2019-12-19

山口敬之強姦事件刑事民事で逆の結果が出たワケ

山口敬之民事敗訴の件で刑事と違う結果になったがO.J.シンプソン事件そっくりだ。

この事に混乱している人が見られるが、これは法の「仕様」上正常な動作なので少し説明したい。

 

刑事民事では証明責任のあり方が違うのが原因だ。

それに伴い「黙秘」「自白」の扱いも違ってくる。

 

まず、刑事事件で訴えられた者を「被告人」といい、民事事件では「被告」という。両者の混同も多い。

この刑事裁判では、被告人有罪である証明するのは全て検事(国)の責任だ。

更に「相当程度明らかに」まで証明しなきゃいけない。「どっちかというと有罪かな」という程度じゃ駄目なのだ。「こりゃほぼ間違いなく有罪だろ」ってぐらいじゃないと有罪にならないというのがルールなのである

から被告人としては検事の主張や事実摘示に「疑いがある」程度まで崩せればいい。その場合無罪判決となるというのがルールなのだ

 

一方民事事件では請求(金払えとか広告掲載しろとか事実だと認定しろとか)にしろ、それへの被告反駁しろ自分利益、主張には自分方に証明責任がある。

相手方の主張に証拠を出して上手く説明できない場合相手方の主張が通るのだ。

更に証明の程度は半分を超えていればいい。つまり「どっちかというと原/被告の方が正しいな」という程度で勝ち負けが決まるのである。つまり民事裁判は天秤掛けなのだ

 

その為、自白の扱いも違う。

刑事では罪を認めた、警察検察が適示した犯行事実を認めた事が自白となる。

一方民事は「~~という主張がなされていますが認めますか?」と問われて「認めます(認諾という)」と答える事と、「主張を否認しなかった事」が自白となる。

認諾すると答える事も否認しない事も証明責任放棄で同じ事だからだ。

刑事での黙秘被告人不利益にならないが、民事での黙秘相手方の主張の全面的な認諾となるのである

 

予断だが刑事での黙秘でも万能だと誤解されている向きがある。

黙秘するって事は言いたくない可能性が高い。→「だからそれってやったって事だろ?」という推定をしてはいけないというのが黙秘権の権能の一つだ。

この黙秘により出来た「被告人自白が無い」という穴を埋めるのも検事責任だ。

またやっていないアリバイがある、止むを得なかったので情状酌量して欲しい、という主張まで放棄する事になる。

からこの点まで黙秘してしまうのは被告人不利益となるのは論を俟たない。

 

有名フットボールプレイヤー俳優のO.J.シンプソンが恋人とその浮気相手を殺した事件でもOJは刑事無罪になったが民事では殺人認定され天文学的賠償金支払を命じられる事になった。

これは刑事証拠が全て否定されたからで、

事件担当刑事が強いレイシストだった(OJは黒人)

・この刑事証拠捏造していた

法廷犯行現場に落ちていた手袋をOJの手にはめようとしたらきつくて入らなかった

などで、証拠採用出来なくなってしまった。

すると「どうみてもOJが犯人だろ」という状況証拠しかなくなってしまう。この疑いが残る状態有罪としてはいけないというのが法の精神なので無罪となったのである

だが民事では「こいつヤッただろ」を覆すのも被告責任であり、合理的疑いを生じさせただけじゃ駄目なのだ

刑事民事証明責任の違いで、民事では天秤が傾いている方の勝ち、刑事では重い方が地面にぺったり付いてなくて少し浮いてゆらゆらさせれば被告人の勝ちなのである

100kgの錘に対して101kgを用意して自分の手で天秤に持上げないといかんのが民事、0.5kgでちょっと浮かせりゃいいのが刑事だ。

この中間にある事例ではOJや山口敬之強姦事件の様な逆転が起こり得、それは法の仕様だ。

 

こうなっているのは無論刑事事件国家vs.個人という特殊状態であり身柄の拘束もあり得、捜査能力も段違いだからである

尚、国家vs.人でも行政訴訟民事ルールに則っているので注意が必要だ。

また、刑事事件ニュースドラマになりやすいが民事はそうではない。

だが社会生活上では一般には民事のほうが身近だ。

その為司法に疎遠な人の間では刑事事件モデルが想起されやすアジェンダ化しやすいという特徴があり、はてなでもそれが顕著だ。

 

ついでなので山口敬之強姦事件の不起訴についても触れよう。

そもそも何故逮捕取りやめという介入があったかといえば、「証拠収集放棄」の為だ。

日本警察自白偏重であり逮捕して自白調書をとろうとした。これを停止させれば決定的な証拠がなくなるから裁判所では有罪としにくいのである

起訴便宜主義検察には起訴するかどうかの裁量権がある。

この為、無罪判決が出る可能性がある事件では起訴猶予とする事が一般的だ。

逮捕取止めはこれを狙ったものだ。本人自白調書が無い事件公判維持は困難だ。こうする事で警察から検察の行動を制御できる訳だ。

 

戦前警察検察のいいなりとなる義務があった。

だがこれが昭和検察ファッショを招いたと問題視したGHQ警察に一次捜査権を与えた。検察管制からある程度独立捜査する権能を警察に与え、検察の権能を限定化したのである

それは汚職検察ファッショを防御する為にそうしたのであり、こういう事をする為ではない。

起訴便宜主義警察の一次捜査権の脆弱性を利用した悪質な制度ハックだ。

そしてこの事件逮捕中止を命じた中村格氏は順調に出世して現在警察庁長官官房長であり年齢からしてまだ10年はキャリアの残りがある。

この事件は全世界でも報道されており、各国のメディアが注目しているのはこの政治的スキャンダル性だ。

こういう有名事件キーパーソンとして周知のトップの下で全国の警察官はこの先働くのだがどうすんのこれ?

 

 

 

更についでに、ブクマ見ると散見される誤解だが、

 

最高裁まで争うと安倍総理が任命した判事が居るから伊藤氏不利云々

 

最高裁法廷を開く事件限定されます基本的憲法判断が無いと審理しないと思ったほうがいい。

事実審は高裁までで、最高裁事実の審理はしないです。

から高裁判決がそのまま決め手になるでしょう。

あと、人事権に注目した方がいい。

裁判所内閣から人事権独立させている。これは大変重要なことで、人事権を掌握されると無言の圧力で利害が誘導されるのです。

そして内閣人事局を設立しなきゃこの事件しろ内閣府の職員公選法違反有権者への飲食提供などに従事するなんて常識外れな行動も起こりえなかった。

から裁判所判断で「総理への忖度が~」とか言ってる人は人事権問題理解してないと思うよ。

 

因みに事件事実が明らかでも不起訴となるケースは結構多い。特に強制わいせつ強姦では。

それはこれらでは謝罪示談の成立があれば罪を課さない為に起訴猶予とする事が多いからで、このように被害者が争っているのに不起訴というのは異例というか相当に異常な事例と言って良い。

 

最後マスコミへの不満なんだが、警察空港で張っていた(そこへ逮捕中止の掛電)という事は、警察TBSに聞き込みで社に発覚→TBSが降格人事で帰国命令警察帰国の日時を聞き出して逮捕請求という流れがあったと見るのが自然だ。

なのにTBSはその事情を知っていたかコメントしてないしマスコミ突っ込みいれて訊いていない。

更に山口敬之TBS退社の理由を「韓国軍慰安所取材のせい」と述べているのだが、実はこの退職理由を言う様になったのは夕刊フジがそのストーリー韓国叩き記事掲載した後なのだ

「なんでそれ以前の説明と変ったのですか?」は意地悪な質問であろうがマスコミは訊いていない。

突っ込み力が足りないですよ。

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