子の連れ去りとハーグ条約

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弁護士の仕事をしていて憤りを感じることは多々あるのですが,その1つが「子の連れ去り問題」です。離婚を希望する親の一方が,未成年者の子を連れ去り,残された親に行方も告げず,居場所も告げず,子に会わさない,という行動が,しばしば行われているのです。

 

 

 

そのような子を連れ去った親から,残された親に対して離婚調停や離婚訴訟が申し立てられることがあります。そのような場合,日本の裁判所の運用では,「現在未成年者子を養育している親が,その養育方法に特段の問題がない限り,離婚後の親権者となる」場合が多いのです。その運用が,さらなる子の連れ去りを生んでいるのではないか,と私は考えています。

 

 

 

でも,日本は「子の連れ去りについてのハーグ条約」の締約国です。それは,国際的な「子の連れ去り」を禁止した国際条約なのです。

 

 

 

例えば,フランスでフランス人の夫と婚姻した日本人妻が,夫に無断で,2人の間の未成年者子を連れて日本に戻った場合,フランス人夫の要請があれば,日本人妻は未成年者子を連れて,フランスに戻らなければならないのが原則となります。

 

 

 

それは,「無理矢理フランスに戻す」という意味ではなく,「家族の生活の本拠地であるフランスに一旦妻と子が戻り,フランスの法律に基づき,今後の家族関係の清算を行った後で,日本に戻りなさい」という意味なのです。

 

 

 

このハーグ条約を日本が批准しているということは,大きな意味を持つと思います。なぜならば,日本の国内法秩序において,条約は民法などの国内法よりも,効力が上である,とされているからです。

 

 

 

上で御紹介した例からも明らかなように,国際法秩序においては,ハーグ条約上の義務を負い,日本の公務員によって,国際的な子の連れ去りが禁止されているのに対して,日本の国内法秩序においては,親の一方による子の連れ去りが容認され,子を連れ去った側に対して一旦子を連れて家族の生活の本拠地に戻るような運用はされず,離婚が成立すると,そのまま子を養育している方の親,つまり子を連れ去った方の親が親権者となることが多いのです。これは,国際法秩序において日本が負っている国際条約上の義務と,矛盾した国内法上の運用のように思います。それは,日本国内で国際結婚をした夫婦を念頭に置くと,より矛盾が顕著に浮かび上がると思います。

 

 

 

いつかきっと日本の国内法秩序においても,「日本はハーグ条約の締約国であり,条約は民法よりも上位法規範なのであるから,日本の国内においても,親の一方が無断で子を連れ去った場合には,連れ去られた側の親からの子の引渡請求や子の監護者指定請求が認容されなければならない。それはハーグ条約の要請でもある。」という判断が出る日が来るように,私は思っています。離婚後共同親権制度が導入されることと共に,それは私が実現したい夢でもあります。