「フェイク・バスターズ」それは、現代社会にはびこるフェイク情報と、日々戦っている人々のこと。「デマの拡散を防ぐ方法はある?」「正しい医療情報の見分け方は?」「最新フェイク動画は見破れる?」などをテーマに、オリエンタルラジオ・中田敦彦さんが、弁護士や医師などの専門家と徹底討論。フェイク情報の被害者・加害者にならないための“新常識”とは!?
ネットのデマやフェイク情報 誰もが被害者・加害者に
中田:ネット上のデマやソースが分からない情報を毎日目にするけど、何が本当なのか何を信じたらいいのか困ってるという方も多いと思うんです。そこで今日は、色々なフェイク情報と戦っている5人の「バスターズ」と一緒に、自分の身を守る具体的な方法を考えていきたいと思います。
番組では、フェイク情報で人生を狂わされてしまったという人たちを取材しています。まずは、全く身に覚えがないのに事件の犯人だというデマを流されてしまった、ある女性の体験です。
ある日突然“犯人”に 被害者の告白
笹原さん
「笹原です。仕事は、WEB制作だったり、デザイン作成をしています。ことしの8月に根拠のないデマ情報の拡散で被害に遭いました」
その翌朝。SNSのコメント欄を見ると…
「出頭しろ」「殺したろか」「ガラケー女、謝って」
ニュースで伝えられていた「常磐道あおり運転事件」。暴行する男の隣で、携帯電話で写真を撮る女が、笹原さんだというデマが流れていた。「服装や顔の輪郭が少し似ている」「笹原さんのSNSが男にフォローされていた」というのが理由だった。全く身に覚えのないこのデマは、リツイートやシェアによって一気に拡散。一晩で犯罪者に仕立て上げられた。笹原さんのSNSアカウントにも、デマを信じた人たちから人格を否定するようなダイレクトメッセージが殺到。その数は1000件を超えた。
笹原さん
「『死ね』『殺す』『家から出たらどうなるか分かっているな』とか。それを見て、外へ買い物に行ったら隣の人かもしれないという怖さはありました。ここまで人を攻撃できる人たちに対しての恐怖でした」
小沢一仁弁護士
「笹原さんからの電話で『どうしたらいいか分からないからアドバイスが欲しい』と。いったん広まると元に戻すのは大変。『なるべく早く正式なものを出した方が良いでしょう』と話したら、『私もそう思います』と」
ネットの炎上案件を数多く扱ってきた小沢弁護士。これまでの経験から「デマは強く否定することが何よりも大事」だと考えていた。笹原さんから電話を受けたその日に「声明文」を作り、笹原さんの会社のホームページですぐさま公開した。
「当該情報は、全く事実無根のものです」
「笹原の名誉権を、著しく侵害するものです」
すると、狙い通り書き込みを削除する動きが相次いだ。
小沢一仁弁護士
「第1段階としてはあのタイミングで結構消えた感じ。その次はやっぱり記者会見。『本人ではない』ことを正式な場でもう1回明確にしておく必要があると思った」
記者会見を提案した小沢弁護士。削除された投稿はまだ一部に過ぎず、残りの膨大な量を消すには、次の一手が必要だと考えたのだ。炎上から6日後。笹原さんの顔を撮影しないことを条件に、2人は記者会見に臨んだ。
これが事態をさらに大きく動かす。すぐに300通を超える謝罪のメールが送られてきたのだ。
特に悪質な投稿をした人に対しては慰謝料を請求、和解が成立した。デマの書き込みはほとんど削除され、いまは検索にもヒットしなくなっている。
笹原さん
「ものすごく嫌ではありましたけど、記者会見はやって良かったと思います。“デジタルタトゥー”って言いいますけど、あんなに一気に消えるんだと思った。手のひらを返したように謝ってきて、人間の二面性みたいなものをすごく実感しました」
炎上から4か月。笹原さんと小沢弁護士はいま、謝罪の連絡がない数百人を相手に訴訟をおこす準備を進めている。もし、あなたが同じような被害にあったら、どうすればいいのか。
もしあなたが被害者になったら
中田:潤奈さんも同じように完全なデマを流されて、否定したんですよね?
潤奈:そうです。ネットニュースに色々なスレッド立っちゃって。その頃ツイッターで10万人ぐらいフォロワーがいたんですけど、1万人ぐらい消えたんですよ。
葉山潤奈。芸能事務所社長、歌手、アパレル経営など多彩な顔を持つ。ユーチューバーとしてもチャンネル登録者数は20万人。そんな彼女がネットデマの被害にあったのは2年前。事故で愛犬を失った際、「犬を殺し、骨を販売した」というデマや偽画像を拡散されたのだ。その経験から、デマ被害にあった若者たちの相談に乗っている。
潤奈:応援してくださる人が減ったのもそうですし、実際に商売にもすごい響きました。決まっていた仕事もなくなりましたし。動物愛護団体とかに通報されて「二度と犬を飼うな」みたいな。弁護士の先生にお願いして削除依頼と謝罪文をいただけないかやったんですが、記者会見とまではいかなかった。
中田:VTRで取材した笹原さんが来てくれています。まだ闘いは終わってないっていうことですよね?
笹原:今回私の場合、拡散が10万件超えてると言われていて。
中田:すごいですね、10万件なんて僕リツイートされたことないですよ。どれだけ発信したって。
笹原:どこかで誰かがやらないと、また同じことが起きたときに同じ進め方をされてしまう。被害者も加害者も何も学ばない。誰かがやるしかないなら私がやってもいいのかなと思いました。
中田:泣き寝入りした前例にはなりたくないと。
潤奈:犯人の特定ってめちゃくちゃ難しいですよね。特定できました?
笹原:今、調べてる最中です。
中田:まだかかってるんだ。難しいんですかそんなに?
潤奈:私、特定できなかったんです。
神田:見つけたら早く動かないと、誰が書いたか特定できなくなるんです。3カ月、6カ月という時間的な制約があるのでなかなかたどり着かないですね。
ネット炎上に関する案件を数多く扱っている神田知宏弁護士によると、匿名で書き込みをした人を特定し訴えるにはスピードがとても重要だという。多くの携帯電話会社やプロバイダは、ユーザーのアクセス履歴を3か月から6か月しか保存していないからだ。データが消されてしまうと、相手を訴えることはとても難しくなる。
中田:弁護士さんに相談しようと思えず、右往左往して自分で悩んでしまう人も多いんじゃないですか?
神田:来るまでに時間がかかってる人は多いと思います。ネットの問題を扱ってる弁護士は非常に増えていますけど、「ネットで悪口書かれたから弁護士のところに行こう」という人は、そんなに多くはないと思います。
中田:かかる費用もかなり大きいですよね。お金がない人はどうしたらいいんですか?
小木曽:かわいそうなのが、こういうのって子どもが多いんですよ。デマ情報に直面してるのって。
ITリテラシーの専門家・小木曽健。年に300回以上、全国の学校や企業などで講演を行い、ネット炎上の被害者・加害者にならない方法を教えている。デマの拡散を止めるため、お金がなくても「自分で出来る対策」があるという。
小木曽:自分のSNSアカウントのトップに「警察関係・法律関係の方に相談して対応中です」と書かせるんですね。嫌がらせしてる子たちは、本人が困ってるのを見たがるんですよ。だから絶対それを見てびっくりしてバーッと消します。SNS上で「ミニ記者会見」をやっちゃうんです。
リツイートだけで慰謝料も デマ加害者にならないために
中田:リツイートって色々な人がやるじゃないですか。
小木曽:根っこの部分には「情報発信に責任があるということを、みんなが知らな過ぎる」ということがある。正義感とか善意、悪意はどうでもいいんですよ。これは全部情報発信です。そして全部責任があるんです。
平:スマホでポチッと押すだけだから些細なことだとつい思ってしまうんですけれども、それによって、間違えたときの影響力というのもある。例えば「新聞が誤報を出す」「テレビが間違ったニュースを流す」のと同じぐらいの影響を与えてしまうんだ、ということがどうしても体感として理解できてないところはあるのかもしれない。
小木曽:言ってみれば、みんながネット使い始めたのは長くても20年ちょっとなんです。みんな「二十歳過ぎの青二才」がネットを使っているのが今の地球の状況ですよね。
中田:みんな初心者マークの自動車みたいなものなんですね。
平:リツイートする人の6割が、(記事の見出しだけで)中身を見ないでリツイートしてるという…
中田:僕それで一回、先輩芸人さんとちょっともめましたもん。ユーチューブをやってるカジサック(キングコング・梶原)さんのことを「批判した」みたいな記事が出たんですよ。ネットニュースやネット記事って、タイトルだけ激しくて中身はそうでもないということがある。タイトルだけ読んでリツイートしてる人、めちゃくちゃ多いんですよ。
平:それが6割。
中田:カジサックさんその6割に入っちゃってたんですよ。それで怒っちゃったんですから(笑)
デマを拡散した場合、被害者に慰謝料を請求されることも増えている。いくらくらいになるのか?
神田:悪質であれば慰謝料は30万円、50万円、70万円どれかになると思います。先日、判決があったものも、リツイートした人への慰謝料請求は30万円でした。
中田。なるほど、そういう時代になってきてるんですね。
潤奈:加害者にも被害者だけでなく、何もしない人たちもどうなんだろって、すごい疑問に思ってたりして…。「この情報、どう考えたっておかしいでしょ」っていう一言を発する人がいない。
中田:リツイートしたり罵詈雑言を浴びせてくる人たちに対して、「それは違うよ」って言ってくれる人がいたら助かりますよね。
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番組ダイジェスト② ディープフェイク動画の脅威
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