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花の散った後に

作者:吉邑 正

-花咲か爺の話の後日談ですが、よくある、おちゃらけ話にならない様に注意しましたー-。

-昔--ある村に、善助ぜんすけと、おおきぬという老夫婦が居った--。



-ある時、善助爺は川に流されていた子犬を助け上げ、しろと名付けた--。



-善助の家の裏の畑で、白が吠えるので、掘ってみると金銀の宝物が出てきた--。-それを見ていた、隣に住む左平さへいという爺がうらやみ、白を借り出したが宝物は見つけられず、腹をたてた彼は犬を殺してしまった--。


-善助とお絹は、白を埋葬したが、そこから木が生えて、みるみるうちに大木となった--。-善助爺はその木で臼を造り、つくと宝物が出てきた--。



-しかし左平が臼を借りてつくと、くそが出たので、怒った彼は臼を燃やした--。

-善助爺がその灰を撒くと、枯れ木に花が咲いたので、領主の杉山三太夫すぎやまの さんだいゆうは、感心して褒美を授けた--。



-左平爺が真似をして灰を撒くとそれは、領主三太夫の目に入って、激怒した殿様は、左平を捕まえ処刑せよと家臣に命じた--。



-縄で身体を縛られ、目隠しをされて、地面に掘られた穴の前に座らされ、背後に磯谷平八郎いそがやの・へいはちろうという侍が立ち、刀を大上段に振りかざしたー-その時--左平は「どいつもこいつも阿呆ばかりじゃー-枯れ木に花を咲かせた善助こそが妖魔とは思わんのかー-!」と、開き直って怒鳴ったー-。




-平八郎は「世まい事はそれだけか?」と吐き捨て、いよいよ刀を振り下ろそうとしたがー-「待て!ー-左平爺の言い分にも一理あるー-左平は牢に放り込んでおけー-そして花咲か爺の善助を捕らえてまいれーー」と、領主三太夫は平八郎に命じたー-。




~一方、家に帰った善助夫婦は、枯れ木に花を咲かせた灰なら、人も若返るやも知れんと、全身に塗ってみたが、思った通り、二人は若返ったー-。



-そして、不思議な犬の白が流れて来た川の上流に行ってみる事にしたー-。-したがって、磯谷平八郎が部下を連れて、善助の家に乗り込んだ時には、もぬけの殻となっていたー-。-平八郎は、やましいところがあるから、善助夫婦は逃げたのだと断じて後を追ったー-。


-そうとも知らない善助らは、川沿いの道を進んでいたー-。-道は上るほどに険しくなり、更に深い霧が二人の行く手を阻んだが、その霧を抜けると、山の頂上付近の渓流で釣り糸を垂れている一人の翁に出会ったー-。




-老人は玄斎げんさいと名乗り、自分の庵に善助達を案内してくれたー-庵は渓流に突き出した様な巨大な岩の上に建てられ、周辺には沢山の桃の木がたわわな実をつけていたー-。





-玄斎は善助らに「もうじき、わしの女房も帰ってくるー-ゆっくりしてゆくがよいー-」と親切に言ったー-。



-しばらくして、帰ってきたのは、昜玉ようぎょくといい、相当の高齢と思える玄斎の女房にしては、随分と若く、庵の周辺になっている桃の実をいつも食べているのか?と思わせる様な、生気に溢れた美しい女であったー-。


-夕げに昜玉は、乾燥させた霊芝を削って汁を作って善助夫婦にご馳走してくれたー-。-美味しそうな桃の実が出てくるかと思っていた夫婦の 期待に相違して、昜玉は「いつまで居ってもらってもええのじゃがー-桃の実だけは、絶対にとってはなりませんー-」と釘を刺したー-。




-その晩ー-善助夫婦は、そう広くもない庵の奥の部屋を借り、玄斎と昜玉は、障子で隔てられたその前の部屋で寝ていたー-。



-真夜中になって、玄斎の唸る様な声が聴こえるので、善助達は笑いをこらえて肩をゆすり合った「あんな若い女房がいたら、無理もないわいー-」と思った二人は、自分達も若返ったのだからと、いちゃいちゃとし始めたが、やがて眠ってしまったー-。





-翌朝ー-善助らが起きると、昜玉は庵の端で野良仕事をしていて、何かの種を蒔いたー-。-そして、玄斎は出掛けたと言ったー-。




-その日ー-霧の中でさまよって、二人の部下とはぐれた磯谷平八郎が、やっとの事で、山頂の庵にたどり着いたー-。



-出迎えた昜玉を見た平八郎は「こんな山奥に、似つかわしくもない美しい女ー-面妖じゃー-」と訝ったが、若い夫婦者の先客が居たので安心し、又、霧の中で一晩中さ迷った彼には休息が必要であったー-。



-平八郎は、庵で休ませてもらったー-。-昜玉はやはり、霊芝の汁でもてなし「近頃は、お客様が多いことー-寂しい山奥の暮らしゆえに嬉しいわー-」と言ったが、平八郎は「殿の命令で、善助お絹という、怪しい老夫婦を追っているー-ここには来ませんでしたかなー-」と訊いたー-。



-善助らは、自分たちがそんな事になっていると知って顔を見合わせ「昜玉に身の上話をしなくてよかったー-」と思ったー-。-平八郎は、善助夫婦が若返っていたので、探している老夫婦とは、まさかとも思わなかったー-。



-昜玉は、亭主は出掛けたと言ったが、玄斎は夜中になっても帰って来なかったー-。





-善助夫婦が、山頂の庵にやって来て、二日目の晩ー-やはり善助達は、奥の部屋で寝たが、前の部屋には昜玉と平八郎が寝ていたー-。



-そして真夜中ー-薄衣一枚の前をはだけた昜玉が、平八郎の上に乗っかかってきたー-。-平八郎は驚いたが、疲れているはずの身体はなぜか元気で「そうかー-霊芝のせいかー-」と思った時には、昜玉と交わっていたー-。




-善助夫婦は、物音を聴いて「昜玉も、あんな爺さん相手に暮らしているのだから無理もないー-」と思って自分たちも、いちゃいちゃとしていたが、いつしか眠ってしまったー-。




-翌朝ー-善助達は、平八郎の髪が真っ白になっているのに驚いたが、昜玉と平八郎は、夫婦の様に、馴れ馴れしくなっておったー-。



-その理由は昨晩の事と知っている善助達は、咳払いをして、見て見ぬふりを決め込んでいたが、朝食が済むと、昜玉が「霊芝ばかりでは、飽きましょうー-山菜を採りに行きますが危ないので、女房殿は、待っていて下されー- 」と言って、男二人を連れて出掛けたー-。





~一人、残ったお絹は、霊芝の汁ばかり啜っていたので、腹が減って仕方なく、庵の周辺になっている桃の実を「一つぐらい、わからんじゃろうー-」と、もいでかぶり付いたが、その時「ぎゃぁ~!」という悲鳴が聴こえたので、あわてて桃から口を離したが、お絹の噛んだところからは、血の様に真っ赤な果汁がしたたり落ちたー-。


-彼女は、背後に殺気を感じて振り返ったが、そこには、出掛けたはずの昜玉が、真っ赤に充血した目の恐ろしい形相で立っておって、もの凄い力でお絹の腕を掴んで桃の実を取り上げ「桃をとってはならぬと申したであろうー-」と冷酷に囁くと、お絹の首筋に噛みついたー-。



-お絹は、生気を吸い取られ、元の老婆の姿に戻り、干からびた様になって倒れたー-。



-昜玉は、お絹のかじった桃の実を渓流に投げ捨てたー-それは、川を流れていったが、淀みにつかまって止まったー-。




-そして昜玉は、穴を掘って、干からびたお絹を埋めると、桃の種を蒔いたー-。


-しばらくして、山菜を採った平八郎達が帰って来たが、お絹が居ないので善助が訊くと、昜玉は「女房殿は、玄斎が帰って来て連れて行ったので心配ないわー-」と応えたー-。



-その晩、やはり平八郎と昜玉は二人、前の部屋で寝ていたが、奥の部屋の善助は、お絹の事が心配で苛ついていたー-。



-平八郎の唸る様な声が聴こえ、善助は布団を被って眠ったー-。




-翌朝ー-善助が目覚めると、昜玉が又、野良仕事をしていて、種を蒔いたー-。-そして、平八郎は、朝早くに麓に帰ったと言ったー-。



-最初に種を蒔いたところからは、桃の木が生え、早くも大きくなっていて、立派 な実をつけていたー-。



-そして、その隣からもー-善助が知らないうちに種が蒔かれたのであろうー-まだ小さいが桃の木が生え、実をつけていたー-。



-その実には、微妙な、おうとつがあり、よく見るとそれは、お絹の顔の様であったー-。


-善助は、肝を潰したー-。-そして、昜玉の正体とその所業の総てを覚ったー-。-彼は脂汗を拭うと、平静を装ったー-。

-その夜ー-善助が寝ていると、思った通り昜玉が、薄衣姿で善助にしなだれかかってきて「女房殿がおるから遠慮してたが、最初に見た時から、お前様が好きじゃったー-」と言ったー-。



-善助は、昜玉を抱きしめると、衣を脱がし、一つ床に入ったー-その最中、彼は昜玉の乳首を噛み切ったー-そして「あぁっ~ああぁ!」と悲鳴をあげる昜玉の首筋を、枕元に隠してあった鎌で斬りつけたー-。



-鮮血の中でのたうつ昜玉は、出血する度に生気を失うかの様に年老いてゆき、やがて白目を剥いて果てたー-。



-白々と空が明るくなり始めていたー-。



-善助は、お絹の顔の実をつけた桃の木を掘り返したー-。-木の根に絡まって干からびた様になったお絹の亡骸が現れたー-。



-善助は懐から、小袋を取り出すと、中に入れていた不思議な灰を彼女の全身に塗ったー-。


-お絹は息を吹き返して、若い姿に戻ったー-。



-善助は、彼女を抱きしめたー-。



-そして、二人で麓の村に帰って、米平よねへいおつたと名乗り、川の側の元々住んでいた家の近くで暮らし始めたー-。




-ある日、お蔦が川で洗濯をしていると、川上から大きな桃の実が流れてきたー-。


-彼女は、それを拾って、米平に見せたー-。-彼は「山の上から流れてきたのかも知れんー-」と、緊張した面持ちで言うと、慎重に包丁で切ってみたー-。-中からは、男のややこが出てきたので二人は驚いたー-。



-男の子の肩には、噛まれた様な傷があり、お蔦は「あの時の桃じゃったかー-」と気づいたー-。






-米平は雲に覆われた山頂を見上げて呟いた「白も、元々は桃の実から生まれたのじゃろうー-だから不思議な力を持っていたー-昜玉という妖怪は、不思議な桃の実をわざと川に流し、山頂にやってくる者を待っていたー-そしてその生気を吸い取って何百年も生き長らえていたのじゃろうー-死んだ者の亡骸は埋められ、桃の種が蒔かれるー-桃の木は、亡骸の滋養で育ち、又、不思議な実をつけていたのじゃー-」。




-夫婦は桃の実から生まれた男の子に、太郎たろうと名付け、自分たちの子供として育てたー-。





-いかがだったでしょうかー-。



-花咲か爺から桃太郎へと、つながったオチでしたー-。

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