木材用センダン 急成長 放棄地と相性良し 2年で4メートル 熊本
2019年12月19日
苗を植えて1年半が経過したセンダン。180センチの金子さんよりもはるかに大きい(熊本県天草市で)
中山間で植林進む
耕作放棄地で広葉樹のセンダンを育てる取り組みが熊本県で進んでいる。苗を植えてから2、3年で約4メートルに成長し、放棄地に雑草が茂るのを軽減できる。管理の手間も少なく、高齢でも取り組みやすい。先進地の同県天草市では約16ヘクタールで植林が進み、このうち約2割が耕作放棄地を活用している。(金子祥也)
山林より養分豊富
木材用の他樹種は一般的に、植えてから伐採するまでに50年かかるが、センダンは成長が早く、15~20年で製材にできる。同市の米農家で林業にも携わる金子孝二さん(61)は昨年3月、センダンを植えた。膝丈ぐらいの苗だったが、1年半で4メートルに伸びたという。「杉とは比べものにならない速度だ」と驚く。林野庁も新たな木材として注目。国有林で試験栽培に乗り出している。
普及を進める県天草広域本部が適地として注目するのが、中山間地域に増えている耕作放棄地だ。「中山間の農地は条件不利地とされることが多いが、林業では有利地だ」(林務課)と強調する。施肥していた土は、山林より養分が豊富。道も整備済みが多いことから、軽トラックで丸太を運びやすい。
苗は1本100円程度で、10アール当たり40本を植える。2、3年は春先に芽かきと下草の除草をする必要があるが、その後は年に1回見回り、成長を阻害するつる草がからまっていないか確認するだけ。「米作りができなくなった高齢農家でもできる」(同課)という。農地転用手続きで地目を山林に変える手間はあるが、固定資産税が安くなる可能性もある。
中山間地の農地は放置すると雑木が生えやすく、やぶ化してイノシシなど鳥獣のすみかになる。センダンの葉が広がれば日光を遮り、やぶ化する速度が緩やかになるため、荒廃対策として注目する自治体も多い。
同市の事例を参考に佐賀県でも10月、太良町で試験植林を行った。同町林務課は「手間がかからないことを農家に伝え、耕作放棄地を縮小したい」と意気込む。福岡県や長崎県でも植樹が進んでいる。
需要高く価格2倍
センダンを含む広葉樹の木材は、世界中で不足している。業者からの引き合いが強く、国産木材で主力の杉やヒノキに比べて2、3倍超の価格がつく。
既に家具材に採用するメーカーも出てきた。福岡県大川市の貞苅産業はベッドやソファにセンダン材を取り入れた。貞苅幸広社長は「使い慣れない木だったが、家具材として申し分ない」と手応えをつかむ。
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台風19、21号 農林水被害3180億円 営農再開に全力 農相
10月に東日本を中心に猛威を振るった台風19号の被害から2カ月がたつ中、農林水産関係被害額が3180億8000万円に上ることが農水省の調べで分かった。被災地では依然、営農再開のめどが立たない農家も少なくない。江藤拓農相は13日の閣議後会見で、現場の不安に向き合い、復旧に全力を尽くす考えを改めて示した。
江藤農相は「雪のシーズンが近づいてきていることもあり、来年のことについて、現場には大変な不安がある」との認識を示した。その上で「さまざまな手を使って、自治体との連絡を密にして農地の復旧に全力を尽くしていきたい」と強調した。
被害額3180億8000万円は12日現在で、台風21号に伴う大雨などの被害も含む。内訳は、農作物が149億2000万円、農業用ハウスが28億5000万円、農業・畜産用機械が71億4000万円、農地が771億1000万円、用水路などの農業用施設が1219億9000万円、林野関係が789億9000万円、水産関係が130億1000万円などとなっている。
一方、9月に関東地方などを襲った台風15号の被害額は5日現在で814億8000万円。これに19号などの被害額を合わせると3995億6000万円に達し、西日本豪雨の3409億1000万円を超える。
台風19号では、各地で河川の決壊が相次ぎ、水田や果樹園に土砂が堆積するなどの被害が広範囲に発生。政府は11月に復旧支援策を取りまとめた。
特に被害の大きいリンゴには、大規模な改植を余儀なくされる農家に対し、最大で10アール当たり150万円を助成する対策を打ち出した。ただ、被災地では業者の人手不足などで復旧作業が思うように進んでいないところもあるという。
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2019年12月14日
[ゆらぐ基 広がる危機](1) 疲弊する青果物輸送 5年で運べなくなる
農村と都市を結ぶ農畜産物の物流が揺らいでいる。深刻なトラックドライバー不足や人件費高騰が理由だ。日々の食べ物を遠方に頼る消費者の暮らしに影響が出かねない。一方、農村の人手不足対策には政府がスマート農業の普及に力を入れる。大きな期待がかかるものの、全ての課題を解決する万能の技術ではない。食を支える現場を追った。
全国の青果物が集散する東京都中央卸売市場大田市場。午後7時、翌朝取引する青果物を載せたトラックが、全国各地から次々と到着する。運転歴20年以上の40代ドライバーは、複数個を結束した重さ9キロのミニトマトの箱をトラックから降ろし、指定パレットに積み込む。ナンバーの地名は「佐賀」。1000キロを超える道のりを走破した後、この重労働に当たる。
青果物輸送はトラックの荷台に直接荷物を載せる「じか置き」が多い。「手荷役に2時間、長い時は4時間以上かかる」。翌日は長野県に向かい、リンゴを積み、佐賀に戻る。「きつい仕事なので若手のなり手が少ない」とつぶやく。
「過重」で敬遠 時間外規制も
輸送業者の本来の業務は輸送で、荷物を受け取るのは市場側の作業だ。しかし、青果物輸送はドライバーがサービスで荷役を請け負う。産地でも積み込みを輸送業者が担う事例が多く、青果物は他の荷より負担が大きい。九州の物流業者は「青果物を敬遠する業者が増えている」と明かす。
輸送業者の負担を軽減しようと国は7月から監視を強化。荷物の出し手・受け手がドライバーに重い負担を強いた場合、企業・団体名を公表する。事務局の厚生労働省は「悪質な場合は指導する」との姿勢だ。
「産地と市場が変わらなければ、5年以内に九州から関東へ荷を運べなくなる」
福岡県内の輸送業者でつくる福岡県トラック協会の食料品部会役員らは明言する。2024年4月にトラックドライバーの時間外労働上限規制が始まるからだ。
現状、多くの産地がドライバーの長時間残業を前提に、市場に青果物を運ぶようトラックを仕立てている。福岡から東京に運ぶ場合、夕方に受けた荷物を翌日の夜までに届けていたが、規制後に同じ日数で届けるのは難しい。遠隔地ほど安定供給が難しくなる。
同部会部会長を務めるイトキューの中原理臣社長は「青果物流通は、輸送会社だけの問題ではない。産地と市場も自分事として受け止め、合理化に向けた話し合いの機会をつくってほしい」と要望する。青果物輸送は、産地や流通業者だけでなく、消費地の実需者や消費者にも影響を与える国民的な課題といえる。
産地体制を再構築
輸送業者の窮状を受け、輸送体制の再構築に乗り出す産地もある。JA宮崎経済連は、選果場で集めた青果物の一部を、一度予冷庫で保存し、翌日出荷するようにした。前日に出荷量が確定するため業者はトラックの手配がしやすく、朝から積み込みができ余裕を持って荷物を運べる。
収穫から市場に届く日数が1日伸び、生産者の反発があったが、予冷した方が鮮度維持できること、輸送業者が厳しい状況であることを担当者が根気強く説明し、理解を得た。輸送業者の業務は効率化できるが、産地は予冷庫を使うためコストがかかる。
それでも改革に踏み切った理由について、経済連は「輸送業者は物流の基盤だ。今後も消費地に安定して運ぶには、歩み寄りが必要だ」と強調する。
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2019年12月16日
もし豚コレラ予防的接種なら 都外で肥育難しく 東京銘柄に危機
豚コレラ(CSF)の予防的ワクチン接種で生きた豚の移動が制限されることにより、養豚農家への影響が懸念されている。ブランド豚「トウキョウX」は都内でワクチン接種が始まれば、出荷頭数の大半を占める非接種地域の宮城、茨城への原種豚供給ができなくなる見通し。繁殖・肥育が複数県にまたがる農家や全国に種豚を供給する農家も、苦境に立つ。
発生に備え 協力も要請
「トウキョウX」は東京都農林水産振興財団青梅畜産センター(旧東京都畜産試験場)が開発し1997年から生産を始めた。きめ細かく、柔らかい肉質が特徴。現在、都内で6戸の農家が飼育している。
関谷博明さん(69)は東京都瑞穂町で母豚18頭を飼育し、年間120~130頭のトウキョウXを出荷する。豚コレラに不安を感じ「発生農場になって周りに迷惑を掛けるなら、その前に養豚業を終わりにすることも頭をよぎる」と悲痛な思いを口にする。
トウキョウXは肉の流通は都内だけだが、生産は都内だけでなく、原種豚を出荷することで宮城、茨城、群馬、山梨各県でも行っている。
江藤拓農相は飼養豚のワクチン接種が可能になる「接種推奨地域」の範囲を順次見直していく考えを示しており、非接種地域の東京都も接種地域になる可能性がある。
都で予防的ワクチン接種を行うようになった場合、非接種地域の宮城、茨城両県には出荷できなくなる。豚コレラのウイルスが、感染によるものかワクチンによるものか見分けるのが難しくなるためだ。両県はトウキョウXの出荷頭数の75%を占め、原種豚の移動制限はブランドの存続に直結する。
TOKYOX生産組合の組合長で、八王子市で母豚20頭を育てる養豚農家の澤井保人さん(59)は「やれることはやる。ここまで育ててきたブランドを終わりにしたくない」と強調する。
同組合は、他県の養豚農家に別系統の原種豚を導入するよう提案。現在の系統と掛け合わせ原種豚を再生産できるような準備を呼び掛けている。さらに原々種豚を管理する青梅畜産センター(青梅市)で豚コレラが発生した場合に備え、将来、センターが原種豚を買い戻しする際の協力も求めている。
移動制限 影響じわり 山梨の子豚 行き場失う
今秋から始まった予防的ワクチン接種を巡っては、生きた豚の流通を制限され、苦境に立つ養豚農家も出ている。
相模原畜産は、繁殖農場がワクチン接種する山梨県道志村に、肥育農場が接種しない神奈川県相模原市にある。このため農場間で豚の移動ができなくなり、山梨の子豚が行き場を失っている。
同社代表の金井睦さん(57)は「切羽詰まっている。豚コレラがいつ発生するかも分からず、神奈川でも一刻も早くワクチン接種を認めてほしい」と訴える。複数県にまたがったり広域に種豚を供給したりする経営を念頭に、金井さんは「関東甲信越などまとまった地域でワクチン接種するべきだ」と求める。
除外対象も 経営に打撃
静岡県は種豚を供給する産地で、ワクチン接種地域となっている。ただ同地域内でも、国の「豚コレラに関する特定家畜伝染病防疫指針」では、高度な隔離・監視下にある豚と確認されれば接種対象外となる。
現在、複数の種豚農場が除外を申請中で現状は接種していない。しかし接種していない種豚農場は「接種区域内からは接種を希望され、接種区域外からは感染拡大の心配をされる。経営に影響は大きい」と明かす。
浜松市で種豚を飼育する東海ブリーディングは感染リスクを踏まえ、除外の申請を取り下げ接種をした。北海道から九州まで全国に出荷していたが、接種区域内だけの出荷に切り替え、6割の出荷先を失った。代表の谷口弘祐さん(38)は「経営は大変だが、接種区域内の需要もありやむを得ない。生き残るために判断した」と胸中を話す。
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2019年12月17日
奥田昌子さん(医師) 懐かしの味をいつまでも
私は愛知県犬山市の出身です。子どもの頃はよく駄菓子屋に行きました。名古屋には駄菓子を作る会社と問屋が集まっている地域があって、全国に卸しているそうです。そういうこともあってか、お店には商品が豊富にありました。
思い出すのは、まるで板のように硬かったガム。それとチューブ入りのチョコレート。たしかアポロの宇宙飛行士が食べていたとかいわれていました。宇宙食みたいにチューブから吸って食べるのが面白かったです。
お隣の静岡県に秋葉神社という防火の神を祭った神社があって、その分社が愛知県にもたくさんあります。犬山にも小さな鳥居と社があり、毎年11月になるとかがり火をたいて炊き込みご飯を振る舞う習慣がありました。
子どもたちは家からお茶わんを持って神社に行きます。すると町内の大人たちが、大きな釜で炊いたご飯をよそってくれるんです。その日は夜8時くらいまで遊ぶことが許され、かがり火に木の実を放り込んでバチバチと音を立ててはじけるのを見て喜びました。
豆腐田楽は絶品
私の母は薬剤師の仕事をしていてとても忙しく、近所に住む親戚がご飯を食べに時々お店に連れて行ってくれました。八丁みそを使った郷土料理を出すお店が多かったです。
そこで特に好きだったのが、豆腐田楽。硬いお豆腐に竹をそいで作った串を刺して、おみそを塗って、炭で焼くんです。焦げた所が香ばしくて。ご飯は必ず菜飯。ダイコンの葉っぱを刻んで一緒に炊き込んだものです。焼けたお豆腐をご飯の上に載せていただくと、おみそがご飯にくっついて、それがまたおいしいんですよ。
八丁みそは、大豆と塩だけで作ります。愛知県は非常に蒸し暑いので、腐敗しにくいようにと、2年くらいかけてしっかり熟成させています。
濃いだしの文化
愛知県の味の特徴としてもう一つ挙げられるのは、濃厚なだしを使うことです。ムロアジで作った節、さば節、ソウダガツオで作った節で取るので、かつお節のだしと比べてかなり濃いんです。
名物のきしめんにも、もちろんこのだしを使います。その上にたっぷりの花かつおを載せて駄目押しを。名古屋駅ではほとんどのホームに立ち食いのきしめん屋さんがあって、列車から降りるとだしの香りが漂っています。その香りが鼻をくすぐると、帰ってきたなあという気持ちにさせられます。
郷土料理は作るのに手間暇がかかる上、食材も高くなり手に入りにくくなってきています。そのため、提供するお店が減ってきていますね。おいしい田楽を出す店は、犬山とか豊橋、岡崎などの古い町でも、わずかしか残っていないようです。最近は田楽を出すチェーン店が出てきましたが、昔の味とは違う、田楽風の料理を出す店、という感じですね。
出張で各地に行きますと、なるべく古くからある郷土料理をいただくようにしています。山梨に行けばほうとう、秋田に行けばきりたんぽ……。
先週も大阪から帰る時に「とん蝶(ちょう)」を買いました。「ふるさとの味」と書かれた包装紙に包まれた三角形のおこわで、刻んだ塩昆布や大豆、梅干しが埋め込まれているんです。「とん蝶」とはトンボとチョウチョを取っていた子ども時代の懐かしい味という意味だそうです。こうした味は、いつまでも残ってほしいと願っています。(聞き手・写真=菊地武顕)
おくだ・まさこ 愛知県生まれ。京都大学大学院医学研究科修了。予防医学にひかれ、健診や人間ドック実施機関で20万人以上の診察に当たる。その経験に基づいて『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』『内臓脂肪を最速で落とす』など多数の著書を執筆。近著に『日本人の病気と食の歴史』(ベスト新書)
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2019年12月14日
WAGYU欧州で急増 日本産の遺伝資源 流通網の追跡を 畜産技術協会調べ
和牛の遺伝子を持ち、海外で飼養された肉用牛「WAGYU」の生産が欧州で急速に増えていることが、畜産技術協会の調査で分かった。米国やオーストラリアから和牛受精卵や精液が欧州に導入され、欧州産まれの和牛の純粋種や交雑種(F1)が、国境を越えて欧州内や中東に輸出されている。輸出を狙う日本産和牛肉との競合が懸念される一方、世界的な視点で和牛遺伝資源の把握が重要と同協会はみる。
和牛の遺伝資源が、国境を越えて頻繁に往来している実態が浮き彫りになった。1976年に米国へ流出したのを契機に、米国やオーストラリアを起点に各国で急速に生産が増えてきた。
ドイツでは2014年に94頭だった繁殖雌牛が17年に282頭と3倍に拡大。英国、スペインでは、2000年代前半に米国やオーストラリアから遺伝資源が導入され、2000年代後半に動きが本格化した。オランダやニュージーランドからも精液や受精卵が輸入され、受精卵移植(ET)を利用し、急速に増えている。受精卵は1個6、7万円ほど。精液はストロー1本が1450~2900円という聞き取り調査の結果も報告する。
購入した受精卵や精液を基に牛群を造り、14頭もの優良種雄牛をそろえた牧場もある。生産したフルブラッド(純粋種)の雄牛をアラブ首長国連邦(UAE)に売る予定があるという話や、ルーマニアやポルトガルに販売したとの聞き取り調査結果も紹介する。
純粋種、F1の取り組みは多様。出荷月齢は、14カ月齢の子牛で出荷する経営体がある一方、2歳を過ぎてから1年間の肥育期間を設ける経営体もあった。
英国の生産者は、系列レストランや直売所でWAGYU肉を販売し、香港への輸出経験もあった。ロンドン市内では、スペイン産や南米産のWAGYU肉が販売されている。和牛の遺伝資源も牛肉も国を越えて動いている。調査報告では生産・改良・流通を世界規模で「把握することが重要」としている。
調査は「Wagyu肉生産・流通等実態調査事業」。日本中央競馬会の助成を受けて昨年から始まり、英国やスペイン、ドイツで現地調査した。
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2019年12月15日
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木材用センダン 急成長 放棄地と相性良し 2年で4メートル 熊本
中山間で植林進む
耕作放棄地で広葉樹のセンダンを育てる取り組みが熊本県で進んでいる。苗を植えてから2、3年で約4メートルに成長し、放棄地に雑草が茂るのを軽減できる。管理の手間も少なく、高齢でも取り組みやすい。先進地の同県天草市では約16ヘクタールで植林が進み、このうち約2割が耕作放棄地を活用している。(金子祥也)
山林より養分豊富
木材用の他樹種は一般的に、植えてから伐採するまでに50年かかるが、センダンは成長が早く、15~20年で製材にできる。同市の米農家で林業にも携わる金子孝二さん(61)は昨年3月、センダンを植えた。膝丈ぐらいの苗だったが、1年半で4メートルに伸びたという。「杉とは比べものにならない速度だ」と驚く。林野庁も新たな木材として注目。国有林で試験栽培に乗り出している。
普及を進める県天草広域本部が適地として注目するのが、中山間地域に増えている耕作放棄地だ。「中山間の農地は条件不利地とされることが多いが、林業では有利地だ」(林務課)と強調する。施肥していた土は、山林より養分が豊富。道も整備済みが多いことから、軽トラックで丸太を運びやすい。
苗は1本100円程度で、10アール当たり40本を植える。2、3年は春先に芽かきと下草の除草をする必要があるが、その後は年に1回見回り、成長を阻害するつる草がからまっていないか確認するだけ。「米作りができなくなった高齢農家でもできる」(同課)という。農地転用手続きで地目を山林に変える手間はあるが、固定資産税が安くなる可能性もある。
中山間地の農地は放置すると雑木が生えやすく、やぶ化してイノシシなど鳥獣のすみかになる。センダンの葉が広がれば日光を遮り、やぶ化する速度が緩やかになるため、荒廃対策として注目する自治体も多い。
同市の事例を参考に佐賀県でも10月、太良町で試験植林を行った。同町林務課は「手間がかからないことを農家に伝え、耕作放棄地を縮小したい」と意気込む。福岡県や長崎県でも植樹が進んでいる。
需要高く価格2倍
センダンを含む広葉樹の木材は、世界中で不足している。業者からの引き合いが強く、国産木材で主力の杉やヒノキに比べて2、3倍超の価格がつく。
既に家具材に採用するメーカーも出てきた。福岡県大川市の貞苅産業はベッドやソファにセンダン材を取り入れた。貞苅幸広社長は「使い慣れない木だったが、家具材として申し分ない」と手応えをつかむ。
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2019年12月19日
築200年の用水で小水力発電 小型EVに活用し地域の課題解決 猿パトロール成果 三重県多気町勢和地区
三重県多気町勢和地区は、約200年前に作られた農業用水を小水力発電に利用し、地域活性化に役立てている。発電した電気は小型電気自動車(EV)に活用。農作物を荒らす猿の追い払いや、地区の高齢者の安否確認を行う見守り活動に取り組んでいる。(木村薫)
住民で法人 7台巡回
農業用水「立梅用水」は1823年に完成し、全長30キロにわたり地区内を流れる。近年は農家が減ってかんがい用の利用が減少。地区全体で用水を地域づくりに役立てようと、町や土地改良区などが小水力発電に着目した。建設会社や九州工業大学、県なども協力し、2012年に発電が始まった。
落差50センチの用水路を流れる毎秒0・2トンの水が、設置した発電装置のプロペラを回し、最大700ワット時を発電できる。発電した電気は1人乗り小型EVや街灯、雨量計の電力として地区内で利用している。
EVは地域活性化のため設立された一般社団法人「ふるさと屋」が使う。同法人は農家をはじめ地域住民や、目的に賛同する県外の企業などで構成するが、所属する個人が所有するものを含め、7台を活用する。
同法人の地主昭博さん(64)は、地区内の移動手段として小型EVを使いながら、週3回ほど猿の追い払いをしている。猿に付けた発信機を受信できる装置を載せて移動。猿に近づき鳴き声などを確認すると、場所や日時などをスマートフォンを使い、すぐに同法人のホームページ(HP)にある「ふるパト(ふるさと屋+パトロール)マップ」に反映させる。
活動を始める以前は、猿にカボチャを200~300個取られたり、住民が襲われたりするなどの被害があった。しかし、地主さんらが追い払いを始めてから、猿による被害は減少。地主さんは「リアルタイムで猿の位置を反映するので、HPを見て自主的に追い払いをする住民もいる」と話す。
「ふるパトマップ」では猿の動きが分かるよう、調査日や位置情報の精度もアイコンの色や枠線で示している。17年から本格的な運用を始め、現在では七つの群れを把握している。
発電など、小水力利用の普及を進める全国小水力利用推進協議会の中島大事務局長は「小水力発電で小型EVを動かし、猿の追い払いに活用している事例は珍しい。有害鳥獣対策は今後の地域づくりで重要になってくるので有意義な取り組みだ」と評価する。
地区の水稲農家で、同法人の理事も務める高橋幸照さん(63)は猿の動きについて小・中学校などからの問い合わせもあると言い「他地域では猿が児童を襲う事例もある。小・中学校への情報提供も強化していきたい」と意気込む。
単身高齢者 見回りも
小型EVを、高橋さんは高齢者の見守り活動にも利用する。地区内にいる約100戸の1人暮らしの高齢者を定期的に訪問して、元気かどうか確認する。今後は三重大学と協力し、音声で操作を指示できるスマートスピーカーを置いてもらって、安否確認できる仕組みを作る予定だ。
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2019年12月18日
[活写] 真の白でお正月
静岡県浜松市で正月飾りなどに使われる「ウラジロ」の収穫がピークを迎えている。ウラジロ科のシダ植物で、その名の通り葉の裏が白い。JA遠州中央の「遠州・山の香部会」に所属する農家のうち10戸が出荷に携わり、各自が所有したり借りたりする山の斜面の草を刈り、自然に生えたものを収穫する。
農家は持ち帰った形の良い葉を大きさで4段階に選別。「大」は50枚、他は100枚ずつ箱詰めし、東京・大田市場や豊洲市場に送り出す。
今季は、昨シーズンの731ケースを上回る1000ケースの出荷を目指し、来年1月まで収穫を続ける予定。同部会役員の金指勝郎さん(44)は「最近はプラスチック製の葉を料理に添えることも多いが、お正月には本物で彩ってほしい」と話す。(釜江紗英)
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2019年12月15日
良い年純国産で 「大門のしめ縄」最盛 愛知県岡崎市
愛知県岡崎市大門地区で作られる工芸品「大門のしめ縄」の生産が、最盛期を迎えている。鮮やかな青色の稲わらが特徴で、夏に専用品種を青田刈りして年末需要に備えてきた。地域に根差し、需要は堅調。今年は「地域団体商標」の登録も受けて、しめ縄産地のブランド維持に努める。
大門のしめ縄は明治時代に生産が始まった。いまは5戸で構成する大門〆縄(しめなわ)協同組合が、年間30万本を生産する。12月にピークを迎え、近隣のスーパーやホームセンターに並ぶ。
水稲は、しめ縄専用に品種「東海千本」または黒穂(古代米)を作付けし、7、8月に青刈りをする。大小さまざま25種類あるしめ縄に使うため、高さ1メートルほどで刈った後、追肥して再び50センチほどに伸ばして二番刈り、また三番刈りもして、多様な長さの稲わらを用意する。収穫後はすぐに乾燥させて、年末まで保管する。
組合の代表を務める蜂須賀政幸さん(62)は「暑い盛りに収穫するのは大変だが、きれいな青色を維持するために必要な作業だ」と話す。最盛期には約40戸のしめ縄農家がいたが、徐々に減少。それでも需要は堅調で、正月飾りとして、多くの住民が買い求める。
今年5月には、特許庁の地域団体商標に登録された。輸入品に押される中、稲わら生産からしめ縄作りまで一貫して行う“純国産”をアピールする。蜂須賀さんは「近年は需要に生産が追い付かないほどで、地域の正月には欠かせないもの。作り続けたい」と話す。
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2019年12月14日
台風19号から2カ月 復旧から復興へ 農業の未来どう描く
河川が氾濫し、大きな浸水被害が出た台風19号から2カ月。福島、宮城両県の被災地では農機が水に漬かって使えず、将来への不安を抱える農家も少なくない。農作業の受委託や機械の共同利用、高台への集団移転など対応策を探る動きも出ているが、地域農業の今後についての話し合いは、始まったばかりだ。(音道洋範)
機械共同利用を模索 福島県鏡石町
「来年、代わりに植えてくれないかという話がいくつか来ている」と語るのは福島県鏡石町の農業、圓谷正幸さん(51)だ。台風19号では町内を流れる阿武隈川の堤防が決壊。圓谷さん宅のある成田地区は川沿いの平たん地のため、80世帯のほとんどが被災した。
地区では各農家が、トラクターから精米機までをそろえて作業していたが、水没で多くが利用できなくなっている。現在、圓谷さんには水稲2ヘクタールの作付け依頼がある。被災をきっかけに離農も心配されている。
圓谷さん自身、自宅は床上浸水し、キュウリ栽培のビニールハウスも流された。トラクターやコンバインなどほぼ全ての農機具も全損し「損害額は3000万円以上」と話す。例年2月には促成キュウリの栽培が始まるが、ハウスや暖房器具の再建はこれからだ。
圓谷さんは、国の支援事業などを活用しながら再建を目指しているが、「今後はライスセンターの整備をはじめ、地域で機械の共同利用を行うなど地域農業の在り方を考えなければならない」と話す。
同地区は川が運んだ豊かな水と土で良い作物が取れる半面、約30年前にも住宅再建が必要なほどの大規模水害が起こっている。農家の中には将来への不安や「何回も支援を受けて再建するのはどうか」と苦しい胸の内を話す人もいるという。
台風19号による鏡石町の農業被害額は約11億7900万円に及ぶ。町は「農家からは住居や農業施設などの高台への移設を要望する声も上がっている」(産業課)とし、復興策について住民との話し合いを加速させたい考えだ。
集団移転の議論始動 宮城県大郷町
河川の堤防決壊を受け、集団移転への議論を始めた地区もある。
宮城県大郷町では吉田川が決壊し、床上・床下を合わせて204戸の住宅が浸水被害を受けた。町では川沿いの地区を、川から離れた場所へ移転させる“集団移転”に向けた議論が始まった。
町は11月、被害の大きかった中粕川と土手崎・三十丁の2地区の住民143世帯を対象に対面アンケートを実施。118世帯から回答を得た。
このうち、中粕川地区では、集団移転について「条件次第(受動的)」との回答が29・5%と最多。一方で全壊世帯に限ると「推進」が29・4%と最も多く、「条件次第(積極的)」と合わせると47%と半数近くが移転に前向きであることが分かった。
町の千葉伸吾参事は「住民の意向を復興政策に反映させていきたい」とコメントするが、話し合いは始まったばかりだ。町は12月22日にも復興基本方針を住民に説明する予定だ。
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2019年12月14日
ドローンで空輸 できたらいいな 取れたて野菜 即店頭へ 秋田県仙北市が試験
秋田県仙北市は国家戦略特区の認定を生かし、ドローン(小型無人飛行機)を使って青果物を運搬する実証試験に乗り出した。輸送条件の良くない中山間地域での青果物の運搬に、ドローンが使えるかどうかを確かめる。農薬散布など農業への利用が広がる中、運搬用には法規制などもあり乗り越えるべき壁はまだ多いが、人手不足が深刻な中山間地域でのドローンへの期待は大きい。(音道洋範)
ホウレンソウが空を飛ぶ──。11月中旬、市内の中山間地域で行った実証実験では、農家民宿から収穫したてのホウレンソウと焼きたてのおやき約2キロを、2・8キロ先の直売所に向けて運搬した。
中山間 3キロ10分で到着
民宿の裏庭から飛び立ったドローンは、上空50メートルほどまで上昇した後、あらかじめ設定しておいた経路に沿って直売所まで飛行した。10分ほどで直売所近くの広場に到着し、すぐさま店頭に商品が並んだ。
実験に協力した農家民宿「星雪館」の代表、門脇富士美さん(48)は4カ所の直売所で野菜などを販売する。輸送に往復1時間近くかかる場所もあるため「ドローンに運搬を任せることができれば、空いた時間で他の仕事をできるようになる」と期待する。
法律、価格、天候 壁高く
仙北市では2015年に国家戦略特区の認定を受け、ドローンの活用に取り組んでいる。市内では既に農薬散布用のドローンは実用段階に入った。市農業振興課によると、農家が市の助成事業を活用して7台を購入。来年度はさらに10台近くが増える見通しだ。担当者は「年齢や法人、個人を問わず、幅広い場所で使われ始めている」と説明する。
ドローンの運行を担当した東光鉄工(秋田県大館市)によると「自律飛行は技術的に可能なレベルに到達している」が、法律上の規制が運搬用途での実用化に向けた課題になっているという。
国土交通省が今年8月に公表したガイドラインでは、ドローンを飛行させるには、原則として目視による確認が必要。今回の試験では複数の補助者が配置され、飛行ルートと並行する鉄道会社の職員も監視するなど、警戒態勢が取られた。そのため、「現状では車を使って輸送する方が効率的」との声も上がる。
価格面も課題だ。門脇さんは「1台10万円くらいなら手が届く」と話すが、物資運搬が可能な大型機は100万円を超えることがほとんどで、手軽に購入することはまだ難しい。また、試験時の天候は雨交じりで「強い雨の中では電気回線に不具合が出る可能性がある」として直前まで飛行が危ぶまれた。
市地方創生・総合戦略室の藤村幸子室長は、目視外飛行への法規制などさまざまな課題があるとしつつ「ドローンは人手不足が深刻な中山間地域にとっては有効な手段。実証試験を繰り返して課題を克服し、将来的な実用化につなげたい」と話している。
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2019年12月12日
みんな二度見!? オート三輪 走る広告塔 茨城県常陸太田市の椎名理さん
茨城県常陸太田市で「てるちゃんぶどう園」を営む椎名理さん(59)の愛車は、昔懐かしいマツダのオート三輪。手直ししてピカピカに磨き上げ、現役で農作業に使っている。車体にはぶどう園のPRロゴを入れ、走る広告塔としても役立てている。
椎名さんは1・3ヘクタールの園で「巨峰」や「常陸青龍」「シャインマスカット」を栽培するブドウ農家。若い時から車好きで20代前半にMG・ミジェットを手に入れて古い車の面白さに目覚め、今では倉庫にオールドカー10台ほどを所有する。
オート三輪を手に入れたのは10年ほど前。県内の倉庫に眠るオート三輪があると知人に紹介され見に行くと、珍しいマツダのT1500だった。1971年製で比較的状態も良く、トラックなので農業に使えると思い、譲ってもらった。
手を入れて乗り始めたが、古い車両のため故障はつきもの。部品もなく親しい修理工場に頼んで直してもらっている。維持費は掛かるが苦にはならない。運転していると、対向車から注目され、工事の人が手を休めて見入ることも度々。駐車していると、懐かしがって話しかけてくる中高年も多いという。
そこで、「てるちゃんぶどう園」のロゴを入れた。それからはさらに目立つようになり、ブドウ園の名も知られるようになったという。今は「おいしいよ常陸太田のぶどう」や「だいすき常陸太田」のロゴも入れ、地域のPRにも一役買う。
椎名さんは「道の駅にわざと寄ったりして楽しんでいる。大切に乗り続けていきたい」と話している。
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2019年12月10日
気候非常事態 長野県が宣言 都道府県で初
長野県は6日、世界的な気候変動への危機感と地球温暖化対策への決意を示す「気候非常事態宣言」を都道府県として初めて発表した。2050年までに県内の二酸化炭素(CO2)排出量を実質的にゼロにすることを目指す。
県議会が同日、台風19号被害やスペインでの国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)開催などを背景に、宣言を出すよう県に求める決議を全会一致で採択。これを受けて県が宣言を発表した。宣言では、国内で頻発する気象災害と世界的な異常気象、気候変動に触れ、「この非常事態を座視すれば、未来を担う世代に持続可能な社会を引き継ぐことはできない」と強い危機感を示した。
県は、太陽光発電や小水力発電といった再生可能エネルギーの拡大、省エネ対策の強化などで、CO2排出量の実質ゼロを実現したい考え。阿部守一知事は会見で「広く県民一丸となって気候変動対策を進めていきたい」と強調した。インターネット中継で阿部知事と会談した小泉進次郎環境相は「台風で大きな被害を受けた長野県が宣言したことは象徴的。来週参加するCOP25で発信したい」とエールを送った。
宣言は、地球温暖化対策を加速させようと欧米諸国を中心に広がっている。欧州連合(EU)の欧州議会が11月に採択した他、国内では長崎県壱岐市、長野県白馬村などが宣言している。
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2019年12月07日
ビワ大産地 台風15号3カ月 復旧「素人には無理」 倒木、落石、通行止めもまだ… 千葉県南房総市
台風15号の被災から9日で3カ月。全国屈指のビワ産地、千葉県南房総市では農道や園地を覆った倒木、落石が片付けられず復旧が思うように進んでいない。急斜面の園地も多く撤去には危険が伴うため「素人には不可能だ」と話す農家もいて、行政などの支援を強く求めている。(関山大樹)
行政支援を切望
千葉県は、産出額8億円(2017年度)を誇る全国2位のビワ産地。だが9月の台風15号の強風で、木が倒れるなどの被害が出た。県によると、20年の見込み被害額は5億9000万円に及ぶ。
同市の沿岸部にある南無谷地区は、地域の山の多くがビワ山だという。「園地を見ると心が折れる」。ビワ農家の木村庸一さん(58)が落ち込んだ表情で話す。60アールのビワ園は、来シーズン半分以上が収穫できなくなった。
山中にあるビワ園は曽祖父の代から守り、かつては皇室に献上するビワも生産した。ビワは花や幼果が寒さの影響を受けやすいため、冬に風が吹いて霜が降りにくく、寒さが滞らない山の急斜面で栽培される。
台風の強風で、山中のビワの半分以上が折れたり、根こそぎ倒れたりした。急斜面のため現在も、石や折れた木が落ちてくる可能性がある危険な状態だ。
木村さんは、チェーンソーで一部倒木の除去や倒れた木を元に戻すなど尽力したが、19、21号と続いた台風で、修復しても元に戻る“いたちごっこ”の状態が続いた。
険しいビワ山を通る農道も、50年ほど前から農家らが協力して作り、コンクリートで舗装し管理してきた。台風直後は、強風や大雨による倒木や落石で通れなくなり、今も山奥に行くにつれ倒木が手つかずの場所もあり、一部のビワ園は立ち入れない。
木村さんは「山中での作業なので撤去は危険が伴う。安易に除去できない木もあり、全ての倒木や落石の除去は素人には不可能だ」と訴え、倒木や落石の撤去などへの行政支援を訴える。
房州枇杷(びわ)組合連合会が、66人の組合員に行った台風被害調査によると、被害額は10月末時点で1億648万円、来年の売り上げは3億円減少する見込みとなった。連合会によると、実際の被害金額はさらに多い見通しだ。
連合会会長で、南房総市のビワ農家、安藤正則さん(63)も園地半壊の被害を受けた。安藤さんは「このままの状況だと復興は1、2年じゃ到底終わらない」と危機感を募らせている。
ビワは苗木を植えてから収穫まで、5年ほどかかる。園地の再建について高齢農家ほど意欲に陰りがあるとし、「気持ちの面で立ち直れない人もいる。園内の倒木撤去や整理の他、所得補填(ほてん)などさらなる支援が必要だ」と要望する。
自身もビワ農家であるJA安房の笹子敏彦常務も「まだ山中に入れないビワ農家も少なくない。特に雨が降った後などは危険度が増す」と話し、復旧への道が険しいことを強調する。
15、19、21号 38都府県被害 農林水3900億円
農水省は6日までに、台風15号の農林水産関係の最新被害額が5日午後4時時点で815億円に上ると発表した。19・21号の被害額(3082億円、2日午後1時時点)と合わせると、総額3897億円に上る。
15、19、21号の被害は38都府県が報告。被害額は、2018年の西日本豪雨の被害額3409億円を超えた。
内訳は農地の損壊が2万6273カ所で被害額746億6000万円。用水路や農道といった農業用施設などが、2万4130カ所で被害額1226億4000万円。作物被害は3万6459ヘクタール、被害総額265億3000万円。農業用ハウスなどの被害は、2万9336件で被害額503億1000万円だった。同省によると、今後も被害額は増える見込み。
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2019年12月07日
地元でもやりたいことできる “Uターン組”食で催し 新潟県糸魚川市
新潟県糸魚川市にUターンした若者らが、「つなぐKitchen Project(キッチンプロジェクト)」のメンバーとして、食を題材にしたイベントを企画・開催している。プロジェクトを通して、糸魚川を離れた若い世代に「糸魚川でも自分たちのやりたいことができる」ということを伝えていく。
メンバーは市役所職員の杉本晴一さん(26)、イタリアンシェフの渡辺光実さん(28)、米や果実などを栽培する生産者の横井藍さん(28)と、JAひすい営農指導員の小野岬さん(24)。
市の広報紙の取材で若手Uターン経験者として杉本さん、渡辺さん、横井さんが集まり、3人で意見を交わす中で「それぞれのやりたいことが3人ならできる」と意気投合し活動を始めた。
その後、女子メンバーが欲しいという横井さんの希望で、巡回で来ていたJAの小野さんが仲間に加わった。プロジェクトチームの名前には「糸魚川のいろいろなところで人・物・事をキッチンでつなぐ」という願いを込めた。
職種の異なるメンバーが、それぞれの得意分野を生かしながら活動。7月には「ハヤカワ夏のピザまつり」を開いた。親子連れ30人が参加し、夏野菜をトッピングしてピザを作った。11月には「ハヤカワ秋のイモまつり」を開いて親子20人が焼き芋などを楽しんだ。
補助金を頼りにせず、全てを参加費で賄えるよう工夫して企画・運営している。メンバーは7月のイベントに合わせて動画投稿サイト「ユーチューブ」を参考にピザ窯を手作りし、11月のイベントでも大活躍だった。
横井さんは「畑で作られた野菜を味わって土に触れる感動を子どもたちに伝え、食を通して農を知ってもらえるような活動をしたい」と意欲を見せた。今後は小学校で取り組む「キャリア教育」などを通して農業の現場と教育の現場をつなぐとともに、イベント依頼などに積極的に対応していく。
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2019年12月07日