side-A 二人の約束
「またな」
俺の言葉に彼女は足を止める。
「この蹄鉄はアフターケアの代金として受け取っておく。ちゃんと戻ってきたら顔を出せよ。」
らしくねえな。
思わず苦笑が零れそうになるのを抑えながら、俺はその言葉を投げかけた。
「行ってらっしゃい」
俺のはなむけの言葉を聞いた彼女はこちらを振り返ると、満面の笑顔で答える。
「行ってきます」
喧騒に包まれた表通りに、馬車の音に混じるようにして彼女の足音が響いている。
カッ、カッ、カッ、カッ、カッ……
その凛とした足音が届かなくなるまで、俺は彼女の蹄鉄を見つめながらじっと耳を澄ませた。