第十二話:暗殺者は侵入する
授業が終わると同時に、学園を出発した。
学園で蛇魔族ミーナの従者となったノイシュに変わった動きはない。まるで、あの頃に戻ったように普通の友人として接してきた。
学園の敷地外まで出ると、変装し飛行機で空を舞う。
今回の目的は、アラム・カルラの確保。
いくら【聖騎士】の肩書きを持っていたとしても、バレてしまえば一族郎党死刑。それどころか、アルヴァン王国そのものがやばくなる。
だからこその変装。
そして、そんなリスクがあっても行動に移したのはそうしないと詰むからだ。
敵が動く前に、アラム・カルラが確保できるかで戦況は一変する。
(……こういうときに、影武者が用意できると動きやすいんだがな)
俺は有名になりすぎた。
そうしないとならない事情があったとはいえ、成果を上げすぎ、注目を集め過ぎた。おかげで、動きづらい。
だからこそ、もうひとりの俺が必要だと強く思う。
今日だって、影武者がいれば影武者に授業を受けさせて、昨晩のうちに出発できただろう。
(なかなか適任が見つからないな)
メイクでごまかすにしろ、ある程度はもとの顔立ち、体型が似てないといけない。なおかつ魔力持ちでないといけないのが大きなハードルだ。
意図的に隠さない限り、魔力持ちは常に魔力が漏れている。
俺ほどの魔力量はなくとも、最低限魔力を持っていないとどうしたって不自然となる。
そして、魔力持ちは一部の例外を除いて貴族ばかりであり、影武者になってくれるような者は少ない。
「考えておこう」
今後の展開次第では、ないとどうしようもなくなる。
多少手間でもなんとかしてみせよう。
◇
飛行機で距離を稼いで、アラム・カルラのいる聖地にやってきた。
その名をフォウォーレ。
小さな街でありながら国。世界最小の国だ。
王都の地下にも聖域があるが、ここは街すべてが聖域。
魔物に備えるため、ほとんどの街には防壁が存在するが、ここにはない。
その代わりに、結界が張られていた。
街全体を覆う結界なんてふざけている。人間には不可能な規模と強度。神の力だ。
この結界はすべての不浄を排除すると言われており、結界に触れた瞬間、魔物は死ぬと聞いている。
「……それだけじゃないな」
離れたところから神の結界とやらを観察する。
トウアハーデの瞳を使い、術式を見抜き、それを解析していく。
ディアと二人、十年以上かけて
それでも、六割程度しか読めない。
それは、俺たちが知る魔法というのは、神が人間用にほどこした魔法だが、ここにあるは神が自らで使う魔法。
魔法の次元が違う。
なおかつコードの組み方が独特かつ複雑。
それでも挑む。
(神の結界、勉強になる。ディアにも見せてやりたい)
わかる部分から流れを読んで、仮定をいくつも当てはめて、もっとも整合性の高いものを選び、推測。
「だいたいわかった……あれは、ただの守りじゃない。管理システム。だが、穴もある」
管理システム。
驚いたことに魔力の波長を読み取り、個人を識別している。
管理者は街に入った人間、出た人間、そのすべてを把握できる。
強度自体は、俺が本気なれば押し通れるもの。対魔物に特化しており、超一流に数えられる魔術師であれば通れる。
俺はこの街に入ったことはない。
だから、魔力の波長がバレてはいない。むりに侵入しても、親友したことはばれるが、俺が侵入したということはばれない。
……いや、それは油断か。
かうて、アラム・カルラに王都の聖域に招かれた。
そのときに感じた気配が、この結界と同じように感じられる。
王都の聖域はレプリカ。そうであるなら、結界までも複製されていたかもしれない。
そして、結界が複製なら俺の波長を知り、それが共有されている可能性は十分にある。なにせ、教皇に化けた魔族は俺を警戒しているのだから。
俺が犯人だと特定されると、非常に面倒だ。
むろん、俺の波長が登録されていない可能性はある。さきのは仮設に過ぎないのだから。
だが、そうである可能性がある以上、迂闊な手は打てない。
「……ならいっそ、壊すか?」
六割しか式が読めてない以上、改変は不可能だが術式に介入して壊すことならできそうだ。今回用意した、第三の腕を使えばそういう芸当が可能。
あれは兵器として優秀だが、それ以上の神の手であり、触れられないものに触れる特性こそが真価。
とはいえ、聖地の結界を壊したとなれば大騒ぎになるし、相手の警戒を招く。結界が破壊されたところ、厳重な警戒体制に入るのは確実。
アラム・カルラの確保が難しくなる。
ならば却下。
選ぶべき手は一つ。
「あの結界を飛び越える」
結界は街を囲むようにあり、地中と地上約二キロ伸びている。
ドームではなくあくまで高い壁に過ぎない。
上はがら空きだ。
翼の持つものでも高度二キロなんてふざけたところまでは上昇しないと踏んでいるのだろう。
実際、風を使ったり、身体能力を強化しようが力技で二キロ以上、飛ぶことなんて不可能。
だが、俺ならできる。
風にも身体能力にも頼らない。
まずは風を纏う。これは飛翔のためじゃない、保護服のようなもの。
俺が使うのは……。
「神槍【グングニル】」
重力を反転させることで超高度まで射出する必殺魔法。
本来は、超高度まで上昇させた物質による質量攻撃。あるいは敵そのものを吹き飛ばす攻撃に使うもの。
だが、それを己の身に使えば……。
(超効率で飛翔できる)
ただ、油断はできない。
なにせ、これは空に向かって落ちていく。毎秒9.8メートルも速度が増していく。
たった二十秒で二キロに到達。その際の速度はおおよそ時速八百キロ弱。
体への負担は大きく、その速度域で魔法の制御を保つのは難しい。
もし、術の途中で意識を失えば、上空数キロから地表に叩きつけられて即死。
……街に入る前からここまで苦労するとは。
苦笑すると同時に魔法が完成。
加速で頬が引きつる。
加速、加速、加速、空に向かって落ちていき、頬が引きつっていく。
計算通りのタイミングで魔法が終了する。
だが、上昇は止まらない。運動エネルギーを消費して減速しながらさらに上昇。
そして、完全に聖地の結界を超えたところで運動エネルギーを消費し尽くし停止、その後重力に引かれて落ちていく。
空気が薄い、肌寒い。
高度が上がるほど、気圧や気温は低下し、酸素も薄くなる。そして気圧、気温の変化が急激であればあるほど人体への負荷は大きい。
エベレストですら高度8000メートル。その二倍以上の高さを、数十秒で駆け上がった。自殺行為以外としかいいようがない。
もし、風の護りを用意していなければ、ただでは済まなかった。
風をあつめて、スラスターにして前へ進み、聖地の上空へと移動。
速度が上がりすぎないように風の逆噴射をしながら落ちていく。
高度が下がってきたところで、風の護りを捨てた。
その代わりに風の膜をまとう。光を屈折させ、不可視になる俺の得意技だ。
地面が近づくと逆噴射を強化し、ほとんど速度を殺し、全身を使って衝撃を吸収して着地。音を殺した。
そのまま、路地裏に駆け込み、周囲に人影がないことを確認してから透明化を解く。
誰にも気づかれずに街へと侵入できた。
「第一段階はクリア。次が本命だ」
聖地の中央にある大聖堂を睨む。
そこにはアラム・カルラがいる。
彼女の予定は事前に調べてある。
俺の情報網と、ネヴァンの情報が一致している。かなり確度が高い。
一時間後、聖堂の大浴場にて週に一度の禊を行う。聖水で満たした風呂で巫女の力を高める。
その際は、何人たりとも彼女のそばにはいない。
護衛も、付き人もだ。
つまり、さらうにはもってこいの状況。
このチャンスを逃せば、彼女が一人きりの状況など、そうそう訪れない。
ならばこそ、敵に警戒されたくなかった。
万が一にも、禊が中止にさせるわけにはいかない。
俺は街に溶け込み、大聖堂へ向かう人混みに紛れる。
俺は暗殺者であり、誘拐犯ではない。
さらうのは専門外だが、完璧にこなしてみせよう。
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