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【社説】

元徴用工基金案 対立解消の出発点に

 日韓対立の原点となっている元徴用工問題で、被害者救済に向けた基金法案が韓国の国会に提出された。来週には日韓首脳会談も予定されている。関係改善への出発点として、基金を実現させたい。

 元徴用工に関しては、昨年十月に韓国の大法院(最高裁)が、日本の企業に慰謝料の支払いを命じる確定判決を出している。

 その後対立は経済、安全保障にも飛び火した。そのうえ、被告企業の資産が現金化されれば日本政府は「報復」する構えで、日韓関係は取り返しのつかない状況になりかねない。

 このため、韓国の文喜相(ムンヒサン)国会議長を中心に法案をまとめた。特色は韓国側が財団を設立するとして、責任を明確にしたことだ。

 さらに、日韓両国の企業や国民の「自発的な寄付」で基金を集めるとしている点も注目される。

 被害者が基金から慰謝料や慰労金を受け取れば、日本側への請求権は放棄されたことになる。

 一九六五年に結ばれた日韓請求権協定に基づき、元徴用工問題は解決済みとする日本政府の主張を取り入れた形だ。

 国会議長室が、この案について世論調査を行ったところ、賛成が53・5%と半数を超えるなど、好意的な受け止めが多かった。

 今後、国会審議にかけられるが、日本側も有力な打開策として、期待をかけている。

 ただ、日本の政府、企業の謝罪を前提としておらず、原告の一部は「日本に免罪符を与える内容だ」として反発している。韓国政府は立場を表明していない。

 課題は少なくないが、今のところ基金に代わる案はない。北朝鮮をめぐる情勢も不安定さを増しており、関係改善は待ったなしだ。

 基金案を作成した文議長は、ドイツの「記憶・責任・未来」基金を参考にしたと説明した。

 ドイツ政府と約六千五百社のドイツ企業が設立し、二〇〇一年から〇七年まで、関係国の強制労働被害者に支払いを行った。

 被害者らが米国で大規模なドイツ車の不買運動を予告したため、やむを得ず基金を設立した面もある。

 それでも基金発足に合わせ、当時のドイツ大統領が犠牲者を追悼し、強制労働の歴史を記憶するとの声明を出し、評価されている。

 日本とドイツは戦後処理の方法が違い、単純に比較はできないものの、被害者を救済し、日韓両国の和解を実現するうえで参考にすべき点は少なくないだろう。

 

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