鬼は内
瞼を焼くような日差しに目を開くと、既に朝日が入り込んでいた。
どうやら、俺はソファにて寝入っていたようだ。
テレビを付けるとアナウンサーが「いってらっしゃい!」なんて元気な挨拶をしており、今日からの生活を考えると頭が痛んだ。
ちらりとテーブルの上へと視線を向けてみたがそこには何も載っておらず、綺麗に片付けてあるままだった。
やっぱり昨日のあれは夢だったんだなぁと、覚醒しきっていない思考の片隅にぼんやりと浮かんでくる。
とりあえず顔を洗って、それからどうしようか…。
そんな事を考えながら起き上がろうとすると、俺の身体の上から何かがぱさりと落ちた。
それは一枚のYシャツだった。どうやら、俺はこれを掛けて眠っていたようだ。
俺はそのYシャツを拾い上げると暫くぼんやりと眺め続けて、綺麗に畳んでから押入れへと運んでいった。
「これで良し。」
『来客用』と書かれたボックスを元の通りに押入れへと仕舞い直すと、俺は今度こそ洗面所へと顔を洗いに行く。
断片的にしか覚えていない。
夢だったのかもしれない。
むしろ、夢と考えるのが当然だろう。
しかし、俺の耳は訴える。
間違い無いと主張する。
「招いてくれてありがとう」
「今日は楽しかった」
「また会おうな」
そう囁く、彼女の弾むような声を。
俺は玄関の扉を閉めると、力強く歩み出す。
悪戯めいた表情で、その言葉を歌いながら。
次の機会へと呼び掛けるに。
来年の昨日へと届かせるように。
「鬼はーうちー、鬼はーうちー」
節分を題材にした小説です。
ツイッターのフォロワーさんが「節分は萌えない」という指摘をしていたので、その意見に対抗してやろうと思ったのが今回の作品です。
萌えの表現は難しいものだとしみじみと感じてしまいました。