本当に「損保ジャパンの対応はくそ」なのか?

2019年12月19日


「11月30日に高速道路で追突事故に遭い、相手100:0で示談交渉中なのですが、相手方保険会社の損保ジャパンから連絡があり、修理費も全額払わないが、買い替えにかかる費用も払わないと連絡がありました。新車から大切に大切に乗り続けた車を奪われて、乗り続ける事も乗り換える事も出来ないのです。」

事故に遭われた方の声がSNSで拡散され、今損保ジャパンの対応がひどいと話題になっております。

完全な被害事故(0:100)に遭って、修理費もでない・買換え費用もでないと言われて被害者の方は困っているということです。SNS上では、過去に同様の経験をされた方や損保ジャパンに不当な対応をされたなど、さまざまな意見が飛び交っていますが、この件について自動車事故の対応サービスを行う立場から見解を申し上げたいと思います。

とは言っても、「私見」ではなく「事実」を中心に述べていきたいと思います。

 

 

損保ジャパンの対応はおかしいのか?

まず結論から言っておくと、損保ジャパンの対応はおかしくありません。

被害者は車が全損のため、保険会社から「車の時価額までしか支払いができない」「新車購入の金額を支払うことができない」と言われているようですが、ごくごく普通の全損時の対応になります。

全損の場合、加害者が負う法律上の賠償義務は「時価額」までです。保険会社は、加害者が負う法律上の賠償責任額をお支払いをする立場なので、法律上、支払いをしないでいいものまでは当然支払わないのです。

リンク(「全損について」)

こういった話なら毎日何百件と起こっていると思います。今回、被害者の方がSNSに発信したところ拡散されただけであり、どこの保険会社も対応は同じです。(もちろん、払えないと伝え日々各地で炎上はしています。)

被害者はいかに自分が被害者かを訴えるため「被害事故で損保ジャパンが1円も払わない!」というようなニュアンスで、この件が伝わってしまっていると思いますが、正確には「加害者が法的に賠償する責任がある時価額はすぐに支払いができるけど、被害者が示談に応じない(示談が成立しない)ため、保険会社は何も支払うことができない」というのが真実かと思います。

被害事故に遭い、納得できない気持ちも分かりますが、個人的には「会社」「部署」「担当者」をSNSで晒し、個人が特定できてしまうようなことをしてしまう被害者の方の方が問題があると思います。

ツイートに関して

被害者の方がおっしゃっていることについて、解説してきます。

 

①損保ジャパンは何度か相手方になった事がありますが、その度に被害者に不利益な示談を提示してくる悪質な保険会社です。その為今回も対応を危惧しておりましたが、案の定の酷い対応です。代車も期限を設けて返却するように言ってきました。この車は会社の車で営業者です。車がなければ仕事にならない。

→「不利益な示談」という内容が分からないためそこは触れませんが、代車の期限はどこの保険会社もあります。今回の事故のように全損の場合は、時価額までしかお支払いができないため、修理費を保険でまかなうことができません。そのため「数か月どうするか考えたい。」「じゃあ代車に乗り続ける!」といった被害者も一定数いるため、そうせざる得ないのです。基本的には、全損と被害者に通知した日から2週間が代車の期限です。(交渉によっては、すぐに修理に入ってくれるようなら修理期間中の代車費用は全額対応してもらえることも多いです。)被害者の方も「損害の拡大を防ぐ義務」があるため、妥当な代車期間を超えてしまうと法律上補償はされないのです。

 

②身体もダメージを受けており、現在治療中ですが、車の賠償すらまともにできない損保ジャパン日本興亜という保険会社がこの国の損保会社として存在している事に怒りを覚えます。 この件について自身の三井住友海上の担当者とも話をしていますが、損保ジャパンの対応はおかしいとの事。

→保険会社というのは、お客様満足度などが大変重要なので契約者を怒らせたくない、大切にしないといけないという気持ちが強いです。よく相手損保の文句を言ってくる方がいますが、契約者を必至になだめようとします。たとえ契約者が一般的に間違っていることを言っていても、どこか同調できる部分を見つけ、「自分はあなたの味方」感を出す必要があります。本件における最も大きな争点が「修理費が全額でない」「買換える金額も全額でない」ということであれば、間違いなくご自身の保険会社は逆の立場であったら同じ対応になっています。

 

③また、当日救急車で運ばれたのですが、その病院で「預り金」として5000円を支払ったのですが、そのお金すら損保ジャパンは未だに返してくれません。 損保ジャパンを相手方として被害者になったら、本当に最悪です。 この事を一人でも多くの人に知ってほしいのです。

→被害者が立替をしていた場合は、後日精算してもらえますが基本的には医療機関から診断書などが届いて立替金額が確認できるようになってからになります。本件は11月30日の事故なので、医療機関から必要書類が到着するのは、どんなに早くても12月中旬ごろ、普通は12月後半から1月初旬になると思います。どうしても早く返金してほしいということであれば、事前にそれを保険会社に伝え、領収書を送付すれば特別に早く返金してもらうことができる可能性はあると思います。

 

④2019年12月12日18時11分、損保ジャパン日本興亜の○○保険金サービス課の△△から電話あり。こちらは二度と△△とは話したくない旨と、代わりの人から連絡を下さいと伝えていたのに電話あり。 「上席と話して示談金額に納得しない場合は今後は法的措置を取らせて貰う」そうです。脅迫ですよね。

→本来はぼかしがなく個人が特定できてしまうような発信になっています。怒りの感情で我を忘れているのか、もともとそういった配慮に欠けている方なのか不明ですが、本件において法的措置を保険会社がとることはないと思います。なぜなら、加害者や保険会社から被害者に請求するものが何もないからです。支払いをするだけの立場になりますので、保険会社からは基本的に何もすることはありません。ここからは憶測になりますが、おそらく保険会社が「この金額でどうしても納得いただけないのであれば、窓口を弁護士に変え弁護士から説明させてもらいます」と言ったんだと思います。保険会社は、相手が支払い金額にどうしても応じない場合は、弁護士から「加害者(保険会社)が法的に負う責任はこの金額なんですよ」と説明をしてもらいます。保険会社の言うことが信用できない状態になっていますので、法律の専門家からの見解を聞いてもらうという訳です。

リンク(「保険会社に弁護士をいれられた」)

被害者はどうしたらいいのか?

全損の場合は、時価額までしか支払いがされないのはどうしようもないことです。(加害者が対物超過修理費用特約に加入されていれば別ですが)

受け取る金額を多くするには、下記の対応が考えられます。

①車の市場価値がレッドブックより高くないか確認する

②買換え諸費用を認めてもらう

③慰謝料で考慮してもらう

 

「①車の市場価値がレッドブックより高くないか確認する」

乗っていた車が市場で高値で取引されていれば、市場価値が高いということで取引金額の平均値が時価額として認めてもらうことができる可能性があります。自身の保険会社に相談して、市場価値を見てもらいましょう。

「②買換え諸費用を認めてもらう」

本件の被害者は「車を買換える費用全額をはらってもらえない」というようなことをおっしゃっております。確かに、全額は無理かもしれませんが、たくさんある買い替え諸費用の項目の内、一部は法的にも加害者が負うべき金額と考えられているものもあります。それについて、自身の保険会社と相談の上、きちんと交渉すれば認めてもらえる可能性は十分にあると思います。

「③慰謝料で考慮してもらう」

物損はできること・できないことがある程度決まっています。しかし、ケガによる慰謝料は目に見えず、一般的な尺度ではかることが難しい損害のため、交渉によっては増額してもらえる可能性があります。

「物損については、時価額の支払いでいいので、慰謝料で多少考慮してください」

といった感じです。

事故内容や担当者によって対応は大きく変わってくると思いますが、物損がそれで丸く収まるのであれば、慰謝料を多少大目に見てくれることはよくあることです。

 

担当者がこのような被害者に遭遇したら?

全損の場合、このようなケースでもめることはあるあるです。正直、担当者はどうすることもできません。

できるだけ被害者の気持ちを理解し、かつ低姿勢で「修理費全額をお支払いできないこと」「できない理由」を説明するしかありません。

事故対応サービスを行っている方なら、誰もがこういった件で多少の炎上は経験しており、裏ワザはありません。

同じ「事実」どのような順序どのように相手に伝え、いかに炎上を最小限に防ぐかというのが保険会社担当者のレベルなのだと思います。

私見

わたしは、この事故の被害者は大きく4タイプの人がいると思っています。

一人目は、本件の中心人物の事故の被害者

二人目は、当たり前の対応をして非難された損保ジャパン

三人目は、当たり前の対応をして一個人として注目を浴びてしまった保険会社担当者

四人目は、損保ジャパンやこの事故の保険会社担当者に事故を担当してもらっている、別の事故の加害者・被害者方です。

 

本件の担当者は、多くの事故を担当しているかと思います。

加害者・被害者・相手損保・修理工場など、関係各所の多くの人に自分の存在が知られており、今後仕事をするにあたって自分の名前を名乗ることや、これに関して触れられた時の気持ちを考えると不憫でなりません。

また、損保ジャパンやこの担当者に別事故を担当してもらい、順調に進んでいた件でも「この会社・担当者は大丈夫なのだろうか」と不要な不安を抱かせてしまう結果になってしまっていると思います。

あくまでSNSのそうした不満の発信は、個人の思いを吐き出すだけにとどめ、(会社はまだしも)個人に一斉に矢印を向けるものでないと思います。

便乗して損保ジャパンを批判した方の多くが、保険や法律を理解されておらず、本件の被害者と同様であることと、「損保ジャパンはやばい」とその情報の真意を理解しようとせず、鵜呑みにしてしまうことはネットリテラシーの欠如だと感じざるをえませんでした。

まとめ

自動車保険会社のできること・できないことはどこも同じです。なぜなら、保険会社の役割は「加害者が法的に負う範囲を補償する」立場にあるからです。

今回の件は被害者の方には申し訳ないですが、本当によくあることなのです。加害者の保険会社がどこであろうと被害者は同じ事を言われています。

これを機に損保ジャパンを悪く言っている方も大勢いらっしゃいますが、違う保険会社の口コミも確認してみてください。どこの保険会社も同じようなことがいっぱい書かれています。

なぜなら、どこの保険会社も「支払いができるもの」「支払いができないもの」は決まっており、同様の経験をされた方が多くいらっしゃるからです。自動車事故はお金が絡むこともあり、感情的になりやすいのです。

リンク(「自動車保険はどこに加入すべき?」)