side-B 奇妙な男
この男は何を考えてるのか分からない。
腕前から察するに相当な修練を積んだだろうに、私の蹄を平然と触ろうとする。
こいつは馬の脚力を分かっていないのか。私がちょっと身動ぎをしただけで、その手は二度と使いものにならないんだぞ。
私がはらはらしながら見ていると何を勘違いしたのか、男は苦笑と共に「変なことはしない」なんて見当違いなことを言い出した。
横目で蹄に触れている手を伺っていると、男は私自身のことを問うてきた。
なぜ、戦場に出るのか。
その質問に対し、私は語気を強くして答える。
「兵士となり、人馬族の誇りを見せるんだ。」
彼は私の眼差しを受け止めると、再び作業に没頭し始めた。
形状も決まったので後は男に任せてしまえば良かったが、私はなんとなく工房を訪れていた。
私はこの奇妙な男のことをもっと知りたかった。
完成日が近付いてきた頃、彼はひとつの提案をしてきた。私としては完成が早まることは喜ばしいことだが、それでも私は彼の提案を断った。
その時には、私はもっと大切なことを見つけてしまっていたから。
自分の気持ちに気付いてしまっていたから。