な制御法のアクティブ制振(AMD:Active Mass Damper)にわけられる。 Laboro.AIによる実験は、アクティブ制振にAIを活用したものだ。

揺れの体感数値は従来比1/2以下に抑えられた

このプロジェクトでは、建設物の揺れを制御するために内部に設置している重り(マスダンパー)の動きを制御し、従来よりも揺れにくい環境の実現を目指した。

実験環境は、まずLaboro.AIの機械学習エンジニアが物理計算にもとづくシミュレーション環境を構築。次いで、大林組技術研究所(東京都清瀬市)内に造られた橋を実験の場として利用し、実際に人が歩いた際の振動を制御対象として検証している。

写真左が大林組技術研究所内に造られた橋。写真右は重り(マスダンパー)

成果1:1秒ほどで揺れを抑える動きを習得

図中の青い線が橋の揺れを、赤い線がAIによって制御されたマスダンパーの動きを示す

まず、約2万回におよぶ実験の結果からだ。

1回のシミュレーションは3秒間単位で実施。図中の青い線が橋の揺れを、赤い線がAIによって制御されたマスダンパーの動きを示す。

マスダンパーの動き(赤)によって、上下の揺れ(青)が早い段階で低減されるほど、AIが効果的に制御力を発揮していることを表している。

成果2:揺れを感じられにくい環境をAIが作り出した

黒線が何も制御を施していない状態。緑線が従来手法のAMDによる制御。赤線が今回の機械学習によるAIモデル

次に、シミュレーション環境での結果を橋の制御システムに転用する。実際に人が歩いたときの振動の違いを比較検証した。

非制振の状態で揺れが最大となる箇所(4Hzあたり)で、強化学習によるカスタムAIが最も小さく位置している。

数値としては従来のAMDによる制御の1/2を下回る数値を示しており、これまで以上に揺れが感じられにくい環境をAIが作り出すことに成功したといえる。

強化学習によるAIの実装成果は意義がある取り組み

Laboro.AIのプレスリリースでは、今回の強化学習を使った実験について次のように語られている。

「『強化学習』は、機械学習の学習方法として知られる『教師あり学習』『教師なし学習』に並ぶ学習手法のひとつ。ただ、ゲームなどの限られた環境での活用が中心だったため、物理的なビジネス現場への応用は難しいと考えられていた。

今回、強化学習によるAIの実装成果を見いだせたことは、AIのビジネス活用に新たな可能性を切り開くものとして、大変意義のある取り組みだととらえている」

振動抑制は、建設物の揺れの制御だけでなく、「公共交通機関」「製造機器」「航空宇宙」などの分野でも同様にAIによる学習効果を期待できるとされている。

プレスリリース(PR TIMES)


ゲームでの活用が多い強化学習、DeNAでの事例紹介

本稿内でも触れているが、強化学習が活躍する場面はやはりゲームだ。実際、DeNAのスマホアプリ「逆転オセロニア」のチームが過去に登壇したイベントも、当時のチーム内で研究しているAI技術は

  1. デッキのアソシエーション分析
  2. デッキのクラスター分析
  3. ディープラーニングでの戦略学習
  4. 強化学習での未知の戦略学習

と語られた。

ゲーム以外での領域において、まだまだ強化学習は発展途上。Laboro.AIと大林組とのプロジェクトは、物理的なビジネス現場への応用の可能性を切り開いた“きっかけ”になりそうだ。

【DeNAのAI活用事例まとめ】ゲーム、最適化、需要予測など全社横断した取り組み

株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)は非常に幅広い事業を手掛けている企業のひとつ。ゲーム、スポーツ、ライブ配信、ヘルスケアまで多岐にわたる。

多様なDeNA事業を支えているのは「AI」だ。同社のAI事業は全社横断の形をとり、各事業を推進するために役立てている。

DeNAのAI事業を語るうえで、特筆すべきは「Kaggle(カグル)」での実績を評価する制度だ。Kaggleとは、世界中のデータサイエンスや機械学習に携わる人向けのプラットフォーム。このKaggle上で開催されるコンペ形式などでの実績に応じて、業務時間中でもKaggleへの参加を認めるなど、さまざまな指標・評価制度のひとつになっている。

本稿ではDeNAのAI事業を取り扱ったLedge.aiの記事をまとめていく。さまざまな分野でAIを利活用しているため、DeNAは多くの企業の参考例になるかもしれない。

スマホアプリ「逆転オセロニア」を支えるAI

まず、DeNAといったらゲーム事業だ。同社の代表作「逆転オセロニア」には、プレイヤーのゲーム体験向上のためふたつの課題に対してAIの技術を活用しているという。

ひとつは、プレイヤーのサポート。プレイヤーが「楽しい!」と思える領域に早く到達してもらうためのモノだ。各プレイヤーがゲームを習熟するためには、練習や慣れが必要。この練習や慣れを手助けする機能をもつようなAIがまずは必要だとしている。

次に、ゲームバランスの調整。例を挙げるならば、新キャラクターをプランナーの意図したバランスで出すことなどに関わる領域。意図しないゲームバランスになってしまうと、ゲーム体験を著しく低下させる恐れがあるため、遊び続けてもらうためにも調整は非常に大事なのだ。

これらの課題を解決するために、プレイヤーが使用するデッキのデータや対戦データを学習させ、デッキのトレンドや、流行している戦略を分析。ゲームが崩壊しないようにバランスを保つ取り組みをしているそうだ。

取材当時、DeNAのチーム内で検証していたAI技術についていくつか例が挙がった。逆転オセロニアでいえば、キャラクターAを使った場合、キャラクターBを使う確率は何%かを分析するなどだ。

細かい検証内容などは、下記の記事で確認いただきたい。実はこのゲームAIがほかの事業でのAI活用にもつながっている。

石炭火力発電所の燃料運用最適化にゲームAIを活用

2019年2月に、DeNAと関西電力は、石炭火力発電所の燃料運用最適化を行うAIソリューションを共同開発し、外販ビジネスに向けて協業を進めることについて基本合意したと発表があった。DeNAはゲームAIに使用される技術でアルゴリズムを開発したのだ。

逆転オセロニアでのゲームAIの例は先に挙げたが、ゲームAIで使われる技術が「燃料運用のスケジューリング作業」という部分で活用された。

従来、石炭火力発電所では、輸送船から受け入れた石炭をサイロという石炭をボイラに送るまでの間、貯蔵する設備で一旦貯蔵する。その後、ポンプやベルトコンベアで石炭をボイラへ送り、高温で燃焼することで水を加熱。高温高圧の蒸気を発生させていく。この蒸気でタービンを高速回転することで、電気が作られるのだ。

しかし、石炭の種類によって混載や混焼ができない等の制約がある。そのため、熟練の技術者が長年の経験やノウハウに基づき、制約を考慮しながら複数のサイロやボイラを運用するスケジュールを作成。状況変化に応じて見直しながら運用していた。

このスケジューリング作業をDeNAが自動化した。ゲームAIに用いられる、「膨大な組み合わせの中から最適なものを探索する」技術を導入し、アルゴリズムを構築したのだ。

その結果、熟練技術者が半日程度を要する燃料運用スケジューリング作業を、わずか数分程度で自動出力し、期間にして4ヶ月先までのスケジュールを自動で作成することが可能になった。

スケジューリングが必要なさまざまな業界で、このアルゴリズムは転用できそうだ。

タクシー乗務員向けにAIで需要と供給を予測する

そして今月12月10日、DeNAが提供するタクシー配車アプリ「MOV」において、乗務員に対して経路をナビゲーションする「お客様探索ナビ」の商用化を開始した。

お客様探索ナビは、カーナビゲーションのように乗務員をリアルタイムかつ個別に客が待つ通りまで誘導するものだ。お客様探索ナビに従って走行するだけで、乗務員は効率的に客を探すことができる。

最大の特徴は、エリアごとの需要予測をするだけではなく、ほかのタクシーの供給量も加味しながら道路単位で最適な経路をレコメンドすること。道に慣れない“新人乗務員”でもすぐに収益を上げることに期待されている。収益性の向上をサポートするため、歩合制に対する不安解消にもつながりそうだ。

AIで各種事業を推進、DeNAが求める「AI人材」とは

今年7月には、メルカリ本社にてトークイベント「日本発のテックカンパニーが考える『AI人材』とは」が開催。パネルディスカッションでは、DeNA、ABEJA、メルカリのAI部門担当者が集結した。

各企業のAIエンジニアの組織体制から、各社が目指す方向性、さらには求めるAI人材像まで大いに語られた。

やはり注目すべきは、各社が求めるAI人材像。ABEJAは「領域にこだわらず、顧客の課題を解決できる人」、メルカリは「業務をジャッジできる『プロダクトマネージャー』」、そしてDeNAは「あくまでサービスに貢献できる人」というように答えた。

DeNAでのAI事業がまとめられている「DeNA×AI」によると、

「DeNAのAI研究開発エンジニアは単に学術的な研究を行うのではなく事業部メンバーと一緒にサービスづくりを行います。DeNAの保有する多数のサービスに対してAI技術を適用し、実サービスの中で“生きた研究開発”を行えることがDeNAのAIの魅力」

と書かれている。定義されたAI技術を研究・開発するだけでなく、価値あるサービスを提供することが軸にある。そのため、本稿冒頭に触れたように、AI事業は全社横断の形をとっていて、さまざまなDeNAの事業でAIチームが活躍しているのだ。

トークイベントでは、求めるAI人材像以外にもさまざまなAIに関わることが語られている。詳しくは記事でチェックしてほしい。

エッジAIカメラで空席状況を見える化「飲食店などでの行列や混雑の緩和に」

Photo by Andrea Pók on Pixabay

12月11日、株式会社セキュアと株式会社ヘッドウォータースは、映像推論のエッジAIカメラを活用して、飲食店などの空席情報をリアルタイムに掲出できる“混雑状況見える化”ソリューション「comieru Live」の実証実験を実施したと発表。

実証実験では、フードコート内にカメラを設置して、Web上で混雑状況がわかるURLを公開し、リアルタイムに空席状況を掲出した。撮影された映像は、「Raspberry Pi」または、「NVIDIA Jetson Nano」に搭載したエッジAIが人の位置情報のみを検出する。クラウドサーバー上で送信された位置情報を基に人物をアイコンに置き換えた画像を生成しページに表示する。

これは客側、管理側それぞれで活用できるサービスだ。

まず客側においては、来店前や来店中のとき、スマートフォンやデジタルサイネージから、エリア内(店舗内)のどこが空いているのかの確認が容易になる。一方管理側では、各エリアの混雑状況を遠隔から確認できるため、混雑状況を踏まえた案内などが可能になる。

来店客をアイコン化して表示するので、インターネット上にプライバシー情報を広げないというのも特長のひとつ。また、混雑状況を視覚的に表現できるため、外国人客にも混雑状況を伝えやすいのもポイントだ。

「comieru Live」の仕組み(プレスリリースより)

実際に掲出した画像(プレスリリースより)

混雑データの集計・可視化レポート。クラウド上のダッシュボードで店舗別の混雑状況データの集計・可視化レポートを簡単に確認できる(プレスリリースより)

>> プレスリリース(PR TIMES)

AIを活用したカメラは「放置自転車」対策にも

いま、AIを活用したカメラはさまざまな分野で注目を集めている。

11月29日には、神戸市とフューチャースタンダードが協働で、放置自転車監視の実証実験を開始したと発表。

放置の多い歩道上や、駐輪場周辺にカメラを設置。収集した動画や画像をAIで解析することで放置自転車の台数をカウントする。リアルタイムに自動で駐輪状況を定量的に把握する手法の検証・開発し、放置自転車対策への活用を目指すそうだ。

スマートファクトリーとは | 製造業におけるAI×IoT化・成功の鍵を解説

【PR】この記事は株式会社マクニカのスポンサードコンテンツです。

スマートファクトリーの必要性が叫ばれ始めている。経済産業省が発行している「ものづくり白書(外部サイト)」の2019年度版によると、製造過程のデータ化や自動化の実施状況は、「可能であれば実施したい」という割合が増加している。

しかし、「実施している」または「実施する計画がある」と答えた割合はほぼ増えていない。この状況を見るに、デジタル化の必要性は感じているものの、実行まで移せている企業は少ないと考えられる。

出典:「2019年版ものづくり白書

スマートファクトリーとは?
デジタルデータ活用により業務プロセスの改革、品質・生産性の向上を継続発展的に実現する工場のこと。

製造業に特化したAI×IoTコンサルティング事業を手がける株式会社マクニカの阿部 幸太氏は、「スマートファクトリー化」で具体的な成果を出し始めている企業が出てきている一方で、思うように進まない企業も増えているこの二極化した現状に警鐘を鳴らす。

経営的視点と明確な目的を持ち、その手段としてのデジタルに取り組むことがスマートファクトリー化では大切」だという。詳しい話を聞いた。

阿部 幸太氏

戦略系コンサルティング企業で経験を積んだのち、株式会社マクニカに転職。海外テクノロジー製品の国内製造業に向けた導入支援に10年従事。現在はイノベーション戦略事業本部 ソリューション事業部の事業部長で、スマートファクトリー導入支援事業を推進している。

スマートファクトリープロジェクトの特徴。「サイバーフィジカルシステム」とは?

スマートファクトリー化はデジタルの世界だけに止まらず、影響範囲は物理的な現場にも及ぶ。そのため、スマートファクトリー化は簡単にピボットできず、小回りが効きにくいと言える。

阿部氏は「スマートファクトリー化はあくまでも手段のひとつとして捉えるべき」と語る。

――阿部
「経営的視点と明確な目的意識を持ち、その手段としてのデジタルに取り組むことがスマートファクトリー化ではもっとも重要な考えです。つまり、工場の一部だけ自動化しても全体最適には繋がらないことがスマートファクトリー化の難しさなのです」

たとえば、生産管理部門と生産技術部門が別々のプロジェクトで自動化した場合、そもそも両者の通信プロトコルが違い、結局連携が取れないといったケースに陥りかねない。

ドイツ政府が主導した産学連携でものづくりのICT化を推進する国家プロジェクト「インダストリー4.0」で提唱された「サイバーフィジカルシステム(CPS)」という概念は、スマートファクトリーの概念をうまく説明している。

サイバーフィジカルシステム(CPS)とは?
サイバーフィジカルシステムとは、フィジカル(物理)空間の情報を、IoT技術などを用いて収集しサイバー(デジタル)側で処理し、現実世界にフィードバックしていくシステム。

デジタルの進化は指数関数的で、他方フィジカルな現場は少しずつしか進化しない。デジタルの進化をうまく現実世界と結びつけることで、今までにない課題解決が可能になる。

スマートファクトリー化の現場を見てきた阿部氏はこう述べる。

――阿部
「サイバー(デジタル)とフィジカル(物理)をうまく結びつけた瞬間に、大きく産業構造を変えるような変革が起きるはずです。

しかし、物理空間にテクノロジーを適用することはものすごく大変なこと。もし、スマートファクトリーの取り組みではじめの方向性を間違えると、軌道修正には恐ろしいコストと時間がかかります

そのため、スマートファクトリー化に取り組む際は、全体を俯瞰した経営的な視点と、明確な目的意識を持ち、ゴールまでのロードマップを描くことを、肝に命じておく必要がある。また、デジタルとフィジカルの垣根を超えて考えられることも重要だ。

スマートファクトリーとは?起源と意味・定義

スマートファクトリーという、ややアイコニックなこの言葉をどのように定義するのが正しいのだろうか。阿部氏に成り立ちと定義を聞いた。

スマートファクトリーの起源

スマートファクトリーが注目されるきっかけとなったのは、ドイツ政府が主導した、産学連携でものづくりのICT化を推進する国家プロジェクト「インダストリー4.0」だ。第4次産業革命とも言われ、AIやIoTなどの最先端技術の進化とともに産業構造の変革が起こると言われている。

日本政府もその潮流から、スマートファクトリーをはじめとする最先端分野への取り組みを推進するための支援戦略「コネクテッドインダストリーズ」を打ち出した。日本においても、ますますスマートファクトリー化は進んでいくと見られる。

スマートファクトリーの意味・定義

スマートファクトリーとは、一般的にデジタルデータ活用により業務プロセスの改革、品質・生産性の向上を継続発展的に実現する工場と定義されている。

この定義について、専門的な観点から阿部氏はこう付け加えた。

――阿部
「スマートファクトリーの考え方は、ここ数年で動的に変化してきています。数年前は、予兆検知、異常検知など、工場の一部の機能をテクノロジーで自動化することを示すのがほとんどでした。

次第に部分的な取り組みではうまくいかないことがわかり、製造ラインや部門レベル→工場全体レベル→経営レベルへとスマートファクトリーの適応範囲は徐々に広くなり、今では部分最適ではなく全体最適を目指す考え方が主流になりました」

工場はこれからどうなる?スマートファクトリーの価値・メリット

スマートファクトリーのメリット・価値は、データの見える化やデータ活用による生産性向上と品質の安定にあるという。阿部氏に詳しく聞いた。

▲スマートファクトリー化によって可能になる事項

データを可視化し、適切な現場判断が可能に。「見える工場」が生み出す価値

まず阿部氏が挙げるのは「見える工場」だ。稼働状況や製造実績をデータ化し可視化した工場を指す。データが見たい時に見えるようになり、リアルタイムでどこからでも見えるようになる。また、データを分析し従来見えなかった改善ポイントをリアルタイムで対処でき、経営判断にも活かせるのがメリットだという。

――阿部
「優れた現場のリーダーや、的確な判断のできる熟練工がいる工場こそ、感覚的な判断にデータの裏付けを加えることの効果は大きくなる傾向にあります。

また少人数で現場を管理をしなければいけない状況では、リモートで工場全体のどこで何がおきているかを把握することで、ボトルネック解消早期のトラブルシュートなどの効果が高いです」

製造ラインをストップさせない。ボトルネックを予測する「止まらない工場」

阿部氏が次に挙げるのは、「止まらない工場」。生産ラインの自動化や製品の異常検知、設備の予知保全などで、品質管理や生産性の向上を継続的に実現する。

――阿部
「止まらない工場とは言い換えると『未然に防ぐことができる工場』。見える化で必要なデータが、必要な時に見えるようになった工場において、継続的な改善効果や、早期のトラブルシュートが打てるようになります。

さらには予兆の検知として、致命的なトラブルが発生する前に予測することで、止まる前に手を打つことができるということが、大きな価値になると考えております」

工場の情報を広げ、連携する。「つながる工場」へ

そして最後が「つながる工場」。各拠点の工場間、拠点間で情報を連携する。そして連携した情報を定量的に比較し、課題の抽出や強みの横展開、生産計画やリソースの再配置などを行い、経営的な判断を素早く客観的に実施できるようにする。

――阿部
工場間や拠点間での情報連携を価値とする企業が増えてきているように感じます。

さらには、設計部門や営業部門との連携による業務フローの刷新を行うことを前提とされている企業も、増えてきていると感じます」

スマートファクトリーの定義は、デジタルデータ活用により業務プロセスの改革、品質・生産性の向上を継続発展的に実現する工場だ。言い換えると、「見える工場」「止まらない工場」「つながる工場」の価値を全てを併せ持つ工場が「スマートファクトリー」と言われるのだ。

国内・海外のスマートファクトリー3事例

スマートファクトリー化をより具体的にするため。国内外で多くの事例をもつマクニカの事例の一部を紹介してもらった。

大手輸送機器メーカーの工場で異常検知

大手輸送機メーカーの工場では、熟練工の引退、地方での新規人材確保難により、操業に影響が懸念される状況があった。

――阿部
「そこで、大規模な自動化を実施しました。自動化により、働き方改革の一環として掲げている長時間労働削減に成功。また、品質異常が発生した際、リアルタイムでの稼働状況確認と異常検知を行い、被害を最小限に抑えました」

素材メーカーの主力製品の歩留り向上

ある素材メーカーの各種製造条件の設定オペレーションでは、属人化した体制により不良原因と結果を紐づけることができず、改善が困難な状況が続いていた。

さらに、需要の海外シフトに伴い新設工場の建設も予定しており、新工場でのオペレーション人材の確保、安定生産も大きな課題となっていた。

――阿部
「AIによる品質予測と、熟練オペレーターによる確認作業のフィードバックループを回すことにより、推奨製造条件の自動化と品質に影響の高いパラメーター解析を実施。並行して品質改善と、約10%の歩留まり改善を実現。これにより数億円レベルのコストダウンに成功しました。

新工場ではこの取り組みの結果、必要なデータ収集の仕組みを設計段階から構築できました」

日用品メーカーが海場生産拠点の生産能力を向上

ある日用品メーカーでは、需要が急増している海外工場での生産効率向上が求められていた。しかし、国内工場の同設備と比べ、生産効率に大きなギャップが存在していた。

――阿部
「まずStep1として、リアルタイムに見える化し、ボトルネックの可視化を実施。結果的に、トラブルシュートや調整対応を実施するマネージャーとリーダーの負荷を、稼働効率化によって軽減できました。

Step2では、見える化の際に構築したデータ基盤を活用し、重要設備異常や予兆検知、工程最適化し、生産効率の向上に大きく貢献しました」

スマートファクトリー化に取り組むにあたっての課題、システム構築のポイントは?

スマートファクトリープロジェクトにおける最大の課題は、一部だけ自動化しても全体最適には繋がらないと阿部氏は指摘する。

また、製造業では作りたいものや計画が柔軟に変化する。そのため、一部だけ自動化しても、先に導入した自動化ラインが足かせになってしまうケースが存在しているという。

では、全体最適を目指すためには具体的にどうすればいいのか?

――阿部
「スマートファクトリー化のゴールまでのロードマップを描き、全体最適を行うための計画を練る必要があります。そのためには、データ基盤の構築が必要不可欠です」

そう言って阿部氏は、データ基盤構築のポイントとして以下の3点を挙げた。

データ基盤とは「情報を収集、加工、蓄積するためのシステム」。スマートファクトリーでは既存のシステムとの親和性を考慮しながら、システムを連携していく必要がある。その上で、全体の最適化や生産性の向上のためにフィードバックループを回していく

しかし、連携後のデジタルデータの利活用では、要件が変化し続ける。変化する要件の中で、中長期的に価値を出し続けるためには、拡張性の高いシステムを選定・構築していく必要がある。

スマートファクトリー化を成功させる秘訣とは?

最後に、スマートファクトリー化成功の鍵は何かを語ってもらった。

――阿部
「何度も言いますが、経営的視点と明確な目的を持ち、その手段としてのデジタルに取り組むことです。

一部のデジタル化をゴールとし、部分的な導入に落ち着いた場合、あとになって負の遺産になりかねません。ラインレベルから工場レベル、工場レベルから経営レベルへと視野のスコープを広げていくことによって、エコシステムが最適化され、スマートファクトリー化は成功していくはずです。

業界を俯瞰すると、『やらなければ』という方針だけ立てて、動けていない人たちが多くいます。導入効果が予見できない不安や、何を進め、どう優先順位をつけ、どのような計画を立て、何が正しいのかを判断することができないというケースも多々存在します」

スマートファクトリーの取り組みは今後ますます加速するだろう。

インタビューを通して、スマートファクトリーは一朝一夕には実現できないものであり、常に全体最適を考えながらゴールを目指すものなのだと分かった。

手段としてのデジタル化。新しい技術が次々と出てくる昨今、耳が痛い人も多いだろう。

手段としてのデジタル化を推進するには、「手段を理解している」パートナーが不可欠だ。マクニカには、製造業に特化したAI×IoTコンサルティングのスペシャリストが集まっている。スマートファクトリー化を進めたい担当者は、相談してみてはいかがだろうか。

DeNAのタクシー配車アプリ、AIが客を探してくれるナビを乗務員向けに商用化

12月10日、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)が提供するタクシー配車アプリ「MOV」は、AIを活用してタクシーの需要供給予測をし、乗務員に対して経路をナビゲーションする「お客様探索ナビ」の商用化を開始した。

お客様探索ナビは、運行中のタクシー車両から収集するプローブデータ(自動車が走行した位置や社則などの情報を用いて生成された道路交通情報)を解析し、カーナビゲーションのように乗務員をリアルタイムかつ個別に客が待つ通りまで誘導するものだ。乗務員は、お客様探索ナビに従って走行するだけで、効率的に客を探すことができる。

商用化にあたって、2018年11月以降、5回におよぶ実証実験をしてきた。サービスを実際に利用した乗務員からは、

「実際に営業収入が上がり心強かった。実験後もナビに頼りたくなる」
「提示ルートに納得感があり、収益性の高い典型的な営業ルートを再現できている」

などという反応が挙がっているとのこと。

最大の特徴は、エリアごとの需要予測をするだけではなく、ほかのタクシーの供給量も加味しながら道路単位で最適な経路をレコメンドすること。道に慣れない“新人乗務員”でもすぐに収益を上げることに期待されている。収益性の向上をサポートするため、歩合制に対する不安解消にもつながりそうだ。

道路レベルでの需要予測結果の一例(画像はプレスリリースから)


DeNA人気ゲームの裏側にもあるAI

MOVだけでなく、さまざまなアプリやサービスを提供するDeNA。昨年、同社はテックカンファレンス「BIT VALLEY 2018」に出演。そこでは、ゲームアプリ「逆転オセロニア」のユーザー体験向上において、どのようにAIが使われているのかが語られた。

逆転オセロニア内では、大きく分けて二種類のAIが使われているという。ひとつは「プレイヤーのサポート」、もうひとつは「ゲームバランス調整のサポート」だ。どちらとも、ゲーム環境のモニタリングがカギを握っているそうだ。

DeNAが取り組んでいるゲームにおけるAIのカンファレンスの模様は、Ledge.ai編集部も取材し記事にしているのでぜひともご覧いただきたい。

>> プレスリリース

ソフトバンクと東大が「Beyond AI 研究所」設立。活用される「CIP制度」とは何か?

12月6日、ソフトバンクと東京大学は共同記者会見を開催し、「Beyond AI 研究所」を設立すると発表した。東京大学と海外の有力大学の世界最高レベルの研究者を擁した最先端のAI研究機関になることを目指すという。

本記事では、記者会見で発表されたBeyond AI 研究所の概要と、研究と事業化をスピーディーにつなげるために積極的に活用していくとされた「CIP制度(Collaborative Innovation Partnership制度)」について解説する。

10年間で200億投入。最先端のAI基礎・応用研究を展開

会見の最初に登壇したソフトバンク副社長兼CTOの宮川潤一氏は、「アメリカのみならず中国もAI領域で急速に発展しているが、それらの発展は大学が支えている」とし、産学連携の必要性を強調した。

ソフトバンクは10年間で200億円の資金をBeyond AI 研究所に投入する。

基礎研究領域においては、AIの基盤技術研究を通して“AIそのものの進化”を目指す「Super AI」と、AIと他分野研究の融合を目指す「Hybrid AI」の2領域で研究を行う。また、応用研究領域ではベンチャーの発射台となる「JV-Platform」を設置し、研究成果の短期間での事業化を狙う。

出典:ソフトバンクプレスリリースより

さらに、東京大学の強みである物理学や医学など、各分野の学内研究者を配置し、さまざまなドメインへのAI活用を目指す。海外の有力大学からも研究者を招聘し、最先端のAI基礎研究を展開するという。

研究→事業化を加速する「CIP制度」とは?

本研究所の要は、研究成果を迅速に事業化へとつなげることができる「エコシステム」を形成することだ。事業化につなげることができなければ、ソフトバンクも10年間で200億円という大金を投入しない。

ソフトバンクグループの孫正義会長も、会見では何度も「研究だけでは情熱も資金も続かない。エコシステムをつくることが重要」と語っていた。

エコシステムの概要。出典:ソフトバンクプレスリリースより

産学連携のジョイントベンチャーの迅速な設立を可能にするため、本研究所では経済産業省が新たに策定したCIP制度を積極的に活用するという。

CIP制度とは、企業と大学がパートナーになり事業をスピーディーに立ち上げ、成果が出ればジョイントベンチャーとしてスムーズに株式会社化し、事業化を行うことができる制度だ。活用することで、東京大学にも事業化益としてリターンが入る。

この制度について、経産省が11月25日、「未来投資会議構造改革徹底推進会合」で提出している以下の資料を概観してみよう。

参考:技術研究組合制度の運用・制度改正について~CIPの普及・促進に向けて~(外部サイト)

元となった制度には認知度や手続きの煩雑さに課題

同資料によれば、もともと複数の企業や大学・独法等が共同して試験研究を行うために、技術研究組合法に基づき大臣認可により設立される法人として「技術研究組合」という制度があった。


技術研究組合の概要。出典:経済産業省資料より

1961年の「鉱工業技術研究組合法」施行から、累計で267組合が設立され、現在まで存続している組合数は58組合にのぼる。2009年に法律が改正され、組合の研究対象範囲の拡大や2社での設立が可能となったことにより、設立数が増加したが、その後は停滞しているという。

そこで、経産省が技術研究組合関係者にヒアリングしたところ、

  • そもそも制度を知らなかったので活用を検討しなかった
  • 設立認可の基準・認可プロセスがわかりにくい
  • 実施可能な業務範囲が不明瞭

といった課題が浮上した。そこで、呼称を刷新し、ガイドライン策定、手続きの簡素化などを図り、技術研究組合が生まれ変わったのがCIP制度というわけだ。

技術研究組合の課題ヒアリング結果。出典:経済産業省資料より

オープンインベーションによる事業化を目指すには価値のある制度

産学連携によるオープンインベーションを目指す上では、本制度を活用するメリットは大きい。要件を満たせば、特許料の減免措置などが受けられることや、スムーズな株式会社への移行などが可能になる。

オープンインベーションが叫ばれる昨今、AI分野でも産学連携が活発化している。今後、Beyond AI 研究所を皮切りとして、CIP制度の利用が増えるかもしれない。

関連記事:日本に勝機はあるか。AI開発における産学連携の意義

経済産業省、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン 1.1版」を策定

経済産業省は12月9日に、2018年6月に策定した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を、法令改正に従ってアップデートし、「1.1版」として公表した。

経済産業省「『AI・データの利用に関する契約ガイドライン 1.1版』を策定しました」(外部サイト)

AI・データの利用に関する契約ガイドラインとは、「データの利用等に関する契約」「AI技術を利用するソフトウェアの開発・利用に関する契約の主な課題や論点、契約条項例、条項作成時の考慮要素等」を整理したもの。2018年6月に制定された。

本ガイドラインの内容を継続的に評価し利便性を向上させるため、経済産業省では2018年12月から、今後の課題や実務のニーズなどについて検討するAI・データ契約ガイドライン検討会作業部会を開催している。

この度、1.1版が策定されたのは、2018年の不正競争防止法改正(2019年7月施行)によって、「限定提供データ」の不正取得や使用等に関する民事措置が創設されたこと、また、それに先立つ同年1月に「限定提供データに関する指針」が公表され、ガイドラインに反映すべき事項について検討されてきたため。

これらの検討結果を受け、ガイドライン(データ編)をアップデートしたバージョンを、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン 1.1版」とし公表した。

上記の点に加え、AI・データ契約ガイドライン検討会作業部会では、以下のような論点についても議論・検討をしている。

  • データ共用型契約に関するモデル規約の検討
  • AI技術の進展等を踏まえた、AI編のモデル契約条項の見直し
  • ガイドラインを利用している事業者からのヒアリングを通じた、課題やユースケースの抽出
  • AI開発及び実装に係る損害に関する責任論の整理・精緻化

これらの論点については、今後更なる実務の蓄積を踏まえて議論を継続する必要があると考えられることから、現時点でその成果を公表することはせず、今後のガイドラインの改訂に向けた議論の中で引き続き取り扱うことにしている。

経産省が考える「AI人材」の確保とは

かねてより、AIの話になると「AI人材」の確保問題に直面する。2019年6月に日本経済新聞が報じた内容によれば、「政府が『AI戦略』を正式に決定」したとされている。なかでも人材育成においては、初等、中等、高等教育、社会人すべての世代でAI人材を育成していく方向性を示している。

そこで、今年7月に株式会社レッジが定期開催している「AI TALK NIGHT」に経済産業省の小泉氏をはじめ、AI人材育成のスペシャリストや当事者を交えてトークセッションをした。

イベントの記録は、Ledge.ai編集部が記事として取り上げているので合わせてご覧いただきたい。

関連記事:人材育成はあくまで“脇役”。識者が語る「AI人材育成」のその先

また、4月には経済産業省の小田切氏に対し、「課題解決型AI人材育成事業 AI Quest(エーアイ・クエスト)」の動きについて、Ledge.ai編集部が取材した。

関連記事:経産省が進める“課題解決型”の人材育成「AI Quest(エーアイ・クエスト)」、その全貌

>>経済産業省(プレスリリース)

工場でのピックアップ作業を自動化するAI、農業などでの活躍にも期待

12月9日にTRUST SMITH株式会社は、人工知能を使った障害物回避型アームのアルゴリズム開発に成功したと発表。この技術をロボットに実装することで、手作業で行なっていたとされる工場などでの「ピックアップ作業」を自動化し、製造業全体における省力化とコストカットを狙う。

TRUST SMITHが開発に成功したのは、空間内に存在する障害物を回避し、目的物へアプローチすることができるアルゴリズム。これは「リーマン計量」と呼ばれる微分幾何学の理論に基づくものだ。アームから見た空間内の物体との距離、相対速度または相対加速度に応じて適切に場を計量できるため、障害物が動いていても安全に回避しながら目的物へ到達できるようになるそうだ。

障害物回避型アームは製造業はもちろんのこと、さまざまな業種での活躍が期待されている。同リリース内では下記の業界・業種で障害物回避型アームが作業を自動で担うことが可能になると予想されている。

  • 製造業(金属製品/電子部品など):部品の分別、部品の溶接などの作業
  • 製造業(食品):食品の調理工程における作業全般
  • 農業:野菜や果物の最適な収穫時期の判定と収穫作業
  • インフラ(原油):原油配管の超音波非破壊検査作業
  • サービス業(卸・小売):食品スーパーにおける商品陳列作業
  • サービス業(空港):空港内手荷物のバックヤードにおける搭載・取降工程における作業

ロボットによって収穫作業の約9割を自動化

上記のリリース内で記載されている「農業:野菜や果物の最適な収穫時期の判定と収穫作業」においては、農業AIベンチャー「inaho」がアスパラガス農家における全作業の半分を占める収穫作業をAIで自動化しようとしている。

Ledge.ai編集部ではinahoに対し昨年12月に取材を実施した。そこでは、AIを搭載したロボットを実際に見せてもらっている。

取材記事内でも語られているが、現状の農業は「体を壊してしまうと農作業自体が不可能になる」とされている。身体的負担を軽減しつつ、人手不足を解消できるロボットAIが開発されれば、日本の農業は大きく変わりそうだ。

>>プレスリリース(PR TIMES)

チューリングテストとは|意味・目的・社会にもたらす影響を解説

コンピュータと人間を分かつものは何でしょうか。もし人間のような自然な受け答えをコンピュータが実現したら、そのコンピュータは「人間の脳と同じになった」といえるのでしょうか。

このような問いに答える手段のひとつとして、数学者アラン・チューリングが開発したチューリングテストが知られています。チューリングテストは人工知能研究の分野で長らく使われてきました。

2014年6月8日、あるスーパーコンピュータの回答が、審査員の30%以上に「人間である」と判断され、史上初のチューリングテスト合格を果たしました。しかし、この快挙に対して「チューリングテストに合格したとは認めがたい」という反論が著名な専門家たちから出るなど、テスト合格を疑問視する声が上がっています。

そもそもチューリングテストとはどういうもので、一体どのような議論がされているのでしょうか。詳しく解説します。

チューリングテストとは?目的・方法

チューリングテストとは、1950年にイギリスの数学者アラン・チューリングが「機械は思考できるのか?」という問題意識から提案した質疑応答式のテストです。

1950年頃、イギリスの研究者たちは「機械は思考できるのか」という問いについて研究していました。しかし、研究は難航を極めます。「機械」「知能」の用語の定義を明確に述べなければならず、統計的な調査に頼らざるを得なくなり、結論づけることは困難だったからです。

用語の定義などに意味はない、と考えたチューリングは「機械は思考できるか」という問いについて考えるのではなく、「機械が人間的であるか」どうかを判定するためにチューリングテストを考案しました。

参考:Computing Machinery and Intelligence.Mind 49:433-460A.M.Turing(1950)

チューリングテストの目的は「人間に近いコンピュータを実現する」こと

チューリングテストで判別できることは「テストを通して、審査員が人間とコンピュータを判別し間違えたら、そのコンピュータは人間並みの知能を持っていると言える」ということです。

つまり、「機械に知能があるかどうか、思考しているか」を判別するものではなく、いわば「人に近い振る舞いができるかどうか判別するためのもの」です。

チューリングテストの具体的なテスト方法

チューリングテストの方法は以下の通りです。

  • 人間の審査員が、1人の人間と1つのプログラムに対し会話をする
  • このときの条件は、
    1. 人間もプログラムも、審査員に人間と思われるように会話をする
    2. 実験の参加者は全員隔離されているので、会話の内容以外からは相手を判断できない
  • 会話を終えて、審査員が人間とプログラムを区別することができなければ、そのプログラムは合格。つまり「人間並みの知能を持っている」とみなせる


Ledge.ai編集部にて作成

「疑惑の合格」チューリングテスト合格の問題点・反論

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疑惑の合格」といわれ、チューリングテストが注目を集めるきっかけとなった2014年のチューリングテスト合格について詳しくみていきましょう。

2014年6月8日、英国レディング大学で実施された実験において、ウクライナ在住の13歳の少年という設定の「Eugene Goostman」というプログラムを、審査員の30%以上が「人間である」と判断し、チューリングテストに初めて合格しました。

しかし、Eugene Goostmanの合格は「疑惑の合格」と言われています。

チューリングテストは審査員を騙しているだけ?

人工知能研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル氏は、テストの形式について以下のように指摘しています。

  • 「ウクライナ在住の13歳の少年、しかも英語を母語としていないためネイティブな英語が使えない、という設定により、審査員が質問を制限される」
  • 「5分程度なら審査員を欺くことはできる」

すなわち、チューリングテストのやり方は人に近い振る舞いができているかどうかを判定するのに適していないという批判です。

他にも合格が疑問視される理由として、以下の点が指摘されています。

  • 「対話ができるだけでは、人間並みの知能があるとはいえない」
  • 「話題を限定しない対話というのは現実的にはかなり不自然だ」

しかし前述のとおり、チューリングテストの目的は人に近い振る舞いができるかどうか判別することです。そのため、今回の合格に対して「合格したからといって機械が思考しているとは言えない」と主張することは、実験の目的からずれているといえるでしょう。

チューリングテストへの反論「中国語の部屋」

2014年の実験以前にも、チューリングテストに対する反論はありました。代表的なものが、言語哲学・心の哲学を専門とするアメリカの哲学者ジョン・サールの「中国語の部屋」という主張です。

以下がその手順です。

  1. 英語は理解できるが、中国語を理解できない人が部屋にいる
  2. 部屋の中には、中国語の文字を書いてあるとおりに置き換えると、中国語の受け答えができてしまう完璧なマニュアルがある
  3. 部屋の中の人に「中国語の質問」をする
  4. 部屋の中の人は、質問の意味は全くわからないがマニュアルに従って質問に答える
  5. 部屋の外から見れば、部屋の中の人に中国語の質問をしたら正しい答えが返ってきたことになる

つまり、「中国語の受け答えができる」だけでは、中国語を理解しているとは言えません。

同様に、知能があるような受け答えができるかを調べるチューリングテストだけでは、本当に知能があるかどうかは分からないというのがこの主張です。

チューリングテストを実施する意味


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批判や反論を見ていくと、チューリングテストを行うことは、機械の知能を測るのに適切な実験ではないように思われるかもしれません。

では、チューリングテストを行うことに意味はないのでしょうか。チューリングはなぜこのテストを行ったのでしょうか。

公立函館みらい大学の教授でAI(人工知能)基礎・パターン認識について研究している松原仁氏は、チューリングテストは「知能の客観的な定義」として重要な位置づけになっていると述べています。

人工知能の目的が「機械に人間並みの知能をもたせる」ことであると、一旦設定されれば、チューリングテストに合格する機械を開発することが具体的な目標になる。

これによって「知能とはなにか」という問いに対して一定の定義ができたことになる。

不毛になりがちな知能にまつわる議論を、実りあるものにするというチューリングの目的はかなり達成されたといえる。
チューリングの意図は、完全な知能の定義を提唱したものではなく、「知能とはなにか」という抽象的な問を、具体的な問にブレークダウンすることにある。

(「チューリングテストとは何か」2011松原仁 P.42,43より抜粋)

そもそも知能には明確な定義がないとも言われます。そのためチューリングテストに合格したからといって「機械が知能を持つ」とは断言できないが、「チューリングテストに合格する」という具体的な目標を設定することで、我々が「知能とは何か」という議論を進めることができます。

多くの専門家や私たちが、こうやって議論していること自体が、チューリングの狙いだったのかもしれません。

チューリングテストが社会にもたらす影響

先に述べたとおり、チューリングテストを通じて様々な議論がされることで、AI(人工知能)の発展に大きく貢献していることは事実です。

このままAIの進化が続けば、AIが人間の能力を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)が2045年に来るともいわれています。

今回取り上げたチューリングテストにおいて「Eugene Goostman」が実際に審査員を騙すことができたことは、AIの進化がシンギュラリティに近づいた第一歩かもしれません。

AIが人間を超えるかどうかは定かではありませんが、チューリングが私たちにそうさせたように、この議論を通じて「知能とは何か」「人間とは何か」に対して理解が深まることを期待したいです。

「言葉の壁をなくす」AI通訳機ポケトークが西武鉄道の池袋駅、西武新宿駅などに導入

12月1日から、西武鉄道の池袋駅、西武新宿駅など91駅および特急車内における接客ツールとして、ソースネクスト株式会社のAI通訳機「POCKETALK(ポケトーク) W」が使われている。

ポケトークは、互いに相手の言葉を話せない人同士がコミュニケーションできる双方向の音声翻訳機だ。74言語に対応し、55言語では音声とテキストに、19言語ではテキストに翻訳可能。

導入の背景には、埼玉県川越市を訪問する外国人の約65%がアジア圏からの旅行者というデータがある。

埼玉県川越市が2018年に発表した「川越市観光アンケート調査」によれば、外国人入込観光客数が27万9千人(前年比41.6%増)と過去最高になった。国籍別ランキングで見ると1位は台湾で11万2000人(40.1%)。2位はタイで4万3200人(15.4%)、次いで3位は香港2万7900人(10.0%)。アジア圏の旅行者が多く、英語に限らない多言語での対応が求められるようになった。

西武線沿線に外国人観光客が増えていることを受け、ポケトークを合計200台導入することになったそうだ。ポケトークは駅のホームや窓口での案内に利用される予定となる。


機械翻訳が発展する未来に「英語学習」は必要か

ポケトークをはじめ、AIが通訳や翻訳してくれるようになってきた。Google翻訳にお世話になることも少なくない。

こうしたなか、果たして「英語学習」は必要になるのだろうか。Ledge.aiでは今年10月に正しい英語発音を判定する「CHIVOX」を開発したアイード株式会社に取材している。同社の代表取締役CEOは次のように話した。

「自動翻訳技術が発展すればするほど、英語学習の重要性は増す」と。

とはいえ、来年2020年は訪日外国人が大幅に増えそうだ。それも英語一本であればどうにかなるかもしれないが、多言語になってくるともう大変。ポケトークなどの手軽に使える通訳機は来年こそ需要が高まりそうだ。

>>プレスリリース(PR TIMES)

画像にある物体の“意味”を認識して画質向上、モルフォが新技術を発表

株式会社モルフォは、12月3日から5日まで開催の「Snapdragon Tech Summit 2019」にて、Snapdragonに適応する技術として新たに開発した「Semantic Filter(仮称)」を発表した。

「Semantic Filter」技術では、AI(人工知能)を用いて画像の各ピクセルが何を意味するのかを判別するセマンティックセグメンテーション技術を使う。画像内の各ピクセルをカテゴリごとに分類し、それぞれのカテゴリに合わせてノイズ除去、ダイナミックレンジ補正、エッジ強調、ボケ加工などの画像処理を施す。

これにより、物体ごとに残したいディテールや質感を失うことなく、よりクリアな画質の向上を実現する。

さらに、カテゴリとして人物の髪や肌、衣類などを判別することが可能だ。


AIで低解像度の画像から高解像度の画像を生成

画質向上に関わるAIでは、今年5月からラディウス・ファイブは、特大サイズの画像素材をAIで生成するサービス「OOH AI」を提供している。主に屋外広告、交通広告に利用したい広告素材向けとなっている。

従来、屋外広告などでは、画像を引き延ばして、粗い箇所を編集ソフトを使って修正するなど、人が膨大な時間をかけて作業をしていた。

しかし、OOH AIならディープラーニングを用いることで、数十万pxサイズまで高解像度化できるのが最大の特徴。公式サイト(外部サイト)によれば、写真やイラストを縦4倍、横4倍に高解像度化することが可能だという。また、3営業日以内に高解像度化した画像を納品してくれるそうだ。

現状でも、各種編集ソフトに入っている「自動補正」などの機能は非常に便利。だが、若干物足りなさを感じることもしばしば。いずれはボタンワンプッシュで「いい感じ」に編集してくれる日も来そうだ。

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