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モンスターウーマナイザー 作者:ヒデヒロ

第二章

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ー18ー

「カレル!! てめーっ!!!!」


 深月の怒号が響き渡る。


「知り合いだかなんだか知らねぇが、こいつはもう死人だ。『不死の王ノーライフキング』がいるダンジョンで、アンデットなんざに変な隙見せんなよ」


 カレルは深月の怒りなどまったく意に介さず、冷めた目で深月を見る。


「ただの雑魚だったようだがな」


 もしやこいつがと思いもしたが。

 「はずれか……」と呟き心底つまらなそうに倉木の身体から腕を引き抜いた。

 引き抜こうとした。


「っ!?」


 抜けない、腕を何かにものすごい力で掴まれぴくりとも動かせない。

 倉木がカレルの腕を掴んで離さないのだ。


 ――――――確実に心臓を貫いたはずだっ。


 カレルの腕には今もこの女の心臓を貫いた感触が残っている。


 バキンッ。


 ガントレットが砕かれ、そのままカレルの腕も握り潰される。

 カレルは思わずあがりそうになった悲鳴をかみ殺す。


「っっっ!? 化け物が……っ」


 それに全身を襲う強烈な虚脱感。

 どんどん体の力が抜けていき呼吸すら困難になるほど憔悴していくのを感じる。


「カレルさん!」


 異変に気付いたアレンの蹴りによりカレルは飛ばされ倉木から離れ、


「深月様っ!」

「おわっ!?」


 深月はレーベに抱えられ、後方に退避させられた。


「はぁ!! ウィンドエッジ!! ヘルブレイズ!!」


 アレンの剣技が倉木を切り裂き、風の刃と業火で追撃。

 倉木は大きく吹き飛ばされた。


「待った! どうなってんの!?」


 事体に理解が追いつかない。

 カレルが倉木の心臓を貫いたと思ったら、アレンがカレルを蹴飛ばし倉木に猛攻を加えはじめた。


「くっ……あれ見りゃわかるだろ……」


 アレンに肩を借りながら立ち上がるカレル。

 額から大量の汗を流し、息も絶え絶えとなっている。その顔貌は色を失い、自力で立ち上がることが困難な程に憔悴している。


「あいつが『不死の王ノーライフキング』だっ」


 カレルの目線の先、いまだ燃え続けるアレンの魔法の業火の中で、倉木はまったくの無傷で立ち上がった。

 身に纏っていた衣類は燃えてなくなっているが、均整のとれた倉木の裸体にはアレンの猛攻の痕はもちろん、カレルに貫かれた胸にすら一つの傷もない。


「……やっとわかったわ。私がこんな変な場所に来た理由が」


 業火の中を一歩踏み出す。

 辺りに漂う独特の臭い。

 たんぱく質の肉の焼ける臭いと、髪を燃やした時などに起きる鼻をつく二酸化硫黄の臭い。


深月あなたに会うためだったのね」


 無傷な訳ではない。倉木は今も焼かれ続けている。

 燃えた傍から、ただそのことがわからない程の高速で再生しているのだ。


「そしてこんな身体になったのは、それを邪魔するアンタたちを殺すため!」


 倉木の身体から大量の魔力が吹きすさぶ。

 その暴力的なまでの奔流は魔法の炎を消し飛ばし、深月が立っているのも難しくなるほど。


「あーれー」「いーやー」「とんでるー」「まわってるー」「あいきゃんふらーい」

「お前らその辺で隠れとけ!」


 アイリスやネルにしがみついていたマンドラゴラーズが耐え切れず部屋の隅に飛ばされた。


「一気に決めます!」


 アレンの号令の下に冒険者たちの魔法が倉木に殺到する。


「サンダーボルト!」

氷の真槍コンルルオープ!」

「アソールトアロー!」

「ファイアボール!」


 アレンの落雷が、テオの何本もの氷の槍が、ククミの魔法の矢が、アイリスの火球が、


「邪魔しないで!」


 ――――――『不死王の息吹』


 倉木の口から吹かれた黒い霧に触れた途端に悉く朽ち果てる・・・・・


「後ろががら空きだぜ!」


 アルザ、アレンが魔法の陰から飛び出し倉木の後ろに回り込んだ。


「おらっ!」

「はぁっ!」


 アルザは右腕、アレンが左腕をそれぞれ切り落とす。

 地に落ちた両腕は灰へと変わり崩れ落ちる。


「捕まるな! 一瞬で魔力を吸い取られるぞ!!」


 カレルの忠告が飛ぶ。

 倉木の両腕はすでに再生しており、アルザを捕らえようと伸ばされる。


 ――――――――速っ!


 鍛えられたアルザの目は倉木の動きを正確に把握し、伸ばされた腕を回避しようとバックステップをとる。

 初手はなんとか回避できたが、次、その次と予想以上に倉木の動きが速い。

 攻撃は見えているがだんだんその速さについていけなくなる。


「豪炎斬!」


 倉木の手がアルザに掛かるその時に、アレンの炎を纏った剣が倉木の手首を切り飛ばす。

 再生が終わるまでの刹那の隙に二人は倉木から十分な距離をとる。


「助かったぜアレン! 今のは正直やばかった!」

「いえ、間に合ってよかった。しかしあの再生能力、厄介ですね。傷口を焼いてもまるで効果がない。スキュラなんかはこの方法で再生をある程度封じることができたですが」

「おまけにアンデットの弱点である心臓も無敵ときてるしな、救いはまだそんなに戦い慣れしてなさそうなところか? 動きが直線的で捉えやすい、素人同然といってもいい。まぁそれを補ってもなお余りある身体能力スペックみてぇだが。ジェイクやケンタウロスの嬢ちゃんは近づくな、俺の速さでもやべぇ」

「来るでっ構え!」

「任せなぁ!」


 弾丸のように飛び出す倉木の前にアリーゼが盾を構えて立ちふさがる。

 大盾をガンッと地面に突き立てしっかりと腰を落とす。


「『輝きの前に立つ盾スヴァリン』!」


 アリーゼの盾から、同じ形状の見上げるほどに大きな光の盾が出現し倉木の行く手を遮る。


「私に深月ちゃんを、返してっ!!」


 倉木と光の盾が激突する。

 巨大な音と衝撃に空間が揺れる。


「これは、アタシの最大の盾なんだけどね……。どうやら長くはもたないよ、さっさとどうするか決めな!」


 アリーゼはぐっと歯を噛み締め、額や筋肉に血管が浮き出るほど全力で倉木を押さえてはいるが、その足元はじりじりと後退してきている。

 言葉通り突破されるのも時間の問題だろう。


「再生にも限度があるはずです。彼女が戦いに適応する前に一気にいきましょう。僕、アリーゼさん、テオさん、アルザさん、ネルさんで敵を引き受けます。ククミさんは援護を。他の方は退避していてください、邪魔です」


 アレンがはっきり邪魔と宣言する。

 他の冒険者のフォローする余裕などないほど倉木が強敵という事だ。

 深月も後方に退避しなければいけないが、戦闘が始まってしまう前に逆に少し前に出る。


「おい蘭! 聞こえるか!?」


 光の盾越しに大声で倉木に呼びかける。


「落ち着け! ボクたちは敵じゃないっ!」

「いや無理だろ、先に攻撃仕掛けたのこっちよ?」

「攻撃したのはカレルってバカの暴走だ! お前が攻撃しない限りボクたちはお前に危害を加えない!」


 アルザの声を無視しなおも続ける。


「待っててね深月ちゃん、すぐにアナタをそこから助けてあげるから! 一緒に日本に帰ろう?」

「人の話を聞けっつーの!」


 返ってきたのは深月の言葉が聞こえていないような噛み合わない返答。


「おそらく魔力が暴走しているのでしょう。溢れる無尽蔵の魔力を扱いきれず、湧き上がる全能感や焦燥感、破壊衝動で正常な判断ができなくなっている」

「なんだそれ、どうすりゃ戻る?」

「ある程度体内の魔力を発散させることです、この場合なら戦闘で大量の魔力を使わせるのが一番手っ取り早い。あの倉木という女、身体能力や魔力はずば抜けて良いものを持っていますが戦い方が悪すぎる。あれではあの優男はとらえきれないでしょう。対してこちらも致命傷を与えることはできない。あれほどの魔力と再生能力を持つアンデットを殺しきるのはまず不可能。千日手となりいずれは深月様の言葉が届く状態まで戻るでしょう」


 レーベの推測が正しければこのままアレンたちに任せておけばいずれは元に戻ると考えられる。


「破られるよっ!」


 光の盾がガラスの様な音を立てて壊れると同時に深月はレーベに抱えられその場を離れる。

 その後、『不死の王ノーライフキング』と冒険者の闘いはレーベの言ったとおりになった。

 攻め続ける倉木を冒険者たちが連携して防ぎ、いなし、隙を見て一撃を加えて離脱する。


「なんで!? なんで私の邪魔するの!? 私はただ深月ちゃんと一緒に元の世界にかえ――――――」

「ほうら、隙ありや」


 めちゃくちゃに振り回される倉木の腕の隙間をぬってテオの氷の刃が倉木の首を切り裂く。

 すぐにその場を離脱する。

 反撃の為にテオを追って放たれた黒い霧をアリーゼの魔法でつくられた光の盾が朽ちながらも逸らし、またその隙をぬってアレンが剣を突き立てる。


「邪魔しないで!」

「おいアレン! 全然再生能力に陰りはみえないが、ほんとに限界あるんだろうな!?」

「わかりません! ですがこうして攻め続けるしか方法はありません」


 数度の攻防の後、ふと倉木が動きを止めた。

 攻めるのを止めだらりと腕を垂らす。

 突然の変化にアレン達は倉木が隙だらけにもかかわらず距離をとり様子見に移る。


「……ごめんね。ちょっとの間苦しいと思うけど、すぐに終わらせるから」


 倉木が深月を見ながら小さくささやく。

 ぞくりっ。と、この場を支配する倉木の魔力の質が変わる。

 世界が、変わった。


 ――――――『全てに等しきラスト安らぎの園(エデン)


 どこか穏やかに、空虚に、身近に、深遠に、聖らかに、残忍に、冷酷に。

 全身が毛が逆立ち、呼吸が深く荒くなり、がちがちと歯の根が合わない。

 身体だけではない。心がこの魔力に怯え萎縮し、震えてる。

 深月はすぐに理解できた。

 これは『死』だ。

 普段意識することなどほとんどないが、いつもすぐそばに佇んでいる。ふとした拍子に現れ自らの存在を強烈に刻み込んでいく。

 この領域には瞠目するほど純粋で濃密な死が充満している。

 今この瞬間をもってこのダンジョンは死の国となったのだ。


「ぐっ。……なんだよ、これ……」


 深月の身体からどんどん魔力が抜けていき力が入らなくなる。


「……しゃれになんねぇぞこれ!」

「こんなん、反則やろっ」

「力、入ラナイ……」

「まだこんな隠し玉があったとはね」

「一度退避したいところですが……、これでは……」


 倉木に近い前衛の冒険者たちは意識こそ失っていないものの、地面に膝をついてとても戦えるような状態ではない。アレンですら剣を杖の代わりにやっと立っているのだ。

 倉木の足元の影が大きく広がり、地面を覆う。


「これでアンタたちは終わり。みんな、楽にしてあげて」


 死の国の女王の命に従い、影から這い出てくるは死の国の死兵。

 ここに到達するまでにアレンたちが心臓を貫き、切りすて、地獄に送り返した筈のモンスターのむくろたち。三度、地の底より甦り女王の命令を遂行せんと冒険者たちに襲い掛かる。


「なめんじゃねぇぞっ死に損ないどもが!」


 それでも冒険者たちは必死に武器を手に取り迎え撃つ。


「おおっ!!」


 アレンの剣がミノタウロスの四肢を薙ぎ、ケルベロスの首を跳ねる。

 骸たちは再生などせず崩れ落ちる。

 しかし、地に横たわった骸は沈黙するなどということはなく、別の骸と融合しあい直視するに堪えない醜悪な怪物となって再び冒険者に襲い掛かる。


「即席の合成獣キメラかっ!?」


 死の国の兵に死という概念などなく、どんなにその身を堕してもいつまでも戦い続ける。

 殺しても殺しても決して死なない兵士たち。

 時間が経つごとに失われる魔力に、不死の怪物たち。


「ぐあぁ!っ」


 アルザの左腕がサラマンダーの尾に付いたケルベロスの頭に噛み千切られる。


「アルザ! ――――――がっ!」


 サポートに入ろうとしたアリーゼを別に合成獣が吹き飛ばす。

 テオも精霊の魔力を吸い取られ精霊術をうまく行使できていない。

 限界はそこまで来ていた。


「ネルっ!?」


 深月の見てる前でネルの身体にアラクネの糸が絡みつき、リザードマンの刃が襲う。

 ――――――そして……。



「ゴメンネー、油断シチャッタ」

「なに、貴様はよくやったよ。後は私に任せて休んでいろ」

「ウン。バトンタッチー」


 ネルを襲った刃はその直前で砕かれ、リザードマンも一撃で肉片へと姿を変えた。

 その場にいるだけで生命力と同じである魔力を吸い取られているにも関わらず、普段となんら変わりない敢然たるその立ち姿。

 なんどその姿に励まされ、勇気をもらったであろうか。その姿を目にするだけで深月の中から恐怖心は消え去り、気力が湧いてくる。

 たかが死などに何を恐れる必要があろうか。

 彼女はいつだって深月に光と温もりを与えてくれるのだ。


「深月様、少々本気を出してもかまいませんか?」


 深月は深愛のしもべの問いに返事する。


「頼む。さっさとあそこの馬鹿の目を覚まさせてやってくれ」

「お任せください。貴方のお望みのままに」


 突如、圧倒的で荘厳な神話の気配が世界を塗り替える。

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