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三旭尼外伝

作者:吉邑 正

-三旭尼武勇伝の、エピローグ的な話です―‐。

-昔―‐越後の国の、友杉に、慈恩院なる寺が在り、三旭尼みやけにという美しい尼僧と、その弟子の、靖弥やずみという若い尼僧が居りました-ー。



‐ひょんな事から、三旭尼と知り合った弓の名手の井口兵衛いぐちの ひょうえという侍が、何かと理由をつけては、慈恩院を訪れる様になりました―‐。



-靖弥は「兵衛様は、三旭尼様がお気に入りの様でございます―‐来れば、三旭尼様の方ばかり見ておりまする」とからかったが、三旭尼は「われらは、俗人では無いぞ-!」と照れ隠しに叱った‐ー。



-ある日の夕べー-三旭尼は、慈恩院に村人を集めて法話をしたー-。-彼女の鈴の音の様に透き通る声に、皆はうっとりと聴きいったが、やはりあの男=井口兵衛も来ておったー-。



-三旭尼は、次の様に話したー-。


-「昔昔―天竺には、大黒様と紗丁さてぃという妃が居られたー-ある時、紗丁の父親の陀狗裟だくしゃは、神々を呼んで祭式と宴を催したー-しかし、大黒様だけは呼ばなかったー-。



-紗丁は、大黒様に申し訳なくて、毒を飲んで、死んでしまったのじゃ―‐紗丁の死と、陀狗裟の意地悪を知った大黒様は、たいそうお怒りになって、陀狗裟の祭式をことごとくぶち壊した―‐そして紗丁が生まれ変わって再び誕生するのを待った―‐。



-何百年、何千年とひたすら待って、やがて紗丁は、崑崙山の娘として甦った―‐。



-娘は、父親から、お前は、大黒様と結ばれる為に生まれたのだと言い聴かされて育った―‐そして美しい娘となり、崑崙山中で苦行をして大黒様に自分の心を示したのじゃ―‐。


-大黒線は、直ぐにでも山の娘に会いたかったが、彼女はもう昔の紗丁では無い―‐もう自分の事など忘れておるじゃろう―‐そこで大黒様は、年老いた苦行僧に姿を変えて、山の娘の庵を訪ね、一夜の宿を乞うた―‐娘は快く泊めてやったが、老人は、大黒様の悪口を言い連ねた―‐娘は老人の話には耳を貸さず、わたしの心は大黒様のものなのですと応えた―‐。



-それを聴いた大黒様は、元の若い姿に戻ると、わたしは、そなたの奴隷じゃ―‐と言って、山の娘を抱き締めた―‐」。



-三旭尼の話は、説教がましく何かを諭すものでは無かったが、皆の心を打った―‐。そして誰よりも感動していたのが、兵衛であった―‐。



-法話が済んだので、村人達は帰って行ったが、それを見送った三旭尼が、本堂に戻ると、にょっと現れた兵衛が「三旭尼様のお話に、拙者は感服つかまつりましたぞ―‐大黒様と山の娘とは、拙者達の事でござろう‐」と言った―‐。



-二人は仏像の在る本堂をはばかって、縁側まで出た―‐。-兵衛は三旭尼の肩を抱き、美しい瞳を見つめた―‐彼女は静かに目を閉じてやや顔を上げた。そこに兵衛の唇が近づいていった―‐。-月の綺麗な宵であった―‐。



-が―‐「あー-やっぱり、いけませぬ―‐!」と三旭尼は兵衛を突飛ばし、恥ずかしがって奥に駆け込んだ―‐兵衛の方は、縁側から転落してしまった―‐。



-その様子を灯籠の陰から見ていた靖弥は、笑いをこらえるのに必死であった―‐。



-いかがだったでしょうか―‐。



-井口兵衛には頑張ってもらって是非、恋愛成就を成し遂げて欲しいものです―‐。

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